―トールハンマー―
猟兵王の一撃がシズナに直撃し、シズナはゆっくりと倒れて気を失った。
結局の所一撃も彼に当てる事無く、何も出来ずに負けてしまった。
「まぁこんなものだろ。で、お前さんはどうする?色々と訳ありみたいだが」
「俺はいい。シズナの成長の方が優先だ。感謝するよ猟兵王殿」
軽くお辞儀をした後にシズナをお姫様抱っこ。
猟兵王が急所を外してくれたおかげか傷は浅い、これなら直ぐに治るだろうし、傷も残らないだろう。
「しっかし驚いたぜ。お前さん目当てで来たのにつれたのは白銀の姫だ。加えて大きな悩みまで抱えてやがる」
「流石に気付くか」
「まぁな。それが男となれば尚の事。いいねぇ若いってのは」
「貴方もまだ若い分類だと思うが……」
そこは突っ込まない方向で行こうか。
人生経験も豊富だろうし、色んな物を見てきているだろうから。
(だとしても一発位入れて欲しかったが)
シズナだって弱くないし、同じ黒神の使い手で見ればかなりの物だろう。
後もう少しで剣聖になるだろうし、ジジイだってシズナに色々託している。
あとは……切っ掛けか。
(それが一番大変だな。俺のようにガキの頃にあったらいいのだが)
「…まぁあんまし気を詰めねぇことだな。お前さんが思っているほど嬢ちゃんは弱くねぇ。ただ…相棒に認めて、惚れた男に振り向いて欲しいだけだ」
「…痛いところ付くなよ」
グサッと心に刺さる。
おまけに笑っているところを見ると、俺が自覚していることを分かった上での発言だろう。
伊達に長く生きて、色んな人を見ているわけではないのか。
「っとついたな。嬢ちゃんは……」
「それなら…来たか」
西風の拠点に到着すると同時に、チヨメが駆け足で近づいてくる。
軽く事情を話したのちにシズナを託し、それから俺はルトガーに連れられて拠点内にある広めの広場に案内される。
一体何をするのかと思っていると、ルトガーは広場の中心で獲物であるバスターグレイブを構え、口角を吊り上げる。
「さて。ちょっと手合わせ願おうかね。若き剣聖さんよ」
「……まじか」
このおっさんちょっと元気すぎねぇか?
シズナとの戦闘でそれなりに体力消耗しているはずなんだけど。
あ、いや。
決して剣を交えるのが嫌だとは言っていないぞ。
俺としても学べるところは多いが、今日はその気で来ていないし、いまいち乗らないだけだ。
「いまいち乗らないんだが?」
「姫さんの治療に手を貸してやってるだろ?」
「……」
それを言われたら言い返せねぇな。
仕方ない。
予定外だがやるしかないか。
剣を交えていたらやる気も出てくるだろう。
「分かった。一回だけだ」
と言ってから妖刀を抜く。
今日は煉獄は持ってきてない…と言うより、マクバーンとあってから念じれば手元に来るようになっていた。
その理由は分からんが、同じ存在と遭遇して力が強力になったのかもしれない。
「さて…お手並み拝見と行こうかね」
「…っ(闘気が膨れ上がった)」
ルトガーの纏っている闘気が膨れ上がるが、ジジイとは違って練りあがっているわけではない。
少なくとも俺の眼にはそう映っている。
なら対応は可能か。
探り合い含めて油断さえしなければ問題ない。
まぁ…そもそも油断なんて絶対にしない。
俺はジジイから二つの流派を託されたのだから。
「いつでもいいぞ猟兵王」
「クク…いい闘気だ。楽しめそうだな」
ルトガーが構える。
愛用の獲物を地面と水平に構え、迎撃態勢をとる。
成程、出方をうかがってくるのか。
余裕なのか、俺の使用する技を知っているのかのどちらか。
なら俺の取るべき選択肢は一つだ。
「よし……ならば」
妖刀を鞘に納めて居合の構えを取る。
出方を伺ってくるのであれば、こちらも同じ手を使わせてもらおう。
探り合いになら絶対に負けん。
「やれやれ…若いのに老兵みたいな戦い方だな」
「生憎とそういう型なのでね。悪く思うな」
その上で完全に闘気を消し、俺の動きを読めないようにする。
一流の使い手は闘気や剣気などで相手の動きを読む傾向がある。
それを封じるには闘気を完全に消し、相手に動きを読ませないのが一番だ。
(さて…どう出る?突っ込んでくるか、射撃で来るか。あの得物はどういうものだ?)
「……成程な。こいつは困った」
とても困った仕草を見せるルトガーだが、そんな顔には見えず、むしろ楽しそうな表情だ。
この状況を変えようとしているのか、あるいは強引に突破しようとしているのか。
俺は彼の立場になったならば、策を巡らせ、相手の構えからどのような手で来るかシミュレーションをした上で剣を抜く。
「どう動いても崩せねぇなこれは。なら……」
「……?」
ルトガーはバスターグレイブをこちらに向けると、刀身が開いて銃口のようなものが現れる。
出てくるのは弾丸か?
それ位なら問題ない。
グレネードだろうが、対物ライフル弾であろうが斬り伏せる。
「来い!」
右手に力を込めると同時に、バスターグレイブの銃口からレーザーのようなものが放たれる。
そのレーザーを四の型で真っ二つに切り裂くと、上からルトガーがバスターグレイブを振り下ろしてくる。
「トールハンマ!」
「っと!」
刀を切り返して、バスターグレイブをを正面から受け止めつつ刀身に滑らせて受け流しつつ反撃の一撃を放つ。
「おっと!」
「…!」
放った一撃をルトガーは回避し、距離を取ろうとするが、弐の型で間合いを詰めると、ルトガーはバスターグレイブを薙ぎ払ってくる。
それを壱の型で上空に打ち上げて彼の体勢を崩し、二撃目を放とうとするが、目の前にピンが抜けて爆発寸前のグレネードが目の前に現れる。
「良いもんやるぜ」
「それはどうかな?」
わずかだが爆発まで時間があるので、肩に羽織っていた羽織でグレネードを上空に投げ飛ばす。
それとほぼ同時に爆発し、その間に体勢を立て直したルトガーが、バスターグレイブで実弾を放ってくる。
その銃撃は避けつつ斬り落とし、少しずつ距離を詰めようとするが、旨い事銃弾をバラつかせて使づけない。
これは彼の長年の経験値か。
「さぁどう出る?若き剣聖」
「……」
さて…どうしたものか。
このまま銃弾が尽きるのを待つか、数段受けるのを覚悟で強引に突破するか。
そもそも銃弾が尽きるのか?
あぁいうのは大体無限にあるものだが……よし。
「―――そこ!」
「!?」
苦無を二本直線に投げる。
その内一本は撃ち落されるが、もう一本は先に投げた苦無に隠れるように投げたため、彼の右肩に掠り、僅かだが銃口が下がる。
「ここだ!氷刃!」
氷刃を5つ重ねて放ってから妖刀を鞘に納めて間合いを詰める。
ルトガーは闘気で氷刃を防ぎ、バスターグレイブを振り上げる。
互いに大技---ならば受けて立とう。
「ギルガメスブレイカーァァァ!」
「冥月一閃ッッッ!」
互いの技が交差する。
少し間をおいてから脇腹に焼けつくような痛みが走った。
それは猟兵王も同じで、痛そうに脇腹を押さえている。
これは…痛み分けか。
「いつつ…深くいったか?」
「久しぶりに痛いのをもらっちまったか」
妖刀を鞘におさめてから痛み止めを飲み傷を応急処置。
ルトガーも同様の処置を施してから皆のもとに戻ると、ゼノ達連隊長と、アヤメ達が何か言いたそうな顔をしていた。
「どうしたお前ら?揃いも揃って」
「何かあったかアヤメ達?」
それぞれも部下に尋ねると、揃ってため息を吐く。
それからアヤメは俺の脇腹を思いっきり殴り、強烈な激痛が走る。
思わず、傷を押さえながらうずくまってしまい、チヨメはジト目で見て来た。
「い…いてぇ」
「……アヤメ」
「ん。強制連行」
そのままズルズルとアヤメに引っ張られて近くのテントに強制連行。
そこで脇腹の傷を麻酔無しで縫われるという、一種の地獄を見る羽目となる。
その途中で目を覚ましたシズナが様子を見に来ていたが、俺の容態を見てすぐにどっかに行ってしまう。
彼女も言いたいことがありそうだったが、傷を見てやめたようだ。
「しかし…さすがは猟兵王ですね。相打ち済んでよかったです」
「これが戦場だったらまた変わってくる。それに俺も彼も本気じゃない」
「ウォークライだっけ。あれ使ってなかったね。若もアレ使ってなかったし」
「そういうこと。だが得られるものは多かったさ」
お互い探りとはいえ得られるものは多かった。
次まみえるときは眼もアレも全開で挑ませてもらおう。
出来れば会いたくないけどね。
「うっし。戻るか。オババに報告しないと」
「はい。では彼らにお礼を言ってきます」
「ん。私もフィーにサヨナラ言ってくる」
「おぅ。俺も猟兵王に挨拶してくる」
それぞれ挨拶をしてから、屋敷へと戻るのであった。
次はあの聖女さんが登場です。