「いたたたたたた!痛い!超痛いよお姉ちゃん!?」
「はいはい。じっとしてて」
「……わぉ」
ここはレイストン要塞の医務室。
現在ここでは、傷だらけのアヤメをチヨメが愛情を以て治療していた。
因みにヴァルターとの戦闘から一日経っている。
昨日は要塞に戻ると途中でアヤメが寝てしまってね。
治療が持ち越してしまった。
「アヤメは任せるとして…おっさん。次の手は考えているのか?」
医務室の端で書類に目を通しているカシウスのおっさん。
目を付けていたルーアンとツァイスに結社の施行者は現れた。
となれば他の場所にも表れるだろう。
ゴスペルと共に。
「お前はどう思う?連中はゴスペルで何をしようと考えている?」
「まぁ…最終目的は分かっている。今はそれをするための事前準備。中間で大きな実験をするだろう」
「ほぅ。ではその中間での大きな実験は?」
「言わずとも分かる…だろ」
あえて言わずにおっさんに言う。
ジジイから聞いた話が真実で、バルクホルンの爺さんから教わったことを踏まえると、あと何回か実験をした後、おそらく”あの存在”を狙ってくるはずだ。
その存在の場所を知りたいが、絶対におっさんは話さないだろうな。
「あと、四つの塔も調べたい。妙な教授がいたんだろ?でも、そっちは聖杯騎士に任せるか。奴に関しても、そちらに戦力は回せないし……」
悲鳴を上げているアヤメを見る。
ヴァルターにあそこまでやられるのは想定外だった。
火傷に打撲に裂傷。
少し休む時間が必要だ。
「となると…グランセルだな。アルセイユの新型エンジンは必ず狙ってくるし、クーデター連中も一部捕まっていないって話だろ。正体知らない奴から甘い言葉とか囁かれたら何をしてくるか」
「……で?どうするんだ?」
「決まってんだろ。アヤメの治療も兼ねてグランセルに向かう。色々準備もあるし」
「そうか。もしもの事があればよろしく頼む。こちらからも援軍は送って置こう」
「了解だ。行くぞ二人共」
荷物を持って、二人と一緒にグランセル市へと移動。
拠点にしていたホテルへと向かい、アヤメの治療をチヨメに任せる。
それからは長刀を担いで街道に移動し、伍の太刀の精度を上げるための鍛錬を開始。
因みに、伍の太刀は二つあり、一つは残月の発展型の回避カウンターである明鏡。
もう一つは、相手の力を利用し、いなしか反射する鏡月という技で、鏡月は未完でである。
「相手の力を利用する…簡単そうに見えて意外と難しい。む―――虫発見」
"眼”に映った人影に向けて斬撃を放つ。
斬撃の先には大きな木があり、綺麗に真っ二つにすると、その木の後ろから緑髪の神父が慌てて飛び出してくる。
その神父に見覚えあった俺は、とても申しわけなさそうに謝りながら言った。
「これはすまない。誰かと思ったら青ネギ…じゃなくてケビン・グラハム卿じゃないか。この辺りに外法でもいるのかい?」
「おいおい、いきなりやっといてなんやその態度?(つか完全に気配を経ってたはずやし、木の後ろやで?正確に胴体真っ二つにしてくるか普通?)」
「それが普通なんだよね。生憎と俺の眼は本質を見抜く眼。たとえ木の後ろの隠れていようが、どんな小細工をしようが看破してしまうのさ。まぁジジイの眼に比べたらマシさ」
「しれっと心読むなや!」
いいツッコミが帰ってくる。
彼の名はケビン・グラハム。
アルテリア法国の…っと、そういえば彼の席の事はほとんど周知されていなかったか。
なら言わないでおこう。
「で?ただの通りすがりの旅人に何か用でも?一応言って置くけど、売られた喧嘩は買う主義だ。死んでもいいなら掛かってきな。アンタの基準で俺を外法認定してるならだけど」
「……そうやな。出来れば放置したないし、劫炎の事もあるからリスト入りしたいけど……」
ケビン・グラハムは、俺の体の頭からつま先まで怖い目で観察し、軽く息を吐いてから得物であるクロスボウを向けてくる。
殺気は無いが、やる気ではあるらしい。
さてさて、どうしたものか。
「何?今後の対策とかしたいのか?やめておきな。俺は基本的に、人知を超えた相手以外には彼の力は使わない。アンタが聖痕を使ったとしても。その辺りはバルクホルン先生が実証済みだろ?加えて、完全に開放さえしなければ塩の杭みたいに環境破壊はしない。その辺りは俺もマクバーンを弁えてる」
「だったら尚の事や。その言葉が本当か一応確かめさせてもらおうか」
「そ、じゃあ好きにしなよ。不意打ちとか奇襲とか隙にしたらいい。まぁ…その前にチヨメを倒さないといけないけど」
「チヨメ…?この場にはお前しか―――はっ!」
僅かな殺気と共に手裏剣が三つ俺の横を通り過ぎ、とても逃げにくい3方向からケビン・グラハムに襲い掛かる。
彼は舌打ちしながら回避と同時に射撃で手裏剣を撃ち落して、俺から距離を取ると、抜刀したチヨメが俺の前に姿を現す。
「どこに行ったかと思えば、こんなところで何をしているんですか!?」
「知らないお兄さんに声を掛けれて話してた」
「大人にもなって子供のような言い訳しない!後でお説教です」
「え?それは勘弁―――」
「ダメです。こってり絞ります」
「えぇ……」
なぜかチヨメは、俺に対して物凄く厳しい。
シズナやアヤメには甘いのにどうしてだろうか。
今思えば子供の頃から事ある度に怒られていたような。
「で?どうして聖杯騎士と一緒に居るんですか?」
「さぁ?俺の中身を知りたいんだろ?危険度認定とかあるんじゃね?バルクホルン先生から色々聞いてるはずだけど、実際に見たいんだろ」
「絶対にダメです。あの氷の大地と同じことになります」
「大丈夫。影ぐらいなら…下がってな」
チヨメの肩に手を置き、目線で『大丈夫』と伝え、ケビン・グラハムの前に立つ。
彼のクロスボウは俺の額に向けられ、いつでも打てる状態だ。
まぁ…打つより先に避け無力化出来るが、それも面倒だし、俺が無害だってことを示す方がいいだろう。
「すまないな煉獄。不要に力を示すことになるが」
『影だけならば問題ない。私としても、君によからぬ疑いを掛けられるのは困るのでな』
「助かる。良し―――煉獄・解放」
内に秘めたこの世ならざぬ者の力を影として放つ。
絶対零度の冷気が辺りを満たし、俺の背後には6アージュ程の人影が姿を現す。
それを、ケビン・グラハムは眼を大きく見開き、驚愕してみていた。
その顔は、老師を通して初めて会ったバルクホルンの爺さんに初めて見せた時と同じ顔だった。
「っ…冗談きついやろこれ。先生ももう少し詳しく言ってくれな困るで。何が『直接見たらいい』やねん」
「ま。その気持ちは大いに理解できる。俺も初めて見た時は驚いたさ。いきなり刀と共に現れたからな。それより…もういいよな?無駄に力を消費したくない」
全身の力を抜き、周囲を満たしていた冷気を体に吸収、周りを見て特に影響がないのを確認してから、近くで凍えていたチヨメを抱き寄せる。
ほんの少しとはいえ、やはり近くにいるに人にはかなり堪えるようだ。
「ま。俺が外法と判断したなら、奇襲なり夜襲なりするがいいさ。代償は高く付いていもいいならだが」
「……止めや。流石に分が悪いし…余程の事が無い限りそいつの力は使わんやろ」
「無論だ。そもそも俺には
「やろうな。ま、その時が来たら頼りにするわ。所で話は変わるけど、何でリベールにいるんや?」
「……あれ。バルクホルンの爺さんに手紙出したから聞いてると思ったけど…一応話しておくか。実は槍…じゃなくて鋼の姉さんに―――」
一通り(一部誤魔化して)説明すると、ケビン・グラハムは『あぁ成程聖女さんに……』と何故か納得する。
確かに、あの人の正体を知っていたら納得するし、むしろ納得しない方がおかしいか。
「そういうことだから、お互い不干渉な。お互い貸し借りは嫌だろ。セリスの姐さんなら遠慮なく作るが」
「そういや借りあるって言ってたな。何や仲いいんか?」
「まぁ…適度に手紙のやり取りぐらい?バルクホルンの爺さんに手紙出すついでに…って。そこはいいだろう。ともあれ、基本不干渉。いい?」
「そうやな。俺も忙しいし、ターゲットに専念せなあかん。さっきも言ったけど、もしもの時は頼むわ」
「了解。んじゃ戻るかね」
この場を立ち去るケビン・グラハムを見送ったのち、腕の中に居たチヨメに声をかけると『もう大丈夫です』と返事をしてから離れる。
しかし…これの対応もそろそろ考えないといけないな。
周りに人がいないのを毎度確認するのも面倒だし、何かいい案があれないいが……。
『我が神気を武具に込めればいい。そうすれば我が力の影響も受けぬし、力も行使出来る。限度はあるが』
「成程…じゃあ帰ってからやってみよう。戦力の底上げも出来そうだ」
「…煉獄と喋っているのですか?」
「あぁ。帰ったらやることが出来た。急ぎ戻って行動に移すぞ」
そういうわけで、俺達は急いでグランセルへと戻るのであった。