英雄伝説・黒葉の軌跡   作:八葉と黒神の剣聖

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奧伝伝授

「よし。では始めるかの」

「おぅ。いつでもいいぜジジイ」

 

 

 龍来近くにある森の中にある開けた場所。ここで俺は師であるユン・カーファイと向かい合っていた。無論シズナも一緒で近くで見ている。

 

 

「さてと、奥義と型を見せる前にまずは2年の修業の成果を見て貰おうか?」

「勿論だ。遠慮せず掛かってくるがよい」

「んじゃ遠慮なく……」

 

 

 太刀を抜刀し心を落ち着かせてから、弐の型の動きで間合いを瞬時に詰める。ジジイは動く気配は無く、体の軸も呼吸も変化はない。珍しく最初からやる気だなジジイ。

 

 

「弐の型からの…っ!」

「むっ!?」

 

 

 零の型・双影を使用して螺旋撃を上下で僅かに時間をずらして放つ!

 

 

「ふんっ!」

「っ!」

 

 

 しかしジジイは参の型で二つの螺旋を相殺しながら後ろに飛ぶ。くそぅ…放つ瞬間まで壱の型って気付かれないように呼吸で誤魔化したのだが…。技の出どころで見切られたな。

 

 

 

「ふぅ…全く恐ろしい事をしてくれるわ。腕が痺れてしもうた」

「よく言うわ。簡単に防ぎやがって。次行くぞ」

 

 

 太刀を直角に構えて振り下ろす。縦2アージュ程ある斬撃---陸の型・緋空斬を放つ。それと同時に分け身を使用してジジイの左右から肆の型で挟撃を試みる。

 

 

 

「ほぅ…ならば儂は……」

 

 

 

 ジジイは刀を鞘に納めるや強烈な闘気を放つ。それから回転しながら七の型・無想覇斬を放ち、斬撃と分け身が消し飛ばされる。その時ジジイは妙な表情を浮かべる。

 

 

「……?手応えが……」

「残念後ろだ」

「なぬ!?」

 

 

 斬撃と分け身は罠。これらを放つと同時に隠形を使ってジジイの背後に回っていたのさ。あの場面で選択する技はせいぜい2つか3つ。無月一刀か無想覇斬。或いは螺旋撃だと予想していた。個人的には無月一刀の方が嬉しかったなぁ……。

 

 

「老いたなジジイ!」

「ちぃっ!」

 

 

 珍しく慌てるような顔を浮かべるジジイだが、この人に限ってそんなことは絶対に無いので太刀を鞘に納めて出方を伺う。

 

 

「えぇい。奧伝の試しで姑息な事をするバカは居るか!」

「必要な事なんだよ!」

 

 

 集中力を極限まで高めて全集中。ジジイは太刀を両手で持ち振り下ろしてくる。その太刀筋と呼吸で切り返し等が無い純粋な一撃と見抜くと同時に、心の水面に雫が落ちた。

 

 

「明鏡ッッッ!」

「---!?」

 

 

 明鏡とジジイの一撃が交差し、互いの頬を切り裂く。そのまま距離を取ってから太刀を鞘に納めて技の構えを取るとジジイは少し間を置いてから太刀を構えた。

 

 

「来いヤクモ」

「あぁ。次の一撃が奥義だ。加減できねぇからな」

 

 

 闘気を全て消して呼吸を整える。心を落ち着かせて太刀を逆手で持つ。その時を待つ。

 

 

「(っぅ…凄い冷たい空気だ。どうなるんだろ……)あ、しまった!」

「っ!!」

 

 

 シズナが小枝を踏み折れる音と同時に動く。ジジイも同様に踏み込み、互いの間合いに入るとジジイは遠慮無く太刀を振り下ろし、その一撃に合わせるように奥義を放つ。

 

 

「奥義・冥月一閃ッッ!!」

 

 

 ジジイの一撃と奥義が交差する。手応えは……無かった。技が不発に終わったわけでもない。だって完璧なタイミングだったから。

 

 

「……はぁ。本当に腹立つ」

 

 

 ゆっくりと立ち上がると同時に、背後に太刀が落ちてきて地面に突き刺さる。試しだってのに一本取れずに負けちまったか。

 

 

「やれやれ。一から鍛え直しか。仕方ねぇ。剣聖の称号はまた今度か」

 

 

 太刀を回収して鞘に収めようとすると、ジジイが右手をジーと見ていた。まさか腕が逝ってしまったか?と思い声をかけようとしたが、ジジイが深呼吸してから二つの巻物を取り出した。

 

 

「ほれ肆の型と伍の型の奥伝だ」

「え?ちょっ!?」

 

 

 そういってから巻物を投げ渡してくるジジイ。『そんな渡し方があるか!』と突っ込みたくなるを抑えつつキャッチする。

 

 

「合格だ。良いものを見せて貰ったぞ。これから剣聖としてせいぜい頑張れ。弟弟子や妹弟子に恥じぬようにな」

「それは嬉しいが……まぁいいや。一応条件は満たしているし」

「そう言うことだ。それよりヤクモや。儂に相談あるじゃろ」

「………あーそれは…」

 

 

 無いと言われたら嘘になる。というか気付かれてしまったか。まぁどのみち話すつもりだったし丁度良いか。

 

 

「少し時間ほしいジジイ。酒付き合うから」

「良いじゃろ。では里に戻るかの」

「だな。シズナは帰ってろ」

「え?私も行きたいけど?というか行ったら駄目のかい?」

「駄目だ。後で話すから帰ってろ」

「……むすぅ」

 

 

 あからさまに頬を膨らませて不機嫌そうな顔を浮かべるシズナ。あいにくと今回ばかりは連れていけないので、何かなんでも帰って貰う。

 

 

「帰れ。お前には関係ない話だ」

「そうやって私を仲間は外れにしないでよ」

「我が儘言うな。今回はジジイと2人で話したいから」

「……そうか。カシウスが言っていたあの事か。うん、シズナは帰ってくれ。ちと長話になる」

「……分かった。老師が言うなら帰る」

(何でジジイの言うことは聞くんだよ…)

 

 

 ともあれシズナは屋敷へと帰っていく。それを見送ってからジジイと一緒に龍来の酒場に入り、ジジイはお気に入りのお酒を頼んで、俺はノンアルコールの麦酒を頼んだ。

 

 

「で?話とは何だ?例の火焔魔人か?」

「……何で知っているかは敢えて聞かねぇがその件だ。改めて知る必要があると思ってな。俺の村を氷漬けにした愛刀と…裏で蠢いている連中」

「ふむ…あの頃の記憶は一部のみ覚えていたか。近頃は刀の声は聞こえていないようだが」

「まぁな。コイツと会ったあの時以来聞こえていない」

 

 

 近くに立てかけてある大太刀。アレはこの世界の物ではなく、先日会ったマクバーンと同じ存在だが、奴と違って融合したのではなく適した体になっただけ。なのでどれだけあの大太刀の力を解放しようが問題ないのだが……。

 

 

「そー言う訳だから暫く斑鳩休職して旅しようと思う」

「……は?」

「は?じゃねーよ。別にいいだろ」

「まぁ儂は止めぬが……」

 

 

 チラッと外を見るジジイ。それから少し溜め息を吐いてから酒を飲んで言った。

 

 

「頭領や皆は賛成するが、シズナはどうする?お前が支えてやらんと」

「……やだね。あんな子供の相手なんて出来るか。いい加減大人になってくれんと困る。何時までと俺の跡付けて駄々捏ねて」

「………まぁ気持ちは分かるが」

 

 

 難しい顔をしながらも理解を示すジジイ。だがその視線は外に向けられている。その理由を分かっていて言ったのだが。

 

 

一人前(1人の女)として見て欲しいなら尚更だ。冷たいがな」

「お主のぅ……っと!?」

「っと!!」

 

 

 溜め息混じりにジジイが言ったのとほぼ同時に大きな音が響き、外から感じていた気配が遠ざかって行く。さて…そろそろ真面目に話すとしようか。

 

 

「で?上手い事嘘をついたの?いや、図星を突いたといったところか」

「煩いジジイ」

 

 

 ニヤニヤしながら言ったジジイに殺気を放つが、気にせず酒を飲み続ける。伊達に長生きしてないし、最近帝国最強の剣士と手合わせしたんだっけか?よく老体に鞭を撃つ。

 

 

「当分苦労するが仕方ない。アイツにも必要な事だ」

「確かにそうだが…まぁいい。それより火焔魔人の事を話せ」

「了解」

 

 

 麦酒を飲みながら先日の話をする。カシウスと共闘し、教団残党を蹴散らした後に火焔魔人と出会い、奴から感じた力をそのまま話す。 その話を聞いたジジイはどこか懐かしそうな顔を浮かべつつ口を開く。

 

 

「そ奴も煉獄と同じか…放置していればノーザンブリアやお前の故郷と同じことが起きる。せめてもの救いは安易に力を使わない所か」

「……例の帝国の弟弟子に比べたらマシだ。きちんと弁えているからな」

 

 

 その辺りを見ると、適度に力を発散させているのだろう。アレの相手を出来る奴など噂の聖女位だと思うが。

 

 

「そういう訳だから近い内におっさんの居るリベールに行く。ジジイの孫弟子も気になるし」

「止めはしないが、まずはシズナの件をどうにかしてからだ。あとリベールに行ったらアネラスに宜しく頼むぞ」

「おぅ……(妙な事を言ってないといいが)」

 

 

 やや心配だが気にしないでおこう。ジジイの孫は気になるし仲良く出来そうだ。まぁ…気になる事もあるし。

 

 

「さて…辛気臭い話しはこれまでだ。積る話を聞いて貰おうかヤクモ」

「了解。目一杯付き合ってやるさ」

 

 

 再び乾杯し、積もる話に花を咲かせるのであった。

 

 

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