今日は朝からカルバートに来ている。
その理由はリベールに向かうための準備にシズナと来ている。
と言っても、主は各所の挨拶なのだが。
「えっと…あとはどこに行くのかな?遊撃士ギルドとかは行かないよね?」
「わざわざ敵地に行く理由はないさ。あとはベルの店。シズナは?」
「一軒行きたいところがある。いいかな?」
「いいよ。行こうか」
「ありがとう。じゃあ失礼して」
シズナは俺の左腕に抱き着いて引っ張り始める。
そのまま向かったのは呉服店。
東洋の服を扱っているお店だった。
「じゃ。ちょっと行ってくるよ」
「おぅ。俺は周辺うろついている」
呉服店に入って行くシズナを見送ってから、俺は適当に周りをうろついていると、見覚えのある一人の女性が目に入る。
あのベージュ髪は忘れるはずもない。
エレイン・オークレール。
最近遊撃士になった≪剣の乙女≫と呼ばれている人物だ。
「何というか、揃いも揃って面倒くさいというか。いや、面倒なのは坊主の方か」
裏解決屋とかをいつの間にか営んでいるし、色々と面倒な性格になっているというか。
エレインの様な良い女が傍にいるってのに、どうしてああなるのか不思議だ。
今度会ったら一言言ってやるか。
「そういや。クロエの姐さんと銀のおっさんも最近見ないな。何をしているのやら」
それなりに縁のあった二人だが、最近は全く見ない。
もしや跡継ぎとかで大変なのだろうか。
ドミニクの婆さんは元気そうだし、銀も娘さんがいるから困りそうに無いのだが。
「まぁ…その分、遊撃士の出番が多いって事さ。俺は知らん」
どのみち、共和国の裏側がドロドロであることは変わらないし、俺達からしたらいい小遣い稼ぎになる。
どう転がろうと、斑鳩に迷惑かからない限りは状況を利用させてもらうさ。
「待たせたねヤクモ」
「お。お帰りシズナ。何を買ったんだ?」
戻ってきたシズナに聞くと、彼女は紙袋を見せてから、中から一着の羽織を取り出す。
シズナが愛用している羽織と逆の色で染められたものだ。
「ヤクモの旅にどうぞ」
「結構いい値しただろ」
「こう見えて結構稼いでるから大丈夫。はい」
「ありがとう」
羽織を受け取って着替えると、恐ろしいほどぴったりだった。
おかしい、採寸とかをした覚えが全くといって良いほど思い当たらない。
鋼の姉さんの一件から、シズナとほぼ毎日一緒だっだか、採寸する機会なんてあったか?
「一体いつ採寸したのか?」
「それはよば―――こほん。老師から聞いた話をもとょい!?」
聞き捨てならない言葉を聞いたので、彼女の頬を思いっきり両手で挟む。
出来れば最後まで聞いておきたかったが、年頃の女性がやってはいけないことをしたので、きちんと怒らないといけない。
「シズナ?お風呂は百歩譲っていいとして、夜這いは良くないんじゃないか?俺も自分の部屋だから油断していたのもあるかもしれないが?」
「だって、そうでもしないと近づけないし」
「うるさい。次やったら二度と口を聞かないぞ」
「それは嫌だ!」
「ならやめることいい?」
少し圧を送ると、シズナはうんうんと頷いたので、仕方なく頬から手を放す。
全く、鋼の姉さんと何を話して得たかは分からんが、昔のように接してくれるのは嬉しい。
「次はベルの所に行くから、適当に遊んでてくれ」
「えー。私も一緒に…いや。やっぱりやめておく。別行動しているアヤメ達といるよ」
「そうして欲しい。また後で」
珍しく引き下がってくれたシズナ。
アヤメ達の所に向かう彼女の背中を見送ってからベルモッティのお店に移動し、彼に事情を話しながらお茶を飲んでいると、隣に一人の青年が座った。
「あら~ヴァンちゃん。どうかしたの?」
「あぁ。少し聞きたいことがあってな…って。アンタは……」
「……(面倒な奴と会ったぞ……)」
心の中でため息を吐きつつ席を移動する。
今のアイツと話す気にはなれないし、関係を持つのも嫌だ。
そういうわけなので、話が終わるまで待っていると、5分程で話が終わったようで、ミラを置いて去っていくヴァン。
一瞬目が合ったが、彼はすぐに視線を外す。
ま、その方がお互いのためだろう。
「あの子も大変ねぇ。また厄介事を頼んできたわ」
「そうか。興味ないし、アイツの問題だろ。俺的にはエレインと上手く行くと思っていたんだがな。何で別れたんだか?」
「…分かってるんでしょ剣聖さん?貴方の≪天眼≫なら」
「……さぁー?」
ヴァンの中身と、以前会った男の中身が一緒何て知ったことか。
大方、例の教団辺りが関係しているのだろうが、事の詳細を知らない以上は首を突っ込むつもりはない。
だが…ちょっと気になるのは事実なんだよな。
バルクホルンの爺さんが弟子にするぐらいだし。
「で。今度はどこに行くの?」
「リベールだな。その前に帝国による予定だ。カシウスのおっさんに手紙は送ってるし、入れると思う」
「そう。なら半年ぐらいは帰ってこないのね。お仕事はうまく回しておくわ」
「助かるよ。んじゃ行くわ」
軽く挨拶をしてからお店を出て、気配を頼りにシズナ達の所に向かうと、そこでは、シズナ達3人は、屋台の小籠包を仲良く食べているところだった。
彼女らの手に紙袋があるのを見ると、きちんと買い物は済ませているようだ。
「買い物終わったかチヨメ?」
「んぐっ!?若っ!?これはそのっ!!」
「いいよ。やる事はやっているんだから。それでどうだ?いい服見つかったか?」
チヨメとアヤメに視線を向けると、2人は小さく頷きつつも、『結構苦戦した』とアヤメが言った。
その気持ちは痛いほどよく分かる。
俺も私服らしいものは無いし、チヨメ達忍びは、基本的に黒装束だし。
今時の女性が着る服何て調べていないだろう。
「まぁ…違和感なければいいさ。それ食べたらチケット買いに行くぞ」
「はい。すぐに食べるのでお待ちを」
「ん。ちょっと待って」
パパっと小籠包を食べたシズナ達と一緒に駅に向かい、クロスベル経由で帝国に向かう列車のチケットを買う。
国事情なのか結構な値を張り、かなり財布にダメージが入ったが、帝国からリベールに関しては、事前にカシウスのおっさんがチケットを送ってくれいたので良かった。
「うし。じゃあ帰って準備しよう。問題ないか?」
「問題ありません。あとは帰るだけですね」
「うん。装備とか確認しないと」
「んー。私も大丈夫かな」
3人の確認を取ってから屋敷の戻り、頭領とオババに話をした後、自室に戻って荷造りをする。
と言っても、前日にある程度は済ませているし、最終確認ぐらいだ。
愛刀は兎も角、苦無とかの小道具と、カシウスのおっさんの書面等。
必要最低限の荷物で済ませ、あとは現地調達だ。
「よし…荷物は問題ないか。。あとは……ん?どうした?」
部屋の扉が開き、シズナが入ってくる。
何があったか尋ねると、シズナは胸ポケットから、氷の結晶を形どったキーホルダーを取り出した。
「お守り。渡すの忘れてたから。右腕出して」
「あぁ。腕輪に着けてくれると助かる」
シズナは俺の右腕を掴み、手首に嵌めてある腕輪にキーホルダーを外れないように付けてから、瞼を閉じて祈った。
もしかして、安全祈願とかしているのだろうか。
余程の事は無いと思っているが、シズナはそう思っていないだろう。
「これでいいかな。あとは―――えいっ」
「ちょ―――」
大きく両手を広げて抱き着いてくるシズナ。
慌てて受け止めようとするが、勢いが強かったのでそのままベットに押し倒されてしまう。
下が布団だったからよかったが、床だったら超痛いぞ。
「ねぇヤクモ。負けないよね?剣帝に」
「何だよいきなり。やってみないと分からない」
「むぅ、そこは負けないって言ってよ」
「そういわれてもなぁ……」
本当にやってみないと分からないのは事実。
鋼の剣技がどのような物なのか分かればある程度予想は付くが、彼女とは手合わせしていないので予想がつかない。
ルフィナからも聞いたことがないし、裏世界でもほとんど聞かない。
分かっていることと言えば、銀髪に黄金の剣を扱う事ぐらいだろうか。
「初見でどうにか出来そうな相手ではないし、実際に見て、剣を交えてみないと分からん」
「でも、初見の相手でもどうにかなってるじゃん。ヤクモの眼はおかしいし」
「人の眼を何だと…まぁいい。それより離れろ」
「やだ」
「やだってなぁ……」
駄々を捏ね、胸に顔を埋めて両手の力を強めた。
『はぁ…』とため息を吐きつつ頭を撫でていると、シズナはもぞもぞと動き、顔を首元に近づけてくる。
近くで見ると超美人なのだが、中身が子供なのが残念だ。
もう少し大人に…って、まだ16に言うようなことではないか。
「ヤクモ。今日だけ一緒がいい。暫く会えないから」
「……何で?」
「寂しい。だって最低一年だよ。大好きな人がいないのは辛いから」
「死地に行くわけじゃないんだが……分かったよ。好きにしたらいいさ」
ぽんぽんとシズナの頭を叩いてから、抱きしめるのであった。
次回からリベール編ですが、その前に某ギルド事件に巻き込まれます。