一花√#1 タイムリープ
今日、四葉とフータロー君の結婚式があった。自分の妹と、妹が恋をしていた男の子が結ばれる。とてもおめでたい日だ。
結婚式の間は、幸せな気持ちでいっぱいになっていた。自分にとって大切な人同士が惹かれ合い、自分の恋を叶える。誰でも幸せな気持ちに浸るだろう。
だけど……
どうして……?
「っ……、ぅ……」
涙が止まらない。妹の結婚を素直に祝福していたはずなのに。今まで経験したことのないような量の涙を零す。
私はふと思い立ち、学園祭の日の夜に彼と通った道に来ていた。別の言い方をすれば、六年前に花火大会が開催された場所。とても心が痛むが、今はこの痛みに浸っていたい。
……ダメ。
ここに来ると、どうしても彼との思い出がフラッシュバックしてくる。ここで彼に背中を押され、女優の道に進むことを決意したあの日のこと。林間学校の途中に倉庫に閉じ込められ、二人だけのキャンプファイヤーをしたこと。三玖の変装をし彼を騙したことなど、良い思い出も嫌な思い出も全てが蘇る。
どこで、間違えたんだろう。
彼が「誰も選ばない」選択をした後、何も行動しなかった時?修学旅行で三玖の変装をした時?学食で彼と''再開''したあの日?それとも、彼と初めて会って七並べをしたあの瞬間?
思い出せばキリがない。全ての選択を間違えたような気もするし、全て選択は合っていたけど、どの道を通っても彼と結ばれるエンディングは無かったようにも思える。
どれだけ後悔しても、どれだけ嘆いても、過ぎた時間はもう戻らない。どうしようも無いことなのだ。諦める他ない。
しかし、彼への想いは消えてくれない。失恋から何年経っても、私の心の中は彼でいっぱいになっている。彼に''支配''されているとも言えるくらい、強く。
もういっその事、諦めてしまおうか。叶うことの無かった片想いも、彼と過ごしてきた思い出も全て、心の中の奥底に閉じ込めてしまおうか。
しかし、あまりにも想いや思い出が多すぎて、私の心の中には入り切らない。諦めきれない。
もう一度チャンスがあれば。何か、彼と私が惹かれ合うきっかけを作れれば。今日の結婚式で呼ばれた名前は、「四葉」ではなく「一花」だったのではないか。
……疲れた。
今日はもう寝よう。
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「……花」
なんだろう……誰かに呼ばれてる?
「…………一花」
おかしいな。私は一人暮らししているから、起こしてくれる人はいないのに。
「一花!いい加減起きなさい!」
「うわぁ!?」
目を覚ました。眠たい目を擦りながら、周りを見渡す。
「!?」
すると、目の前には二乃がいた。そして、今いる部屋は一人暮らししているアパートでは無く、高校生時代に住んでいたマンションの自分の部屋だった。私は夢を見ているのだろうか。そう思い頬を抓ってみるが、鋭い痛みを感じた。これはどうやら、現実らしい。
「……何してんの?まぁ一花、おはよう」
「あはは、ちょっと寝ぼけててね……おはよう」
一体何が起きたのか。現実なのか、夢なのか。ここはどこだ。私は誰だ。今は西暦何年の何月何日なのか。何時何分何十秒で、地球が何回回った時なのか。何も理解出来ない。
(もしかして私、タイムリープしちゃった……?)
いや、まさかまさか。でも実際今ここにいるわけだし……
「朝ご飯冷えちゃうから、早く食べなさい」
そう言い残し、二乃は部屋を去っていった。このまま二度寝すると二乃に怒られると思ったため、何とか睡魔に打ち勝ち体を起こす。部屋を出ると、丁度今起きた(?)五月と会った。
「……!、あぁ一花。おはようございます」
「あはは、ごめんね~驚かせちゃって」
急に勢いよくドアを開けてしまったため、五月ちゃんを驚かせてしまった。五月ちゃんはかなりビビりだから、申し訳ない。
「ねぇ、五月ちゃん」
「どうしました?」
もし、自分以外の子がタイムリープしていなかったら。もし、皆の記憶が無くなっていたら。私は……彼と……!
「五月ちゃんってさ、タイムリープとかしたこと、ある……?」
「……?何言ってるんですか、一花。そんな事あるわけないじゃないですか」
「そうだよね~、実は昨日そういうドラマをまたばっかりでさ。ちなみに今日って何月何日だっけ」
「まだ寝ぼけてるんですか?今日は9月1日。新しい家庭教師の方が来てくださる日ですよ」
「あはは、ありがとねー」
私は、まだ誰も彼の事を好きになっていない時の世界に戻って来れたの……?
これは千載一遇、いや、万載一隅のチャンス。
今度こそ、私は彼の一番になる。