帰還
リベールの異変から早くも一か月、俺達は無事に里へと帰ってきた。
道中は思ったよりもすんなり来れて、足止めを喰らうこともなく(途中寄り道はかなりしたけど)無事にだ。
で、里に帰ってきてまずは親父…じゃなくて頭領に挨拶とリベールの事を話してから大量の酒を渡す。
その時に教会方面の依頼でやや渋い顔をされるが、こちらとしても仕方なくということをきちんと説明する。
それから頭領の部屋を退出すると、仮面を外したクロガネの兄貴と遭遇した。
「お帰りなさいませ若」
「ただいま兄貴。シズナは…居ないのかな?」
「今はチヨメ達と共に里の温泉にいます」
「そっか。リベールの事を聞きたいんだろうな。兄貴はどうする?」
「これから頭領にお話がありますのでその時にでも」
「了解。俺は部屋に戻ってるから」
兄貴に一礼してから部屋に戻ると、机の上には大量の手紙や書類が種類別に置かれてある。
中には代理戦争の事や、大統領からの依頼。
直近での共和国での出来事など、細かく書かれていた。
「一体誰が…シズナじゃないな。となると…ん?」
襖が開いて一人の女性が入ってくる。
シズナに仕えているカエデという人だ。
いいタイミングで入ってきたということは、これを纏めたのはカエデか。
「若様。お帰りになられていたのですね。先ほど姫様がチヨメさん達を捕まえていたのを見かけはしたのですが」
「ただいまカエデ。帰ってきたのはさっき。お土産を親父に渡してるから受け取ってくれる?それと聞きたいことがあって。この資料だけど、カエデが纏めたのかな?」
「えぇ。不在の間の出来事を細かく。分からないことがあれば仰って下さい。それでは失礼します」
カエデが退室してから、俺は机の前に座って書類を一通り確認する。
最初は手紙を確認、全部で三通あって一つはバルクホルン先生からで、主にリベールの事だった。
残りの二通の内の一つはアリオスから、残りの一通は鋼の姉さんからだった。
「鋼の姉さんも律儀だな。返事を出したいけど…ちょっと難しいか。アリオスには返事を出そう。次は…最近のカルバートの情勢か」
こちらに関してはいい話は殆どない。
反移民団体や勢力を拡大しているマフィア。
こそこそと悪事を働く議員など、どうやら俺の不在の間に悪い奴が増えているようだ。
こういうのはクロエの姐さん達の出番だけど…書類を見ている限り活動していなさそうだな。
「ということは世代交代か。少し経てば名前を聞くだろ。他には……」
書類を一通り目を通していると、襖が開いてシズナが入ってくる。
温泉上がりなのか、濡れた髪を拭きながら入ってきて、当然のように膝に座ってくる。
「お帰りヤクモ。リベールの事はチヨメ達から聞いたよ」
「ただいまシズナ。ところでどうして膝に座る?書類を確認している所なんだけど?」
「暫くチヨメに独占されてたから。次は私の番」
「あのねぇ……。まぁいいけど」
書類を机の端においてから、優しく抱きしめてから頭を撫でる。
シズナは嬉しそうな顔を浮かべながらリベールの事を聞いてきた。
チヨメ達から聞いたと言っていたのだが改めて話すことに。
俺の話を楽しそうに聞きながら、特にレオンハルトの事は目を輝かせながら聞いてきたので三度の手合わせの事を伝える。
「一度目は痛み分け、二度目は魔人化して勝ちよりの痛み分け、三度目は霞落としで一本か。純粋な技量では互角かな。機会があれば私も挑みたい」
「共和国に来るって言ってたし、都合が合えば会わせてやるよ」
「楽しみにしてるね。それとヤクモ。お土産は?」
「いいお土産あるよ。気にいるか分からないけど」
懐から箱を取り出してシズナに渡す。
彼女は目を輝かせながら箱を受け取って開けて中を確認すると、ちょっと意外そうな顔をしていた。
まぁ中身を見たらそう思うよね。
「ねぇヤクモ。チヨメにも渡した?」
「チヨメとは子供のころに作ったお揃いの耳飾りがあるからそれで十分。嫌だった?」
「ううん。とても嬉しい。ちょっと驚いたけど」
嬉しそうな顔を浮かべながら箱から二つのお揃いの指輪を取り出すシズナ。
いわゆるペアリングっていう奴だ。
里や頭領たちのお土産を買った後、シズナには折角だから東方で中々見ないものにしようと考えていたところ、結社のアジトで珍しい鉱石を見つけたので、何か適当なアクセサリーに仕立てて貰おうと考えていた所、偶然会ったクローディア姫と話しをしている間に、ペアリングの話が出てきたのでお揃いの指輪に仕立てて貰うことになった。
「へぇ…クローディア姫の案なんだ。どんな人だった?」
「うーん。こっちでは滅多に見ない人だね。芯が強くて乙淑やかな人で、とても律儀な人。祝賀会の時は帰る前に挨拶に来たし、リベールを発つ時は見送りに来てくれるたし、その時に『機会があればまた来てください』って言われたな。あぁ共和国に行く用があれば『その時は色々と頼りにさせてもらいますね』っとも言われたっけ。俺猟兵なんだけどって突っ込んだよ」
「……随分と仲良くなったんだねヤクモ」
「そうかな?仲良くなった実感ないぞ。ジジイとアリシア様じゃあるまいし。俺がクローディア姫にしたことって、異形の存在になったワイスマンから助けて障壁を斬った事と復旧作業を手伝ったぐらい。あとは共和国や東方の事をちょっと勉強の一貫で教えたぐらい。むしろチヨメの方が仲良くなってたぞ。色んなことで意気投合してたし、里に帰ったら手紙出すっていってたし」
「……ふーん」
「シズナ?どうかしたか?」
「……ぷいっ」
そっぽを向いて機嫌を損ねるシズナ。
えっと…どうしてクローディア姫とのやり取りでそっぽそ向くのだろうか。
特別な話しなんてしてないし、どちらかと言えばクローゼとして話をしてくることの方が多かったし。
「とりあえず左手出しなシズナ。今を逃すと二度と渡せないかもしれないから」
「二度って…ねぇヤクモ。意外と早く来たりするのかな?」
「……帝国次第だな。それに親父との約束だから、どのみち≪斑鳩≫は出ないといけない。里の出入りは自由だけど」
「頭領との約束なら仕方ないか。確か『お前の力はもっと多くの人の為に使え』だっけ?」
「あぁ。俺が恩返しの為に≪斑鳩≫に入りたいって言ったときに言われたんだよ」
もう10年程前になるのだろうか。
黒神と八葉の中伝まで上り詰めた頃に親父に言った事がある。
里に迎えいれてもらっただけではなく、養子に迎えて貰った恩返しの為に斑鳩に入りたいと。
その返事は予想通りだったというか。
斑鳩に入るぐらいなら研鑽を積んで剣聖となり、もっと広い世界でその力を振るえと門前払いされてしまう。
けど俺としても素直に引き下がらず色々と言葉を並べたけど一向に通じなかったが、老師の一言で親父が折れてくれたので斑鳩に期間限定で入らせてもらえたのだ。
「今回の旅の、いろんな方面で縁を繋いで起きたい。殿下と交友してたのもその一環。同年代で各方面に顔が利ける人がいた方がお互いの為になるからな」
「本当にそれだけかな。ちょっと心配になってくる」
「信用ねぇな俺…。というか早く出しな」
「ん。どうぞ」
差し出されたシズナの左手を優しく掴んでから彼女の薬指に指輪を嵌める。
指輪はきちんと嵌まったのでちょっとやそっとの事では外れないだろう。
「恐ろしいぐらいにきちんと嵌まったね」
「どこぞの姫が同じことをしたからな」
「あー…やり返されたか。もしかして怒ってる?」
「別に。怒ってないから」
シズナの頭を撫でながら頬にキスをして、もう一つの指輪を嵌めると一瞬だけ冷気が宿ったのを感じ取る。
それはシズナも同じ見たいで、揃って顔を見合わせると、サフィーラが現れてシズナの右肩に座った。
「おや?会うのは久しぶりだね」
『そうね。貴女が子供のころに暴走した時以来かしら?鋼の聖女と会ってからかなり落ち着いたみたいね』
「色々とあの時は焦ってたし。でもまぁ…うん。ある程度は弁えるようにはしてる」
『それでいいと思うわ。ヤクモだって力の使いどころはきちんと弁えてるし。反動が大きいのは…これからね。でもいいわけ?外出時はあっちの姿で』
「私は問題ないかな。可愛いヤクモも好みだし」
「ま。いつかはあぁなる身だし。馴染みの人は知ってるから」
加えて、いざという時に最大限力が発揮出来ないのも非常に困る。
反動で縛らく動けないのも非常につらい。
チヨメからこっぴどく説教されるし、アヤメには冷たい眼を向けられるしで辛い。
「それでも挨拶周りは行かないと。共和国や各国の情勢をクローディア姫に色々と話してしまったし」
『本当余計な所まで喋ってお姫様困惑してたじゃない。『これって聞いていい話かしら』って』
「はは。そこはヤクモらしいかな。でも知った方がいい内容も多いのは事実だし、そういった意味ではクローディア姫からするとヤクモは手放したくないだろうね。顔広いし」
「そうだな。帝国はオリビエ、リベールはクローディア姫。レミフェリア公国は大公殿。オレドにはカシムがいる法国は大半の守護騎士と知り合いだし」
『ずっと見てたけど顔広いわね。でもあのおじいさんはそれよりでしょ?』
そう、老師の顔は俺なんかよりもずっと広い。
斑鳩を飛び出して以降ずっと大陸西部を回っていたらしいから。
アリシア様やジュライの市長等と有名どころの人物とはその時に交友を結んだとか。
「そういう縁は大事にしていきたいところだな。さてと、今日はもう休むかな。流石に疲れたし」
「そっか。じゃあ私はもう少しチヨメ達と話をしてくる」
「おぅ。また明日。お休み」
「うん。お休み。ちゃんと休んでね」
念を押してから部屋をシズナを見送ってから体を休めるのであった。