英雄伝説・黒葉の軌跡   作:八葉と黒神の剣聖

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古代遺物

ーえ?辻斬り?

 

 

 それはある日の夕刻。仕事が無かったので屋敷の雑用をこなしていた時の事。いきなりオババに話しかけられないかと思えば、妙な辻斬りが現れ困っていると相談してきたのだ。

 

 

「辻斬りか。どこぞの暗殺集団じゃないのか?」

「それはないじゃろう。こちらに来る事は滅多にないしの。そこでヤクモや。ちと仕留めて来てくれぬか?既に集落が幾つかやられている。このまま放置するわけにもいかんじゃろ」

「了解だ。チヨメを連れて……っと。今日は頭領のサポートだったな。そうなると……」

 

 

 誰に頼もうか。クロガネの兄さんはシズナと一緒だし、他の忍を動かすのも申し訳ない。相手が1人だと推測すると大人数で動くのは警戒される。困ったな。

 

 

「おや?ヤクモにオババ?」

「シズナ…(タイミング悪すぎるだろ)」

「何でタイミング悪いのかな?もしかして極秘の任務?」

「だから読むなっての…実はな」

 

 

 気付かれた以上は話すしかないだろう。俺は辻斬りの件をシズナに話して誰を連れて行こうか悩んでいると伝える。話しを聞いたシズナは『うんうん』と頷き、自身の胸に手を置いて言った。

 

 

「それなら私がーーー」

「却下」

「……まだ何も言ってないけど?」

 

 

 ジト目を向けてくるシズナ。『自分が行く』と言うに決まっているからだ。残念ながらシズナを連れて行くことは出来ん。もしものことがあれば腹を切らねばならんからだ。

 

 

「留守番だシズナ。この件は俺と暇な奴でやる」

「その暇な奴が目の前にいるじゃないか」

「ダメだ」

「…むすぅ」

 

 

 頬を目一杯膨らませて不機嫌な顔を浮かべるシズナ。最近も似たようなことがあった気がするな。よし……こうなったら。

 

 

「シズナ」

「ん?やっぱり連れてってーーーふにゃ!?」

 

 

 シズナの両頬を掴み親指でフニフニと引っ張ったり押したりする。やや面白い顔になっているが気にしない。そうでもしないと折れてくれないから。

 

 

「シズナ。君の身に何かあれば俺は責任取れん。もしもの事を考えて欲しい」

「あぁ…それなら大丈夫。ヤクモがいるから」

「そういう問題じゃなくてな……」

 

 

 俺の言いたい事が伝わっていない。或いはその辺りの話を聞いていないのか。だがここで俺が折れる訳には行かない。昔から俺が折れてるんだ。たまにはシズナに折れて貰わないと。

 

 

「頼むシズナ。危険かも知れないから待っててくれ。俺にとっても斑鳩にとっても大事な姫なんだから。せめて危険な任務は剣聖になってからにしてくれ」

「……ならこうしよう。私は付いて行くだけで何もしない。ただ兄弟子の剣を見て学ばせてもらう。それでどう?」

「それは……」

 

 

 ちょっとズルいだろそれ。そんなこと言われて断れない兄弟子はいないだろう。やれやれ…何もしないと言うならいいか。何かあれば全力で撤退すればいいだろう。

 

 

「まぁヤクモや。お主が居れば大丈夫だろう。連れて行ってやれ」

「はぁ…分かったよ。準備して来いシズナ」

「ありがとう。クロガネにも伝えてくるよ」

 

 

 シズナの頬から手を離すと、嬉しそうに準備に向かうシズナ。何と言うか皆シズナに甘すぎないか?俺にはめっちゃ厳しいくせに。

 

 

「ったく…。少しは俺の気持ちも考えろよな」

「敢えてじゃろ。お主と違ってあの子は鈍感ではない。すまぬがよろしく頼む」

「了解」

「うむ。それと…その辻斬りは妙な気を放つ大剣を持っているらしい。気を付けておけ」

「分かったよ婆さん。準備してくる」

 

 

 一旦自室に戻り仕事着である和装に身を包む。それから色々と服の中に仕込んでから大太刀を担いで太刀を左腰に携える。身だしなみを確認してから屋敷の外に出ると、準備を済ませたシズナと馬車を用意したクロガネが待っていた。

 

 

「オババから話は伺っています。出現予測地点までお送りいたしましょう若」

「助かるよクロガネの兄さん」

「それじゃあ行こうか」

 

 

 馬車に乗り目的地に向かう。その途中でシズナが密着して右肩に頭を乗せてくる。緊張感が無いのはよくないが、帰って気を貼り過ぎるのも良くない。そう言った面ではシズナが羨ましく見えてくるものの少し心配だ。

 

 

「一緒の任務は久しぶりだね。今日は学ばせてもらうから」

「そうか。邪魔だけはするなよ」

 

 

 念を押して言うと、思っていた返事と違ったのかシズナはまた頬を膨らませる。最近多いなこれ。いまいちシズナが何を思っているのかが分からない。子供の頃はそんな事無かったのに。

 

 

「そう言えばもう1人ぐらい副官を付けるのかい?」

「チヨメが居たら十分だが、忍衆を動かす権利が無い以上はもう1人位は欲しいな」

「そうなるとチヨメの妹かな?こちらの世界に誘った以上は責任を取らないとね」

「チヨメの妹は非戦闘員だ。それに特別急いでいないし油断しなければ俺一人で事足りる」

 

 

 幸いにも東方には目だった達人はいない。以前に≪銀≫や≪痩せ狼≫と一戦見えたことがあるが勝敗はつかなかった。同業でやるなら≪猟兵王≫や≪戦鬼≫がいい。あれぐらいの怪物クラスなら、まだ見えぬ境地に至れそうだ。

 

 

「到着いたしました若。姫」

「了解した」

「さてさて、何が出るやら」

 

 

 馬車を降りて最初に目に映るのは風化した廃墟。しかし人の気配は全くしない。外れ…と思っていると、禍々しい気配と共に強烈な血の匂いが漂ってくる。その方向を見ると、全身血に濡れた甲冑を纏い右手に血に濡れた禍々しい大剣を持った人物が近づいて来ていた。

 

 

「アレがターゲットだね。それにしてもあの剣から感じる気配は何処かで感じた気がするけど……」

「恐らく古代遺物だな。シズナを頼むクロガネの兄さん」

「御意。無理はなさらぬよう。それと…」

「分かってる。場合によっては抜くかもしれんから気を付けてくれ。さてと」

 

 

 太刀に左手を添えて甲冑の人物の前に立つと足を止め顔を上げる。俺の顔を見ると甲冑の人物はゆっくりと大剣を構えた。

 

 

「血を…寄越せ…」

「…そいつは無理な相談だな。悪いがここでお前の人生は終わりだ」   

 

 

 強く睨みつけ殺気をぶつける。甲冑の人物は殺気に反応してか雄たけびを上げながら襲い掛かってくる。剣を上げて俺の頭にめがけて振り下ろしてきたので、最低限の動きで回避しながら太刀を抜く。

 

 

「伍の型・残月」

 

 

 剣諸共両腕を斬り落とす。ドシンと音が鳴り、両腕から大量の血が噴き出る。このまま首を落とそうとした時、両腕から噴き出ている血が斬り落とした両腕と繋がった。

 

 

(血と斬り落とした腕が繋がった…?はっ!そういうことか!)

 

 

 禍々しい大剣が古代遺物だとすれば、血を操って傷を治したり斬り落とされた体を引き寄せて修復したりすることが出来る可能性がある。あぁいった遺物は普通に考えて対処してはいけない。特に封印指定種とかはな!

 

 

「悪いが速攻ーーーっう!?」

 

 

 噴き出た血が刃となって襲ってくる。空気の僅かな揺らぎで反応して回避するがその間に斬り落とした腕が修復されてしまう。

 

 

「再生時間は2秒から3秒か。その程度の時間なら問題ない」

 

 

 太刀を鞘に納めて分け身を生み出す。そのまま間合いを一瞬で詰めて八葉と黒神の技である螺旋撃と嵐雪を双影の形で放つ。

 

 

「ここだーーー」

 

 

 刹那の時を見切って太刀を振る。焔と氷の螺旋が重なって甲冑の人物の四肢が斬り落とされ、胴体が地面に落ちる。

 

 

「見事。完全に勝負ありだね」

「一応止めを刺す」

 

 

 剣先を心臓に向ける。動きは無いが僅かに呼吸音が聞こえてくる。もう動けないのに簡単に死ぬことが出来ないとは。古代遺物に手を出した末路の例はバルクホルンの爺さんに聞いてはいるが、実際に目にすると少し同情してしまう。似たような得物を持っているからだろうか。

 

 

「せめて女神の元に」

 

 

 心臓に向けて剣先を突き出そうとしたが、視界の端で地面に付着した血が動いたのを捕らえる。そちらに意識が一瞬向かったと同時に地面から血の剣が襲い掛かってくる。

 

 

「ちぃっ」

 

 

 後ろに飛び回避しつつ斬り落とす。その間に甲冑の人物の四肢が繋がって修復。また振り出しに戻ってしまったか。どうやら血さえあれば何度も体を斬り落とされても繋がって修復し、自身の血が凝固したり地面に浸透しようとも操れるって事か。

 

 

「……仕方ないか。血を操るならそのものを使えなくすればいい」

 

 

 太刀を鞘に納めてクロガネに投げ渡す。人の域を超えた物にはそれ相応の対応を。もしあの手の輩と相まみえることがあれば心得て置けとバルクホルンの爺さんが煉獄を見て言った言葉だ。幸いにも龍脈は正常だから力も殆ど発揮されず、周囲への影響も少ないだろう。

 

 

「行くぞ煉獄。奴の魂と体を凍てつかせる」

 

 

 大太刀をゆっくりと抜く。蒼白い刀身と刀身から溢れ出ている冷気が月の光に反射する。この大太刀の本当の名前は知らない。ジジイが俺を拾った時からずっと一緒だった。

 名前の由来は、この世界に入る以上は死んだときに女神の元ではなく煉獄に叩き落とされる覚悟で進む。という決意と覚悟を込めてつけた名だ。

 

 

「さぁ…次こそ終わりだ」

 

 

 煉獄の剣先で地面を軽く突き周囲と甲冑の人物の両足を凍てつかせて動きを封じる。甲冑の人物が凍った足を溶かそうと火を焚こうとするが、斬撃を飛ばして両腕を斬り落として、切断面と斬り落とした両腕を凍らせる。

 

 

「がーーぁっ!」

「……いい奴に生まれ変われ」

 

 

 苦しまないように胴体を斬り落としてから凍らせて、禍々しい大剣を残して粉砕する。粉々になった体は風に吹かれて散っていった。

 

 

「終わったな。2人は大丈夫か?」

「ん。私もクロガネも大丈夫。それに今日は大人しいしね」

「加えて若が範囲を絞ったからでしょう。それで…あの大剣はいかがしましょう?」

「凍らせてあるから大丈夫。回収して丁重に保管してバルクホルンの爺さんに渡そう。ちょっと待っててくれ」

 

 

 大剣の元に向かい念を入れて更に凍らせる。何度が指で突いて異常が無いのを確認してから大剣を回収しようとした時だった。

 

 

 

ーっと。そうはさせねぇぜ侍!

 

 

 

「…!?」

 

 

 強烈な炎が襲ってくる。大剣から距離を取って回避し、炎が飛んできた方向を見ると、そこには黒いシスター服を着た赤い少女が居た。

 

 

「あれは…もしかして」

「もしかしなくてもだろ。面倒な事になった」

 

 

 姿と彼女から感じる気配で正体は分かる。大方話を聞いて古代遺物の仕業だと分かっていてこんな所まで来た…と。しかしよりによって一番面倒な奴が来るなんて。

 

 

(やれやれ…まだまだ夜は長そうだ)

 

 

 少しだけ疲労感に襲われたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 




話しは続きます。
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