「えっと…あれとあれを買って……全く斑鳩の皆は……」
現在ルーアンで買い物中の私。
丁度頼まれごとも一段落付いたので、斑鳩の皆に頼まれたことをこなしている最中だ。
リベールに来て早くも一か月と少し。
この地にもある程度慣れて、新衣装もなじんできているけど、問題が一つ。
そう…若の身動きがほとんど取れないこと。
我々の事を考えると仕方がないとはいえ、いざという時に頼れないのは辛いところだ。
「これも修行の一つと考えたいけど、やっぱり納得いかないなぁ……。でも猟兵ってバレたら終わりだし」
リベールは猟兵の立ち入りを禁止している。
なのに我々が入れるのは、カシウス殿が手を回しているのと、ヤクモ君が剣聖として来ているのが大きい。
だけど、自由に動かれるのは困るということで、若が犠牲となってくれたのだ。
「今はレイストン要塞で軍の方に指導してるらしいけど…これって老師が昔したことを同じだよね」
昔話として老師に聞かせてもらったことがある。
王国軍に招待されて、レイストン要塞で軍に指導し、そこでカシウス殿を弟子にしたことを。
確か…20年近く前の事だったかな。
若が拾われたのは15年ほど前で、私達は10年ほど前で…あれ?ということは、当時にリベール軍の人は、老師が元猟兵って知らないことになるのかな?
「うーん…斑鳩自体ほとんど知られていないみたいだし、あり得るのかな」
昔の事だし気にしないでおこうと決める。
今は買い出しに専念しないといけない。
先日、ヤクモ君が連絡用で使用している鷲にが持ってきた手紙に書かれたものを買っていかないと、人使い荒いんだから。
「後は…シズナちゃんに頼まれた化粧品…あの子興味あったんだ」
その手とは縁が遠い気がするのは言わないでおこう。
きっと若にいつもと違い自分を見て欲しいのだと思う。
私も負けていられない。
「シズナちゃんも心配性だね。私にも手紙を送るんだから」
ーヤクモが無茶をしないように頼んだよ!私の目の届かないところはきちんとチヨメが見て、いざとなったら殴ってでも止めて。私より付き合いが長いし、よく知っていると思うから。
「……確かに付き合い長いけど」
斑鳩の中で一番ヤクモ君と付き合いが長いのは私とアヤメ。
まだ斑鳩に入る前―――まだ子供の頃に村同士で付き合いがあって、同い年だったからとても仲が良くなった。
村が凍り付いて皆いなくなったことを聞いた時は思いっきり心配で泣いた記憶がある。
まぁ…その5年後に故郷が代理戦争に巻き込まれて、殺されそうになったところをヤクモ君に助けられることになるけど。
「本当に驚いたなぁ…死んだはずの幼馴染が、猟兵になって助けてくれて。しかも居場所も与えてくれて」
その後の事は、自分で考えて、ヤクモ君に付いて行く事にした。
彼が剣を振るう理由を聞き、少しでも彼の力になれたら嬉しいと思ったから。
すべてを忘れて普通に暮らすことをも考えたけど、炎に包まれた故郷と、無慈悲に奪われていく故郷を見てそんな選択肢を選べるわけもなかった。
「っと…あった」
お目当ての化粧品を見つけて3つ購入する。
私とシズナちゃんとアヤメの分。
結構いい値をしたので、経費ではなくきちんとシズナちゃんに請求しよう。
私達より稼いでるし。
「後は……あれ?ちょっと騒がしい?」
ルーアンにある橋が少し騒がしい事に気付く。
そこではチンピラが争っており、その近くでは見覚えある人達の姿があった。
エステル・ブライトとシェラザート・ハーヴェイの二人。
ヤクモ君からの手紙で、エステル殿が帰って来たことは聞いている。
ルーアンにいるということは…あの白い幽霊の調査か。
「よし…今晩辺りに行動開始だ。恐らく王立学園に行くだろうし、若の予想通りなら……」
もとよりルーアンに来たのは若の指示。
カシウス殿から聞いた黒いオーブメントとその効果。
それを聞いて、結社が現れそうな場所を予測し、その場所にそれぞれ行って欲しいと頼まれた。
私はルーアンでアヤメはツァイス。
ルーアンでは白い幽霊が現れて、アヤメの方が先日地震があったらしく、若の予測は的中。
改めて勧の眼の凄さを痛感した。
「では準備と行きましょう。相手は怪盗紳士。どのような手で来るか楽しみですね」
夜に備えて宿に戻り、一通り準備を済ませてからジェニス王立学院に向かうと、エステル殿達に加え、クローディア姫と見覚えある帝国の王子…ではなく、オリビエという胡散臭い男が加わって旧校舎に入って行くのが見えた。
その後を追って旧校舎に入ると、早速良くない空気を感じ取った。
「うわぁ…上位属性働いてる。ということは……」
通路の奥から鬼の霊が複数姿を現す。
他にも、滅多に見かけない魔物がうろうろしており、先に進むのはかなり面倒だ。
「東方でも時々見かけるけど、こっちは全然違う。気を引き締めて進まないと」
深呼吸をしてから進み始める。
隠形全開で気付かれないように進み続けると、大きな音と、妙な気配を感じた。
その場所に急いで向かうと、その場所では、影縫いを喰らったエステル殿達と、彼女の前には≪怪盗紳士≫ブルブラン。
そして…とても大きい機械仕掛けの人形が居た。
何やらオリビエとブルブランで愛がどうこう話をしているが、そんな事よりもあの大きな機械仕掛けの人形の方が問題だ。
グランセル城の地下でヤクモ君が見たものとも違うみたいだし……。
(ともあれ…目の前の事を集中しよう。まずは……)
大きく深呼吸をして、完全に気配を遮断。
闇に紛れて、高笑いをしているブルブランの背後を取り、左腕で首を絞めながら脇差しを脇腹に当てる。
「ぬっ―――!?」
「「「「!?」」」」
唐突に現れた第三者に驚きを隠せない一行だが、私は圧をブルブランに向けながら伝える。
「疾く彼女達を解放しなさい。しなければ刺しますよ」
「おっと…これは困った。よもや私が―――って待ちたまえ!本当に刺す気かね!?」
「勿論です。私は忍―――嘘は吐きませんから」
「成程…では仕方あるまい」
「ん…?」
ブルブランが笑みを浮かべた後、彼の体から白煙があがり、気付けばブルブランが機械仕掛けの人形の前に移動していた。
成程…あれが怪盗の技か。
どこぞの怪盗とは大違いですね。
「あ、アンタは確か!」
「先生の弟弟子と一緒に居た人!?どうしてこんなところにいるのよ!?」
「……そんなことより自分達の状況を考えた方がよいかと。ひとまず…助けても問題なさそうですね」
懐から手裏剣を取り出して、エステル殿達を拘束していた針を弾き飛ばす。
これにより、影縫いの効果は切れて、彼女たちは自由の身になり、こちらが数で有利となる。
とはいえ、相手は結社の執行者で、近くには得体のしれない化け物もいる。
ひとまずはエステル殿達の出方次第かな。
「よくもやってくれたわね怪盗紳士。倍返しにしてあげるわ」
「それは同感だ。やられた借りは返さないとね」
「はい。これ以上の騒ぎは許しません」
「覚悟しなさい!」
(……ここは任せて退散してもいいかな)
こそっと気付かれないように立ち去ろうとするが、そう簡単にはいかず、怪盗紳士が出口を塞いでくる。
仕方ないか、あまり若に戦闘をしないように言われているけど、時と場合による。
それに―――余程の相手以外は、若に託された八葉一刀流だけで問題ない。
黒神一刀流も、朧月流も不要だ。
「仕方ありませんね。彼は私が引き受けるので、そちらは任せます」
「っ―――。分かったわ。行くよ皆!」
エステル殿の号令と共に機械仕掛けの人形との戦闘が始まる。
それを見てから、私も左腰に携えている二本の刀のうち、一本を抜刀してブルブランに向ける。
向けられたブルブランは、その刀を興味深そうに見ていた。
「ほぅ…なかなかの業物だ。宝剣クラスかな?」
「それはどうでしょう?少なくとも、若や姫の刀には届きませんが。それより始めましょう。時間がありませんので」
静かに構えると、ブルブランも杖を構えてこちらに向けてくる。
あの杖…普通の杖ではなさそうだ。
火焔魔人の件もあるし、警戒レベルを上げよう。
「君の力、見せてもらおうか」
杖を上げると、無数の針がどこからともなく射出される。
その針を全て斬り落とすが、その間にブルブランの気配と姿が消えた。
周囲に気を巡らせて居場所を探ると、暗い場所から針が飛び出してくる。
その針を再び斬り落とすと、今度は死角から長い針が三つ放たれた。
(…また針。メインは暗器?)
「無論。それだけではないがね」
「―――!」
長い針を斬り落とすと同時に、周囲を銀の剣が囲い、足元に魔法陣が現れる。
それを見た時、以前カシウス殿から聞いた話を思い出した。
ロランス大尉が見たことのないアーツを使用していたことを。
その時に聞いた特徴と全く同じ。
どうやら結社の技術は、われわれより先にあるようだ。
「ですが―――そこッ!」
「むッ―――!」
僅かに感じた気配の地点に鍵縄を投げると、姿が見えなかったブルブランの右腕に絡みつく。
この手にブルブランは予測できなかったのか、一瞬動きが止まったので、そのまま縄を引っ張りながら距離を詰めつつ、彼の額めがけて飛び膝蹴りを放つ。
「取り合えず割れてください」
「流石に遠慮願おう!」
ブルブランは頭を下げてギリギリで回避しつつ、針を放とうとしたので、羽織っている羽織を大きく広げて視界を遮りながら体を隠す。
ブルブランの目線が羽織に行った僅かな隙に、地面に着地して、彼の肘を掴む。
「でしたら腕一本で。この間合いなら逃げれませんよ」
「それはどうかな?」
笑みを浮かべ、再び白い煙を出すブルブランだが、流石に二度も同じ手は使わせるわけにはいかないので、最速で背負い投げを繰り出し、地面に叩きつける。
「ぐはっ!(なんて強烈な体術だ!まずい、当たり所が―――)」
「起きないと心臓が破裂しますよ」
彼の鳩尾に目掛けて破甲拳を放つも、ブルブランは横に転がって回避したので、拳は地面にめり込み、重々しい音と衝撃波が響き渡る。
それを目の当たりにしたブルブランは苦笑いと冷や汗をかいていた。
「恐ろしい威力だ。もしやヴァルターと同等なのかな?」
「聞きたくない名前ですがいいでしょう。次で仕留めます。その首、もらい受けましょう」
刀の先をブルブランの額に合わせ、一呼吸置いてから弐ノ型の速さを用いた最速の突きを放つが、ブルブランに当たる瞬間、いきなり機械仕掛けの人形がこちらに攻撃を仕掛けて来た。
「っ―――」
振り下ろされた剣を、残月の動きで回避しつつ斬撃を放って後退。
一旦体制を立て直す。
「さて…ここからは彼の相手もしてもらおうか」
「……」
エステル殿達がいるとはいえ、あの機械仕掛けの人形の相手はほんの少しだけ骨が折れそうだ。
それに、手を貸すのも彼女たちのためにもならないだろうし、ここは撤退かな。
過度な介入も避けないといけないし。
「残念ですが私もここまで。彼女達の成長のためにも。それでは皆さん。頑張ってくださいね」
奮闘しているエステル殿達に伝えてから、煙球を地面で破裂させ、地上へと戻るのであった。