ーうっし。こんな感じでいいかな?
斑鳩の隊服を身に纏い、シズナから貰った羽織を着る。
よもやリベールで隊服を纏う日が来るとは思わなかったが、相手が相手だ。
きちんとした服装で相手をしないとね。
「所で…よくもまぁ聖獣が動いたってわかったな煉獄」
『わずかな乱れがあったからね。多分ゴスペルを利用して操ってる。そんなことを出来るのはただ一人』
「そうだな。あと隠す気無いだろ。よもや君が女…外の世界に性別の概念があるか知らんが驚いた」
『うっかりよ。あと私は女。元居た世界では女王様だったもの』
女王様…ね、どういう女王なのか気になるが、今一番気になることと言えばどうして俺を選んだか。
まさか俺が煉獄のお眼鏡にかなったのか?
その辺り聞いておかないと。
「時に煉獄。俺を選んだのは君の好みだったからか?」
『―――』
「まぁそれでもいいけど、俺も君の事情は知らないし、どういった経緯出来たかも分からない。いつか話してくれたらいいさ。えっと仮面は…あったあった」
机に置いてあった仮面を被ろうとした時だった。
目の前から強烈な冷気と神気を感じ取り、体が全く動かなくなる。
この感覚はあの時…煉獄と初めて会った時と同じだ。
となれば、
「……(おいおい…何かまずい事言ったか)」
『ヤクモ。一つ行って置くけど、私は準備してこの世界に来ている。君を見つけて、力を貯めて、そして飛んできた。君が名付けた煉獄も一緒に。まぁ…色々とすれ違いがあったから来たときは大変だったけど』
「…で?」
『決して好みとかそういうのではなく、純粋に君の魂に惹かれただけ。この子なら―――って。でも…君がこの地に生まれるまでかなり時間があったから準備しすぎてね。結果があれさ』
その結果というのが凍てついた大地だろう。
あの光景だけは一生忘れることは無いし、忘れたら父さん達に殺され…ん?ちょっと待て。
さらっと聞き流したが、とんでもない事言ってなかったか?
「おい煉獄。俺の事を見つけたって言ったな?
『それは…今は秘密。もっと先になったら教えてあげる。私の名前もね。もう少し揺らいでから。それより急いだほうがいいよ。聖獣が来てる』
「む―――言われてみれば凄まじい気配が二つ。そして体も動く。この野郎め」
『ふふ。まぁ頑張って。老師以来の強敵。今回は本気を出さないといけないだろうし。改めて今回の戦いが終わったら話をしよう。私も大分この世界の事が分かってきたし、そろそろ姿を見せたいし。それじゃ…頑張って』
煉獄はそう言うと、小さな影は俺の中に入り、声も聞こえなくなる。
さて…では参るとしよう。
気配はすでに街の中、住民の悲鳴が聞こえてきている。
俺は仮面被り、長刀を担いでから宿を出ると、すぐに目当ての人物と聖獣…一体の竜を見つけた。
(剣帝に古竜レグナート…どちらも強敵だが何とかなりそうだ。おっと移動したか。方向は…ラヴェンヌ村だな)
剣帝が古竜と一緒に移動を開始し、俺も一定の距離を保ちつつ追いかける。
その途中で、古竜がどこかに火炎を放ち慌てて進路変更。
あんなものが直撃したらどんな被害が出るか分からないからだ。
(方角的にラヴェンヌ村か)
百日戦役でもかなりの被害が出たと聞いた。
確か赤毛のおっさんの生まれ故郷だったか?
あまり会う機会は無いが、彼も大きな怒りを抱いている。
その怒りの矛先の込め方と振るい方にはかなり問題アリだが。
そうこうしている間にもラヴェンヌ村到着し、すぐに村人の叫び声と熱気を感じ取る。
その場所は農園方面で、そちらに向かうと、農園は激しく燃え上がり、村人達が必死で消火活動を行っていた。
「―――(流石にこれは……。それよりも消火だ)煉獄。冷風で消火するぞ」
『任せて!凍らない程度に調整するわ』
冷風を刀身に纏って居合切りを放って消火する。
いきなり消えた炎に戸惑う村人だが、そちらは後回しだ。
剣帝と古竜の追跡を再開し、気配を辿って進んでいくと古い坑道にたどり着くが、門で閉じられていたので一刀両断。
坑道に入ってしばらく進んで行くと、開けた場所にたどり着いた。
「坑道の奥にこんな場所が…っと。いたいた」
この地の一番奥に、一体の巨大な古竜と剣帝が待っていた。
古竜に動く気配はないが、その前にいる剣帝は戦闘態勢。
彼の左手には黄金の魔剣が握られている。
どうやら言葉は不要の様子。
しかしきちんと挨拶はしないとね。
「さて―――言葉は不要だが名乗らせてもらおう。≪斑鳩≫筆頭侍にし、八葉一刀流の剣聖であるヤクモ・ムラサメだ。ま、ヴァルターや鋼の姉さんから聞いてそうだが」
「あぁ…東方で会った若き侍の事は聞いた。まさかハーメルであった男がその侍とは思わなかったが…ふっ、わざわざ鋼に確認しておいてよかった。その様子だと俺の事も知っているのだろう?」
「その通り。リベールに行くと言ったら教えてくれたさ。故にここからは……」
担いであった長刀を手に取り、勢いよく地面を付く。
それから、少しだけ口角を吊り上げつつ、剣帝レオンハルトと視線を合わせた。
「剣だけで十分だろう。八葉の使い手として、結社最強の剣士殿に手合わせ願おうか?剣帝レオンハルト」
「お手柔らかに頼むぞ。東方最強殿(しかし…八葉か)」
「では―――遠慮なく」
長刀を担ぎ直して左手で抜刀。
それと同時に、冷気を込めた斬撃を三つを回転させながら三方向に時間をずらして放つ。
その斬撃とレオンハルトは最低限の動きで回避した後、一気に間合いを詰めてくる。
「っとと。正面からは願い下げだが……」」
視線を彼の右下に向けると、その視線レオンハルトは気付き、僅かに黄金の魔剣の角度が下がる。
そうなれば自然と首に僅かな隙は生まれ、俺は視線はそのままにしながら予備動作無しで居合を首に目掛けて放つが、レオンハルトの目が長刀に向く。
「視線誘導―――」
「おや?こういう手は初めてかな?」
やや皮肉を交えるが、レオンハルトはぎりぎりで魔剣で防御しつつ反撃をしてくる。
その反撃を残月の動きで回避と同時に反撃を繰り出す。
「ちっ!」
レオンハルトは舌打ちをしながら距離を取り、魔剣を突き出して剣気による嵐を放った。
「零ストーム」
「おっと」
嵐を右に回避、しかし彼には読まれていたようで、目の前にはレオンハルトの冷たい瞳があった。
あぁ…その瞳はダメだ。
(さてさて…どうしたものか)
彼の瞳を見ながら、黄金の魔剣の捌き続ける。
攻守は頻繁に入れ替わり、お互いあと一歩が届かない状態が続く。
まぁ…まだ小手調べだからね。
だけど、その小手調べで分かったことが一つ。
剣帝レオンハルトの剣はとても冷たくて寂しい剣。
心に大きな穴が開いたような感じだ。
その穴を埋めるのはきっと俺ではなく―――彼の愛した人の弟だろう。
(だけどいい剣だな。型が無いってのも魅力的だし、確か修羅だっけ?鋼の姉さん曰く)
その修羅ってのは良く分からないが、彼の剣は見事と言わざるを得ない。
完全な我流…というわけではなさそうだ。
鋼の姉さんが一枚かんでるな。
「考え事か?余裕だな!」
「まさか。結構一杯一杯さ!」
レオンハルトの強烈な薙ぎ払いを大きく後ろに飛んで回避し、長刀を一回転させて肩に乗せる。
軽く息を吐くと、レオンハルトはとても不満そうな視線を向けて来た。
「どこか不満そうだね?一進一退の攻防が嫌かな?」
「無論だ。貴様…本気を出していないな?大佐とは違う残月は見事だ。勧の眼も加わりやり辛い。だが…剣聖特有の技が無い。カシウス・ブライトの無にして螺旋。アリオス・マクレインの弐の型。それに対して貴様はまだ何も見せていない」
「んー一応見せているんだけどね。気付いていないだけじゃないかな?」
「気づいていない…待て。まさか伍の型…だとしたらこちらの攻撃が当たらないのは…加えてそこからの居合の反撃は肆の型…。そんなことがあり得るのか?カシウス・ブライトでも至ったのは壱の型だけ。加えて貴様は八葉の原形の―――」
「―――まじ?そこまで知ってるわけ?鋼の姉さんが口を滑らす…いやデュバリィちゃんの方か。仕方ない、里に帰ったらジジイに怒られよう」
長刀に青白い闘気を纏う。
それの呼応するようにレオンハルトも強烈な闘気をその身に纏った。
練り上げられたすさまじい闘気、あれほどの物を見るのは先代の≪銀≫以来か。
「そんなわけで本気を出そう。もっと色々とお話ししたいが、それは戦いの後にしよう。酒を交えてね。それぐらいはかまわないだろう?聞きたいことが沢山あるんだよね。嫌かい?殺し合いをした相手と次の日に酒を交わす…猟兵界ではあるあるだが」
「嫌ではないが…(嘘は言っていない。何より…俺としても気になる点が多すぎる。妙にあの男と近い気配を感じる上に、鋼が直接会いに行ったのも気がかりだ)いいだろう。その代わり嘘は吐くな」
「勿論。剣聖が嘘を吐くことは無いさ。東方剣術の集大成である八葉一刀流と、那由他の時を受け継がれし黒神一刀流でお相手する」
背中に担いである鞘を逆手で持ち、こちらには黒い闘気を纏って刃を形成。
刀の闘気はそのままにしつつ、全身を纏っている闘気は体の内に納めて完全に断ち切る。
「それじゃあラウンド2だ。早々に詰まないでくれよ」
長刀をレオンハルトに向ける。
それが合図となり、同時に地面を蹴るのであった。