12年前の時点のウタが、"みんなのため"に歌えなくなり、ルフィに執着するようになっていたら……という、もしものお話です。
『歌姫は、幸福の中で微睡む(https://syosetu.org/novel/301268/1.html)』のウタ視点でのネタばらしのようなものですが、こちら単品でも楽しめるかと思います。
オリジナル天竜人が出てきます。
(某所に投下したものの微ブラッシュアップ版です)

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私の全ては、ルフィのために。

 ――もう、"みんなのため"に歌うのなんてこりごりだ。

 

 

 あの日。"音楽の島"エレジアに、シャンクスに連れてこられたあの日に、私は何もかもをなくしてしまった。家族も、夢も、音楽も。

 

 私が今まで頑張ってきたことは、夢見ていたものは、ぜんぶぜんぶ、お宝を奪うためだけの道具だったんだ。みんなが喜ぶからって、疲れ切って寝てしまうまで歌い続けたことも、エレジアの人たちを殺すために利用された。

 

 ゴードンさんは、「君の歌声は、世界の皆を幸せにする」「世界一の歌姫になれる」って、何度も言ってくれてるけど。……私はもう、"みんなのため"には歌えない。

 

 そんなわけで、ごはんの時のような必要のあるとき以外はずっと、与えられた部屋にこもってる。ごはんにしたって、何を食べても土を食べてるみたいな気分で、味なんてわかんない。それも悪いとは思ってるけど、私にはどうしようもないの。

 

 今日も、ゴードンさんは部屋にやってきた。いつものような説得が始まると思っていたけど、この時は違った。ルフィの名前を出してきたんだ。あの日のことを思い出して、ルフィの話を出したらもしかしたら、って思ったみたい。

 

 その狙いはみごとに成功した。いつも背中越しに「無理だよ」って言ってた私だけど、この時はつい振り向いちゃった。あれからいろんなことを考えないようにしてきた。だけど、ルフィは。

 

 ルフィ。ぜんぶをなくして真っ暗になった私のなかにたったひとつだけ残った、きらきらしたもの。大切なともだち。

 

 私の反応に手応えを感じたのか、ゴードンさんはルフィをとっかかりにして私の説得を始めてきた。"みんなのために"じゃなくて、"ルフィのために"でいいんだって。成長した私の歌声は、必ずルフィまで届くから。だから音楽を学んでみないかって。正直、これは今までで一番響いた。ずっと元気をなくしてた私の身体に、グッと力が入るのがハッキリわかった。

 

 身体に力が入るのに合わせて、お腹がぐうっと鳴っちゃって、ゴードンさんに笑われた。今まで全然食べられなかったから仕方ないって言って、ゴードンさんはお腹がパンパンになるくらいのごはんを作ってくれた。久しぶりに味をしっかり感じて、ゴードンさんが、あんまり料理上手じゃないってことを知った。でも王様なんだもん、当たり前だよね。

 

 そうして、私の"新時代"の夢は……少しだけ形を変えて、復活したんだ。

 

 

 それから私は、ルフィのために世界一の歌姫になるべく、ゴードンさんから指導してもらうことになった。私もゴードンさんもやる気いっぱいなせいか、指導はけっこうスパルタだ。歌に、楽器に、ダンスと知識まで。エレジアで今までずっと育ってきて、受け継がれてきたものたち。身につけなきゃいけないことが多すぎて頭がパンクしちゃいそうになったこともあったけど、ルフィの喜ぶ顔を想像したらぜんぜん辛くなんてなかった。

 

 それとは別に、身体を鍛える特訓も欠かせない。ルフィはきっと、海に出る。遅くても10年もすれば、フーシャ村から旅立つと思う。私がルフィに会ったら、絶対の絶対に連れていってもらうつもりだ。その時に守られるだけのマスコットみたいになるのはゴメンだし、「お前、全然ダメだなァ」なんて言われでもしたら立ち直れない。世界の7割くらいを道連れにして死んじゃうかもしれない。

 

 それに、もし置いてかれそうになったら、無理矢理にでもついていくことができるように、っていうのもある。ルフィの首根っこひっつかんで、「私も連れてけ、バカ!」って言ってやるんだ。あの時みたいに……離れる船をただ港で見てるだけなんて、もう二度としたくない。

 

 この特訓は、歌の練習にも役立ってくれた。私は全力で歌うとすぐに眠くなっちゃってたんだけど、こうして体力を鍛えることで、少しずつ歌える時間が長くなっていった。このまま鍛え続ければ、もしかしたら数時間のライブなんかもできちゃうかも。

 

 

 歌って、踊って、奏でて、勉強して、それから鍛えて。そんな日々を続けて、9年が経った。今のルフィが16歳なので、2つ上の私は18歳になる計算だ。エレジアに来たのが9歳の時だから、人生の半分はルフィのことを考え続けた計算になる。私の半分以上をルフィが占めてると思うと、なんだかうれしくなる。おはようからおやすみまで――ううん、夢の世界でもルフィについて考えない日なんてなかったから、おはようからおはようまで、ルフィのことを考えて過ごしてきた。

 

 ああ、ルフィはどんな男の子になってるのかな。背はどのくらい伸びたかな。また変に無茶して怪我なんてしてないかな。まだフーシャ村にいるのかな。新しい友達はできたかな。女の子じゃなければいいな。あんたの成長を側で見守れないのが本当に悲しいけど、私、頑張ってるよ。

 

 そんなある日、私は変なものを拾った。それは"映像電伝虫"というもので、私は歌や踊りをエレジアの外の人たちに向かって送ることができるようになった。

 

 試しに歌ってみると、すぐに反応があった。私の歌を聴いた人の中に、情報を発信する"放送局"の人がいたんだって。「この歌を広めないなんて、あまりにもったいない!」って、いろんなところに広めてくれた。そうして聴いた人がまた他の人に広める、っていう流れが続いて、私の歌を聴く人はどんどん増えてきた。……ルフィはまだ、いないけど。

 

 歌を聴いた人たちの「幸せな気分になれる」「好きだって気持ちが伝わってくる」っていう感想は、素直に嬉しかった。ルフィのことを想って歌うのは、私にとっても楽しいことだったから。それが変なものじゃないっていうのが客観的にわかったのは、悪い気分じゃない。

 

 私がルフィのことを想って曲を作って、それを歌って、その曲を好きな人がファンになって、それに喜んだ私がもっと曲を作る。それが続いていった。

 

 ただ、そうしてファンが爆発的に増えていったところで、少し変だな?と思うことが起きた。ファンというよりは、私のことを神様かなにかみたいに見てる人がいたんだ。変わった人もいるもんだなってその時は思ったんだけど、ひとりやふたりじゃないみたい。拝むように私のことを見る目が、"みんなのため"の救世主だって祭り上げようとしてくる人たちが、なんだか気持ち悪かった。それは、いつかの私に似ていたからかもしれない。

 

 だから、早めに対処することにした。と言っても、無理矢理どうにかするってわけじゃない。単に「私は救世主にはなれないよ」と伝えただけ。私が歌う理由はもう別にあって、"みんなを救うため"に歌ってるわけじゃないんだ。

 

 海賊に街が燃やされた、とか。優しく近寄ってきた海賊を信じたら裏切られて何もかも奪われた、とか。私も似たような立場だったから気持ちはとってもわかるんだけど、その怒りに同調してみんなを導くようなことはできない。

 

 今打ちのめされている人にこれを伝えるのは、もしかしたら残酷なことなのかもしれない。でも、間違った私のイメージを信じてついてきても、後でもっとガッカリするだけだ。信じていた人に最後に裏切られる絶望は、私もよく知ってるから。

 

 私がスタンスを明確にすると怒って離れた人もいたけど、「それでもいい」と残ってくれる人もたくさんいた。そこからファンはまた増えていった。

 

 

 そんなこんなで、私が配信を始めてからだいたい1年。ルフィが17歳になってから少し経った頃、私のもとに素晴らしい知らせが舞い込んできた。私に権力があれば世界の祝日にしたんだけど。

 

 このエレジアにも、時たまニュース・クーが通ることがある。外の情報が載った新聞は、私にとっても新鮮な娯楽だった。いつものように一部買って、部屋で読もうとしたら――ぱさり、と折り込みの紙が床に落ちた。それを見た瞬間、時間が止まったようだった。

 

 それは、手配書だった。1億ベリーの賞金首。海賊。その名前は――麦わらの、"ルフィ"。

 

「~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡」

 

 視認から一瞬遅れて、私の頭の中がばちばち弾けて、身体の方はびくびく跳ねた。あまりの悦びに、バカになっちゃいそうだった。いや、実際バカになってたと思う。でもこれは本当に仕方ないことだ。10年ぶりのルフィ成分の供給が、予測もしないタイミングでやってきちゃったんだから。来るなら事前に言ってほしかった。

 

 ゴードンによると、その日の私は一日中ルフィの顔を見つめていたらしい。朝刊を買って部屋で読み始めたと思ったら、いくら呼びかけても応えず、何かあったのかと思いドアを開けたらよだれをぽたぽたと垂らしながらにやけ顔で手配書を見つめている私がいて、まるでなにかの怪異のようで大層怖かったんだとか。私は全然覚えてないけど。

 

 ルフィの手配書は、私の枕の真上にあたる天井に張り付けておいた。完璧な位置、そして完璧な角度。毎日朝起きるとき、そして夜眠るとき、ルフィに「おやすみ」と「おはよう」が言える幸せは、私の貧相な語彙力では表せない。

 

 ……写真でこれなら、本当に会ったときどうなってしまうのか。おかしなことをして嫌われてしまわないか、私はちょっとだけ怖かった。ちゃんと、シミュレーションしておかないと。

 

 

 それから、いろんな事があった。"麦わらのルフィ"のファンと名乗るようになってから――幼馴染みだと公言すると何かに利用されて、ルフィによくない影響があるかもしれないから――は、ルフィの冒険譚を話してくれる友達もできた。処刑台で雷が落ちて助かったとか、悪人に乗っ取られかけていた国を救ってもらったとか。ルフィの冒険は驚きに満ちていて、聞いているだけでも楽しかった。

 

 海賊と海軍の"頂上戦争"で死にかけたって聞いたときはつい飛び出してしまいそうになったけど、手段がないし、そもそもどこにいるのかもわからなかったから、どうにもできなかった。

 

 私は死ぬほど不安だったけど、「ルフィ先輩は充電期間なだけだべ」って断言してくれる友達もいたし、実際にその後マリンフォードにまた乗り込んだりするほどには元気だったみたい。きっと、ルフィならこれからも大丈夫だろう。だから、私も折れないように頑張ることを決めた。

 

 

 その決意から1年が経って……私は、11年前の真実を拾った。

 

 エレジアを滅ぼしたのはシャンクスじゃない。私の呼び出した"古の魔王"……トットムジカで、みんなはそれに立ち向かっただけだった。私の犯した罪と、シャンクスを信じきれなかったことのダブルパンチで、けっこう凹んだ。もしルフィのことだけを考えず、みんなに同調して海賊を嫌って、救世主になりきっていたら、もしかしたら致命傷だったかもしれない。

 

 そんなことより、今の私が何よりも怖かったのは……ルフィがこんな私を受け入れてくれるか、わからなくなってしまったことだ。"エニエスロビー襲撃"、"インペルダウンの大脱獄"に"マリンフォードの頂上戦争"全部に関わってる以上、善悪にこだわるタイプじゃないのはわかってる。でも、見捨てられてしまったら、と思うと怖くてたまらない。隠しちゃえばいいとも思ったけど、証拠がこれだけとも限らない。

 

 何日か引きこもったけど、名案は思い浮かばなくて……せめてゴードンへのけじめだけでもつけようと、私は謝罪に向かった。彼は元気のない私を心配してくれてたけど、私が記憶を取り戻したことを知ったら、もしかしたら殺そうとしてくるかもしれない。そのくらいは予想してた。でも、ゴードンはむしろ私よりも深く頭を下げて謝ってきて、すごくビックリした。

 

 どうして許してくれるのか、逆に私が謝られるのか尋ねたら、ゴードンは答えてくれた。「私はずっと、君に真実を隠して逃げ続けていた」「爆弾の起爆装置が落ちていて、何も知らない子供が押してしまったとして、それは決してその子供の責任にはならないだろう」って。「封印を解いたのはトットムジカ自身、会場に現れたのもトットムジカの仕業。君はただそこにあった楽譜を歌っただけなのだから」って。

 

 あの日、シャンクスに私のことを頼まれて、最高の歌い手にすることを誓ったんだって。私の歌が引き起こしたことを誰よりも知ってるはずなのに……それでも、歌声に罪はないんだ、と。ゴードンは、本当に優しい人だった。この人がいたからこそ、私はここまで頑張れたんだと実感した。

 

 そして、ゴードンのその言葉は、ずっと悩んでいた私にインスピレーションをもたらしてくれた。私の起こした事件を明らかにした上で、ルフィと仲間たちに、私を受け入れるような大義名分を与えられる方法。私がルフィたちに大手を振ってついていくことができる方法。

 

 

 それからは、その作戦を上手く成功させるためにウタウタの制御性の向上に特に力を入れてたんだけど、1年ほど経った頃に、『麦わらの一味の再集結』のニュースが入ってきた。その後は2年間の遅れを取り戻すかのように、ルフィは精力的に活動を始めた。それからの毎日、私にとってはいいことが山のようにあったけど、その中でも特によかったことがある。

 

 まず、成長したルフィの手配書を無事入手できたこと。19歳のルフィは2年前と同じく笑顔でありながら精悍さもプラスされていて、まさに正当進化版と言うにふさわしい一枚だった。この時も、私は一日中ずっとルフィの顔を見つめていたらしい。なんでも「前よりひどかった」らしいけど、やっぱり全然覚えてないや。

 

 次に、私の麦わらファンの同志がルフィと接触して、一味への私の布教に成功したこと。反応は上々で、「ライブでもやるなら駆けつけるんだけどなァ」ってところまでいけたみたい。我ながらさすがの歌唱力だ。ルフィは仲間を大切にするタイプなので、これなら大丈夫そう。ルフィに会って話すことについては彼に先を越されちゃったけど、私はこれからが本番だから、悔しくなんてないんだ。負け惜しみじゃないよ。

 

 こうして、私はこれまで温めていた作戦を実行することを決めた。さあ、"新時代計画"の始まりだ。

 

 

 計画を実行するに当たって、大きな問題が2つあった。ひとつはどうやって私のもとにルフィを呼び寄せるか。エレジアという場所自体に意味があって、私からルフィのもとに向かうのでなくあちらから来てもらう必要があった。だから、ルフィの仲間を私のファンにすることにしたんだ。ルフィは"歌姫"なんて言葉に惹かれるタイプでもないし、成長した私を見たってすぐには気付いてくれないだろう。

 

 もうひとつは、どうやって仲間にしてもらうか。ルフィだけだったら、きっと「ねぇルフィ、船に乗せてよ」って言えば受け入れてくれると思う。でも、他に仲間がいる以上、その人たちが拒否してしまったら難しいかもしれない。ぽっと出でいきなり加わるのもそうだけど、一味の中にファンを作るっていう作戦上、「プリンセスウタを海賊にするなんてムリ!」なんて言われちゃうかもしれないんだよね。

 

 ここがかなり難題だったんだけど……ゴードンの話で思いついたのが、あの存在を利用すること。お城の地下の"発禁"って書いてある古いエレジアの本に載ってた。何百年か前のエレジアにやってきて、高名な音楽家を奴隷にしようとした人だ。すごく偉いのにみんなから嫌われている、地上の神とも言われる存在。"天竜人"。

 

 天竜人はみんなが恐れる相手で、誰も手を出せない。そしてルフィは、そんな天竜人でも容赦なくケンカを売れるってことは知ってる。もし、私が天竜人に目を付けられてしまったら、それを助けられるのはルフィだけ……そうなれば、ルフィの仲間だって私を置いていけなんて言わないはずだから。これまでの彼らの旅で、そういう人たちだってことはこの2年間でバッチリ研究済みだ。優しさにつけ込むみたいで申し訳ないけど、私の夢のために手段は選んでいられない。

 

 とはいえ、本物の天竜人だと懐柔しようにも行動がコントロールできなくてリスクが高い。だから私は天竜人を"作る"ことにした。モデルは本に載ってた『ジャカポーム聖』。かつてエレジアで好き放題しようとした彼に、私の罪について告発させることにした。

 

 現代に生きてる人たちじゃなくて、ジャカポーム聖にしたのにはちょっとした理由があるんだけど……それはまあ、今はいいか。

 

 ライブでの計画について、私はゴードンに話した。反対されるかと思ったら、快く了承してくれた。「君がそう望むのなら、私は応援したい」って。いくつか用意してた説得のネタをひとつも使わないまま終わったから、ちょっと拍子抜けだったかも。最悪のケースも想定してたけど、手荒な真似をすることにならなくて本当に良かった。

 

 エレジアでのファーストライブの告知をして、チケットを販売して、パフォーマンスの練習をして……忙しい時間だった。ルフィの前で12年ぶりに披露するんだから、手抜きはできないからね。麦わらの一味も問題なくエレジアに向かってきてくれているらしいし、何もかもが順調に進んでいった。

 

 

 そして、ライブ当日。

 

 開始時間、会場に人が集まったのは確認できた。私は歌い始め、ウタワールドを展開する。一曲目、"私たちの新時代"。私は歌って踊りながら、空を飛ぶ音符の上に乗って会場中を回る。

 

 そして、ステージ近くの小島にいる生ルフィを見つけた。でも、ルフィは私よりもお肉の方に夢中のようで、それがなんだか悔しい。リズムに乗っていたから、聴いてくれてはいるんだろうけど。そのまま飛び込んで抱きつこうとする自分を必死で抑えて歌を続ける。とにかく、パフォーマンスは手を抜かずにやりきらなきゃ。

 

 曲が終わり、会場が歓声に包まれる。一礼をして一息つくと、音符に乗った私は、そのままルフィのいる小島に向かっていく。そして、最高速度で一直線に突っ込んだ。

 

「ルフィ~~っ!!!」

 

「え、なんだお前いきなり……ウタァ!? もしかしてお前ウタか!?」

 

 いきなり突撃した私だけど、ルフィはしっかりと抱き留めてくれた。かなり久しぶりだったのに、すぐにわかってくれたみたいでうれしい。まあ、歌で気付かなかったのはどうかと思うけど。

 

 私は顔をだんだん下げていき、ルフィの胸に顔を埋める。久しぶりのルフィの声。ルフィの身体。ルフィのにおい、ルフィの……。私は抱き着いたまま、手も使ってルフィの全身を堪能した。最初は抱きしめ返してくれたルフィだけど、だんだん困惑していったみたい。でも、「久しぶり、久しぶりだから!」と何度も言うと根負けしてくれたので、堪能を続けた。

 

 しばらくして、私は自分の暴走に気付いた。やりすぎたかな。耳を澄ますと、会場もざわめきを通り越してシンとしてしまっている。引かれてないかな。パッと離れると、ルフィは訝しげにこっちを見てきた。危ない危ない。再会時のシミュレーションをしてなかったら永遠に続けてるところだった。

 

「ご、ごめんね? あれからずっと、ルフィに会いたかったから……ちょっと興奮しちゃって……」

 

「ししし、まァ久しぶりだもんな! 気にすんな! おれもウタに会えて嬉しい!」

 

 素直な気持ちをぶつけると、あっさり納得してくれた。こういうところは昔のままで安心する。太陽みたいな笑顔も、今も変わらなかった。それどころかもっとすごくなってる気さえする。私は、直視できなくなりそうなまぶしさを必死で耐えた。

 

 そうしてると、仲間のサンジ君が「知り合いだったなら紹介くらいしやがれ!」って怒りだした。「なんで知り合いなんだ!?」ってウソップ君とチョッパー君も。

 

「だってこいつ、シャンクスの娘だもん!」

 

 ルフィがそう言うと、会場はものすごく揺れた。シャンクスは"四皇"っていう、いわば海賊のトップに位置する4人のうちのひとりらしい。

 

 エレジアの事件に関しての表向きの情報を知ってた人もそれなりにいたようで、「エレジアを滅ぼした海賊の娘がここでライブを?」とか「このライブは父親の贖罪なのか?」とかいろいろ言ってくれている。想定とはちょっと違うけど、これは良い流れだ。

 

 ちょうどいいので、このライブの利益を全額エレジアの復興支援に使うことを公表したら、会場は大いに沸いた。「また赤髪に狙われたら」って懸念する人も結構いたけど、それもこれから解決させる。立つ鳥跡を濁さず、そこはきっちりしておきたいところだ。

 

 ルフィやみんなと話していたら、海賊の人たちが小島に乗り込んできた。「赤髪の娘で麦わらの幼馴染みなんて、捕まえればどれほどの価値があるか」なんて、チャレンジ精神に満ちあふれすぎてるでしょ。

 

 その人たちは、ルフィたちといっしょに撃退した。久しぶりの共同作業にテンションが上がりすぎちゃったかもだけど、私の強さは示せたと思う。ルフィに「ウタ、お前すっげェ強くなったな!」なんて言われて、私は鼻高々だ。ふふん。

 

 その後はルフィとチキンレースをして(やっぱりジュース作戦には引っかかった)、麦わら帽子と傷についても聞いてみた。帽子はやっぱりシャンクスから預かったもので、なんと傷は自分で付けたんだって。おバカ。

 

 ルフィは、私をエレジアに置いていった後のシャンクスたちの話もしてくれた。あの陽気なみんなが、その時だけはずーんと沈んでるみたいだったんだって。わかってはいたけれど、ちゃんと愛されていたってことを改めて聞けてうれしかった。

 

 奇行はしたものの、ルフィたちからの悪印象はそんなにないみたいで安心した。ルフィもみんなも私の歌を楽しく聴いてくれていたみたいでうれしかった。それからはみんなにライブを楽しんでもらうようにお願いして、私は歌い続けた。

 

 何曲か歌い終えて、会場の盛り上がりは最高潮になりつつある。……そろそろいいかな。

 

 私は舞台袖に、数人の人間――天竜人と、その護衛を作り出した。本の通りの変な服と、のしのしとした変な歩き方と、「だえ~」とか言う変な口調。こんなのでいいのかな?何かの誇張じゃないのかな?って思ってたけど、会場の人たちはみんなひれ伏した。誰も疑問に思ってないようだし、これで大丈夫みたい。それとは別に、いそいそと動き出した人たちもいた。非番の日に来てくれた海兵さんかな。

 

 そこからの流れは台本の通り。天竜人は私の身柄を要求し、私はそれを拒否する。そうして告発が始まった。エレジアを滅ぼしたのはシャンクスではないこと、私の歌が封印されていた"トットムジカ"に目を付けられたこと、そして現れた楽譜を歌った私によってそれが具現化してしまったこと。あの日の一部始終を話させる。話し方に関してはあの時のゴードンを参考にした。ちょっと大げさに、感情に語りかける歌劇みたいなあの感じ。

 

 私は新時代のマークを右手で握りしめて、俯きながらそれを聞く。心臓がばくばくと鳴っているのがわかるし、身体が震えてるのも、顔から血の気が引いてるのも演技じゃない。ルフィは、こんな私を本当に受け入れてくれるんだろうか。きっとルフィなら大丈夫だと、そう信じてるけど……もしも、もしも「そんな悪人、おれの知り合いじゃねェ」なんて言われたら、と思うと。

 

 もし見捨てられたら私とルフィだけこの世界に残してさっくり自殺するつもりではあるけど、嫌われたまま長い時間を過ごすのはいやだ。

 

 海楼石の手錠を持った天竜人が、一歩一歩、踏みしめるように近付いてくる。このまま殊勝に罪を受け入れる演技をするはずだったのに、私はルフィに助けを求めてしまった。

 

「たすけて、るふぃ……」

 

 気付いたら、天竜人はぶっとばされてて。護衛に加えて舞台袖に控えた海兵さんも、触れてないはずなのに気絶させられてた。

 

 ああ、やっぱりルフィは、私のことを助けてくれるんだ。私の太陽。嬉しくて、幸せで……私はルフィに抱きついた。さっきとは違って、力一杯……もう離さないで、って気持ちをこめて。ルフィは片手でしっかりと抱き寄せてくれた。

 

 天竜人にはダメ押しに、私に居場所がなくなったことをアピールさせたけど、ルフィはそんなことをまるで気にしないで、そのまま私を抱えて会場からさらってくれた。

 

 天竜人はもうどうでもよかったので、操作を放棄してそのまま置いといた。

 

 ウタワールドについてみんなに説明して、護衛として残ってくれるルフィを残して仲間達を現実世界に帰してから、私たちは久しぶりに話をした。これまでのことと、これからのこと。

 

 ルフィはハッキリと、私のことを連れていってくれるって宣言してくれた。私の夢が叶うところが見たいって、そう言ってくれたんだ。新時代のマークについても、一目見たら思い出してくれて……もう、泣き出しそうなくらい幸せだった。

 

 海軍が一斉に追いかけてきたときは、さすがにちょっとびっくりした。革命思想っぽいことは特に言ってなかったつもりだけど、もしかしてトットムジカを警戒してたのかな。焦った私はルフィを現実に戻そうとしたけど、ルフィが「大丈夫だ」って言ってくれたから、信じて任せた。

 

 体力の限界が近付いて、ウタワールドの維持が難しくなってくる。それに同調して眠気がやってきたらしいルフィの頭を膝の上に置いて撫でていたら、シャンクスに見送られて、私たちは新しい門出を遂げることができた。

 

 シャンクスと久しぶりに話ができなかったのは残念だったけど、ルフィが預かった帽子を返しに行くときに、改めて「ごめんね」と「ありがとう」を伝えるつもりだ。できたら、もっと先の話も。

 

 

 ――それから。

 

 私は"麦わらの一味の音楽家(2人目)"のウタとして、変わらず配信を続けてる。一味のみんなは、私を暖かく迎えてくれた。それと意外なことに、ファンは減るどころかまだ増え続けてる。エレジアでの一件で、何故だか好感度を上げてくれたみたい。

 

 あと、ロビンさんは本物のジャカポーム聖について知ってたらしいんだけど、ステージ上でのあいつの行動については「トットムジカがウタウタの実の能力者の心を折り、支配するための幻だったんじゃないかしら」なんて推測してくれた。封印の中からエレジアの様子をうかがっていても不思議じゃない、とか。どうやら世界政府もそんな感じみたいで、むしろエレジアがトットムジカの脅威に再び晒されないように備えてくれてるって聞いた。

 

 実のところ、偽天竜人に関しては、わざと怪しい部分をたくさん作ってた。「エレジアに訪れたことのある」「ずっと昔に死んでいる天竜人」が今になって現れて「12年前のエレジアの悲劇について何もかも知っている」なんて、そんなことありえないよね。それに、私がルフィに助けられてから――私が操作を放棄してから――は微動だにしなかったりもしたし。

 

 あの時の一部始終を知っているのは、私と、ゴードンと、シャンクスたちと……あとは多分、トットムジカだけ。だから、彼?彼女?には、全部まとめてひっかぶってもらうことにした。やったことがやったことなんだし、このくらいは受け入れてもらいたい。

 

 そんなわけで、エレジアの方も順調に復興を続けてるみたい。「あの四皇に攻撃された島」じゃないことが判明して、トットムジカの楽譜は"どこか"に消えて、それを呼び出せる唯一の存在である私も、船に乗っていまや海の彼方だ。

 

 ゴードン自身の人望に加えてファーストライブの収入も潤沢にあり、世界の音楽を愛する人や音楽家を目指す子供たちがどんどん集まってるんだとか。その人たちが、これからのエレジアの歴史を作っていくんだろう。

 

 

 私の夢は、あの時からちょっとだけ変わってはいるけど……やることは変わらない。これからもずっと、私はルフィの隣で、ルフィのために歌いつづける。ルフィの夢が叶うまではもちろん、叶ってからもずっと。12年間の別れなんて、ほんの一瞬にしてしまおう。もう二度とルフィからは離れないし、放してあげるつもりもない。

 

 ――私のすべては、ルフィのために。私たちの"新時代"は、これから始まるんだ。


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