「超痛い。全然力が入んないんですけど……」
光の剣匠との手合わせの影響で、現在左腕がご臨終している。
あれから一週間が経つのでそろそろ復活して欲しいところだが、刀を握ると復活する辺り、体は状況が分かってるようだ。
因みに、アリオスのはクロスベルに、剣匠のおっさんはレグラムへと帰っている。
その際、アリオスがクロスベルの仕事を多少引き受けてくれると言ってくれたので(代わりに共和国の名物をねだられたが)俺としても嬉しい所。
剣匠のおっさんは、一度レグラムに来て娘の相手をしてほしいと言われ(こちらに関しては勘弁願いたい)が、アルゼイド流の道場を尋ねられるのはいい勉強になりそうだ。
そして…カシウスのおっさんの方は、今もギルド関係で忙しく、今日もあの人の都合のいいように使われていいたのであった。
「何で俺がお嬢たちのお土産買わないといけないんだよ」
「そうだね。東方人の我々が帝国の名物など知るわけもなし」
「その通りだ。というか、女王の生誕祭に合わせて帰るなら早めに買っとけよ」
おっさんの帰国は今日の午後。
なんでもリベールの女王陛下の生誕祭に合わせて帰るらしい。
で、それを今日の朝に言われ、加えて娘たちへのお土産頼むと言われた。
というわけで、適当にお土産を買い、おっさんとの約束の時間まで、チヨメとデート中である。
「時に、アヤメは何処に行った?」
「アヤメでしたらフィーさんと。紫電殿と一緒に居たらしく、ちょっと遊んでくると」
「何で妖精が…って。そういえばルトガーの旦那逝ってしまったんだが。闘神と相打ち―――きっとあの人も満足だろう。俺にもそういう相手がいたらいいが」
永遠の宿敵。
表にも裏の世界にも、そういった間柄の人間は多い。
いい例えはさっきの猟兵王と闘神だろうか。
俺にもそういう相手がいたら、いい競争相手になりし、いい刺激なるものの、同年代はパッとしない。
リーシャとか、ジュディス辺りには結構期待してるんだけどなぁ……。
「相手なら近くにいるじゃないですか。シズナちゃんが」
「アレはダメだ。もう少し冷静にならんとな」
「……(そもそも黒神と八葉の理に至って精神が正常な時点でおかしいけど)」
「悪かったな。発狂しなくて」
「んぐっぅ!」
チヨメの思考を呼んで回答する。
余談だが、八葉一刀流は兎も角、黒神一刀流に関しては、常人が会得するに発狂しかねないレベルの理を身に付ける必要がある。
故に、継承者はあまりいない。
「チヨメ。俺の"中身"は知ってるだろ。あんな物抱えた男が簡単に発狂するか」
「ですが、以前の火焔魔人の件がありますし」
「……そっちより帝国の弟弟子の方がやばいぞ。誰かが傍にいてやらないと。特に力の使い方に関してはな。これに関しては、精神論より技術的な方が大事だ」
「でしたら若が兄弟子として指導すればよろしいかと。我々のように」
そういうのは兄弟子の仕事。
と、言いたいところだが、きっと逃げられないんだろうな。
もし会うことがあれば、多少のお節介ぐらいはしてやるとしよう。
「さて、そろそろ時間だが……」
「その前にお仕事ですね。やれやれ……」
途中の道でチヨメと別れ、俺は帝都の地下に移動。
少し開けた場所で立ち止まると、暗闇から赤い猟兵の一個師団が現れ包囲してくる。
「見つけだぞ剣聖」
「同胞の仇を討たせてもらう」
「仇って…律儀だな」
それはさておき、赤い猟兵か。
先日の作戦で一網打尽にしたと思っていたが、残党がいた…いや、おっさんが見逃すわけ無いし、この場合は最初から把握していなかった部隊か。
上手に隠れてたものだ。
(まぁ…俺には関係ない事だし、売られたら買うだけだ)
冷気と共に煉獄を顕現させゆっくりと構えると、赤い猟兵達も得物を俺に向けてくる。
しかし動く気配はなく、こちらの出方を伺っている様子だ。
なら―――疾く終わらせるとしよう。
「八葉一刀―――"神威"」
煉獄を逆手で持ち、高く飛び上がってから、煉獄を地面に突き刺し、衝撃波を発生させて猟兵達の体勢を崩す。
その後に、煉獄の一刀にて魂諸共凍てつかせる。
「ふむ…兄弟子の雷光撃を参考にしてみたがこれはいいな。九十九颯との合わせもよさそうだ」
新技の手応えを感じつつこの場を去り、地上でチヨメと合流の後、ギルドへと戻ると、丁度仕事を終えたカシウスとサラが談笑していて、その近くではアヤメとフィーが仲良くお菓子を食べていた。
「紫電の姉さん。地下に氷像があるから回収頼む」
「氷像って…分かったわ。あと、生きてるんでしょうね?」
「仮死状態だから、溶ければ生き返る。半日ぐらいだな。溶けたら好きにしな」
「分かったわ。ではカシウスさん。お元気で」
「あぁ。君も元気でな。行くぞヤクモ。帰りは陸路だ」
「―――げ。着くのは明日の朝か」
今から行けばリベールに入るのは夕方。
そこからロレントまで向かうと考えると、付くのは日付が変わる頃。
生誕祭に合わせて帰るとなれば、到着は明日の朝だろう。
「了解だ。二人もいいな?」
「えぇ。飛空艇も気になりますが、やはり徒歩の方が性にあってるかと」
「ん。歩きの方がいい。乗り物はちょっと」
「というわけだおっさん。俺も歩きの方がいい。体力も付くし、いい景色も見れる」
乗り物に慣れていない影響か、どうも俺達は避けてします。
そもそも東方の果てに列車とかないしね。
ともあれ、サラとフィーに別れを告げ、俺達はリベールから一番近い場所にあるパルムという街に向かい、ここで一晩を明かすことに。
それぞれ部屋を取り、各自自主行動となったのだが、カシウスのおっさんに呼ばれ、パルムの酒場で飲むことになってしまった。
未成年に酒を飲ませるとは最低だと思うが、それを言うならジジイも同じなので、今回は何も言わないことにする。
「しかし…副官に西洋の服装をさせておきながら、お前は着物か。目立つぞ」
「勝負服だからな。安心しろ。リベールに入る前には着替えるさ。羽織はそのままだが」
流石に和装のままリベールに入るわけにもいかないので、入る前に着替える予定だ。
それに、おっさんの言う通り、東方の和装は物凄く目立つ。
実際、帝都での視線が物凄く痛かったし。
「そうだ。軽く飲んだらちょっと出てくるよ。行きたいところあってね」
「行きたい所?どこだ?」
おっさんに場所を聞かれる。
答えるべきか考えたが、黙って行動するわけにも行かず、声に出さず唇を動かして伝える。
それを見たおっさんは険しい顔を浮かべるも、指の動きで仕事と伝えると、大きくため息を吐く。
「全く…面倒ごとは起こすなよ」
「分かってる」
釘を刺されるが、流石に分かっている。
ここで面倒なことを起こせば、これから動きにくくなる。
それだけは避けないと。
「ところでおっさん。帝国の弟弟子の事はどれぐらい知ってる?」
「リィンの事か。文に寄れば老師の最後の弟子らしいな。すべての型を会得しつつ、七の先に至る。潜在能力で言えば俺たち以上だろう」
「だろうね。逆に、一番潜在能力が無いのは俺か。だからこそ型を応用して組み合わせているんだが」
「何を言うか。それをすべての型で出来るのだから、才能の塊だろう。加えて…もう一つの流派もそうだ」
「黒神は八葉の元になった剣だからな。組み合わせるのは余裕だよ」
こればかりはジジイに叩きこまれた影響だろう。
すべての型を体が覚え、基礎を叩きあげてあらゆる無駄と隙を無くしたからこそ出来る技だ。
「っと…そろそろ行ってくる。戻ったら顔を出すよ」
「あぁ。気を付けてな」
席を立ち、壁に立てかけてあった煉獄を担いだ後に酒場を出る。
そこからパルムを出て少し南に向かうと、少しだけ整備された道が現れた。
その道を暫く進むと大きな門が見えてくる。
その門には、頑丈なカギがかけられており、中に入るのは難しいが、俺は軽く飛んで門を飛び越えて先に進む。
「鋼の姉さんの話では、慰霊碑があるんだったか。あまり騒がないようにしよう」
出来る限り静かに進んでいくと、村の入り口と思わしき場所にたどり着く。
そして…その先に見える崩壊して焼かれた家屋が視界に映り、ほんの一瞬だけあの時の光景と重なってしまった。
だが、俺の時とは違ってカタチが残っている。
なら…いくらでもやり直せるだろう。
「……外道な連中もいたことだ。後がなかった軍の連中もそうだが、やる事えげつないだろ。冗談抜きで」
10年前にこの村…ハーメル村で起きたことはジジイから聞いている。
猟兵崩れがリベール王国軍に扮して村を焼き、その後にリベールとエレボニアの戦争につながった事件。
色々と思惑があったらしいが、最終的には帝国側が首謀者を極刑に処し、リベールと極秘に取引したとか。
その結果、ハーメル村は地図から消えることになる。
「そう考えると、引っ掛かることが幾つか出てくるのだが……それを知るのは俺ではなく、剣帝や帝国の要になる奴らだろう。さて、ひとまず慰霊碑に向かうか」
更に奥に進むと、集落の奥に小さな慰霊碑を見つける。
その前まで向かい、胸に手を置いて1分ほど祈ってから、慰霊碑から離れると、背後から一つの気配を感じとる。
一体だれかと思って振り返ると、背後に居た人物を見て目を見開いてしまう。
アッシュブロンドの髪に灰色のコートを纏った青年。
そう…鋼の姉さんが言っていた剣帝と全く同じ特徴の人物だったからだ。
「どうもこんばんは。今日はいい月ですね。心なしかこの地で眠る魂も安らいでいるようで」
「……」
声をかけるが、彼は答えず睨み返してくる。
うん、第一印象は最悪だ。
直ぐに退散しよう。
「すまない。ここに人が来るとは思っていなくてな。少し警戒してしまった」
「……いえいえ。それは自分も同じで」
「この村の事は誰から?存在を知らないと尋ねないと思うが」
「あぁ。師からこの村の事を。後は養父ですね。まぁ…色々と人には言えない仕事をしているので」
旨い事誤魔化すが、彼は探りを入れるの様な視線を向けてくるが、それもすぐにやめて、彼は持っていた花束を慰霊碑の前に置いて少しの時間祈る。
その時の悲しそうな顔は、俺の故郷に行った時のチヨメ達と一緒だった。
「また会いに来るカリン」
(また…ね。カリンさんってのは彼の大切な人か)
これは中々深そうな闇だな。
だけど、鋼の姉さんなら何とか出来そうな感じもするのだが、やらないのには理由でもあるのだろうか?
「もしかしてハーメル村の生き残りで?」
「……」
「っと。失礼なことを聞いてしまった。貴方に謝罪を。申し訳ない」
「いや…気にしないで欲しい。こちらからも尋ねて構わないか?」
「勿論。答えられる範囲なら」
さて、どのような質問が飛んでくるだろうか。
一応斬りかかれても問題ないように警戒だけはしておこう。
「ハーメルの事を師と養父から聞いたと仰ったが、その師と養父はこの村の関係者か?」
「んー…難しい質問だ。師の方は関係ないとは言い切れないし、養父は同業だし」
「―――何?」
彼の纏っている闘気が膨れ上がる。
そうなるような答え方をしたのはワザと。
なので、ちゃんと誤解は解いておかないといけない。
「俺は東方の出身でね。主に代理戦争をしているのさ。君の思っているようなことはしていない。俺の仕事も基本的には、汚職とかをしている連中を摘発したり、悪いマフィアを潰したり。時々大統領の警護をしたり」
「成程…代理戦争か。イスカの名を語る物の間でそういったものがあると聞いたが……そうか。俺が思っている連中ではないのか」
「まぁね。東方は過酷だからさ。己が力を示したくても難しい人がいる。そういった人の代わりに、誇りや正義を背負って戦うんだよ」
そこにお金も絡んでくるが、それもきちんと話し合って決めている。
お金儲けの為に引き受けているわけではないのだから。
「ま。猟兵にも色々あるのさ。気になるなら行ってみればいい。強い使い手もいるからいい修行にもなるだろう」
「強い使い手か…そこには貴方も含まれるのか?」
「いやいや。俺なんて全然だよ。だから旅を…ってヤバイ。あんまし長居してるとおっさんに怒られる。なので帰るわ。またな」
「あぁ…縁があればな」
彼に別れを告げて、俺はパルムへと戻るのであった。