ケビン・グラハムとの一件から数日経った。
とりあえず煉獄の提案を試し、彼の神気と冷気を武具に込めることで、チヨメ達への影響を無くし、加えて限定的だが力の一部を行使できるようになったが、ふと疑問に感じたことが出てくる。
力を分け与えて行使できるようになる件、どこぞで聞いたような見たような。
その件は頭の片隅に置いておき(というかこの世の理外の事なんていちいち考えていられない)、ひとまずグランセルに来た目的を果たすべく、日が沈んだ頃にチヨメと一緒にギルドに行ったのだが、ここで予想外の事が起きていた。
その予想外の事とは、ギルドの受付をしていたエルナンと、エステルお嬢達と一緒に行動していた人物たちが二階で爆睡していたのだ。
「あの…これって」
「どう見ても連中の仕業だろ。机の上には…紅茶か。そこに催眠薬でも盛られたか。お嬢がいないのは気になるがそれより」
爆睡しているジンの頬を思いっきり引っ張って起こそうと試みる。
A級遊撃士が薬盛られて爆睡とか恥ずかしいにも程があるし、乙女の嬢ちゃんに知られたらどんな目を向けてくるか。
「起きろジン。今起きたらエレインには言わん。黙って置いてやる」
「んんっ…今日は逃がさんぞヤクモ……」
「……」
前言撤回。
この件はベル経由でエレインに伝えておこう。
夢の中で俺とどんな鬼ごっこをしているが知らんが、このままいい夢見させて、現実と夢でボッコボコにやられてもらおう。
「ひとまず、この状況を作った人を探そう。お嬢がいないのが気になるが居場所は…む。この気は…港か」
「急ぎましょうか。手も足りませんし」
「ほんとそれ。アヤメがヴァルターに負けたのが悔しくて、暫くキリカ殿と武者修行と。相変わらずというか」
「相手が相手なので仕方無いですが…ともあれ急ぎましょう」
気配を頼って向かうのはグランセル市の港だが、到着するなり何かの駆動音が聞こえてくる。
とても嫌な予感を感じたので警戒していると、ひときわ大きな破壊音と共に、巨大な砲身が付いた5アージュ程の戦車が姿を現した。
「な―――なんですかあれ!?」
「めちゃくちゃ面倒そうな奴が出て来たぞ!?」
『超かっこいい!それに久しぶりに手応えありそうな奴じゃん!結構好きでしょヤクモ?』
「んな訳―――え?なんか可愛い声してない煉獄?」
『こほん。油断せぬように。以上』
「おい―――ってあと回しだ。そこのかっこいい戦車!流石にここから先は通行止めだ!」
あんなものを通したらどんな被害が出るか分からない。
直ぐに長刀を抜いて戦車の進路上に立ちふさがると、戦車の砲身がこちらに向き、発射体勢に入る。
『邪魔をする奴はぶち抜いてあげるわ』
「ちょっと待てぃ!そんな物騒な物を打つんじゃない!」
『しねぇぇぇ』
「人の話を聞けよ!」
砲身が火を噴き、一発の砲弾が発射される。
回避は不可能、というか避けたら周りが吹き飛んでしまう。
となれば、やることは一つだ。
「肆の太刀・明鏡ッッ!」
神速の抜刀で、砲弾を綺麗に真っ二つに斬りつつ、戦車の足を止めようと車輪を狙おうとしたが、砲身の下に設置されていた二つの小型ガトリングが、俺とチヨメに狙いを定める。
「物騒な物を何て所に!」
「ですが正面に入らなければ問題ありません」
俺とチヨメは左右に散るが、何と戦車の左右にも小型ガトリングが装備されており、加えて自動追尾で後を追ってくる。
直ぐに近くの倉庫の後ろに隠れるが、上空からミサイルの雨が降り注いできたので急いで脱出。
幸いにも戦車の死角部分だったので、車輪を狙う。
「まずは足止め!」
『甘いわよ!』
戦車の装甲部分が開き、巨大なアームが現れる。
『そんなところ開くのかよ!』と思わず突っ込みたくなりそうになるが、我慢して防御の体勢に入ると、アームが俺を叩きつぶそうとしてきた。
「流石におお振りには当たらんさ。残月」
流れる水のように回避した後アームを斬り落とす。
それとほぼ同時に、反対側で小さな爆発が起こり、戦車の動きが止まる。
「車輪を一つ潰しました。このままこの場にとどめましょう」
「よし。ならばエンジンを狙うぞ。場所を特定して破壊する」
「分かりました。では装甲を…若!」
「むッ―――」
背後から一発の弓が飛んできて小型ガトリングを破壊し、倉庫の陰から一人の人物が現れて棒術で戦車をぶん殴る。
どうやら助っ人が来てくれたようだ。
それも見知った顔が二人。
「大丈夫か剣聖の兄ちゃん」
「あぁ。いいタイミングだな」
「なんで二人がいるのか物凄く気になるけど…それは後回しね。えっと手伝ってくれる?アレにはアルセイユの新型エンジンが搭載されてる。乗っているのはカノーネさんよ」
「カノーネ…あぁクーデターの。では急ぎ無力化を。支援は私と神父殿が」
「だな。前衛は俺とお嬢。合わせるから好きに動きな。間違っても背中撃つなよ青ネギ殿」
「誰が青ネギや。って…そないなやり取りしてる暇ない。くるで―――」
小型ガトリングが俺達を狙う
咄嗟にケビン・グラハムに視線を送ったのちに高く飛びあがり戦車の上を取ると、戦車に装備されている小型ガトリングの標準が全て俺に向けられた。
「(成程。やっぱし一番危険な奴に自動で狙うのか)ケビン!」
「任せとき!グラールスフィア!」
聖杯騎士が使う一緒の防御結界。
それで俺を覆わず戦車を覆う。
無駄なように見えるが、あぁいう実弾を使う兵器にはもってこいで、何故なら、放たれた銃弾は結界に当たって跳弾し、逆に戦車に大ダメージを与えるからだ。
『こんな壁、破壊してやるわ!』
と、自信満々で小型ガトリングを一斉掃射するが、それらは全て結界で弾かれ、跳弾となり自分自身に帰ってくる。
戦車に搭載されていた小型ガトリングは破壊され、立派な砲身も穴だらけ。
幸いにも装甲は硬かったのか軽く凹んだ程度で済んでいたが、武器は全て使用不可になり、チヨメが車輪を破壊していたので走行も難しい。
完全に詰みの状態だ。
「嘘…一瞬で止まった……」
「まだだぞ。エンジンは…あった。戦車後方、中心よりやや右下だ。チヨメ!」
「承知。では派手に!」
勧の眼でエンジンの位置を特定し、チヨメがその付近を爆破することで装甲にひびが入る。
その個所を、エステル嬢とケビン・グラハムが強烈な一撃を叩きこむ。
ひびが入った個所は砕け、大型のエンジン―――アルセイユの新型エンジンが現れた。
「アレは…まさか!」
「新型エンジンか!よし!」
「お、おい!」
戦車の背後に回り、正確にエンジンの周りだけを斬ってエンジンを傷一つ付ける事無く斬り抜く。
斬り抜いたエンジンはチヨメの鋼糸でやんわりと受け止めた。
『な、ななななな。あり得ない。何なのよアンタ!?』
「ただの通りすがりの東方から来た旅人だ。悪いが次で仕留める」
長刀を地面と水平に構え、刀先を搭乗席に向け、僅かに冷気を纏う。
狙いを定めた後、一呼吸置いて技を放つ。
「八葉一刀流肆の太刀・明鏡」
戦車を一刀両断し、ゆっくりと鞘に長刀を収めると、戦車は綺麗に真っ二つに分かれ、中から凍り付いたカノーネが姿を現す。
うん、いい感じの硬さだった。
たまにはあぁいうのを斬るのも悪くない。
「……ねぇケビンさん。あの人何者?」
「あー……まぁ敵ではないな(というかあの女兵士生きとるんか?セリスの聖痕でも溶かされへんかったって聞いたけど)」
「っと。増援来たみたいだけど…任せよ白ネギ卿」
「今度は白かッ!?あぁもぅまかせとき」
正確にツッコミながら増援としてきたユリアさん達と、ギルド支部で爆睡していた人達に説明するケビン。
その後に揃って俺の所まで来て、氷像となっているカノーネをどうにかして欲しいと言われたので、長刀に冷気を纏って一刀両断する。
「なっ―――」
「えぇ―――」
「お、おいそれは―――」
「おま―――」
揃って驚く皆だが、カノーネを凍らせていた氷は解け、無傷のカノーネがゆっくりと倒れる。
エステル嬢とクローディア姫が駆け寄って生きているか確かめているが、ちゃんと無事だ。
あくまで仮死状態にしていただけだし。
「……外れか。だけど次は……」
「若…?いかがなさいました?」
「ん―――そろそろ出て来そう。準備して備えるぞ。次は本気で行かないといけないから、俺もちゃんとした服装じゃないとね」
「―――分かりました。では準備しましょう。アヤメにも連絡しますね」
「おぅ。んじゃ後の事は任せて戻ろう」
ユリアさんにこそっと後の事をお願いし、俺達は宿泊先へと戻るのであった。