英雄伝説・黒葉の軌跡   作:八葉と黒神の剣聖

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鋼の聖女

 猟兵王との戦闘から早くも半年。 

 いまだにシズナとギクシャクしている中で、俺は共和国での仕事帰りに龍来によって体を休めている。

 ここの温泉がなかなか良くて、共和国での仕事帰りには必ず寄っているのだ。

 

 

「あー…体に効くわぁ……」

 

 

 おっさんのような状態だが、温泉に入ったみんなは必ずこうなると思っている。

 クロガネの兄貴のような例外もいるが。

 

 それは置いておき、少しさっきから妙な気配が3つ感じている。

 そのうちの一つはまぁえげつねぇ気配で、その場にいるだけで圧倒的な気を放っている。

 残りの二つも中々なもので、一体どこの誰なのかね?

 

 

「……面倒ごとに巻き込まれる前に行くか」

 

 

 温泉から出て服を纏う。 

 それから宿を出て夜風に当たっていると、西洋の服を纏った2人組と遭遇する。

 この二人は…さっきから感じていた三つの気配の二つだな。

 

 

 

「良い夜景ねデュバリィ」

「そうねエンネア。できればマスターと見たかったですが」

「どこに向かわれたのかしら?」

(……マスターか)

 

 

 もしやこの二人ってあの聖女の部下か。

 となると遠くから感じる気配は鋼の聖女---何でこんな所に化け物がいるのか?

 半年ほど前にも似たようなものがあったが、今回も同じパターンか。

 

 

「探し人か?」

「っ…貴方は?(全く気配を感じ取れなかった?)」

「俺はヤクモ。通りすがりの旅人でな。この辺りに詳しいんだ」

「成程それで……ん?ヤクモ?」

「それって……」

 

 

 揃って顔を合わせるデュバリィとエンネア。

 おや…?何か嫌な予感がするぞ。

 これって声を掛けたらまずかったパターンじゃ……。

 

 

「失礼ですが、もしや黒葉の剣聖殿ですか?」

「……ダレデショウ?」

「思いっきりカタコトですわよ!?」

「どうやら当たりみたいね」

 

 

 やっぱりか…そんな予感はしていたぞ。

 あの鋼の聖女が東方に来る理由なんて、それ位しか思い当たらないよな……ん?待てよ。

 確か今日ってシズナが龍来周辺を見回りしてるんじゃなかったか?

 近頃は山に潜っている日が多いし……。

 

 

 

「一つ尋ねてもいいか?」

「何でしょう?答えられる範囲なら構いませんわ」

 

 

 

 聞きたいことはただ一つ。

 鋼の聖女の居場所だ。

 もちろん聞く前に俺の正体を明かしたうえで尋ねると、デュバリィは素直に答えた。

 

 

「マクバーンから伺った若き剣聖…貴方に会いに来ましたわ」

「ふふ…マスターに気に入られた剣士はレオンハルト以来かしら?」

「……それは」

 

 

 ヤバい…非常にヤバいぞ。

 その聖女がここに居ないということは、俺を探して周辺を捜索しているという事になる。

 待て…となるともしかして……。

 

 

「くっ!チヨメ!」

「はっ!」

 

 

 

 大きな声で呼ぶと直ぐに姿を現すチヨメ。

 事情をいち早く説明すると、山脈の奥の方から一発の雷が落ちたのが見える。

 あの雷にデュバリィ達はギョッとした顔を浮かべている。

 あの表情から察するに予定外の事が起きたな。

 

 

「鋼の聖女が来ている。シズナと接敵したら…いやもうしていると思うから急いでいくぞ」

「承知!」

「ちょっと!?」

「私達もいくわよ!」

 

 

 雷の発生地点に全力疾走で向かう。 

 後からデュバリィ達が来ているが、俺達のスピードには付いて来れていない。

 地の利の理解の差もあるが、あの聖女の部下なら付いて来てほしいところだ。

 

 

「このスピードなら―――むっ。待てチヨメ」

「これは―――」

 

 

 足を止めると同時に四足歩行の鵺が現れる。

 来た方向から恐らくは、雷の発生手地点---気配の元から逃げて来たのだろう。

 

 

「こんな時に!」

「速攻で仕留める」

 

 

 襲ってくる鵺の爪を回避しながら四の型で真っ二つに斬り伏せて先に進む。

 その後は魔獣と遭遇することなく雷の発生地点に到着。

 そこで見たのは、傷だらけで肩で息をしているシズナが仰向けで倒れている姿と、鎧の一部を破損した槍を持った人物、あれが鋼の聖女だろう。

 直ぐに間に割って入ろうとしたが、シズナのどこか満足そうな顔を見て、戦闘以外で何かあったのだろうと推測し、鋼の聖女に警戒しながらシズナの傍に行く。

 

 

「シズナ?」

「……あ。遅いよヤクモ」

「遅いって……」

 

 

 そういわれても困るのだが……。

 というか声かけて返事が返ってくるのはいつ以来だろうか?

 それに思ったより元気そうでよかった。

 

 

「大丈夫?」

「うん。結構やられたけれど。でも……。うん、いい気分だ」

「そうか」

 

 

 鋼の聖女との間にないがあったかは分からないが、一皮剥けたようでよかった。

 いい顔しているし、これなら心配いらなそうだな。

 

 

「さて……」

「……」

 

 

 鋼の聖女の方を向く。

 すでに槍は仕舞われ、戦闘の意思はない。

 となると、こちらも警戒は解かないといけないか。

 

 

「ふふ……そう警戒しないでください。私はただ貴方に興味があっただけです」

「聞いたよ貴女の部下から。失礼だが名を伺っても?あぁ出来れば兜も取って頂けるとありがたい。生憎と目を見て話したい主義でね」

「…いいでしょう」

 

 

 鋼の聖女は兜を取る。

 よかった、己が力で剝ぎ取れとか言われたらどうしようと思っていた。

 以前≪銀≫が剥ぎ取って片膝付かせたとか聞いていたから、俺も同じようにしなければいけないと警戒していたが、そうならずに済んでよかった。

 

 

「私の名はアリアンロード。お見知りおきを。若き剣聖殿」

「……わぉ」

「これは……」

 

 

 兜の中から現れたのは金髪の見覚えある美女。

 やっぱりというか、何というか。

 そうでないとあれだけの異常は力はないか。

 だとすると余計に俺に会いに来た理由が分からないのだが。

 

 

「聖女さん。君の剣に用があるって」

「剣って…お、おい」

 

 

 立ち上がったシズナだが、体がふらついたので慌てて抱きしめる。

 全く…そんな体で無茶されると困るのだが、言っても聞かないので言わないでおこう。

 

 

「ごめんヤクモ」

「謝るぐらいなら動くな。君が俺達にとってどれだけ大切か分かってるだろ?」

「うん。分かってるよ。でも君も私にとってとても大切だから」

「……大丈夫だ。何も起きん」

 

 

 彼女の頭を撫でると、鋼の聖女は優しく微笑む。

 直ぐに離れようとするが、シズナが羽織の袖を掴んでいるので離れない。

 仕方ない、このまま話をしよう。

 

 

「仲がよろしいのですね。昔を思い出します」

「昔っていつ?鋼の聖女…てなんか呼びにくいな」

「お好きにお呼びください。本名(・・)でもなんでも」

「そう。意外だな。もっと固いイメージがあったのだが?」

 

 

 ≪銀≫からは高貴な人物と聞いていたし、歴史上でもサンドロット伯の娘で実際に令嬢だったはず。

 結構厳しそうなイメージだけど、実物は違うのか。

 

 

「じゃあ鋼の姉さん。俺の剣に用があるって?」

「えぇ。マクバーンから伺いまして。あと個人的にも13年前の事を知りたく」

「……あぁ。成程」

「13年前って…あの時の事?でもヤクモは……」

「まぁ。事後の事は覚えてないが、その前の事は覚えてるよ。でも……」

 

 

 正直話をしたくないのが事実だ。

 だが聞かれた以上は答えるべきだろうし、250年生きている彼女は気になるのなら余程の事なのだろう。

 よし…なら覚えている範囲で話すか。

 その前に、そこの昨日らで隠れている2人にも出てきてもらおう。

 

 

「そこの2人。出てきたらどうだ?」

「っ!気づいていましたの!?」

「だから言ったじゃない。絶対に気付かれているって」

(気づいていないと思っていたのか……)

 

 

 残念だが忍びの隠密になれているから、ちょっと隠れた程度では見破れる。

 隠れるならもっと周りと同化しないと。

 

 

 

「さて。どっから話すべきか…」

「剣はどうやって手に入れましたか?」

「あぁ。声が聞こえていきなり目の前に現れた」

 

 

 その時のことは覚えている。

 頭にいきなり『見つけた』と声が聞こえて、あの剣が目の前に現れた。

 凄まじい冷気と霊気を放って。

 

 

「それで…その後は?」

「逃げた。いきなりあんなの現れたら逃げるに決まってる。父さん達に言いに行った。でも……」

「全部凍った…だね。村も全部」

 

 

 そう。

 剣から逃げた結果として、村が全部凍り、俺以外の村人も凍った。

 そして…壊れた。

 目の前で粉々に。

 跡形もなく。

 

 

「その後は覚えていない。気づけばあの剣を背負ってジジイの背中だ。覚えているのはあの地獄だけ。立ち直って、一歩進めるようになるまでかなり時間がかかった」

「だからあの村は何もなく、一面氷の大地…というわけですね」

「そうだ。だが…いつかは滅びる定めだ。砂漠化が進んでいたしな」

「……」

 

 

 俺の故郷は氷ついた影響で、故郷と周辺は砂漠化を免れている。

 そのおかげで定期的に立ち寄ることが出来ているが、正直命日以外で行くのはいやだな。

 

 

「というわけだ。満足か?」

「えぇ…合点がいきました。最初はマクバーンの冗談だと思いましたが。そして貴方の強さも」

「へぇ…俺はまだ姉さんと戦っていないが?」

「見たら分かりますよ。今まで見えた剣士で一番才能にあふれている。そう…レオンハルトより」

 

 

 レオンハルト…剣帝か。

 確か執行者の№Ⅱだったか。

 昔ルフィナとやりやったとかバルクホルンの爺さんが言ってたっけ?

 結構なのある剣士らしいが。

 

 

「剣帝か…リベールに行った後に探しに行くか」

「リベール…?もしや兄弟子に会いに?」

「あぁ。おっさんが便宜を図ってくれる約束だからな。それが何か?」

「……」

 

 

 鋼の聖女は顎に手を置いて何かを考え始める。

 そして小さく頷いてから口を開く。

 

 

「一つ仕事を依頼してもよろしいですか?」

「いいぜ。なんでもどうぞ」

「では…リベールに向かわれた際、レオンハルトと一戦交えていただきたい。彼の抱える物を断ち切ってほしい。あと…その上で守って頂けると嬉しい」

「了解だ。それ位ならお安い御用。だが理由は?」

「それは簡単です。彼が答えを得ると結社にいる理由がなくなる。そして、それを嫌う者が存在するので」

 

 

 ふむふむ。

 結社も一枚岩ではないということか。

 剣帝と呼ばれている男が悩み事を抱えているのは意外だが、結社には闇を抱えているものが多いと聞く。

 その辺りが関係しているのだろうか。

 

 

「任された。報酬は剣帝の剣技で構わない」

「ありがとうヤクモ。出来れば私が動きたいところですが、立場があるうえ」

「まぁいいさ。それに…シズナに色々教えてくれたみたいだし、そのお礼みたいなものだ」

 

 

 再びシズナの頭を撫でる。

 嬉しそうに笑っているのを見ると、きっといいこと尽くめだったのだろうな。

 

 

「さて…俺は帰るよ。今やることは終わったし、準備しないとね。また会おうよ鋼の姉さん。その時は…」

「えぇ…貴方の剣を見せてください。黒葉の剣聖」

「あぁ。伊達に2つの流派の皆伝に至っていないところを見せてやるよ」

 

 

 軽く圧を送ってから、俺はシズナを担いで龍来へと向かうのであった。

 

 

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