英雄伝説・黒葉の軌跡   作:八葉と黒神の剣聖

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お菓子の恨みは重い

「よし…これで仕事終わりだな」

 

 

 首都での仕事を終え依頼主にデータを渡して一段落。依頼主は予定よりも早く終わったことを喜んでおり、その分報酬も弾んで貰えた。順調に進んだのには理由があるのだが、それは話さない方が良いだろう。死んでもビルに誰もいなかったなんて言えない。

 

 

「まさか先客がいてマフィア共が全員やられてたなんてな。どうやらデータではなくマフィアが狙いだったみたいだし」

 

 

 何でマフィアだけ狙われたかは分からない。正直興味も無いし、俺としては仕事が効率よく進んだからむしろ嬉しい。余計な手間が省けるからな。

 

 

「さてと、土産でも買いに行くか。確かクインシー社のお菓子だったか?取り合えず見に行くか」

 

 

 首都のデパートに移動し、先日学生3人組が居たエリアに移動。ショーケースにはクインシー社のお菓子が並んでおり、どれも美味しそうだ。問題はどれを選ぶか、シズナは特にこれが良いって言ってなかったら適当で…という訳にもいかないだろう。

 

 

 

(取り合えず一番いい物を選ぶか。えっと…あぁこれが良いか。新作でしかも期間限定のガトーショコラ?値段は…一、十、百、千、万……)

 

 

 値段を見て数えるのを止めてしまった。都会の甘菓子はこんなにも高いのか。昨日の黒髪の青年が唸っていたのも値段に違いない。仕方ねぇ、可愛い妹分の頼みだ。たまには奮発するか。

 

 

「このケーキ下さい。少し歩くので保冷材も」

「かしこまりました」

 

 

 店員に声をかけて購入。少し待つと大きな箱が現れ、会計を済ませてから受け取りデパートを出る。この手の甘菓子は直ぐに痛むので早めに帰ろう。走れば2、3時間で帰れるだろう。

 

 

「うし。とっとと帰ってーーー」

「ちょっと放しなさい!」

「うん?」

 

 

 女性の叫び声が聞こえたのでそちらを向くと、昨日デパートで見かけたベージュ色の髪の生徒が2人のマフィアに導力車に強引に乗せられている所だった。しかも真昼間から堂々とだ。

 

 

「よくやるわ昼間から(身なりで気になっていたがあの子は有名な家の娘だったのか)」

 

 

 だったら護衛を付けとけ。と言いたいのだが、人の家事情に口を出す権利はない。なのであの誘拐も放っておこう。

 

 

(最悪な事にならない事を祈ってーーー)

「待ちやがれっ!」

「んーーーぐはっ!」

 

 

 見覚えのある黒髪の青年と衝突。俺は倒れる事は無かったが、黒髪の青年は転倒。俺としたことが気を取られて気付かなかった。

 

 

「いつつ…ってエレイン!?」

「ちょい!?」

 

 

 そのまま走り去ろうとする黒髪の青年。ぶつかった事を謝らず逃走は流石に無いだろうと思って手を伸ばそうとすると、眼鏡の青年が黒髪の青年の肩を掴む。

 

 

「待てヴァン!」

「離せルネ!エレインが!」

「その前に彼に謝れ!正面からぶつかっただろう!?」

「っう!」

 

 

 眼鏡の青年…ルネに強く言われて止まるヴァン。少し頭が冷えたのか軽く深呼吸してから頭を下げてくる。

 

 

「すまねぇ兄さん。連れがパクられたもんで動転してた」

「別にいいさ。俺も気付かなかったし。それと紙貸して。あの車の詳細書いてやるから」

「紙?メモ帳でいいか?」

「おぅ。ちょっと待ってろ」

 

 

 ヴァンからメモ帳を受け取って、2人の連れが乗せられた車の詳細を書いて返す。

 

 

「それと警察かギルド…いやギルドの方が良い。熊のおっさんに頼ればいい。直ぐに動いてくれる」

「熊のおっさん…あぁ≪不動≫か。確かに彼なら動いてくれる」

「うっし。ギルドの≪不動≫だな!だったらすぐにーーー」

「その前にもう1つ片付ける物があるぞヴァン。アレを見て見ろ」

「あれって何だよルネ―――あの箱は!?」

「ん?箱…って……あ」

 

 

 ルネが指を指して所にはシズナのお土産にと買ったケーキの箱が真っ逆さまに落ちて中身が出ている。それを見た俺は言葉が出なくなり、ヴァンは口をパクパクさせて顔を真っ青にしている。 

 

 

「あ…あれはクインシー社の新作……」

「やばいどうしよう……」

 

 

 このまま帰って土産無しとシズナに言えばどうなるだろうか?事を説明したら納得する…訳ねぇよな。黒神の奥伝に至った男が人とぶつかって土産を落としたと言えば何を言われるか。最悪口を聞いてくれないぞ……。

 

 

「ふむ。確か値段は…」

「言うなルネ。その兄さんーーー」

「……一人前になったら返せ。それより今はガールフレンドを追いな」

「っ!すまねぇ!いつか必ず返す!行くぞルネ!」

「分かった。色々と申し訳なかった。ケーキは必ず弁償させるので」

「…いいから行きな」

 

 

 2人は深く頭を下げて走り去って行く。それを見送ってから車の走り去った方角を向く。

 

 

(さて…落とし前付けに行くか。待ってろよクソマフィア)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 車の走り去った方角…リバーサイドに向かった俺は、ベルモッティに軽く事情を話すと、ニコニコしながら『ヤバい子に喧嘩売ったわね』と言い、それからマフィア共が地下に行った事を教えてもらう。

 

 

「助かったベル。それじゃあ軽く〆てくるわ」

「ふふ。気を付けて…は余計ね。次はチヨメちゃんと飲みに来て頂戴」

「おぅ。成人したらな。それと依頼があればいつも通りよろしく」

 

 

 お礼を言ってから店を出て地下への入口に向かう。ベルモッティの言った通り誰かが出入りした形跡があり、僅かに残っている気配の残滓からマフィアが入って行ったのは確実だ。

 

 

「さて。行くとしますか」

 

 

 扉を開けて中に入る。地下は薄暗くてジメジメしていて嫌な空気だ。加えて数多の魔獣の気配も感じる。

 

 

「結構いるな。小型だけではなく中型も。大型は…いなさそうか。これなら直ぐに終わる」

 

 

 太刀を抜き邪魔な魔獣を討伐しながら進んで行く。マフィアの気配を探りつつ怪しい所を調べていくと、ある部屋の前に辿り着く。

 

 

(ここか…)

「貴方達何のつもり!?こんな事すればどうなるか分かるでしょう!?」

「煩い!黙っていろ!」

 

 

 パチンと乾いた音が聞こえてくる。よもやと思い少しだけ扉を開けて中を見ると、ベージュ髪の令嬢。エレインは両手足を縛られ動けなくされており、しかもマフィアの1人の頬を叩かれた後だった。

 

 

「人質は人質らしくしていろ」

「っぅ…」

(だからと言ってな……)

 

 

 女に手を上げるのはよろしくないだろう。よし、あまり時間をかけていると不動のおっさんが来るし、早々に終わらせよう。

 

 

「ちょっと失礼!」

 

 

 勢いよく扉を蹴り飛ばす。大きな音が鳴り響き、マフィアは驚きながらこちらを見るが、腰に携えている銃を抜く気配はない。あの様子だと追ってを全然警戒してなかったな。

 

 

「油断し過ぎだろ。悪いが寝て貰う。氷刃!」

 

 

 氷の斬撃を放ってマフィアの意識を落とす。それから周りを見て怪しい物が無いのを確認してからエレインに近づく。

 

 

「大丈夫か?」

「は、はい。その…」

「そろそろお嬢さんの連れが来る。よっと」

 

 

 両手足を縛っていた縄を斬り、後が残っていないか確認。痣も無いし叩かれた頬も少し赤いが大丈夫だろう。

 

 

「助けて頂きありがとうござます。もしかしてギルドの方ですか?」

「いや?俺は通りすがりの旅行人。君の連れとぶつかってね。放っても置けないから先回りして来たのさ。共和国にはよく来るし知り合いも多いからね。この刀も護身用だし」

「そうでしたか。てっきり遊撃士かと」

 

 

 残念だが遊撃士ではないんだよね。兄弟子二人は遊撃士だけど。しかし何でこの子を攫ったのかね?それを知るのは俺では無いし、知りたくもない。

 

 

「では外までエスコートさせて頂こう。魔物が徘徊しているから離れないように」

「分かりました。お願いしますね」

 

 

 彼女守りながら元来た道を進み地上へ。周囲を見渡していると、猛スピードで近づいてくるヴァンが視界に入ったので、気配を遮断して近くに隠れる。

 

 

「エレインっ!」

「ちょっとヴァン!?」

 

 

 そして思いっきり抱きつくヴァン。後から来たルネと≪不動≫のジンを筆頭に3人の遊撃士が来るが、2人を見て微笑ましい笑みを浮かべていた。

 

 

(おーおー青春してるねぇ。若いってのは徳しかない…って俺も若いけど)

「大丈夫かエレイン!?怪我してないか?」

「大丈夫よ。こちらの人が…あら?」

「ん?俺達が来た時から1人だったぞ?誰もいなかったよなルネ?」

「あぁ。お前一人だったぞエレイン」

「そう…。(まぁいいわ。旅行人ならまた会えるでしょう)」

 

 

 俺を探している3人だが見つかるはずが無いだろう。さて…俺は退散しますか。あまり長居しても仕方ないしね。

 

 

(精々自分の運命に負けねぇことだなヴァン。紡がれた縁があれば乗り越えられるだろ)

 

 

 フードを深く被り、屋敷へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「なぁ…そろそろ機嫌治せよ」

「…ふん」  

 

 

 シズナに声を掛けるがそっぽを向かれてしまう。共和国から戻って1週間。土産の事を話してからずっと機嫌が悪い。

 

 

「失礼しますヤクモ君…っと。シズナ様もいらしたのですね」

「おぅ。どうしたチヨメ…って!なんだその箱!?」

「わぁ。大きな箱」

 

 

 とても大きな箱を持って来るチヨメ。その箱を俺達の前に起きて軽く息を吐く。一体誰からかと思っていると、チヨメが話し始める。

 

 

「ベルさんが学生3人から預かったと。何でも助けて頂いたお礼にと」

「それってあの誘拐事件だよね。何が入っているのかな?」

「取り合えず開けてくれるかチヨメ」

「分かりました」

 

 

 苦無を取り出してテープを斬り箱を開ける。中を覗き込み、入っていた物を見て驚いてしまう。中に入っていたのはクインシー社のお菓子でぎっしりと詰まっている。しかもお高い物ばかりだ。

 

 

「おぉ!クインシー社のお菓子じゃないか!しかも新作ばかり!」

「あの学生共にそんな財産があるとは…いや待て。まさか…」

 

 

 あり得る可能性は1つある。しかしその筋は薄すぎると思い箱の中をもう一度見ると、そこに一通の封筒が入ってあった。端を斬って開封すると、綺麗な字でお礼が書かれていた。

 

 

『以前は助けて頂きありがとうございます。これはささやかなお礼です。皆さんで分けてください』

「で、宛名はエレイン・オークレール……ん?オークレールって」

「あぁ。クインシー社の社長の名前ですね。確か娘さんがいると情報にありましたか」

「マジかよ……」

 

 

 これは驚きが隠せない。というかベルの野郎余計な事を言ってないだろうな?今度行った時に確認しておくか。

 

 

(ともあれ機嫌が直ったし良かった良かった)

 

 

 シズナの機嫌が直った事を安堵しつつ、エレインからのお返しを物色するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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