アラン・リシャールの起こしたクーデターは、カシウス・ブライトの帰還と、遊撃士の活躍もあって無事収束した。
城の地下の物に関しては、軍とラッセル博士が調べている様子だが、ほとんど分からないだろう。
アレはどう見ても普通ではないからだ。
それはさておき、問題はクーデター後の事だろう。
今回の件で、リベール王国軍は色々と大変なことになり、その立て直しでカシウスのおっさんが軍に復帰することになり、同時に遊撃士を引退することに。
この一連の流れはどう見ても仕組まれているものだが、多分おっさんも分かっていると思うので何も言っていない。
そして俺は、グランセルのホテルで部屋を取り、チヨメ達と別行動中である。
チヨメ達はリベール各地で観光しつつ情報を集めてもらい、俺はおっさんの目の届く範囲で行動をしているのだ。
今は、アネラス姉さんから今後の事を聞きながら朝食を食べているところである。
「というわけでね。明日からエステルちゃんとレマン自治州に行くんだ」
「遊撃士の本部…どこかに消えたヨシュアを探すためにか。まぁ…今のお嬢だと結構しんどいだろうね。だけど、アネラス姉さんが付いて行かなくてもいいと思うけど?」
「私は一度本部に行ってみたかったのと、修行相手が必要でしょ?」
「それは確かに。切磋琢磨出来る相手は必要だ。うん、俺も行こうかな……」
「うーん、それはやめておいた方がいいような……」
言ってみただけで行く気は無いし、仮に行ったとしたら即お縄に掛けられるだろう。
東方ではSSSランクの猟兵だし、アイツらにマークされてるし。
「所で姉さん。そろそろ話してほしいけど?朝食に誘った理由」
「理由?そんなの簡単だよ。折角同門と会えたわけだし、手合わせしたいな」
「成程…手合わせか」
その申し出はぜひ受けさせてもらおう。
ジジイ直伝とはいえ、姉さんの陸の型は物凄く興味があるし、俺の陸の型を見て彼女の為になってくれたら兄弟子としても嬉しい。
「じゃ、早く始めよう。善は急げってね」
「うん。じゃあ移動しよっか」
会計を済ませて店を出た後、軽く体を動かしてもよさそうな場所に移動。
お互いにある程度距離を取ってから得物を抜こうとした時、見覚えある赤毛の男と、現在りベールに出向中のジンが姿を現す。
「お。誰かと思えばアネラスと…おめえは確かおっさんの弟弟子だったか?」
「まさかお前さんまで来てるとはな。どうやって入ったかは…聞かないでおこう」
「……ま。大体予想は付くだろ。それと邪魔だけはしないで。斬られたくなかったら」
長刀タイプの木刀を構える。
姉さんも木刀を構えた。
本当な実剣で手合わせしたいが、あまり無理をさせたり、怪我を負わせるわけにもいかないので、ここは木刀で手合わせだ。
「せっかくだ。俺が審判を務めよう。構わないな?」
「お願いしますジンさん」
「勝手にしたら」
「はは…そうするさ。では――ー始め!」
ジンが右腕を降ろすと同時に、姉さんは一気に間合いを詰めてくる。
そのまま踏み込みからの突きを、胴に向けて放つ。
これは弐の型のアレンジって所か。
「―――っ!」
突きをギリギリまで引き付け、当たる瞬間に、姉さんから見て右斜めに深く潜り込み、最短での残月を放つ。
タイミングもいい所だったが、姉さんは瞬時に防御しながら大きく後退した。
「とと…危ない危ない」
「良い反応。流石だね」
「む。避けれるような速さだった気がするけど?」
「……バレたか」
同門だと手を抜いているのが簡単に気付かれてしまう。
今の残月がいい例えだろう。
完璧なタイミングで最速で放った場合、防御も回避も基本的には不可能だから。
「よし。じゃあ少しずつ速さを上げて行こう。行くぞ」
木刀を両手で持ち上段の構えを取り、闘気を纏って振り下ろそうとする。
それを見た姉さんは、右に回避しようとしたので、それに合わせるように、螺旋の動きで体を回転させながら緋空斬を放つ。
「っ―――陸の型!?読み間違えたけど!」
姉さんは回避を止めて、緋空斬を正面から受け止めるが、斬撃が木刀に当たった瞬間、強烈な衝撃と共に姉さんの上体が大きく後ろに弾かれる。
「重…いっ!」
「隙ありっ!」
低い体勢で地面を滑りながら姉さんの懐に入り、袈裟斬りの構えを取ると、姉さんの上体が途中で止まり、木刀を両手で構える。
その時に、姉さんが左足で踏ん張っているのが見えたので、そこから放たれる技も視えた。
「参の型・豪炎撃!」
上体が後ろに反れた体勢からの参の型。
決して良い体勢ではないが、かなりの威力なことは目に見えて分かる。
ので、俺は初手と同じように、回避と同時に最速の反撃を姉さんの脇腹に放つ。
「伍の型・残月」
「嘘!?この体勢で!?(今度は避けれないっ!)」
今度は避けれなかったのか、見事に脇腹に木刀が命中。
とてもいい音が鳴り、姉さんは痛そうに脇腹を押さえながら蹲る。
うん、放った俺が言うのもアレだが、今のはいい感じに入った。
きっと姉さんもこんな体勢で残月を放てるとは思っていなかったんだろうな。
「か、完璧に入った。ものすごく痛い」
「なんかごめん」
「見事なまでの一撃だな。勝負あり」
姉さんが戦闘続行出来なさそうなので手合わせは終了。
続きはまた今度だろうか。
噂の八葉滅殺と光覇斬を次こそ見てみたいものだ。
「うーん。流石伍の型皆伝。けどもっと引き出したかったな。あの、レマンから戻ったらもう一度お願いします」
「こちらこそ。俺も姉さんに教えたい技があるから」
「本当!?楽しみにしてるね。よーし、修行頑張るぞ!」
(何というか、子供の頃の俺とシズナだな)
嬉しそうな姉さんを見ると、ガキの頃を思い出す。
あの頃はジジイの見せる型を、目を輝かせながら見て、どっちが先に会得するか勝負をしたもの。
弟子を持てば、こういう光景をいつでも見れるのだろうか。
そういう経験もアリかもしれない。
「よし。そうと決まれば旅支度をしないと。またね皆」
「おぅ。頑張れよアネラス」
「エステルの事は頼んだからな」
「うん。兄弟子もまた」
「ん。体には気を付けて」
アネラスを見送ってから、俺も退散しようとしたが、ジンのおっさんが俺の右肩を笑顔で掴む。
まぁ…こうなることは予想出来ていたわけで、一応訳を聞いておく。
「何か用か?」
「あぁ。次は俺とだ。お前さんとやれるのは幸運だからな」
「拒否権は…あるわけ無いか。いいぞ。いつヴァルターと遭遇するか分からんし」
「ヴァルターか。お前さんもつくづく運が無い」
≪痩せ狼≫の渾名を持つ泰斗の使い手であるヴァルター。
あの野郎とのいい思い出はなく、出来れば二度と会いたくない相手。
しかし、東方を活動域にしている以上は何処で遭遇するか分からない。
そういった意味ではジンと軽く交えるのはいいだろう。
「うし。そういうことなら…っと。誰か来たな」
「アレは……」
「おいおい……」
気配を感じてそちらを見れば、長刀を携えて軍服を纏ったカシウスのおっさんの姿が。
一体何をしに来たかと尋ねると、おっさんは一通の手紙と共に長刀を渡してきた。
「老師から贈り物だ。ヴィクター卿経由でな」
「む…もしやあの時の事を聞いたのか」
おっさんから手紙を受け取って開封。
内容はほとんどギルド爆破事件とその後の光の剣匠との手合わせの件。
それと…一つの戒めを与えるとの事。
その戒めというのが、かなり面倒な物だった。
―黒神一刀流の型の使用は禁ずる。使用していいのは技術のみ。余程の事態以外は八葉のみで対処すること。
正直な所、いつかはこういう戒めを与えられるのは想像していた。
しかし…黒神一刀流の使用は禁止か。
技術は問題ないところを見ると、まだやりようがあるか。
ま…正直な所は八葉で十分だし、黒神の奥義は余程の相手以外には使いたくないし。
「で…この長刀は本物の妖刀。剣匠のおっさんに折られたレプリカの元か。貸しておっさん」
「分かった(しかしこの長刀…随分年季があるが……)」
おっさんから長刀を受け取る。
まずは鞘を持って感覚を確認するが、特段違和感はない。
シズナの愛刀の事もあるから警戒したが…いや、抜いてみないと分からないか。
「さて…鬼が出るか蛇が出るか……」
ゆっくりと抜刀すると、氷の結晶が刻まれた水色の刀身が姿を現す。
レプリカには無かった紋様…おそらくは極東方面で打たれた物かもしれない。
いまだにあちら方面には行ったことは無いが、ジジイの事だから全盛期に言った事があるのかも知れない。
「うん…いい感じだな。よしジン。やるぞ」
「早速試し斬りか。あんまし周りを巻き込むなよ」
「分かってるよ……行くぜ」
鞘を担ぎ、妖刀を両手で構える。
ジンも闘気を練り上げて拳を構えた。
相変わらず見事な闘気と構え、アレを崩すのは相当難しい。
何度も戦っているからよく分かる。
「まずは崩させてもらおうか。弐の型―――」
低い体勢から弐の型の速さでジンとの間合いを埋めると、彼は強い踏み込みをして、気を放ってくる。
その気が硬い壁となるが、前方のみ展開なので、彼の背後に回るが、それを見越していたジンが強烈な正拳突きを放ってきた。
「破ッッッ―――」
「シッ―――」
冷気を纏って正拳突きを正面から受け止める。
拳と長刀が衝突し、凄まじい衝撃波が響き渡った。
そのまましばらく鍔迫り合いが続いたのち、再びジンが踏み込んで来たのが見えたので、一歩下がりながら拳を受け流して、体勢を軽く崩す。
「ぬっ!伍の型か!だが―――」
「逃がさないよ!」
間合いを取ろうとしたジンの右手首を掴んで引き寄せながら鳩尾に飛び膝蹴りを撃ち込み、柄で首の裏を全力で叩いてから蹴り飛ばす。
いい感じに連撃が決まったが、ジンは笑みを浮かべる。
どうやら大したダメージは入っていないようだ。
泰斗の使い手はやっぱし硬い。
「その硬さは反則だろ。いくら気で固めてるからってさ」
「お前さんの伍の型の方が反則だと思うがな?他の型だって超が付くほどの一流じゃないか」
「ジジイに鍛えられてるからね。もっと行くぞ」
中段の構えに変え再びジンと打ち合う。
お互いの事をある程度知っている影響か、生半可な攻めは通じないし、奴の闘気の壁もある。
得物を持つ相手なら伍の太刀で流れを変えれるが、拳が相手だとそれも難しい。
(どうしたものか。伍の型を警戒してさっきから動作の少ない打撃しか放たない。なら―――)
こちらから仕掛けるしかないだろう。
一瞬でも隙を作れたら流れがこちらに来る。
問題はその隙をどうやって作るかだが、その手段はすでに頭の中だ。
「まずは―――」
「…!来るか!」
低い姿勢で後ろに下がりつつ陸の型を放つ。
ジンは放たれた陸の型を正面から防いだので、立て続けに俺と彼の間に螺旋撃を竜巻のように広範囲に放つ。
凄まじい熱風がジンに襲い掛かり、螺旋に引き寄せられていく。
「ぬぉ…こいつは!」
腕を交差して踏ん張るジンだが、螺旋の渦に囚われて身動きが取れなくなった。
そこを逃すことなく、八葉一閃をすべてクリティカルヒットさせ、大ダメージを与える。
流石のジンも、かなり堪えたらしく、息を荒くしながら片膝を付いた。
「はぁ…はぁ…相変わらず恐ろしい奴だよ。さっきのは今まで見せたことのない動きだな」
「ま…色んな使い方があるからな。ほら」
妖刀を鞘に納めてから、ジンの右手を掴んでゆっくりと起こす。
その様子を満足そうに見るカシウスと、どこか気に食わなさそうな赤毛のおっさん。
そういえば、城の地下で会った時から、赤毛のおっさんに疑われているんだよね。
俺はごく普通の旅人なんだが。
「さてヤクモ。すまないが軍の相手をしてやって欲しい。あの二人はしばらく戻らないんだろう?」
「あぁ。チヨメはルーアン。アヤメはツァイスだな。お嬢から聞いたロランス少尉の逃げた先と、龍脈が集う場所に行ってもらってる。まぁ…来月ぐらいには戻るだろ」
「ならばそれまで頼む。特にシード辺りを中心にな」
「了解。んじゃ移動しますかね。またな皆」
ジンたちに別れを告げ、レイストン要塞へと移動するのであった。
次回からSCです。少しの間だけヤクモはお休みです