シャニP、樋口円香の兄に転生する   作:リィンP

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のぼろうよ、また2人で(透)

 

 

 正式に283プロのマネージャーとなった翼の最初の仕事は、透の雑誌撮影であった。

 

(こうしてアイドルと2人だけで仕事に行くのも十数年ぶりか…)

 

 翼は遠い過去の記憶を思い出しながら、前世で何度も足を運んだ仕事先のTV局へと透と共に向かった。

 

「───改めて確認するけど、これから向かう撮影スタジオの場所は覚えているか、透?」

 

 問題なくTV局へと到着した翼は、隣にいる透に声をかける。

 

「うん、なんとなく覚えているよ。この前見学したから」

 

「なんとなくって、透…」

 

「ふふ、なんとなくでも大丈夫でしょ。今日は翼がいるんだから」

 

 そう言って嬉しそうに微笑む透に、翼は苦笑いを浮かべる。

 

「…常に俺が案内できるとは限らないから、撮影場所は早めに覚えるようにな」

 

「はーい」

 

 翼の注意に、透は間延びした返事をする。

 

 本当に覚えるつもりがあるのか怪しく思える返事であったが、翼は本日の仕事について話し始める。

 

「それで今回の写真撮影だけど、前回撮影現場を見学した際に透のことを覚えてくれていた人がいて、その人からの依頼なんだ」

 

「え…私、何もしてないよ?」

 

 不思議そうに首を傾ける透。

 そんな彼女を見て、ははっと笑いながら翼は言葉を続ける。

 

「透は人を惹き付けるオーラを持っているからなぁ。特別なことをしなくても印象に残りやすいんだ」

 

「オーラかぁ……自分ではわからないけど、翼と同じような感じかな?」

 

 透の呟いた言葉に、翼は思わず戸惑った反応を示す。

 

「えっ、俺にはオーラなんてないぞ」

 

「えー、いつも人を惹き付けてるから、翼もオーラ持ちかと思ったのに」

 

「いやいや、透と違って俺は人を惹き付けたりしないから」

 

 強く否定する翼であったが、透は納得しないのか不服そうな表情を浮かべる。

 

「えぇー、こんなに出てるのになぁ。あれだ、夏の夜に見るあの光と同じくらいオーラある」

 

「…まさか、昆虫が群がるあの光のことか?」

 

「うん、翼はそれみたい」

 

 透らしい独特な例えに、翼は思わず笑みをこぼす。

 

「あのな透、誘蛾灯は褒め言葉じゃないから、俺以外に使うのは止めた方がいいぞ」

 

「あー、あれってそういう名前なんだ。カッコいいじゃん、ユウガトウ」

 

「それは言葉の響きだけじゃないか?…すまない透、撮影時間が近付いてきたから、そろそろスタジオに向かおう」

 

「オッケー。レッツゴー、だね」

 

 腕時計を見て時間を確認した翼は、透との会話を切り上げて共に歩き始める。

 

 翼と透が撮影スタジオに向かう間、TV局のスタッフや芸能人と何度かすれ違うことになった。

 

「おはようございますー!」

 

「おはようございまーす」「おはようございます!」 

 

 先に向かうから挨拶されることがほとんどで、遅れて透たちが挨拶を返す。

 

 実際、新人アイドルから先に挨拶することが基本であり、本来なら透が先に挨拶するのが礼儀である。

 

 しかし、カリスマ的なオーラを持って堂々とした様子で歩く透を見て、彼女を有名なタレントだと勘違いする人たちが挨拶をしてくれているようであった。

 

「なんか、聞いてた話と違うね。アイドルって、もっと大変だと思ってた」

 

 新人のうちは挨拶周りが大変と聞いていた透は、向こうから挨拶してくれる今の状況に拍子抜けしているようであった。

 

 そんな透に、翼は少し困った表情を浮かべながら言葉を返す。

 

「うーん、透には才能があるからそう思っても仕方がないか。でも、トップアイドルを目指すのは簡単じゃないぞ」

 

「まぁそっか。簡単に着かないもんね、てっぺんには」

 

「その通りだ。だから1歩ずつのぼっていこう」

 

 そう言って歩き続ける翼であったが、隣で歩いていた透が足を止めていることに気付く。

 

「透、どうかしたのか?」

 

「…今の言葉で思い出したんだ、小さいときに見た変な夢のこと」

 

「変な夢…もしかして、子どもの頃に話してくれたジャングルジムに登る夢のことか?」

 

「!…ふふ、10年以上前なのによく覚えてるね」

 

 翼も覚えてくれていたことが嬉しいのか、はずんだ声で透は返事をする。

 

「ははっ、何年経とうと透たちとの思い出はずっと覚えている自信があるさ」

 

 翼は思い出す、10年経っても色褪せないあの日の記憶を。

 

 

『………』

 

『透、何を見ているんだ?』

 

 まだ幼い翼と透が、近所の公園で2人だけで遊んだときのこと。

 

 ジャングルジムを眺めるだけで登ろうとしない透に、翼は心配していた声をかけた。

 

『んー、高いなーって』

 

『確かに、いつものジャングルジムよりは高いな』

 

 いつも遊んでいた幼稚園のジャングルより高さがあり、今の自分たちでは1人で登り切るのは難しいように感じた。

 

『翼はさ、見たりする?眠っているときに』

 

『それって、夢のことか?』

 

『たぶん、そう』

 

『うーん、あまり見ないかな。透はよく見るのか?』

 

『うん。変なジャングルジムの夢を見るんだ、最近』

 

 幼い透は自分が見た夢の内容について翼に話す。

 

『1人でジャングルジムにのぼっていてね、どれだけのぼっても、てっぺんにたどり着かないの』

 

『……』 

 

『長いなー、てっぺんまだかなーって思ってると、気づいたら起きているんだ』

 

『透、きっとそれは…いや、そうだな…よし!』

 

『翼…?』

 

 幼い透が見る、てっぺんにたどり着かない変なジャングルジムの夢。

 

 夢は、心の悩みを反映するという。

 まだ子どもの透に対して、言葉で色々説明しても理解するのは難しいだろうと考えた翼は、ジャングルジムへと歩いていく。

 

『透、今から2人でジャングルジムを登ろう!』

 

 そう言って、勢いよくジャングルジムを登り始める。

 突然の翼の行動に透は目を丸くして驚く。

 

『えっ…』

 

 翼はジャングルジムから片手を離し、その手を立ち止まっている透に差し伸べる。

 

『ほら、透も登ろう』

 

『でも、いつものジャングルより高いよ』

 

『大丈夫。2人で力を合わせればてっぺんまで登れるよ』

 

『…うん』

 

 おずおずと透は差し伸ばされた手をつかみ、そのまま2人はジャングルを登り始めた。

 

『わわっ』

 

『おっと』

 

 途中、足が滑りそうになった透をフォローしたりしながら、一生懸命頂上を目指して登り続ける。

 

 そして。遂にそのときが訪れた。

 

『───ついた』

 

『お疲れ透、よく頑張ったな』

 

 2人は苦戦しながらも何とかジャングルのてっぺんまで登ることができた。

 

『はぁ、はぁ…ここが、てっぺん』

 

 ジャングルのてっぺんに座った透は、いつもより高い視界で街を眺める。

 

 登り切ったばかりでまだ肩で息をしている透に、翼は嬉しそうに笑いかけた。

  

『てっぺんまで登るのは大変だけど、頑張った分だけ嬉しい気持ちにならないか?』

 

『うん、今…すごく嬉しいっ』

 

『ははっ、よかった!…なぁ透』

 

『なぁに?』

 

『さっきの夢の話だけど、俺には透が見ている夢を変えることはできない。だから、またてっぺんにたどり着かない変な夢を透は見てしまうかもしれない』

 

『……そっか』

 

『でも、夢はあくまで夢だ。現実の透はこうしててっぺんまで登ることができたんだ。そうだろ?』

 

『!』

 

『もしまた変な夢を見たときは言ってほしい。そのときは、また一緒にジャングルジムのてっぺんまで登ろう』

 

『───うん!』

 

 …

 ……

 ………、

 

「今でもはっきり覚えているよ、翼とジャングルジムのてっぺんにのぼったときのこと。あれから、変な夢も見なくなったしね」

 

「そうか…それはよかった」

 

「代わりに、翼と一緒にジャングルジムをのぼる夢をよく見るんだ」

 

「そ、そうなのか…」

 

 少し困った反応をする翼を見て、透は嬉しそうに笑う。

 

「ふふ…ねぇ、W.I.N.G.を優勝するのとジャングルジムのてっぺんにたどり着くの…どっちが大変かな?」

 

「ははっ、上へとのぼっていくのは確かにどっちも同じだけど、W.I.N.G.に優勝する方がとっても大変だぞ」

 

「そっか…なんかワクワクしてきた。優勝すれば、アイドルのてっぺんにたどり着くってことでしょ」

 

 その言葉を翼はやんわりと訂正する。

 

「いやいや、あくまで新人アイドルの中での優勝だからな」

 

「あれ、そうだっけ?でも、優勝すればアイドルのてっぺんに近づくのは間違いないでしょ?」

 

「それはそうだが、優勝するのは本当に大変なんだからな」

 

「でも、翼も一緒にのぼってくれるんだし、何とかなるでしょ」

 

「はは、頼りにしてくれるのは嬉しいが、俺にだってできないことはあるからな。あまり過大評価はしないでくれよ」

 

「でた、謙遜」

 

「いや、謙遜じゃないからなっ」

 

 翼が強く否定したとき、曲がり角から女性が歩いてくるのが透の目に入った。

 

「あ、モデルさんだ」

 

「おはようございます~」

 

「おはようございまーす」

 

「お、おはようございます!」

 

 歩いてきたモデルの女性も、透のことを有名な芸能人だと勘違いしているようで、透より先に挨拶をする。

 

 彼女の挨拶に続いて、透と翼も慌てて挨拶を返した。

 

「ふぅ…こんなところで立ち止まって会話するのも良くないし、そろそろ行こうか」

 

「了解。ふふ、少し焦ってて面白かった」

  

「ここが通路だってことを忘れてたよ……それと、仕事中にあまりからかうなよ、透」

 

「えぇ~」

 

「えぇ~じゃない。スタジオまでもうすぐだ。そろそろ気持ちを切り替えていこう」

 

「は~い」

 

 そして、また翼と透は並んで歩き出す。

 

「……透」

 

「ん?」

 

 少し歩いてから、翼は隣にいる透にのみ聞こえるよう小さく声をかける。

 

「また透と一緒にてっぺんを目指すことができて、俺は凄く嬉しいよ」

 

「───」

 

 心の底から嬉しそうに、そう言葉を口にする翼。

 そんな彼をじっと見つめた透は、何かを小さく呟いた。

 

「すまない透、聞き取れなかったからもう一度言ってくれないか?」

 

「あー…やっぱり今のはなしで」

 

「いや、なしって…!」

 

 頬が少し赤くなった透は、誤魔化すように言葉を続ける。

 

「ほら、もうスタジオだよ。気持ちを切り替えなくちゃ、翼も」

 

「いや、何て言ったのか凄く気にな───」

 

「おはようございますっ」

 

「おはようございま~す」

 

「っ、おはようございます!」

 

 透の言葉を聞き返そうとしたが、角から現れたスタッフに挨拶されたため、2人の会話は中断される。

 

 その後、モデルやスタッフと頻繁にすれ違い、挨拶を交わすことになったため、撮影スタジオに到着するまで翼は透と会話することができなかった。

 

「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」

 

「おぉ、283さん今日はよろしく。じゃあ、浅倉さんはこっちで準備してくれるかな?」

 

「はーい」

 

 撮影スタジオに入ってスタッフに挨拶をすると、すぐに透は撮影準備に入ってしまった。

 

(完全に聞き返すタイミングを逃しちゃったな……いやいや、切り替えろ俺。今は仕事に集中しなくちゃ…!)

 

 ちなみに仕事が終わった後に再度透に尋ねるのだが、またしてもはぐらかされてしまうことを、今の翼は知る由もないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★☆

 

 

 

 

 

 

 ───W.I.N.G.第1シーズン終了まで、残り7週。

 

 

 





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