英雄伝説・黒葉の軌跡   作:八葉と黒神の剣聖

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瘦せ狼

「ん……物凄く暇。とても困った」

 

 

 リベールの南の方、ツァイスという街で情報収集中。

 その情報もおおかた集め終わり、それも纏めて若とお姉ちゃんに伝達済み。

 後は誰が解決するかだけど、その人物達は現在こちら向かってきている最中らしい。

 

 

「ルーアンは大変だったみたい。ゴスペルと執行者。えっと…変態紳士だっけ?」

 

 

 ルーアンで起きたことは一通り伝え聞いている。

 無事に解決して、お姉ちゃんも適当な所で退散して若と合流したとか。

 とても羨ましけど、ツァイスで起きてることは洒落にならないことなので、この地から離れるわけも行かない。

 なので今は、ツァイスの遊撃士ギルドで手頃な依頼を片付けつつ、おっさんの娘たちが来るのを待っているところだ。

 

 

「それにしても、あの狼野郎がいるなんて。しかも龍脈が集う場所に陣取って地震起こすとか、耳が痛くなるよねキリカ先生?」

 

 

 受付で書類仕事中のキリカ・ロウラン。

 彼女は≪泰斗流≫の師範で、円月輪の使い手。

 そして私の武術の師匠の一人だ。

 

 

「全く持ってそのとおりね。でも…それは貴方達にも言えることよ。サボってると彼に怒られるけどいいのかしら?」

「問題ない。レイストン要塞にいるヤクモ兄には連絡済み。次の指示も出てるしね」

「次の指示…成程。エステル達が来る前に行動するのね。分かったわ。貴女の事は伝えておかないで上げる」

「助かる。じゃあ行ってくるよ」

 

 

 壁に立てかけていた大剣を担ぎ、ギルドを出て向かうのはとある洞窟だけど、その前に装備の確認を行う。

 仕込んでいる暗器もそうだが、修行の為に着ている重りの確認をしないといけない。

 クロガネの兄貴がリベールに行く前に修行の一環で持たせてきたけど、これが重くて大変だ。

 

 

「問題なく動けているお姉ちゃんは化け物なのだろうか。あるいは……その答えを出すのも修行か。行こう」

 

 

 改めて洞窟に向かい、魔獣を倒しながら目的の場所に向かう。

 ここにいるであろうあの男の気配は感じないが、周囲を警戒しながら先に進むと、とても広い場所に到着する。

 その場所の中央には、黒い柱の様な物が地面に突き刺さっていた。

 あの柱こそ、地震を起こしている元凶だ。

 

 

「あの狼は…いないね。えっと若は確か―――」

 

 

 

ー出来る限りデータを取る事。有用なデータならバルクホルンの爺さんに高値で売れるからね。聖杯騎士が来ている情報があるけど、ちょっと面倒な相手だから接触は避けるよう注意すること。

 お嬢達は…臨機応変に対応を。

 

 

「ん、早めに終わらせよう。それにしても聖杯騎士か…セリスだったら嬉しいけど」

 

 

 のちに、とても面倒そうな聖杯騎士と会うことになるのは別の話。

 ともあれ、私は黒い柱と、それに装着されている黒いオーブメントであるゴスペルを調べる。

 調べると言っても、この装置でどのようなことが起きたかは報告済みなので、細かい仕組みとか、どんな形とか、どのような原理なのか、正直私は全く理解できないけど。

 

 

「でも調べない理由は無い。これも勉強だし。さて……あ、ちょっと遅かったかも」

 

 

 手を止めて振り返ると、エステル達が駆け足でやってくる。

 けど、お姉ちゃんから聞いたメンバーより一人増え、ラッセル博士の孫娘であるティータ・ラッセルも一緒だった。

 

 

 

「地震が起きているのはこの場所―――って何でアンタがこんなところにいるのよ」

「今度は妹君のほうかな?お姉さんの方は…いないみたいだね」

「彼女もいつの間にか居なくなっていたけど…本当に何者なのかしら?」

「……説明めんどい。早くこれ壊したら」

 

 

 相手にするのも程々にと言われているので、一旦柱から距離を取り、何もしない意思を見せると、エステル達は私を警戒しながら柱に近づいて調べ始める。

 その中心にいるのはティータ・ラッセルで、持ち運び可能な導力端末で調べている。

 

 

(あぁいうのもあるんだ。斑鳩にもあったら便利かも)

 

 

 なんて思っていると、目の端で、小さな石は壁から転がるのが視界に映った。

 あまりに不自然な落ち方で、意識がそちらに行った瞬間だった。

 背後から強烈な殺気を感じたのは(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「っ―――後ろッ!」

 

 

 

 振り返るとほぼ同時、視界には黒いジャケットにサングラスを身に付けた巨漢の男がすでに間合いに入っていた。

 

 

「ヴァルター―――!」

「おせぇ!!」

 

 

 巨漢の男―――≪痩せ狼≫ヴァルターは、私の鳩尾目掛けて拳を突き出してくる。

 このままだと直撃な訳だが、流石に貰うわけにはいかないから、後ろに下がりつつ腕を交差させて拳を防ぐ。

 だけど、拳の威力は強烈で、軽い私の体は軽々と吹き飛んで壁に激突してしまった。

 

 

「な、何事!?」

「い、一体何が―――って誰なのよアンタ!?」

「黒いジャケットの男!?いつからそこに!?」

「全く気配を感じ取れませんでしたが……」

「あ、あの人は気付いていた見たいです」

 

 

 私が吹き飛んだ所で、エステル達はようやく気付いた様子。

 直ぐに戦闘態勢になるが、ヴァルターは不機嫌そうな顔だ。

 大方目の前にいる彼女達が大した獲物ではないと思っているのだろう。

 それは間違いではない。

 エステル達ではヴァルターには勝てないのだから。

 

 

「ったく…レーヴェが骨のあるやつがいるって言ってたから来たのによぅ、全然歯ごたえがなさそうな奴らばかりじゃねぇか。あぁ、お前は別だぜアヤメ」

 

 

 ヴァルターは私を見ながら笑みを浮かべる。

 あの顔はとても嫌だ。

 自分の欲を満たすことしか考えていないあの顔が。

 

 

「クク…てめぇがいるならアイツもいるな?こいつは好都合だ。レーヴェには絶対にやらねぇ」

「……残念だけど、若の眼にお前は映らないし、若に挑むなら私とお姉ちゃんを倒さないとね。ま、出来たらの話だけど」

「言うじゃねぇかアヤメ。この前は俺に叩きのめされたのによぅ」

「今度はそうはいかない」

 

 

 拳を固めて構える。

 ヴァルターも構え、互いに出方を伺う。

 その様子を見ていたエステル達は、何かをしようとしているけど、そうはさせまいと、中型の魔獣が現れて、周囲を囲ってしまう。

 その時、柱に埋め込まれたゴスペルが光っていたのが見えたから、おそらくゴスペルの力の一つなのだろう。 

 

 

「……向こうは任せよう。痩せ狼、お前の相手は私だ」

「いいぜ…来いよ」

 

 

 ヴァルターが構えるとほぼ同時に、私は一気に間合いを詰め、力強く踏み込みながら破甲拳を放つと、彼は笑みを浮かべながら零拳を繰り出し、互いの拳が衝突した。

 

 

「ん…ぐっぅ!」

「力足りてねぇぞ!」

 

 

 衝突したのも一瞬。

 圧倒的に力で負けて、軽々と吹き飛ばされるけど、大剣を地面に突き刺して強引に止まり、距離が離れないようにする。

 それから腕の痛みを誤魔化すように大きく深呼吸して大剣を構える。

 

 

(ふぅ…どうしようか。速さでは勝てるけど、パワーでは勝てない。よし…ここは!)

 

 

 大剣を下段で構え、体勢を低くしながらスタートを切る。

 ヴァルターは右拳を引き、迎撃態勢を取ったの見て、地面を大剣で叩き土煙を上げて視界を塞ぐ。

 

 

「んな物効くかよ!」

(そんなことは分かっている。狙いは―――)

 

 

 ヴァルター拳圧で土煙を払いのける。

 私はそのタイミングに合わせるように陸ノ型を放つが、それも防がれてしまう。

 

 

「これで終わりかァ!」

「まさか。螺旋撃!」

 

 

 目の前に広範囲の螺旋撃を展開し、大きな壁として使う。

 それを見たヴァルターは当然のように螺旋を粉砕するが、さっきよりもやや大振りの一撃で、僅かに隙があった。

 そこを逃さず、最大スピードで間合いを詰める。

 

 

「貰った―――」

「ちぃっ!」

 

 

 急所に向けて揮った一撃は、ギリギリで回避され、そのままヴァルターの強烈なカウンターが脇腹に炸裂。

 炸裂した箇所から凄まじい痛みが全身を走り、視界が揺らぐ。

 けど、何とか踏ん張って距離を取ろうと試みるが、追撃の零拳が迫ってくる。

 

 

「それはまずい!」

 

 

 咄嗟に大剣でガードするけど、力を受け流すことが出来ず、大剣を弾かれてしまい、しかも体勢を大きく崩してしまう。

 

 

「これで暫く動けねぇなぁ!」

「ヤバイッ―――」

 

 

 とどめの一撃が迫ってくる。

 あの一撃が直撃したら、暫く所か一生動けない可能性がある。

 両腕を犠牲にしたら防御は出来るけど、そんなことをしたら若に怒られてしまう。

 なら…目の前爆破させて、爆風で後ろに逃げよう。

 

 

「こうなったら―――」

「あん?お前…おいちょっと待て―――」

 

 

 嫌な予感でもしたのだろうか。

 ヴァルターの顔が珍しく焦りを浮かべている。

 けどもう遅い。

 私の右手には既に小さな爆弾が握られているのだから。

 

 

「しからば御免ってね」

「お前―――」

 

 

 右手の爆弾を見たヴァルターの動きが止まると同時に、爆弾を地面に叩きつけて爆破させ、それと同時に体を反転させる。

 強烈な爆風が背中に襲いかかるが、一応断熱の服を着ているので大丈夫だろうと信じて、地面に体が直撃する前に受け身を取り、最低限の負傷で済ませた。

 

 

「ちょっと…いや結構痛いし背中熱い。でも、ヴァルターもかなりの……うん。期待した私がバカだった」

 

 

 煙の中からちょっと焦げたヴァルターが軽く咳をしながら出てくる。

 おかしい、ちゃんと前方に威力が集中するように調合したはず、フィーも『相手は大怪我、自分は擦り傷』と太鼓判を押していたのに。

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!自爆かよてめぇ。だが」

(…どうしよ。このままだと再起不能にされる。どうにかして……)

「これで終わりだな。全身の骨を砕いてやる」

 

 

 ヴァルターが一歩踏み出そうとした瞬間的だった。

 私と奴の間に、強烈な斬擊が通りすぎたのは。

 

 

「今のは―――」

「っ!!!」

 

 

 斬擊が飛んできた方向視線を向けるヴァルターだけど、私は直ぐに距離をとる。

 何故かって?

 それは簡単な話。

 だって……巻き込まれたくないもん、ヤクモ兄の広範囲技に。

 

 

「参ノ型改・神威!」

 

 

 上からヴァルターの前に急降下しながら地面に太刀を突き刺し、衝撃波を周囲に放つヤクモ兄。

 目と鼻の先で強烈な衝撃波を喰らったヴァルターは、大きく体勢を崩される。

 ヤクモ兄はそこを逃さす、冷気を纏った一撃を叩き込み、ヴァルターを弾き飛ばす。

 ヴァルターは受け身を取る間もなく壁に叩きつけられた。

 

 

「生きてるかアヤメ?」

「ん…何とか。というか何でいるのヤクモ兄?」

「お嬢達が要塞に寄ってな。調査がどうこうって聞いて。君の事だから大丈夫と言ってたが、キリカの姐さんに言われた」

 

 

ーちゃんと見張っておかないと、いざって時に間に合わないわよ。

 

 

「ってな。だからジンと一緒に来た。はい」

 

 

 右手を出してくる若。

 その手を掴むと、若は力強く手を握り、そのまま上空に投げ飛ばされた。

 どういうこと!?と疑問に感じるが、地上で聞こえた剣の音で直ぐに理解し、空中で体勢を立て直して着地。 

 それから音の場所を見ると、若とヴァルターが鍔迫り合いをしていた。

 

 

「久しぶりだなぁヤクモ。流石のお前も妹分がやられたら出てくるか」

「…来る気無かったよ。あと、お前ともやる気ないから。兄弟子との約束なのでね」

 

 

 若は長刀を握っていた手に力を入れ、一歩踏みだしながら薙ぎ払う。

 ヴァルターは少し後ろに下がるが、右腕を後ろに引き突きの体勢を取る。

 そして、軽く息を吐きながら拳を突き出し、強烈な拳圧を飛ばした。

 

 

「―――ここだな」

 

 

 若は小さく言葉を発し、静かに呼吸をした瞬間だった。

 強烈な衝撃破がヴァルターの鳩尾に直撃、そのまま派手に吹き飛ばされる。

 その光景に、私は言葉が出ず、理解が出来なかった。

 だって…私の眼には何も見えなかったのだから。

 

 

(えっとヴァルターの拳圧がヤクモ兄の目の前まで迫ったのは見えた。でもその後が全く見えなかった。何でヴァルターが吹き飛んでるの?)

「んー…タイミングをもう少し合わせれば、威力を上げて返せるか。今ので大体3倍ぐらい…実際の拳なら4.5倍ぐらいか」

「……もしかして」

 

 

 もしかせずとも若の新しい技。

 回避カウンターの逆の物理カウンター。

 明鏡の対となる伍の太刀。

 まだ完成していなかったって言っていたのにいつの間に。

 

 

「ぐぉ…俺の…拳を倍返しだと……」

「お?無事みたいだなヴァルター。流石に頑丈だ。で?まだやるか?」

「……今日はこの辺りにして置いてやるぜ。次はこうはいかねぇからな」

「そうかい。じゃあまた共和国で」

 

 

 若は長刀を鞘に納めて手を振ると、ヴァルターは不機嫌そうな顔をしながらこの場を立ち去っていく。

 それと入れ違いでエステル達がやって来て、何があったのか詳しく話をし、その代わりのここで得た情報を得る。 

 その後、ギルドに報告するためにエステル達はツァイスに戻り、私はヤクモ兄におんぶされてレイストン要塞に運ばれるのであった。

 

 

 

 

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