八葉の奥伝皆伝に向けて修業を始めて早くも一月。シズナと切磋琢磨しながら仕事も抜け目なくこなしている。そんなある日。依頼で朝早くから副官を連れて小さな村へと訪れていた。
「で…イスカ何とかの小競り合いの情報収集と。俺達にとってはいい小銭稼ぎだが、今更必要なのかね」
「正確にはイスカ同盟の新興勢力の情報収集です。規模は小さいですが場合によっては早々に潰したいと。それも依頼の内ですね」
「それぐらい自分達でやれよ……」
文句を言っても仕方が無いのは分かっている。仕事だから仕方が無い…といっても簡単な情報収集位は自分たちでしろよと言いたい所だ。
「取り合えず小籠包食べる?冷める前に」
「そうですね。朝抜いてますし、折角頼みましたから」
マスクを外して一つ食べるチヨメ。因みに俺達が居るのは東方の小さな村の宿屋である。ここで新興勢力とやらの会談があるので待っている訳だ。
「は、はふ…。思ったよりも熱い」
「肉汁が凄いからね。どれどれ……」
俺も一つ取って食べる。思ったよりも肉汁が凄くてめっちゃ熱い。頼んでから数分立っているはずなのに。これは猫舌のチヨメにはきついかな。
「ん……?誰か入ってきたな」
「ふぇ?あれは……」
何やら怪しい人間が7人程入ってくる。彼等は周りを見てから2階に上がって行き、それを見たチヨメは瞬時に切り替えて後を追っていく。さて…‥あちらは任せていいだろう。俺は残りの小籠包とお茶を飲みまったりしていると、さっきの7人組が降りてきて宿の外に出ていくが、その時に先頭の男がにやけているのに気付く。
(んー……。何か嫌な予感……)
アレは何かやらかす顔だぞ。一番可能性あるのは爆破か?最近も別の村で盛大にやったって話だし。やるのは勝手だが、一般市民に被害が出るのだけは勘弁して欲しい。
「若。どうやら今晩に武器商人と密会がある模様。何が渡されるかまでは話しておりませんでした」
「密会場所は?」
「村から西に3000アージュの地点です。時刻は日付が変わる頃と話しておりました」
「了解。武器商人には二度とこちらに来れないように痛めつけて、新興勢力は捕縛だな。1時間前まで待機」
「承知。では後程」
音を立てる事無く姿を消すチヨメ。流石忍びと言った所だろう。俺も隠形はある程度出来るが本職の連中には敵わん。見破ったり気配を消すのは簡単だが、完璧に姿まで消すのは苦手だ。
「それじゃあ今日も仕事と行きますか」
愛用の大太刀を背中に担ぎ、羽織を着てから宿を出るのであった。
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ー日付が変わる頃ー
「うーん。今宵も綺麗な月の事」
夜空で輝く白銀の月。加えて周りは光が一切灯らない漆黒の闇。裏で蠢く闇に手はこういった場所を好むものだ。それと隠密の修業とか闇に目を慣らすのも。ジジイや斑鳩の皆との修行でやらされたものだ。
「若。そろそろ時間かと」
「よし。隠れるぞ」
隠形を使用して木の裏に隠れ、チヨメは枝にしゃがんで完全に気配を絶つ。少し待っていると、小さな光が20程近づいてくる。その中には昼間に宿で見かけた連中も居た。
「…まだ小規模か。しかし……」
「若?いかがなさいました?」
「いや……余り目立った使い手が居ないと思っただけだ」
そこが気になる所だ。猟兵の類が居ても不思議ではない。雇える金が無いのか。いや、武器を買う金があるなら低ランクの傭兵位雇えそうだが。或いは東方系の人間ではないか。いくつか考えられるが絞る必要はないだろう。
「っと。珍しいのが来たぞ」
「あれは…導力車?」
最近普及され始めたらしい噂の導力車。シズナの奴が雑誌を見て『乗りたい!』とはしゃいでいたか。俺はあまり興味はないのだが。
「で。問題は何が出て来るかだが……。おや?木箱?中身は……火薬の類か?」
「箱の大きさからして鉄砲も入ってそうですが……」
人一人が入れるぐらいの木箱が2つ導力車から降ろされる。中身は空けてみないと分からんが、あれも回収せねばならん。速攻で終わらせるとしよう。
「チヨメ」
「はっ!」
チヨメが闇に消える。それから俺はゆっくりと木の裏から出て丁度資料を受け取った男の背後を取る。当然だが隠形を使用してるので誰にも気づかれる事無く資料を確認できる。
(なになに…銃弾が1万発。手榴弾が1000個。ロケットランチャーが40丁……って軍の師団一つに支給されるれべるじゃねーか)
心の中で突っ込みながらどんどん導力車から木箱が降ろされていく。さて…そろそろ行動に移そう。俺は資料を受け取った男の肩に手を置いて言った。
「いい商売してるね兄さん。俺にも分けてくれよ」
「何を言っている。何故分けねばならんーーーは?」
男は俺の方に顔を向け少し沈黙が続いた後、男は血相を変えながら俺から離れて銃を抜く。
「貴様何者ーーー」
「っと。遅いな」
大太刀ではなく右腰に携えている刀を抜刀して銃を弾き飛ばす。そのまま弐の型で武器商人以外を斬り伏せる。
「よし次は…兄さん達だ」
刀先を向けると、武器商人達は慌てて導力車に向けて走り出すが、武器商人達は見えない何かに足を引っかけて転倒。そのまま両手足を縛られる。
「な、なんだこれは!?」
「は、離せ!」
藻掻く武器商人達だが、見えない何か……透明な糸が手足に食い込み血が滲み出てくる。これはチヨメの拘束術なのだが、糸が透明で強度がピアノ線以上で四肢を切断するなんて簡単だ。
「拘束完了しました若。いかがしましょう」
「取り合えず武器は回収。新興勢力共は依頼主に引き渡し。そいつらは適当な所で捨てて置けばいいだろ。依頼と関係ないから」
「承知」
武器商人と共に姿を消すチヨメ。それから導力車を一刀両断。斬り伏せた新興勢力達は縄で縛って指定された場所に放置。依頼主に連絡を入れて任務完了だ。
「木箱の回収は忍達に任せたし早く帰るか」
大きく体を伸ばしてから屋敷に向かう。途中で斑鳩の馬車に回収され思ったよりも早く屋敷に返ることが出来た。任務が無事に終わったことを頭領とオババに伝えてから温泉に入る。
「はぁ…いいお湯。最近は大きな仕事が無いからゆっくり休めるわ」
そういっても大きな仕事は頭領は腕の立つ先輩方が請け負う事が多い。まだまだこの世界では下っ端だからだ。その代わりと言っては何だが皆よりも共和国方面の仕事を請け負う事は多い。あちらも色々と問題があるからね。
「少しはゆっくり出来ると良いんだが……」
「そう簡単にはいかないだろうね」
「そうだな。これも試練の一つ……っていつからそこにいたんだよ……」
いつの間にか隣にいたシズナに突っ込む。確か今日はクロガネの兄さんと仕事で帰りが遅くなるとか言っていなかったか?というかさり気無く入ってくるのも困る。
「そろそろ大人になれよ。子供の頃の様に入ってくるな」
「何?恥ずかしいのかな?」
「それは無いな。絶対に」
「むぅ…」
何故か不機嫌そうな表情を浮かべるシズナ。別に嘘は言ってないんだけどな。シズナは俺にとって可愛い妹分だから何も感じないんだけど。
「私は何時までヤクモの妹分なの?」
「…また読みやがったなこの!」
お返しにシズナの髪をわしゃわしゃすると、シズナはプクっと頬を膨らませながら両頬を引っ張ってくる。
「そうやって子供扱いしていると痛い目見るよ!」
「それは無理な話だな。痛い目を見て欲しいならもっと鍛錬しないとね」
「あぅ」
手を伸ばしてシズナを遠ざけると彼女は必死に手を伸ばす。しかし絶妙に届かず目の前でバタバタ振っているだけ。まだまだ俺には届かんぞ妹弟子。
「ぐぬぬ。こうなったら実力行使で!」
「はいはい。それはまた今度なっ!」
額に軽くデコピンする。痛そうに押さえる彼女だが赤くはなっていないので大したダメージでは無いだろう。俺はシズナの頭を撫でてから温泉を出て自室に戻り、大太刀を壁に立てかけてから太刀を抜いて刀身を確認。特に異常が無いので大太刀の隣に置く。
「ふぅ…たまには煉獄も振るってやりたいのだが……」
この大太刀を振るう事は極力無い。そもそも老師に止められている。その理由はこの大太刀が中々の怪物で凄まじい力があるからだ。場によれば周囲を凍てつかせることが出来るからな。
「……いつか老師に聞かねぇとな。この大太刀は俺を拾った時からずっと一緒だったって話だし」
素直に話してくれるか怪しい所な。特に酒が入ったら絶対に誤魔化すに決まっている。伊達に10年近い付き合いじゃないから良く分かる。
「寝るか。明日になったら依頼も入ってるだろ」
大きく体を伸ばし手から寝巻に着替え、明日に備えて就寝した。