首都イーディスでの仕事で姉さんと再会してから早くも数日経った。
俺は約束通りレオンハルトと共に山籠もりをしていたのだが、途中で話を聞きつけた姉さんも合流することになり、色々と言葉を交わしながら、ジジイから譲り受けた妖刀の使い方を教わることに。
そこで、どうして姉さんが妖刀の扱い方を知っているのか疑問に感じたので聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。
「あぁ。その刀はイスカ王国に訪れた極東の刀鍛冶が当時の王家に譲った刀らしいわ。母さんが言ってたわよ」
「へぇ…え?待って。ちょっととんでもない事を聞いた気がするけど?」
「あら…?もしかして聞いてない…って言われてみれば当然ね。あの頃はまだ貴方が子供だったから知らなくて当然かしら。となると…ふふ、修行内容一つ追加していいかしら?」
「え…?追加?やっと神気合一が形になったんだけど?(というか当時の姉さんも子供だったと思うけど?)」
「それをもう一段階上げましょう。せっかく父さんの息子なんだから」
「……(なんかめっちゃいい顔してるんだけど…姉さんってこんなに笑ったかな?)」
なんか嬉しそうに笑う姉さん。
でも子供の頃の記憶があやふやなのもあって、ちょっと気になってしまうけど、俺の≪観の眼≫は嘘をついているようには見えないから本当に嬉しいのだろう。
ともあれ、修行をもう一つ追加しながら父さんと母さんの話をしている間に、父さんが使っていたある闘気の引き出し方法を会得に成功。
付き合ってくれたレオンハルトも、己が修羅をもう一段階引き上げる方法に成功して、最初に出会ったころより桁違いに強くなった。
これなら鋼の姉さんにも届くのではないだろうか。
というわけで、山籠もりの結果は想定以上に得られるものが多く、前回シズナとやった時以上だったと思う。
まぁ今回は相手が相手だし、姉上から両親の事を聞けたのも大きい。
まさか母さんが…っとこの事はまた今度にしよう、ちょっと頭を整理したいし。
「さってと。改めてありがとうレオンハルト」
「こちらこそ感謝する。無限にして有限の型。この身で体感できて得られるものが多かった。アズサ殿も感謝する」
「私こそ。元結社最強の剣。いいものだったわ。今後の結社対策に活用させてもらうから。それでヤクモ。この後は?」
「あぁ。故郷に戻ってから里に帰って、年末年始の行事が終わって落ち着いたらクロスベルに行く。姉さんは?」
「うーん…私も付いて行こうかしら?出来れば里にも行きたいけど…色々と頭領さんには耳に入れてほしい情報もあるし」
「あーそれは…」
ちょっとどころかかなり難しいと思う。
というか姉さんは遊撃士だからおいそれと猟兵に接触するのは大変宜しくないと俺は思う。
しかも準S級って、俺も裏稼業長いけど全然知らなかったし、なんだっだら無事な事すら再会するまでしらなかったぞ。
「難しいと思うからまた今度にするわ。それとヤクモ。里帰りするならアレやらないと。貴方してないでしょ?」
「う…しないといけないかな?」
「当然よ。母さんに言われたでしょう?それに、今は可愛い顔しているから大丈夫」
「どこが大丈夫なのでしょう…?」
好きでこの姿をしているわけではないと言いたいけど、どのみちアレに関しては母さんとの約束だし仕方ないか。
子供の頃は嫌がっても直ぐに捕まって強引にされてたし、姉さんの言う通り可愛い顔だから今更か。
シズナのおもちゃにもされてるし。
「はい、顔出して」
「……仕方ねぇか」
逃げ場はないので観念して顔を差し出すと、姉さんは化粧道具取り出して顔全体に何かを付けた後に目尻に沿って赤い線を引く。
子供の頃はやや強引に母さんにやられてたっけ。
昔から引き継がれてる伝統だって。
ジジイに斑鳩に連れてこられてからはやってなかったけど、せっかくの顔だしこれからは毎日するとしようかな。
「これでいいわ。時々でいいからしなさいよ」
「ん…」
「それと口調も。姿に見合った口調にしなさい」
「それは親父やシズナにも言われたから、仕事とプライべートで切り替える。それより終わったなら行こうよ」
姉さんの手を払って故郷に出発。
この場所からは走って一時間程で行けるので、寄り道せずに真っ直ぐ進んでいくと、砂漠地帯の中央に氷の大地が見えてきた。
「この距離でも目立つなぁ。相も変わらず」
見慣れた光景だけど、あの目立ちようはいかがなものかと思う。
事を起こした当の本人が言うのはアレだけど。
ともあれ、故郷にたどり着いたので早速お墓に向かおうとおもったけど、隣でこの氷の大地を見て言葉を失っている親友の姿が。
彼の事だから任務で見慣れてるかと思ったけどそうではない様子。
姉さんは顔に出していない所を見ると何度か来ているのかな。
「レオン―――」
「かつて……ノーザンブリアに赴いた事がある。かの地も塩の杭によって甚大な被害が出たが、こことは違って生きる力があった。何がなんでも生きるという強い意思が」
「そう…だな」
ノーザンブリアには俺も行ったことがある。
事情を知ったバルクホルン先生に連れて行かれてだ。
サラやバレスタイン大佐と会ったのも丁度その時。
色々と案内されて話を聞いて回ったのを覚えている。
レオンハルトの言う通り、あの土地も地獄だけど必死に生きようという強い意志があった。
でも俺の故郷は違う。
この地はもう死んでいる。
風も吹かないし生命の気配も全くなく、何も失っている場所。
唯一残っているのはサフィーラが来て俺が逃げた証拠である氷の大地だけだ。
「ここは完全に死んでいる。俺も色んな場所に訪れたがこれは…。もし何かが違えばノーザンブリアも……」
「まぁ…無くは無い…かな。でももう過ぎたことだし、俺は目の前の現実を受け入れて前に進むだけ。姉さんは?」
何も言わずに見ていた姉さんに声をかけると、姉さんは軽く微笑んでから村の奥の方に向かっていく。
俺とレオンハルトも後を追いかけると小さなお墓にたどり着く。
そのお墓を見たレオンハルトは黙祷を捧げてからお花を添える。
「ありがとレオンハルト」
「感謝されるほどでもないだろう。君だってハーメルで同様の事をしている」
「そうだな…」
とは言っても感謝しないといけないだろう。
再度お礼を言ってから姉さんの方を見ると、姉さんも片膝を付いて祈っている。
あの祈り方は母さんが教会で女神に祈っていたのと同じ祈り方。
そういう信仰があったのか記憶ないけど、母さんに教わったのかな?
少しの間待っていると、姉さんは小さく息を吐いてから立ち上がり、満足そうな顔を浮かべながらこちらを向いた。
「じゃあ私は行くわね。クロスベルで待っているから。あちらもかなり忙しいみたいだし」
「うん。俺は特に何もしないけど…メインはレオンハルトだし」
「あぁ。レンの事は俺達で何とかしてみる。君は兄弟子と交流していたらいい」
「それは頼もしい。じゃあそうさせてもらおうかな。んじゃ姉さん。風邪ひかないように」
「貴方こそ。この地を離れる前に相方さんの相手をしてあげなさい。それじゃあ…ね」
姉さんは小さく手を振って立ち去っていき、俺もレオンハルトを連れて里へと帰るのであった。
――――――――――
場所は変わって里にある見晴らしのいい高台。
ここで何をしているかというと…お酒を飲んでいます。
ただ一人で飲んでいるというわけではなく、膝の上にはシズナが座っています。
レオンハルトと手合わせしていたはずなのに、どこから聞きつけたか気づけば隣にいてさも当然のように膝に座ってきた。
「あのシズナさん。こんな姿なので膝に座られると結構きついんですけど?」
「そんなことを言っても動かないから。今回は長いからいっぱい甘えないと」
「それは親父に言ってよ。シズナや皆の成長の為に暫く遊んで来いって言ったんだから」
「まぁそうだけど……」
今度のクロスベルと帝国へは俺とチヨメだけで向かう予定だ。
アヤメは上忍試験があり、シズナもそろそろ剣聖に向けて本格的に修行が始まるはず(多分)。
ジジイもリィンの修行を切り上げて帰ってくるって話だし。
「帝国か…ちょっと弟弟子が羨ましいかも。ヤクモに面倒見てもらえるんだから」
「まだ見るって決めてないけど、本命はあの地で感じた妙な気配だし」
「それがハーメルの件に繋がっていそうなんだっけ?」
ギルド爆破事件の時に感じた僅かな気配とハーメルで感じた物が似ているように感じた。
加えてリィンの左胸からも同じような気配があったから、これは何か繋がってそうだと感じ、レオンハルトと分担して調べる事に。
「帰ってくるよね?剣帝さんから聞いたけど、噂の最強が来るらしいし」
「……そこで帰ってくるっていうと帰れないような気がするから言わない」
「それは確かに…でもヤクモって殺しても死なない気がするけど」
「案外ぽっくり逝くかもしれないけど」
サフィーラの話を信じれば寿命以外では死なないけど、マクバーンは別な気がする。
中身はサフィーラと同じだし、外の理の力である以上は、彼女の冷気と同様に体に影響もありそうだし。
「ま、死ねないから死なないけど。逃げるのも戦術だし」
「逃がしてくれだけど」
簡単には逃がしてくれないだろうね。
どうもあの人も何かを探しているみたいだし、それも大体は察しているけど、そこはサフィーラ次第かな。
そろそろ話して欲しいことも沢山あるけど。
「さてと、そろそろ寝なよシズナ。俺も明日早いし」
「えーもう少しぐらいいじゃん」
「…まぁ今日はいいかな」
「流石にダメかぁ…え?何て?」
「…二度は言わない主義。部屋に戻ろうかね」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
膝に座っていたシズナを動かして、自室に戻るのであった。
次回から帝国・クロスベル編です。