19BBY、クローン戦争が終結しニューオーダー宣言により第一銀河帝国が誕生した。

この出来事から約5年後、帝国軍は新たな内なる敵との戦いに躍起になり後にバーチ・テラーの反乱と呼ばれる初期反乱運動が勃発する。

この反乱の鎮圧の為、帝国軍第6宙域軍では対テロ戦を重視した演習が行われることとなった。

演習の最中、ドレッドノート級重クルーザーを中心とした部隊が忽然と姿を消した。

その後、生還した者達は口を揃えてこう言った。

「カタナ艦隊を見た」と。

46BBYに銀河系から姿を消した共和国の亡霊が彼らの目の前に現れたのだ。

これは帝国アカデミーで“カタナ艦隊の呪い”と呼ばれる噂話の一つを語る小さな小話に過ぎない。

だが、もしこの小話が真実であるならば……どう捉えるかは聞く人間次第だ。

※pixivにも同様の作品があります

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Curse of Katana

第一銀河帝国の軍事力を担う帝国軍。

 

銀河系最大の惑星内軍である帝国地上軍と銀河系最大の宇宙艦隊である帝国宇宙軍の大きく2つによって構成されている。

 

そしてその帝国軍の将来を担う将兵を育てるのが銀河系に幾つも存在する帝国アカデミーだ。

 

様々な理由を持って試験に臨み合格した青少年達が帝国アカデミーの門を潜り帝国軍の候補生として育てられる。

 

無論アカデミーの質は中央の帝国ロイヤル・アカデミーやロザル青少年アカデミーなど大きく差は付くが優秀で忠実な兵士を生み出し続けていることに変わりはない。

 

だがそんな帝国アカデミーにも幾つかの噂があった。

 

それこそ学校の七不思議、もしくは帝国軍や先代の共和国軍に纏わる噂話だ。

 

例えばこんな噂がある。

 

惑星アケニスにある帝国アカデミー、アケニス・アカデミーでは4と13という数字のつく候補生は毎年謎の事故死を遂げてしまうらしい。

 

無論これは大っぴらに話される内容ではなく各地のアカデミーの宿舎や食堂で候補生達が戯れに雑談の中で話している内容だ。

 

殆どが他人の又聞きであり人によっては4と13という数字が5と6になったり3と9になったりする。

 

もはや最初に話した人は分からずじまいでありやがて話も盛られていく。

 

他にもザヴィアン・アビスには遭難した共和国軍時代のヴェネター級スター・デストロイヤーが今も航行しておりずっと救助を待っているだとかウェイランドには皇帝の秘密の宝物庫があるだとか様々な噂話や都市伝説じみた話がある。

 

その中の一つが“カ(・)タ(・)ナ(・)艦(・)隊(・)の(・)呪(・)い(・)”だ。

 

この噂話を説明する為にはまずカタナ艦隊について軽く話しておく必要がある。

 

カタナ艦隊とは銀河共和国の末期、宇宙軍再建運動の一環して二百隻のドレッドノート級重クルーザーによって構成された宇宙艦隊のことだ。

 

旗艦“カタナ”を筆頭にこの艦隊は共和国宇宙軍再建の先導を担うものだとして大いに期待されていた。

 

その期待の一方で艦艇の灰色のカラーと乗員数が少なく館内照明も節約されていた事から全体的に暗いイメージを与えていた。

 

期待と不安の二面性を持ったカタナ艦隊は処女航海の時ある“悲(・)劇(・)”に見舞われる。

 

航海中のカタナ艦隊の乗組員全員が謎の発疹ウイルスに感染し遭難してしまったのである。

 

乗組員や司令部のメンバーは必死にカタナ艦隊をコントロール化に置こうと努力したが全艦艇のハイパースペース・システムをコントロールする旗艦“カタナ”の乗組員は既に正気を失っていた。

 

気の狂った“カタナ”はそのままハイパースペースを軌道計算なしで二百隻の全艦艇ごとジャンプアウトし銀河系から姿を消した。

 

それからカタナ艦隊は銀河系に姿を見せることも帰還することもなく二百隻全てが消失したのだ。

 

多大な人員と莫大な予算を掛けて送り出されたカタナ艦隊はそのまま帰ってくることなく最悪の結果だけを齎した。

 

計画は完全に失敗し計画に携わった全ての者の面目も潰れた。

 

そして消えたカタナ艦隊は今もなお銀河系のどこかを彷徨っており運が良ければ二百隻丸ごと見つかるかもしれない、そんなトレジャーハンターじみた考えでこの消えた艦隊を探す物好きは今でも後を絶たない。

 

カタナ艦隊は悲劇として歴史の1ページに残りその後のナブーの戦いやクローン戦争によって人々の記憶からは薄れていった。

 

そんなカタナ艦隊が何故帝国アカデミーで呪い扱いされているのかというとそれにはこんな噂があるからだ。

 

カタナ艦隊が消えた後でも共和国軍、その前身のジュディシアル・フォースや各地の本国防衛艦隊はカタナ艦隊を構成していたドレッドノート級重クルーザーを使い続けた。

 

艦隊自体は悲惨な結果で終わったがドレッドノート級自体の性能は高い。

 

手頃な大きさであり各地の本国防衛艦隊は艦隊の旗艦、主力艦としてドレッドノート級を欲した。

 

また何よりドレッドノート級を製造するレンディリ・スタードライブ社からも強い念押しがあったのだろう。

 

実際カタナ艦隊が全艦消失した主な要因としては乗組員の全滅もあるがカタナ艦隊の人員を削減する為に使用された従属回路などが大きな要因であり分散型自動操艦技術を積極導入すれば特段問題はなかった。

 

その為ドレッドノート級重クルーザーは今もなお帝国宇宙軍でも使用されている。

 

しかしカタナ艦隊の悲劇はやはり払拭されずに残り続けたのだろう。

 

その不安感からかドレッドノート級に対してこんな噂が流れ始めた。

 

全てのドレッドノート級重クルーザーにはカタナ艦隊の呪いが宿っておりドレッドノート級に配属された乗組員は皆必ず呪いに罹り悲惨な運命を迎えるであろう、こんな噂話だ。

 

その悲惨な運命の正確な内容も話す人によって変わってくるようで例えば非業の死を迎えたりカタナ艦隊乗組員と同じウイルスに罹ったり事故死する。

 

結局は曖昧な噂話に過ぎず都市伝説や与太話の域を出ないのだ。

 

所詮は作り話でしかない、候補生達がアカデミーを卒業しストームトルーパーになったり立派な将校になったりする時には皆が候補生時代の思い出話と和やかな気分になるだけだ。

 

だがもし、この噂話が完全に“作(・)り(・)話(・)で(・)は(・)な(・)い(・)”としたら、どうだろうか。

 

もしこのカタナ艦隊の呪いが実在するなら、或いはこれに似たような事件があったならどう思うか。

 

ここでひとつ、私が知るドレッドノート級重クルーザーに纏わる小話をしたいと思う。

 

カタナ艦隊の呪いが本当なのではないかと感じる一つの小話を。

 

 

 

 

 

 

-帝国領 第6宙域軍管区 演習領域-

クローン戦争が終結し、第一銀河帝国という新銀河政府が誕生してから早5年。

 

帝国の統治はまだ荒れた波の中を征く大船のような感じだが少なくとも今すぐにその大船が沈没するという兆しはなかった。

 

今起こっている帝国に対するテロ活動(後にバーチ・テラーの反乱と呼ばれる)を相手にしてもだ。

 

このテロ活動、一説には元共和国軍の情報将校が関わっているらしいが詳しい事は分からない。

 

とにかく重要なのはこのテロを早期に鎮圧することだ。

 

その為にこの第6宙域軍、略称で第6軍のなで呼ばれ“ブラック・ソード・コマンド”の別名でも親しまれた宙域軍では対テロ戦に向けた演習が行われていた。

 

やがてこの演習に参加した幾つかの部隊はテロ活動が活発な宙域に増援として派遣されるそうだ。

 

またこの演習はコルサント(インペリアル・センター)から帝国の顧問の1人が視察に来るそうで演習参加部隊は皆熱意に満ちていた。

 

そしてこのドレッドノート級三隻、アークワイテンズ級四隻の第九攻撃群も準備万端、いつでも演習を始めても良いといった雰囲気である。

 

この第九攻撃群はヴェネターⅡ級十七隻、インペリアルⅠ級四隻で構成される第6軍所属の第四艦隊の構成部隊の一つでありヴェネター級“インセキュリティ”の機動部隊の切り込み役の任を担っていた。

 

第九攻撃群の司令塔を担うドレッドノート級“ヴァニッシュ”の艦長、グリース・スケリット中佐はクローン戦争2年目に少尉として従軍しデンノグラ突破戦やコルサントの戦いも参戦した。

 

その後帝国宇宙軍にも将校としてアークワイテンズ級の艦長やインペリアルⅠ級の戦術長などを務め中佐としてドレッドノート級重クルーザー“ヴァニッシュ”の艦長になった。

 

スケリット中佐はドレッドノート級の艦長で満足するような人間ではない。

 

やがてはスター・デストロイヤーの艦長となり、そんなスター・デストロイヤーを束ねる機動部隊司令官、艦隊司令官として将官に上りたいと考えていた。

 

その為にもこの演習は是非とも活躍を見せたいものである。

 

この活躍で視察の顧問の目に留まり人事に良い印象、または優秀であるという印象を与えられれば将官へまた一歩近づく。

 

それに応援部隊として選ばれれば全線で手柄を得られるかも知れない。

 

この第6軍の守備管区の任務は殆どパトロールと海賊退治であり未だ独立星系連合の残党と対峙している他の宙域軍のような華々しい戦果は挙げられない。

 

元々第6軍の主任務は未知領域への警戒と警備でありクローン戦争中は殆ど他の宙域軍の予備部隊として機能していた。

 

今回もまた対テロ戦の予備部隊という扱いでありそんな場所で戦果を挙げるのは難しかった。

 

数少ないチャンスをここでドブに捨てる訳には行かない。

 

「艦長、後10分後に演習が始まります」

 

“ヴァニッシュ”戦術長のシュメル中尉はタブレットを手に取りスケリット少佐の側に近寄って来た。

 

彼はクローン戦争終結の1年後フェデルの軍事アカデミーを卒業したらしく今までの軍歴では大規模戦で戦ったことは一度もないそうだ。

 

今回も対テロ戦ということで大規模な戦闘がないことにシュメル中尉は若干不満げに思っているそうだが戦果を挙げられるかも知れないと期待を寄せていた。

 

「そうか、各院を準備に就かせておけ。我々で仮想敵全てを駆逐してやる」

 

「はい艦長!やってやりましょう!」

 

2人は興奮気味に頷き合いシュメル中尉はスケリット少佐の命令を伝達する為彼の側を離れた。

 

シュメル中尉が居なくなりふとスケリット中佐はブリッジの他の乗組員の様子を見る。

 

皆視察も来ているということもあってかいつもの2倍真剣な表情で職務に就いており雑談ひとつ聞こえなかった。

 

周りを見渡していると通信士官のアンゲル少尉と目があった。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、なんでもない。この演習必ず戦果を挙げるぞ」

 

「はい…!」

 

少尉はコルサントのアンダーワールド出身だ。

 

彼女の両親はアンダーワールドの中ではまだマシな生活をしていたらしいが貧しいことに変わりはなく帝国宇宙軍に入隊したのも家族を養う為だ。

 

本来は宇宙軍の宇宙軍トルーパーや航行士を目指していたのだがある著名な宇宙軍の提督に目をかけられ士官学校に入学出来た。

 

おかげで少しは生活を楽に出来たらしいがそれでもまだ少尉の階級では限界がある。

 

このような部下達の生活を手助けする為にも率先して手柄に食い付き戦果を挙げさせる必要があった。

 

「艦長、戻りました」

 

ヴェネター級“インセキュリティ”から戻ってきたこの“ヴァニッシュ”の副長であるヴィーリス上級中尉が中佐に声を掛けた。

 

スケリット中佐とヴィーリス上級中尉は同じアナクセスの軍事大学出身であり同じ銘柄のジョーガン・フルーツ・ブランデーが好みということからとても気が合った。

 

上昇志向の高い帝国宇宙軍の中では副長と艦長の中が悪いというのも聞いたことがあるのだがこの2人はそんなことなかった。

 

「“インセキュリティ”のシュルテン准将からです。第九打撃群は演習開始と共に先行し索敵隊に合流せよと」

 

「准将への進言が大分効いたか知らんがこれで我々にチャンスが巡ってきた。演習開始と共に索敵隊地点へジャンプするぞ」

 

「はい艦長!」

 

それから暫くして遂に演習開始の演説が開始された。

 

演説は司令部が位置する惑星プラクシスから発せられておりスケリット中佐達がいる位置からはかなりの距離があった。

 

その為ブリッジのモニターやホロプロジェクターで演説者達が映し出されており若干会場の様子も垣間見えた。

 

演説の内容は簡潔でありまずモフと宙域軍司令官がそれぞれ演説し演習開始を告げる。

 

既にモフの方は全文を読み終え今は宙域軍司令官が演説を行なっていた。

 

内容はどれも帝国軍人らしいクローン戦争期や軍人としての責務などを語っていた。

 

そして司令官から『本日は皇帝顧問団もお越しである。くれぐれも不手際を魅せぬよう諸君らの努力期待する』と顧問の存在を公にし将兵に念を押した。

 

司令官とて皇帝の顧問の前で恥はかきたくないだろう。

 

司令官が最後に宣言する。

 

『これより第6軍総合演習を開始する!諸君らの帝国軍人として銀河市民の守護者たる奮戦努力を期待する!各艦、各部隊はそれぞれの指揮系統に従い指示を待て!』

 

演説が終わりモニターの向こうでは拍手が聞こえている。

 

一方の“ヴァニッシュ”のブリッジでは一瞬だけ緊迫した雰囲気が漂った。

 

「演習開始されました。なお現時点で司令部からの出撃命令は出ておりません」

 

アンゲル少尉はモニターの文章を確認しながらスケリット中佐らに報告した。

 

既にブリッジにはスケリット中佐を始めシュメル中尉やヴィーリス上級中尉らが揃っていた。

 

今はいつ命令が飛んできてもおかしくない状態だ。

 

そしてその時はやってきた。

 

「艦長、“インセキュリティ”から通信です」

 

アンゲル少尉は近くのホロプロジェクターに“インセキュリティ”からの通信を投影した。

 

ホログラムが浮き上がり徐々に人の形を形成していく。

 

ブリッジの前に浮き上がったのは“インセキュリティ”を乗艦とする機動部隊の司令官、シュルテン准将だ。

 

ブリッジの将校達は皆シュルテン准将に敬礼した。

 

准将も敬礼し早速用件を彼らに伝える。

 

『中佐、ポイント5-66に旧分離主義勢力と思わしき敵艦隊を発見した。宣告通り君の打撃群は先行しこれを撃破せよ。可能であれば現地の先行索敵隊が合流するかも知れない』

 

「了解しました准将、直ちに現場へ急行します」

 

その一言で会話は終了しホロ通信が切れスケリット中佐はブリッジの全員に命令を出した。

 

「総員戦闘配置に付け!我が第九打撃群は今よりポイント5-66に向かい現地の敵対勢力を撃破する。ジャンプした後は既に戦場だ、心してかかれよ!」

 

「ハッ!」

 

手の空いた乗組員達から敬礼を受けスケリット中佐麾下の部隊は戦闘配置に移行した。

 

ジャンプアウトの座標場所が計算されその間に砲手や技師官やパイロット達が持ち場に急いでいた。

 

この計七隻の小部隊が戦闘配置を整えるのになんと1分も掛からずすぐに完了した。

 

「“アブスカンド”、“アンサートン”及び四隻のアークワイテンズ級、全艦戦闘配置整いました」

 

「ハイパースペース航路設定、完了。いつでも飛べます」

 

準備完了の報告が飛び交いスケリット中佐は間髪入れずに命令を出す。

 

「全艦、目標ポイントまでジャンプせよ」

 

“ヴァニッシュ”を先頭に第九打撃群の艦艇がハイパースペースに突入し機動部隊の元を離れた。

 

指定されたポイントは比較的近場でありハイパースペースを使えば30秒も掛からない位置にあった。

 

ハイパースペースに突入した第九打撃群は予想通りすぐにハイパースペースからジャンプアウトし目標ポイントの5-66に到着した。

 

到着した艦艇は陣形を展開し敵艦隊との遭遇と戦闘に備えた。

 

前衛を“ヴァニッシュ”が務め残りのドレッドノート級とアークワイテンズ級で包囲と攻撃を担う。

 

ドレッドノート級はタフで火力や搭載力に優れた軍艦だ。

 

カタナ艦隊事件で若干冷たい目で見られることもあるがそれ以上にこの艦の性能は高い。

 

「敵艦隊発見!ミュニファスント級一隻、スフィルナ級二隻、ゴザンティ級四隻です!」

 

センサー士官のフレッダ准尉がスケリット中佐達に報告し乗組員達は「いよいよか」と緊張した面持ちで静かに報告を最後まで聞いた。

 

「数的には同等ですが戦力的にはこちらが優位ですね」

 

シュメル中尉は冷静に敵を分析した。

 

同じ七隻だがドレッドノート級三隻、アークワイテンズ級四隻の最新鋭軍艦に対して、ミュニファスント級一隻、スフィルナ級二隻、ゴザンティ級四隻の艦隊では比較にならない。

 

火力でも艦の性能でも艦載機の数でも恐らくこちらが優位、シュメル中尉の分析は真っ当なものだ。

 

されどより冷静なスケリット中佐は「ああ、だがミュニファスント級には注意しなければならん」と呟いた。

 

ミュニファスント級フリゲートは船体の大きさ的にも火力的にもドレッドノート級より少し上だ。

 

クローン戦争でその底力を知っているスケリット中佐は油断せずにそう判断した。

 

それを聞いていたヴィーリス上級中尉が戦術を提案する。

 

「ではドレッドノート級三隻の総火力を持って先にミュニファスント級を叩いてしまいましょう。残りの敵艦攻撃はこちらのアークワイテンズ級ならば問題ないはずです」

 

「そうだな……各艦の艦長に伝達、ドレッドノート級三隻で敵フリゲートを攻撃し敵コルベット、クルーザー群をアークワイテンズ級で叩く」

 

「了解」

 

通信士官やシュメル中尉らが各艦に伝達し命令を聞いた艦艇が戦闘体制に入る。

 

既に前方には見える距離まで接近したミュニファスント級と麾下の小部隊が接近しつつあった。

 

「ドレッドノート級の震盪ミサイルでこちらから先手を仕掛ける。敵艦隊に着弾するか迎撃される頃には既にこちらの主砲の射程圏内だ」

 

“ヴァニッシュ”の震盪ミサイル発射管にミサイルが装填され目標が入力される。

 

元々のドレッドノート級にこのような機能はついていなかったのだが改修が重ねられ震盪ミサイル発射菅が追加された。

 

敵艦へのロックが完了し三隻のドレッドノート級から2発ずつ、計6発の震盪ミサイルが放たれた。

 

この演習は全て実弾を使用し仮想敵として出現する艦艇も全て本物で撃沈させても問題はなかった。

 

その為この震盪ミサイルも全て本物であり敵のミュニファスント級も鹵獲した旧連合軍の艦艇を調整してそのまま使っていた。

 

6発のうち、2発は敵艦隊の対空攻撃により撃破されてしまったが残りの4発が仮想敵艦に命中した。

 

うち3発が一隻のゴザンティ級とスフィルナ級を轟沈させ残りの1発はミュニファスント級に着弾し小破にまで追い込んだ。

 

スケリット中佐の予測通りミサイルの着弾時点で敵艦隊はドレッドノート級の砲塔の射程範囲に入っており三隻のドレッドノート級から一斉にレーザー砲が放たれた。

 

黄緑色の光弾がミュニファスント級に向けて放たれ偏向シールドが展開されたこのフリゲートに着弾する。

 

敵艦隊もドロイド脳の判断で反撃を開始するもこちらの火力は演習ということでとても低く設定されており命中精度も悪かった。

 

“ヴァニッシュ”が敵艦隊の攻撃を一気に引き受けその間に僚艦の“アブスカンド”と“アンサートン”が敵艦へ執拗に砲撃を繰り出す。

 

砲撃に耐え切れなくなったミュニファスント級は徐々に崩壊を始めやがて反撃も虚しくミュニファスント級は撃沈した。

 

残ったのは一隻のスフィルナ級と四隻のゴザンティ級だがこちらもすぐに殲滅された。

 

攻撃と共に全速力で接近したアークワイテンズ級が最大火力で残された敵艦を急襲し防御と反撃が間に合わなかった敵艦を即座に瞬殺した。

 

次々とターボレーザー法やレーザー砲が放たれゴザンティ級やスフィルナ級の偏向シールドと装甲を打ち破っていく。

 

ミュニファスント級が撃沈しドレッドノート級が残りの敵艦隊に砲塔を向けようとした時には既に残りの敵艦は全て撃沈し沈黙していた。

 

「敵艦隊全滅、繰り返す敵艦隊全滅」

 

「やりましたね、これでまず第一の戦果を手に入れた」

 

「ああ、敵の予備兵力がいないかスターファイターによる索敵を展開し周囲を警戒せよ」

 

「了解、先行索敵小隊直ちに出撃せよ。残りのスターファイター隊員は命令が出るまで待機、繰り返す…」

 

「索敵隊と合流する前に撃破してしまいましたね」

 

シュメル中尉が通信を行う中ヴィーリス上級中尉がスケリット中佐にそう呟いた。

 

本来なら戦闘中に索敵隊と合流すると思っていたのだが思いの外早くに敵を完全に殲滅してしまった。

 

嬉しい誤算、というものだろう。

 

「こちらから索敵を送っている合間はなんとも言えんが少なくとも周辺の主力はこれで片付けたはずだ。索敵隊が何を言うのか見ものだな」

 

“ヴァニッシュ”やアークワイテンズ級から発進するARC(攻撃偵察機)-170とVウィングを見送りながら中佐は悪い笑みを浮かべる。

 

これは大きな戦果だ、我々単独で敵の小部隊を全滅させてしまった。

 

きっと索敵隊も下を巻くことだろう。

 

スケリット中佐がそのようなことを考えていると件の索敵隊が第九打撃群のセンサー範囲内に捉えられた。

 

フレッダ准尉が「友軍艦を確認、先行していた索敵隊です」と報告した。

 

索敵隊はアークワイテンズ級一隻、通信システムを強化したゴザンティ級二隻で構成されており“ヴァニッシュ”へ通信を送ってきた。

 

『こちら第二十一索敵隊、指揮官のドーレス上級大尉です』

 

「第九打撃群指揮官のスケリット中佐だ。既にこちらの敵は一掃し現在は先行させたスターファイターの索敵小隊の報告と帰還を待っている」

 

やはりスケリット中佐の事後報告は意外だったのか指揮官のドーレス上級大尉は少し驚いた表情で『そうでしたか、早かったですね』と感想を述べた。

 

気を取り直しドーレス上級大尉は彼らに先行して索敵した報告内容を告げた。

 

『現在ポイント5-67と6-12で帝国艦隊と目標艦隊が接触し戦闘状態に入っています。またポイント9-21で最新鋭艦による敵艦隊への攻撃が成功し現在第二艦隊による敵艦隊包囲戦の真っ只中とのことです』

 

「では我々は索敵小隊が帰還してからポイント5-67に向かうとしよう……噂をすれば来たようだ」

 

中佐が判断を下したその直後に索敵に出ていたARC-170やVウィングの索敵小隊が全機帰還した。

 

ブリッジに小隊長機のARC-170から報告が入る。

 

『こちら索敵小隊、捜索範囲に敵艦隊の存在は発見出来ず。また痕跡も見つからないことから現ポイント内にこれ以上の敵兵力はいないと考えられます』

 

「了解した小隊長、帰投し戦闘に備えろ。我々はこれよりポイント5-67の支援に向かう」

 

『了解艦長』

 

索敵に出たスターファイターが全て母艦へと帰投しシュメル中尉やヴィーリス上級中尉らは話し合いを始めた。

 

「ポイント5-67…すぐ隣だな。航行士官!この距離ならどのくらいの時間が掛かる?」

 

部下のモニターで状況を確認していた航行士官のタージャ少尉は立ち上がり側の簡易タブレットを持ちながら話した。

 

「この距離ですとジャンプする必要もなく最大船速で向かえば1分以内に到着出来ます。むしろ座標計算も含めるとジャンプする方が時間が掛かるでしょう」

 

「そうか、では全艦最大船速でポイント5-67まで移動し戦闘中の友軍に合流し支援するぞ」

 

スケリット中佐は全艦に命じ艦隊は動き始めた。

 

ドーレス上級大尉も『では我々も索敵を続けます。お気をつけて』と敬礼しホロ通信を切った。

 

スター・デストロイヤーであればもう少し時間が掛かっていたかもしれないこの移動時間もドレッドノート級とアークワイテンズ級の小中規模の艦隊ではタージャ少尉の予測通り1分以内に到着した。

 

ドーレス上級大尉の報告通り既に戦闘は始まっており戦況は帝国軍がやや優勢といった感じである。

 

帝国軍の編成はヴェネターⅡ級一隻、ヴィクトリーⅠ級二隻、アークワイテンズ級六隻の部隊であり、対する敵はレキューザント級一隻、ミュニファスント級二隻、スフィルナ級三隻の部隊であった。

 

数の上では帝国軍の方が優位であり敵もさほど指揮能力が高くない為優勢を保っていられた。

 

そこに第九打撃群のドレッドノート級三隻、アークワイテンズ級四隻が加わればどうなるだろうか。

 

答えは簡単、一気に戦況が帝国軍の勝利に傾く。

 

第九打撃群の最大火力がミュニファスント級に集中しやがて偏向シールドと装甲が限界を迎え爆沈した。

 

更に放たれた何発かのターボレーザー砲がレキューザント級にも着弾しエンジンを一つ破壊した。

 

その隙を逃さず正面で戦闘しているヴェネター級とヴィクトリー級の集中砲火によりレキューザント級にも目に見えるほどのダメージが与えられた。

 

たちまちレキューザント級はシールドを消失し圧倒的な二方向からのターボレーザー砲撃により耐久値の限界を迎え沈み始める。

 

残されたミュニファスント級とスフィルナ級はそれなりに抵抗したが挟み撃ちの形で敵に猛攻を仕掛ける帝国艦隊により呆気なく撃破された。

 

元より敵に対する殺傷能力はなくろくに整備もされていない標的なのだから仕方ないと言えばそれまでだが。

 

破壊された敵艦隊を眼前にヴェネター級の部隊と第九打撃群が接近する。

 

「敵艦隊撃破、信号によるとこの艦隊は第三艦隊の機動小隊のようです」

 

『助かった第九打撃群、恩に切る』

 

報告と同時にヴェネター級から通信が入りその一言と共にヴェネター級と麾下の艦艇は全てハイパースペースへ入っていった。

 

新たな領域で演習目標の敵部隊を発見し移行するよう命じられたのだろう。

 

『スケリット中佐、周辺に敵影は感知出来ません。我々も移動しますか?』

 

ドレッドノート級“アブスカンド”のオリファー少佐は“ヴァニッシュ”にホロ通信を繋ぎ指揮官の判断を仰いだ。

 

既にこのポイント周辺の敵は彼らが一掃し哨戒機を出しても敵影は確認出来ずにいた。

 

もうこれ以上ここに留まる必要もない。

 

「機動部隊司令部か索敵隊の伝令が来るまでは一旦待機だ。補給と体勢を整え次の戦闘を万全の状態で臨めるようにせよ」

 

『わかりました』

 

オリファー少佐のホロ通信が消失しスケリット少佐はすぐに命令を出す。

 

「各艦にも同じ旨を伝達しろ。次はいつ休めるか分からん」

 

アンゲル少尉やシュメル中尉らが再び他の艦に通信を飛ばし命令を伝える。

 

その間にヴィーリス上級中尉はブリッジや他の箇所の乗組員達に的確な休息の指示を出した。

 

帝国宇宙軍の優秀な将兵とは言え休んでおかなければその能力もやがて低下する。

 

「艦長も今のうちに休息を取っては如何ですか?」

 

ヴィーリス上級中尉は中佐にそう提案したがスケリット中佐は「いや、まだいい」と断った。

 

彼は上級中尉やシュメル中尉を引き連れて近くのホロテーブルに向かった。

 

中佐はホロテーブルに向かって「現在の全域戦闘状況を提示」と話す。

 

音声を認識したホロテーブルは第6軍の領域と細かな戦闘状況をホログラムで提示した。

 

第6軍の領域に幾つもの赤い丸やばつ印がついておりこれが戦闘が行われていた、または戦闘が行われている場所を示していた。

 

今回の演習目標は「宙域内のテロ組織、及び連合残党軍のテロ活動への迎撃及び防衛」でありその任務は大きく分けて二つあった。

 

まず一つは地上、宇宙双方で出現するテロ部隊の撃破と市民に被害が出ないよう最善を尽くすことだ。

 

その為地上軍は市街地戦を主体とした演習を行なっており宇宙軍は見ての通り出現した敵艦隊を徹底的に叩き潰している。

 

両軍共に一部の部隊は人質の救出や戦闘に巻き込まれた市民、または航行中の民間船を護衛し戦闘するということも同時に行なっていた。

 

当然それだけではただのイタチごっこであり根本的な解決にはならない。

 

その為に行われるもう一つの任務がテロ組織指導者の逮捕、または撃破だ。

 

頭を徹底的に叩けば組織は一時的にでも大きく弱体化する。

 

地上軍では特殊部隊を使用した惑星内の敵アジトの襲撃を実行し宇宙軍では先ほどドーレス上級大尉が報告した最新鋭艦を含んだ第二艦隊の攻撃がその最たる例だ。

 

彼らが攻撃しているのは今回の演習目標上の敵指導者達でありこれを撃破しなければ今回の演習目的の中で“勝(・)利(・)”を得る事は出来ない。

 

この大役は第二艦隊と地上軍の特殊部隊に任せられていた。

 

スケリット中佐達がやる事は出現した敵艦隊を徹底的に叩きその数を減らすことだ。

 

「君、後でブリッジに2、3パックのレーションを持ってきてくれ。飲料用のもので構わん」

 

スケリット中佐は近くを通りかかろうとしていた宇宙軍トルーパーに頼んだ。

 

宇宙軍トルーパーは「了解」とすぐに近場の食糧庫に駆け寄った。

 

その間に3人はホロテーブルのホログラムを囲んで話し合った。

 

「オリファー艦長の言う通りこの周辺の敵は全て掃討した。となると我々に残された道は2つ、司令部の命令を待つか遊撃行動に入るか」

 

「ここより最も近い戦闘区域はドーレス上級大尉の索敵隊が報告したポイント6-12ですね」

 

シュメル中尉はポイント6-12を押し詳しく表示する。

 

「報告では我が方の小艦隊と敵の機動部隊が戦っているようですが」

 

「司令部から新たな命令が出ない場合、ここの救援に向かう。尤も機動部隊以上の戦闘となると我々が出来ることも限られてくるだろうが」

 

帝国宇宙軍の小艦隊となると少なくとも一隻以上のインペリアルⅠ級と五隻以上のヴェネター級が表示されたポイントで戦っていることになる。

 

かなりの大部隊同士の戦闘で先程の戦いのように第九打撃群が加わったとしても一気に形勢が逆転する訳ではない。

 

「シュルテン准将や機動部隊司令部からの指令は?」

 

「まだないが流石に命令をただ待ち続ける訳にはいかん。10分以内に命令が来ない場合、我々はポイント6-12に向かう。あっそれはそこに置いておいてくれ」

 

「了解」

 

スケリット中佐の命令は的確でありシュメル中尉もヴィーリス上級中尉も納得した。

 

だがこれは最終的な命運を考えれば“誤(・)り(・)で(・)あ(・)っ(・)た(・)”と言える。

 

ここで他のヤンチャな指揮官と同じように独自の行動を取っていればまた運命は大きく変わったかも知れない。

 

ホロテーブルを囲んで話し合い丁度3分後、宇宙軍トルーパーに持って来させた宇宙軍のレーションをスケリット中佐が飲み終わった所で再び“インセキュリティ”からホロ通信が入った。

 

スケリット中佐とヴィーリス上級中尉はホログラムの側により敬礼した。

 

ホログラムのシュルテン准将も画質が悪く動きもカクついていたが敬礼を返してきた。

 

『中……よくやった。それ……次の…令だが』

 

「准将、失礼ですがこちらの問題か通信環境が非常に悪い状態です。少し調整させて貰ってもよろしいですか…?」

 

『そうか…?で……少し……とう。こちら……問題ない……だが…』

 

准将はゆっくりと首を傾げた。

 

その間にスケリット中佐は命令を出す。

 

「少尉、急いで通信環境の感度を上げろ」

 

「はい……しかしおかしいですね……システム上問題はないはずなのですが……」

 

艦の不調に疑問を抱きながらもアンゲル少尉は艦のシステムを調整しなんとか通信環境を改善した。

 

『問題ないか?』

 

「はい、ご迷惑をお掛けしました」

 

『いや問題ない、それよりも新たな指令だ。今転送した座標ポイントに向かい戦闘中の第十五機動部隊を支援してくれ』

 

航行士官の下にシュルテン准将の話した座標ポイントが転送される。

 

『他の部隊も同様に増援を送るつもりだ。なるべく早く向かい、戦闘に合流せよ』

 

「分かりました、全艦艇に指示を出します」

 

『ああ、任せた』

 

通信が切れ艦隊は移動を始めた。

 

“ヴァニッシュ”では与えられた転送された座標ポイントにハイパースペース・ジャンプしようとタージャ少尉ら航行士官は座標計算を始めた。

 

だがここでも問題が発生していた。

 

「おや……おかしいですね……」

 

「どうした少尉、何か問題でもあるのか?」

 

スケリット中佐がシュメル中尉と共に彼の近くに寄った。

 

彼はひたすらモニターの数字を見て首を傾げている。

 

「ハイパースペースの座標計算にどうも幾つか誤りがあるようでして…」

 

「誤りだと…?そんなことあるのか、計算を行うコンピューターが誤作動を起こすなど滅多にないが」

 

ハイパースペースの座標計算ともなってくると基本的にその計算を行うのはコンピューターや搭載されたドロイドだ。

 

稀に座標計算を自分の脳みそで出来る種族や人物がいるがそれは本当に稀有な例であり特に帝国宇宙軍の規模となってくると基本的に座標計算を行うのは搭載されたシステムが担う。

 

長い間使用されその分のノウハウを蓄積してきた座標計算システムのコンピューターがその計算を間違うなど本当に史上稀に類を見ない異常なことが起きている。

 

先程の通信の不調といい艦に何か不具合があるのではないかとスケリット中佐は一抹の不安を覚えていた。

 

「再計算し直すか?」

 

「いえ、問題ありません。後はこちらで修正します」

 

タージャ少尉はコンソールを操作し正確な計算を埋め込んでいく。

 

間違いは比較的目立つものだったのでタージャ少尉らの腕前なら難なく修正出来た。

 

その間にスケリット中佐とシュメル中尉は転送された座標ポイントを眺めながらふと呟いた。

 

「確かこのポイントには居住可能な惑星があったはずですよね?」

 

「ああ、ついでに地上軍の特別訓練施設も存在していたはずだ。クローン戦争前にこの地域の惑星防衛軍が建設された施設をそのまま使っているらしい」

 

スケリット中佐はゆっくり思い出しながら話した。

 

元々帝国軍の母体は共和国軍であり、共和国軍の母体の一つは各地の惑星防衛軍でもある。

 

故にかつての惑星防衛軍の施設がそのまま帝国軍や共和国軍の軍事施設に利用されるということはよくあることだ。

 

と同時にそれらの統合と整備の為に帝国の戦争省や最高司令部が絶え間ない気苦労を買っていることも薄々感じていた。

 

「座標計算完了しました。いつでもハイパースーペース・ジャンプ出来ます」

 

「ここから座標ポイントまで向かうとしたら凡そ何分くらい掛かる?」

 

スケリット中佐はタージャ少尉に尋ね少尉は「そうですね…」と首を傾げた。

 

「前より距離が長いので一概には言えませんが少なくとも10分以内にはジャンプアウト出来ると思われます」

 

スケリット中佐は軍から支給された時計を見つめ小さく頷いた。

 

「そうか、他の艦はどうだ?」

 

「多々問題はありましたが計算は終了し全艦ジャンプ出来るようです。こちらもまた座標計算の際に不具合があったとのこと」

 

あまりに不可解な出来事にスケリット中佐は首を傾げた。

 

七隻いるうちのほぼ全艦が同じようなトラブルを被るなどそんな偶然果たして存在するのだろうか。

 

しかもどれも滅多に類を見ないハイパースペースの座標計算トラブルだ。

 

何か不思議な力が働いているのではないか、スケリット中佐は薄々そのような疑念が膨れ上がり始めていた。

 

だがその疑念に時間を掛けて解決していく暇はない。

 

今は演習の真っ只中で行動に支障がないとなれば調査や修復は後回しとなる。

 

演習とはいえこれは戦闘だ、もたもたしていては兵士の命に関わってくる。

 

シュメル中尉が不安そうな表情で「不具合について調査しましょうか?」と尋ねてきたがスケリット中佐は「いいや」と首を横に振った。

 

「現状戦闘行動に大きな問題はない。我々はこのまま座標ポイントまで向かい目標の第十五機動部隊を支援する。問題があるならそちらに向かった後でゆっくり調査し修復しよう」

 

「了解!」

 

中佐は的確に指示を出し第九打撃群全軍に向け「全艦ハイパースペースに突入せよ!」と命令を出した。

 

ポイントを離れ七隻の軍艦がハイパースペースのトンネルの中へ入っていく。

 

これこそ“亡(・)霊(・)の(・)誘(・)い(・)”だということを全く知らずに。

 

第九打撃群は暫くハイパースペースのトンネルの中を航行していた。

 

これは特別に珍しいことではなくハイパードライブを搭載するかもしくはハイパードライブを搭載した船に搭載されているスターファイターなどは同じようにハイパースペースのトンネルを通り目的地へ向かう。

 

当然その所要時間は距離や位置によって大きく変わり短ければ数十秒の時もあれば長い時は何週間、何ヶ月のこともある。

 

またこれは小さな噂だがハイパースペースに突入したままそのまま帰ってこない船乗りもいるそうだ。

 

だが“ヴァニッシュ”や他の艦艇の乗組員達が抱いている不安はそれとはまた少し違ったものだ。

 

明らかに航行時間が“長(・)す(・)ぎ(・)る(・)”。

 

タージャ少尉は最初、10分もあれば目標地域にジャンプアウト出来ると予測を立てていた。

 

されど第九打撃群がハイパースペースに突入してから既に1時間は経過していた。

 

本来ならとっくに目的地にジャンプアウトし戦闘に加わり状況によっては戦闘が終結している頃だ。

 

それでもまだジャンプアウトせずにずっと青白いハイパースペースのトンネルを航行し続けている。

 

流石に乗組員達も怪しみ始め「なんか長くないか?」とヒソヒソ話で隣の同僚と話していた。

 

最初は部下の雑談など気にせず「1分2分など所詮誤差の内」と考えていたスケリット中佐も流石に不安感を昂らせてきたのか何度も手元の時計を眺めている。

 

この時計は問題なく稼働し正確に時を刻んでいた。

 

その為時間が狂う、もしくは間違って数えられているということはないはずだ。

 

先ほど時計を見た時も正確に正しい時刻に針が向いていた。

 

この時計は信じるに値するはずなのだが、どうも今回は様子がおかしかった。

 

明らかに身体で感じる時間は1時間を超えているはずなのにこの時計はまださっき時計を見た時から5分くらいしか経過していない。

 

ハイパースペース・トンネルを航行中に体感時間と現実の時間が大きく変貌するなどスケリット中佐の経験上そんなことは一度もなかった。

 

明らかに何かが変だが誰しもがその事を大きな声で言わずに口を閉ざしている。

 

もしかしたら自分の気のせいかもしれない、自分の発言で余計な不安を与えたくないと誰しもが閉口していたからだ。

 

「あの艦長……?少しよろしいでしょうか……」

 

不安そうな表情を浮かべたシュメル中尉がスケリット中佐に近寄ってくる。

 

中佐は「なんだ?」と発言を許しシュメル中尉は他の乗組員の不安を煽らないよう彼に小声で話した。

 

「ハイパースペースに突入してから既に1時間近く経過しているように感じるのですが……私の気のせいでしょうか…?」

 

シュメル中尉は勇気を振り絞り疑問を口にした。

 

中佐も口をモゴモゴさせながら再び時計を見た。

 

やはり1時間など経過していない。

 

だがシュメル中尉もこう思っているのだ、必ず何かあるはずとスケリット中佐も疑問を口にした。

 

「やはり中尉もそう思うか」

 

「中尉も……と言いますと中佐もですか?」

 

スケリット中佐は小さく頷くと彼に自分の時計を見せた。

 

「私も君の言う通り体感時間は明らかに1時間を越していると思う。だがこの時計はまだ6分程度しか経っていない」

 

「そんな…!それは絶対におかしいです…!」

 

シュメル中尉は理解不能といった表情を浮かべスケリット中佐も「私もそう思う」と彼に同意した。

 

「副長、ちょっと来てくれ」

 

近くでタブレットを持っていたヴィーリス上級中尉を手招きし彼を近くに寄せた。

 

「どうかしましたか艦長」

 

「君のタブレットのデジタル時計を見せてくれ。時間を確認したい」

 

万に一つでもこの時計が壊れている可能性に賭けてスケリット中佐はより正確なタブレットのデジタル時計に目を寄せた。

 

だがすぐに彼の機体は砕け散ってしまった。

 

ヴィーリス上級中尉が持っていたタブレットのデジタル時計もスケリット中佐の時計と同じくまだ6分しか経っていなかった。

 

「何か……やはり妙です…!」

 

シュメル中尉は顔を硬らせ彼らに告げた。

 

スケリット中佐の疑念もどんどん深まりヴィーリス上級中尉は不安な表情を浮かべていた。

 

すると彼らに良い報告が舞い込んできた。

 

「間も無くハイパースペース・トンネルからジャンプアウトします!」

 

タージャ少尉が喜びを含んだ表情でブリッジの乗組員全員に報告した。

 

表情の固かったブリッジの重役3人もその報告でホッと安堵の息を漏らし「気にしすぎか」と安心した。

 

やはりただの気のせいだったようだ。

 

「気のせいだったのでしょうか」

 

シュメル中尉はスケリット中佐に尋ね中佐も「多分な」と答えた。

 

中佐はすぐに部下達に戦闘命令を下す。

 

「ハイパースペースを抜けた後はすぐに戦場だ。いつでも戦える状態を作り出しておけよ」

 

ブリッジの乗組員達から「了解」と言う返事が聞こえスケリット中佐は微笑を浮かべたままビューポートの方を向いた。

 

そろそろ抜け出るハイパースペースの青白いトンネルを見つめ表情を戻そうとしていた。

 

ようやくここからおさらばだ、スケリット中佐がそう思った瞬間一気に“ヴァニッシュ”はハイパースペースから通常空間(リアルスペース)に引き戻された。

 

“ヴァニッシュ”を先頭に“アブスカンド”と“アンサートン”、四隻のアークワイテンズ級がジャンプアウトする。

 

近くに“惑(・)星(・)な(・)ど(・)何(・)も(・)な(・)い(・)”広々とした宇宙空間に。

 

“ヴァニッシュ”と第九打撃群がジャンプアウトしたこの空間には先に言われていた居住可能な惑星などなく周辺には小惑星ひとつなかった。

 

ただ星々がよく見える何もない宇宙空間が永遠と広がっている。

 

周りには惑星もなければ軍艦もなくましてや戦闘中の味方の姿もどこにもなかった。

 

明らかにジャンプアウトした地点が転送された座標ポイントとは違うとスケリット中佐は断言出来た。

 

「ここは“インセキュリティ”から送られてきた座標ポイントとは違うぞ!」

 

明らかに見れば分かる程予想していたポイントと違う。

 

スケリット中佐は急いでフレッダ准尉の下に近づき「周囲に友軍艦の反応はないか?」と尋ねた。

 

フレッダ准尉は“ヴァニッシュ”や他の艦のセンサーとも合わせて幅広く捜索したが周囲に友軍艦がいる痕跡はなかった。

 

「広範囲で捜索していますが友軍艦は発見出来ません……」

 

「…そうか……航行士官、ハイパースペースの計算やルートに何か問題や不備がなかったか調べてくれ。もしかすると先程の誤差やハイパードライブの不調かも知れない」

 

「りょっ了解…!」

 

タージャ少尉は冷や汗を掻きながらモニターに不調がないか調べる。

 

もしかしたら自分のせいで今こうなっているのかも知れないとタージャ少尉は不安がっていた。

 

「落ち着いてやれ、これは明らかに人為的なミスではない。 技術士官、フォス少尉!」

 

「はい!」

 

スケリット中佐は士官を直接呼びつけ命令を伝える。

 

「この状況下でパイロットとスターファイターを用いた偵察行動を行うのは危険だ。君と艦内の技術班でプローブ・ドロイドを飛ばし映像データや情報を“ヴァニッシュ”と他の艦に共有出来るようにしてくれ」

 

「分かりました、早速取り掛かります!」

 

フォス少尉は敬礼し部下の技師官らと共にブリッジを走り抜けた。

 

次にスケリット中佐が呼びつけたのは通信士官のアンゲル少尉と戦術長のシュメル中尉だった。

 

「アンゲル少尉、君は今すぐ救難信号を発信し周辺の部隊に呼びかけろ。シュメル中尉は今すぐ各艦の艦長を呼びつけ特別会議を開くと艦長達に伝えてくれ」

 

「了解!」

 

「了解!」

 

2人とも素早く動きそれぞれ与えられた命令を実行に移した。

 

スケリット中佐は一息吸うとブリッジの乗組員全員に告げた。

 

「総員、落ち着いて聞いてくれ。我々は今現在“遭(・)難(・)状(・)態(・)”にある。故に1人1人が落ちいついた行動をし、遭難時のマニュアルに従って事態を対処せよ。指揮系統を遵守し帝国宇宙軍人として最善を尽くせ!」

 

「ハッ!!」

 

手の空いた乗組員達は全員スケリット中佐に敬礼し中佐も敬礼を出した。

 

その間にヴィーリス上級中尉が遭難を伝えるアラームを艦内に流し艦全体に遭難を知らせた。

 

命令を与えたシュメル注意が早速駆け寄ってきて「全艦長への伝達、完了しました」とスケリット中佐に伝えた。

 

「ご苦労、戦術長はついてきてくれ。副長はブリッジと艦を頼む」

 

「了解!」

 

2人は近くのホロテーブルに急ぎ会議用にシステムを起動した。

 

テーブルの周りに第九打撃群の艦長達が揃う。

 

まず一番最初に口を開いたのはドレッドノート級“アンサートン”艦長のリスター少佐だった。

 

『スケリット中佐!一体この事態は……』

 

彼はひとまず“アンサートン”に指示を伝え乗組員を落ち着かせたようだったが彼自身の混乱はまだ収まっていなかった。

 

冷や汗を流し軍帽を被っていても髪が乱れているのが分かる。

 

『同じ部隊に所属するとはいえ……所属艦全てが同じ場所で遭難するなどあり得るのでしょうか……』

 

アークワイテンズ級艦長の1人のツォルン大尉はスケリット中佐に尋ねた。

 

「あり得るかあり得ないかで言ったら現状起こっている事を目にすれば一目同然だ。我々はこの異常な事態に対処しなければならない。まず各艦の不調や状況、今に至るまでの経緯を教えてくれ」

 

スケリット中佐は艦長達に尋ねた。

 

“ヴァニッシュ”だって突然こうなったのではなく節々に不調が見受けられていた。

 

艦長達の中で一番最初に口を開いたのは“アブスカンド”のオリファー少佐だった。

 

『本艦ではまず最初に若干の通信障害が起こりその後にハイパースペースの座標計算に障害が起こりました。確認されているのはこの程度ですが』

 

『本艦も、“アンサートン”も同様です。座標計算に関しては後から修正したはずなのですが……』

 

「他の艦もそうなのか?」

 

スケリット中佐はアークワイテンズ級の艦長達に尋ねた。

 

するとアークワイテンズ級の艦長達も全員そうだと頷いた。

 

これらの障害は全て“ヴァニッシュ”でも起こっていた。

 

より謎は深まるばかりだ。

 

「同様の障害は“ヴァニッシュ”でも起こっていた。もしかするとこの同一の障害に原因があるのかも知れない」

 

『それで中佐……これから一体どうするおつもりですか…?』

 

ツォルン大尉はスケリット中佐に尋ねた。

 

このままでは恐らく助けは来ない。

 

このまま宇宙空間を漂流し続けたとしても少なくとも3ヶ月はなんとかなるがそれ以降は分からない。

 

むしろ3ヶ月も経たないうちに不安感から乗組員達に限界が来るだろう。

 

なるべく早く解決しなければならない。

 

「現在プローブ・ドロイドによる偵察行動を開始している。各艦にも情報を共有しているのでもう間も無く最初の映像が…」

 

「艦長!!プローブ・ドロイドが!!」

 

スケリット中佐が全てを言い切る前にブリッジの方から大声で叫ぶフォス少尉の声がスケリット中佐の言葉を遮った。

 

フォス少尉の声は大声である以上に落ち着きがなく不安感を多分に含んでいた。

 

「なんだ?」とスケリット中佐が急いでブリッジの方へ戻るとフォス少尉は泣きそうな顔で声が震えながら中佐に報告した。

 

「プローブ・ドロイドが……“プ(・)ロ(・)ー(・)ブ(・)・(・)ド(・)ロ(・)イ(・)ド(・)が(・)全(・)て(・)撃(・)墜(・)さ(・)れ(・)ま(・)し(・)た(・)”!!」

 

「何!?」

 

スケリット中佐は驚きフォス少尉から受け取ったタブレットの映像を見てさらにその驚きを深めた。

 

タブレットに映っていたのはプローブ・ドロイドのカメラが記録した映像で辺りにはなんの変哲もない宇宙空間が映っている。

 

しかしその状況はすぐに一変した。

 

すぐ前を飛んでいたプローブ・ドロイドが突如黄緑色の光弾を喰らい白い光と共に消し飛んだ。

 

更に前方に躍り出たプローブ・ドロイドも黄緑色の後段を回避しようと左右に動いたがすぐに直撃を喰らい破壊され、そのわずか数秒後に映像を残していたプローブ・ドロイドも撃破されたのか映像が途切れ画面が真っ黒になった。

 

明らかにブラスター砲かレーザー砲を装備した船が人為的に行った行為だ。

 

この周辺に何かの船がいる。

 

その事を察知したスケリット中佐はすぐに命令を出した。

 

「全艦戦闘配置!!周辺に敵がいるかも知れん……もし仮にこれが敵だとしたらこれは“演(・)習(・)で(・)は(・)な(・)い(・)”!!本物の実戦だ!!覚悟を決めろ!!」

 

「ハッはい!」

 

“ヴァニッシュ”の艦内に警報が鳴り響きブリッジや艦内が戦闘モードへ移行した。

 

スケリット中佐の発言をギリギリまで聞いていた他の艦の艦長達も急いでホロ通信を切り自分の艦を戦闘モードへと移した。

 

ターボレーザー砲やレーザー砲が一斉に稼働し各艦に緊迫した雰囲気が漂う。

 

「スターファイターはまだ出撃させるな。数に限りがある、なるべく我々だけで撃破するぞ」

 

「艦長!!センサーに艦影を探知しました!!」

 

フレッダ准尉は急いでスケリット中佐に伝えた。

 

「数はどのくらいだ」

 

「それが……数は大凡……“二(・)百(・)隻(・)で(・)す(・)”……!」

 

「にひゃく……せき……?そんな馬鹿な…」

 

二百隻となればそれは一個艦隊に匹敵する数だ。

 

並の海賊では到底集め切れない数であり例え相手がコルベットや小型艦ばかりだとしても七隻しかいないスケリット中佐達の不利は明らかだ。

 

スケリット中佐がどうすればいいと戦術を練っている時、ブリッジのビューポートの近くから「うわぁあ!?」と変な声が聞こえた。

 

中佐は急いで声を出した乗組員と驚愕しそのまま立ちすくむヴィーリス上級中尉の側に寄った。

 

「どうした!?……なっ……嘘だろ……?」

 

彼らの近くに寄りビューポートに映る“ソ(・)レ(・)”が目に入り思考が一瞬停止した。

 

目の前に広がる“ソ(・)レ(・)”は余りにも異様な光景であり誰しもの足を止めるには十分だった。

 

シュメル中尉はおぼつかない足でスケリット中佐の側に近づき彼に報告する。

 

「中佐……あの……“アブスカンド”と“アンサートン”から攻撃許可が求められていますが……」

 

「いや……まだ撃たせるな……“コ(・)レ(・)”に……“コ(・)レ(・)”に撃つのはまずい……絶対に……絶対に撃たせるな……」

 

「りょっ了解……!」

 

シュメル中尉は震えながら僚艦に攻撃の中止を伝達した。

 

僚艦の艦長ともすんなり受け入れそれ以上通信はかけてこなかった。

 

恐らく彼らもこの光景を見てきっと驚愕しているのだろう。

 

ブリッジでは乗組員達が愕然とし震えながら動揺の音を上げている。

 

スケリット中佐の口からもぽろりとこの光景を言い表す言葉が溢れた。

 

「大量の…ドレッドノート級……なんで…なんでこんなところに……」

 

“ヴァニッシュ”らの眼前には“ヴァニッシュ”の同型艦である大量のドレッドノート級重クルーザーが艦列を組んで航行していた。

 

灰色で塗装されまるで生気のないこのドレッドノート級の艦隊は殆どエンジンの光は見えなかったが確かにこの宇宙空間をゆっくりと航行していた。

 

段々と“ヴァニッシュ”ら第九打撃群の方に接近してくる。

 

これら全てのドレッドノート級はクローン戦争や帝国誕生以前の代物で見ただけでも一部の武装が違っていた。

 

艦内に誰もいないのか将又艦のシステムが死んでいるのか、このドレッドノート級全てに明かりや艦の光がなく本当に無機質な正に“死(・)ん(・)だ(・)”という言葉が相応しい行列に見えた。

 

乗組員達は驚き、或いは閉口して衝撃の大きさ故かそこから一歩も動けなくなっている。

 

艦長から一兵卒まで、将校がら宇宙軍トルーパー、ストームトルーパーまでもが迫り来るドレッドノート級の艦列を見て動きが止まっていた。

 

「艦長……なんでこんな……こんな所にこんな数のドレッドノート級が……」

 

シュメル中尉はスケリット中佐に尋ねた。

 

されどスケリット中佐は答えることが出来ず「分からない…」と唖然としながら喋った。

 

だが彼の脳はすぐにある事を運命的に思い出させた。

 

「大量の……二百隻のドレッドノート級……二百隻……ドレッドノート……まさか……まさか…!」

 

彼は気づいてしまった。

 

遠い昔に行われ消えていったある艦隊。

 

二百隻全て同じ軍艦で構成され全て悲劇に終わった艦隊。

 

銀河共和国の最後の時代のこと。

 

ソレを裏付けるようにアンゲル少尉が震えながら「中佐…」とスケリット中佐を呼んだ。

 

中佐はゆっくりと振り向き少尉の方を見つめた。

 

少尉も震えながらゆっくりと喋る。

 

「試しに…あの艦隊と通信を繋いでみたのですが……表示された船籍番号が……」

 

彼女は今にも泣き出しそうだった。

 

スケリット中佐は急いで彼女のそばに向かいモニターに表示されてある船籍番号を確認した。

 

そして再び驚愕し腰を抜かした。

 

中佐はゆっくりとその文章を読み上げる。

 

「……共和国特別機動艦隊総旗艦…………通称“カ(・)タ(・)ナ(・)艦(・)隊(・)総(・)旗(・)艦(・)”……DHC001“カタナ”……」

 

共和国特別機動艦隊、かつて銀河共和国が宇宙軍再建の一環として建設した宇宙艦隊。

 

この艦隊名は殆ど呼ばれず専ら旗艦の名前をとってこう呼ばれていた。

 

“カタナ艦隊”。

 

旗艦“カタナ”を中心としたドレッドノート級重クルーザー二百隻のみで構築された艦隊でありその全ては悲劇で失われた。

 

その艦隊の旗艦が今ここにいる。

 

だとするとこのドレッドノート級の群れは……まさか。

 

「まさかこの艦隊……“カ(・)タ(・)ナ(・)艦(・)隊(・)な(・)の(・)か(・)”……?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

その言葉を呟いた瞬間スケリット中佐の目頭が何故か熱くなりまるで何か重たいものを吐き出しそうになった。

 

暫く喉が詰まるような感覚に見舞われ冷や汗がじんわり身体を覆った。

 

指先が震えて、全身が震えて上手く動けない。

 

そこに何かの感情はなくただ謎の感覚がスケリット中佐を襲った。

 

中佐の声を聞いた乗組員達もまた、中佐とは少し違うものの不思議な感覚に見舞われた。

 

この幽霊艦隊がカタナ艦隊だと考えた瞬間彼らの恐怖心が大きく煽られ、鳥肌が立ち全身を寒気が襲い、血の気がすうっと引いていく感触を味わった。

 

カタナ艦隊を追い求める者達が発見すれば恐らくそれは興奮や感動といったものに繋がるだろうがこの訳の分からない状況下でカタナ艦隊と出会ってしまってはそこに感動などはなくただひたすら謎の恐怖に見舞われるだけだ。

 

そしてある1人の乗組員が放った一言がさらに彼らの恐怖を煽った。

 

「もしかして我々は……“呼(・)ば(・)れ(・)た(・)の(・)か(・)?(・)”」

 

カタナ艦隊が我々を呼んでいたのではないか、この幽霊艦隊は仲間を欲し生者である我々をここまで呼んできたのではないかと。

 

今までの不調も全部カタナ艦隊の呼び声だったのではないか、我々はその呼び声に応じて“来(・)て(・)は(・)な(・)ら(・)ぬ(・)所(・)へ(・)来(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)の(・)で(・)は(・)な(・)い(・)か(・)”。

 

ある者は恐怖で座り込みある者はひたすらに震えていた。

 

このよく分からない恐怖は最も簡単に屈強な兵士達の心を破壊し絶望に似た虚無の先へと追い込んだ。

 

今“ヴァニッシュ”を包み込んでいたのは恐怖であった。

 

「…なあ…?何か音が聞こえないか…?」

 

ヴィーリス上級中尉は隣にいたフォス少尉に尋ねた。

 

少尉も小さく頷き「確かに…」と同意した。

 

「もしかして……カタナ艦隊(アレ)の叫び声なのか……?」

 

ヴィーリス上級中尉は恐る恐る指を差した。

 

しかしすぐに「いいや違う…」と否定する声が入った。

 

スケリット中佐だ。

 

「あれは声ではない。あの音……聞き覚えがある。あれは……“国(・)歌(・)だ(・)”」

 

国歌だ、その一言で何人かはハッとした。

 

スケリット中佐は最後まで言い切る。

 

「アレから流れているのは“銀(・)河(・)共(・)和(・)国(・)の(・)国(・)歌(・)だ(・)”」

 

あの何処か勇敢な雰囲気を漂わせるメロディーは確かに銀河共和国の国歌、“あらゆる惑星は一つに燃ゆ”だった。

 

軋むような低い音でまるで男の呻き声のようだったが耳を澄ませば確かに共和国の国歌のメロディーであった。

 

「カタナ艦隊は…眼前の艦隊は通信を使って広域に共和国の国歌を流しながら進んでいる……」

 

「そんななんで……」

 

理由など分からない、それはこの状況自体全くもって理解不能なものだからだ。

 

どうして我々がここに呼ばれたのか、どうしてカタナ艦隊がここにいるのか、どうして共和国の国歌が流れているのか、全て“分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)”。

 

これは何を持って何を根拠にしたって証明不能なものだからだ。

 

人であるうちは、ただ恐怖を覚えながら震え上がるしかなかった。

 

たとえカタナ艦隊に“何(・)を(・)さ(・)れ(・)て(・)も(・)”。

 

どんどんカタナ艦隊との距離は近づき遂には前方を向かう旗艦“カタナ”とすれ違った。

 

悠々とカタナ艦隊は“ヴァニッシュ”らの側を通り過ぎていく。

 

アークワイテンズ級や全てのドレッドノート級の乗組員はこの光景をどうすることもなく見守るしかなかった。

 

これは並の人間がどうにか出来る代物ではない。

 

誰もがそう思い動きを止めていた時、僚艦から緊急通信が入った。

 

“アンサートン”のリスター少佐の悲鳴に似た叫び声がブリッジに響いた。

 

『こちら“アンサートン”!!救援を要請する!!現在“アンサートン”は謎のハッキング攻撃を受け艦のシステムの4割が制圧された!!このままでは艦を丸ごと乗っ取られてしまう!!誰か!!助け…』

 

全てを言い終える前に“アンサートン”からの通信は途切れた。

 

“アンサートン”がいる方向を見てみれば徐々に艦内の明かりが消え始め推力も低下しつつあった。

 

次にこの乗組員達が思うことと言えば一つだ。

 

カタナ艦隊の呪いだ。

 

亡霊達が仲間を増やそうと我々に呪いをかけにきたのだ。

 

死者の道へ、黄泉の国へ引き摺り来させようと。

 

そして呪いは他から他へと“移(・)り(・)ゆ(・)く(・)”。

 

「艦長!!艦内のシステムにコンピューターウイルスが侵入!!エンジンシステムに侵入しつつあります!!」

 

「何!?」

 

「本艦にもか……」

 

スケリット中佐は歯噛みし他の乗組員達は絶望の表情を浮かべていた。

 

シュメル中尉はスケリット中佐に指示を仰いだ。

 

「艦長指示を…!このままでは本艦も機能が奪われてしまいます!!」

 

「ああ…分かってる…!」

 

中尉の悲鳴のような声を聞きながらスケリット中佐は一瞬だけ苦痛に満ちた表情を浮かべた。

 

それから暫くしてその苦痛を飲み込んだかのように大きく息を吐きスケリット中佐の表情はすうっと楽になっていった。

 

中佐はそれから素早く命令を出す。

 

「総員退艦せよ!ブリッジ乗組員は脱出時必要な部分のみ侵入したコンピューターウイルスを撃退せよ。それ以外の乗組員は全て持ち場を放棄して退避しろ!」

 

スケリット中佐の決断は余りにも意外で一瞬だけ乗組員達は硬直した。

 

中佐は続けて理由を付け加える。

 

「“アンサートン”の例を鑑みるにこのウイルスを撃退するのは不可能だ。だとすればこれ以上我々や他の友軍への被害を防ぐ為にも我々はここで旗艦を捨てこの情報を持ち帰る。たとえその過程で何を言われようとどれだけの屈辱を受けようと耐えて友軍の同胞達からこの呪いから守るのだ!」

 

「ハッ!!」

 

スケリット中佐の声を聞き乗組員達は一斉に退艦の為の準備を始めた。

 

艦内では退艦の為の警報が鳴り響きブリッジも一様に慌ただしくなった。

 

「“アブスカンド”も同様にウイルスの影響を受けていますがアークワイテンズ級は全艦無傷です」

 

「ならば脱出ポッドはアークワイテンズ級に回収させろ。ヴィーリス副長は脱出ポッドの退艦指揮を取れ」

 

「了解!!」

 

ヴィーリス上級中尉はブリッジを走り抜け脱出ポッドのある区画へ向かった。

 

その間にスケリット中佐はタージャ少尉の近くに寄った。

 

少尉はスケリット中佐が近づいてきたのを確認しあることを尋ねた。

 

「しかし艦長、退艦した後どうこの領域を脱出しますか?」

 

ここは何処かだか未だ分からない領域でハイパースペースを使うにしてもどこにどう座標を合わせていいのか分からない。

 

そのことが航行士官としては気になっていた。

 

「非常用の特別帰還システムを使え。これがあれば少なくとも第6軍司令部のあるプラクシスには辿り着けるはずだ……燃料が足りていればだが……」

 

「燃料が足りていればですか……」

 

「ここばかりは賭けるしかない……パイロットはセンチネル級以外は自分の機体に乗せろ。少しでもポッドに乗せる兵士を減らす」

 

「了解!」

 

退艦作業で忙しくなる中、カタナ艦隊はどんどんこちらに近づき通り過ぎていく。

 

近くによる度に通信システムから発せられる共和国国歌は不気味さと音の大きさが増していった。

 

スケリット中佐はカタナ艦隊を睨みながら吐き捨てる。

 

「共和国の亡霊め……一体お前達の望みはなんなんだ……?」

 

その投げかけた言葉さえももはやこの銀河を彷徨う亡霊となったカタナ艦隊には届かなかった。

 

彼らは呼び声を発するだけで他者の声を聞く力は持っていなかった。

 

永遠に銀河系を彷徨う無機質な亡国の艦隊なのだから。

 

「“ヴァニッシュ”の乗組員の9割の退艦が完了しました!後はブリッジとハンガーベイと脱出を指揮していたヴィーリス副長達のみです」

 

シュメル中尉の報告を聞きスケリット中佐は「そうか」とひとまず安堵の息を吐いた。

 

「他の艦はどうだ?」

 

「“アブスカンド”も同様に退艦は順調に進んでいます。“アンサートン”ですが……」

 

中尉は口を紡いだ。

 

言わなくても分かる、あの通信から想像するに“アンサートン”はもう…。

 

「“アンサートン”の声明反応はほぼ確認出来ません。おそらく遮断された影響でしょうが多分脱出も不可能だと思われます……」

 

「そうか……ならば“アンサートン”は見殺しにするしかない……リスター艦長には申し訳ないが……」

 

シュメル中尉も黙って頷いた。

 

「残りの人員も退避だ!ブリッジのメンバーは全員ハンガーベイに向かいセンチネル級に乗って退避せよ!先導と誘導は宇宙軍トルーパーとストームトルーパーが率先して行い閉鎖された隔壁などがあれば破壊して進め」

 

「了解!」

 

ブリッジでも退艦が始まりいよいよブリッジからも人が殆ど消えた。

 

これで“ヴァニッシュ”もいよいよ前方を航行するカタナ艦隊と大差なくなってしまった。

 

艦から人が消えるだけでこれほど無機質で冷たさを感じるとは不思議なものだと最後尾を走るスケリット中佐は思っていた。

 

恐らくこれでスケリット中佐は出世の道を外れ今後の軍役生活で中佐以上の階級に上がることはなくなるかもしれない。

 

提督になって艦隊を指揮するなどという夢の潰えるだろう。

 

それでもこの情報と光景は伝えなければならない。

 

ブリッジでの作業が役に立ったのか勝手に隔壁が閉鎖されている箇所はなく難なくハンガーベイまで辿り着いた。

 

「艦長!」

 

甲板士官のヴィーニモ中尉がスリケット中佐らに手を振り敬礼した。

 

「こちらへ!」

 

ドレッドノート級には少なくとも1機のシャトルが積め込めるように設計されている。

 

“ヴァニッシュ”に搭載されていたのはセンチネル級着陸船でありパイロットや砲手を含めれば最大で80名が乗り込めた。

 

「これで最後だ、副長!」

 

スケリット中佐はコムリンクを開きヴィーリス上級中尉に繋いだ。

 

『こちらは既に脱出しています!艦長達も早く!』

 

「分かった、後で合流しよう」

 

スケリット中佐がセンチネル級に乗り込みセンチネル級は発進し始めた。

 

徐々に浮遊し最大加速で“ヴァニッシュ”のハンガーベイを後にした。

 

共和国の国歌が亡霊の声のように流れる中センチネル級と生き残った四隻のアークワイテンズ級がカタナ艦隊から離れていく。

 

「全艦に通達する、特殊帰還システムを使い直ちにプラクシスへ帰還せよ。再び生きて再開出来ることを期待する」

 

コムリンクを切りスケリット中佐を乗せたセンチネル級が前を行くアークワイテンズ級らと共にハイパースペースに入っていく。

 

ハイパースペースへと突入した瞬間ビューポートが眩い光に包まれる。

 

こんな事今まで何度もハイパースペースへジャンプした経験があるスケリット中佐でも知らない出来事だった。

 

「なんだこれは!?何が起きているんだ!?」

 

「わかりません!!ですがジャンプには成功したと思われます!!」

 

パイロットの報告と共に更に光は強くなった。

 

光の中でも共和国の国歌が流れ最後まで彼らを離さないというカタナ艦隊の意志のようなものが含まれている気がした。

 

それでも亡霊の仲間入りをする訳にはいかない。

 

光が強くなると共に共和国の国歌は薄れていく。

 

そしてスケリット中佐は光に飲まれながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一体どれだけの時間が経っただろうか。

 

ブリッジの乗組員やハンガーベイの乗組員達を乗せたセンチネル級はずっとハイパースペースを航行し遂に目的地の第6軍司令部が位置するプラクシスへジャンプアウトした。

 

ハイパースペースを航行中センチネル級に乗り込んだ乗組員はスケリット中佐含め全員が気を失っており暫くは自動操縦で航行していた。

 

その為センチネル級以外の艦がハイパースペースに入ったのか、あそこに置いてきたドレッドノート級三隻がどうなったのか、カタナ艦隊が何処へ行ったのかは全く覚えていなかった。

 

眩い光が彼らの意識を眠りの奥へと誘いそれ以上の現実から目を背けさせたのだ。

 

ハイパースペースからジャンプアウトしたセンチネル級を一番最初に確認したのはプラクシスに駐留するインペリアルⅠ級“コンストレイント”に所属するVウィングだった。

 

第九打撃群が忽然と演習中に消失した出来事は第6軍でも不可解な出来事として調査と捜索を行なっていた。

 

ハイパースペースにジャンプしたはずの第九打撃群が目的地に辿り着くことなく行方不明となった。

 

それも人為的なミスではなく恐らく艦船の不具合で。

 

まず人為的なミスや裏切りの可能性が少ない点としては指揮官のスケリット中佐ら部隊の上級将校は直前まで熱心に演習に参加し直属上官のシュルテン准将とも通信を行なっていたので亡命や逃亡の意思は少ないという事だ。

 

演習のどさくさに紛れて軍艦を持ち逃げし何処かの反乱組織に売り渡そうなどそういう魂胆は中佐や第九打撃群の他の将校達の性格上可能性はないに等しい。

 

それに一隻ならともかく第九打撃群全艦が消失したということはかなり組織的な脱走行為となる。

 

だが演習前に帝国保安局の監査官が行った調査では第九打撃群にそのような組織的な脱走を図る兆候は全く見受けられなかった。

 

あの艦には多くのストームトルーパーも常駐していることから下級の宇宙軍兵士や宇宙軍トルーパーの突発的な反乱行為による脱走とも考えにくい。

 

それに最後に司令部から確認された記録によれば第九打撃群は全艦シュルテン准将が転送した座標にジャンプしていた。

 

記録に残されたハイパースペースの座標計算も途中修正を入れたようだが殆ど問題はなかった。

 

演習中に特別捜索隊を編成し捜索が行われていたのだが演習が終了した今でも第九打撃群はその影すら掴めずにいた。

 

そんな中遂に手がかりが現れたのだ。

 

行方不明となっていた第九打撃群旗艦“ヴァニッシュ”に搭載されていたセンチネル級が突如ハイパースペースから出現したのだ。

 

この報告は捜索隊に大きな驚きを齎した。

 

センチネル級はVウィングに誘導され“コンストレイント”のハンガーベイに着艦した。

 

ハンガーベイで待機していた救助隊が急いでセンチネル級に駆け寄り急いでハッチを開き救助に向かった。

 

スケリット中佐の意識が戻ったのは救助隊の兵士にセンチネル級の前で応急処置を施されている最中だった。

 

「…………っ………あ……」

 

「目を覚ましたか…?私の声が聞こえますか?聞こえたら返事をしてください」

 

救助隊の兵士の要望通りスケリット中佐は掠れた声で「はい…」と答えた。

 

兵士は「良かった」と安堵した。

 

スケリット中佐は目線を移し周りの様子を確認する。

 

見慣れない兵士や将校が大勢いることからここは“ヴァニッシュ”のハンガーベイではないとすぐに知覚した。

 

スケリット中佐は介抱を続ける救助隊の兵士に尋ねた。

 

「……他の…艦は……どうなった……?」

 

中佐の問いを聞いて救助隊の兵士は顔を顰めた。

 

兵士は暫く悩んだ末口を開いた。

 

「……落ち着いて聞いてください。このプラクシスに帰還した第九打撃群の所属機及び所属将兵はこのセンチネル級とあなた方だけで他の乗組員及び全将校は未だ“行(・)方(・)不(・)明(・)の(・)ま(・)ま(・)で(・)す(・)”」

 

兵士からその言葉を聞いた瞬間スケリット中佐の表情は絶望の暗雲に包まれた。

 

彼は口をパクパクさせながらおぼつかない言葉で話し始めた。

 

「そんなバカな……だってハイパースペースに……入って……」

 

スケリット中佐はそう呟きながらゆっくり後ろを振り返った。

 

“ソ(・)レ(・)”が幻聴かもしれないが聞こえたからだ。

 

磁場シールドで守られたハンガーベイからはしっかり宇宙空間の様子が見える。

 

そこに“ヤ(・)ツ(・)”はいた。

 

うっすらとした輪郭でたった一隻のみだったがスケリット中佐には確かにその姿が見えた。

 

中佐は瞳孔を開き呼吸が荒くなる。

 

兵士は慌てて「大丈夫ですか?」と尋ねるが既に彼の声はスケリット中佐の耳には届かなかった。

 

中佐の耳に聞こえるのは銀河共和国の国歌、そして中佐の目に見えるのはゆっくりとこちらに近づく“ド(・)レ(・)ッ(・)ド(・)ノ(・)ー(・)ト(・)級(・)重(・)ク(・)ル(・)ー(・)ザ(・)ー(・)の(・)姿(・)”だった。

 

呪いは彼らを追ってここまでやって来た。

 

直後スケリット中佐は魂が抜けるように気を失った。

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!急いで医療室に運ぶぞ!」

 

担架に乗せられたスケリット中佐は救助隊の兵士達に運ばれていった。

 

その様子を間近で見ている1人の将校がいた。

 

シュメル中尉だ。

 

彼は辛うじてすぐに意識を取り戻し兵士に肩を貸して貰っている状態で済んだ。

 

故にシュメル中尉は中佐の様子を見て何かがおかしいと気づいた。

 

スケリット中佐にはまるで何かが見えているようだった。

 

それも中佐が気を失うほどの何かが。

 

まさかと思いシュメル中尉は急いで振り返ってハンガーベイから宇宙空間を見つめたのだがそこには“何もなかった”。

 

シュメル中尉の耳には乗組員の喋り声や艦内の機械音声や空調の音しか聞こえないし、シュメル中尉の目には特に怪しいものなど何も映っていなかった。

 

彼は再び前を向き兵士に連れられ歩き始めた。

 

生きていることへの安堵感とあの場所で起こり未だ帰ってきていない仲間達の不安感を抱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから結局第九打撃群の四隻のアークワイテンズ級もあの艦に乗り込んだヴィーリス上級中尉や“アブスカンド”のオリファー少佐もプラクシスや他の帝国軍基地に帰還することはなかった。

 

幾度となく捜索隊が出撃したのだが結局その痕跡すら掴めず彼らは全員行方不明として処理された。

 

今回の遭難事件を受けスケリット中佐は責任を取って不名誉除隊も構わないとの意思を示していたが事前にシュメル中尉やアンゲル少尉が持ち込んだ艦内の記録によりそれは免れた。

 

司令部は彼ら彼女らが持ち込んだ“ヴァニッシュ”の艦内記録を確認し驚愕し、そして閉口した。

 

記録にはしっかり“ヴァニッシュ”らがカタナ艦隊と遭遇した映像も映っていた。

 

この映像を見た第6軍の上級将校達は大いに驚いた。

 

失われたカタナ艦隊が未だこの宇宙空間のどこかを彷徨っている、そして今回の事件を引き起こしたかもしれない。

 

第6軍の上級将校の中にはカタナ艦隊が計画された時期から軍人をやっている者もいるので今回の発見は十分彼らの驚愕に値するものだった。

 

司令部は今回の処遇を決めかねていた。

 

この不可解な事態、彼らとてそう易々と対処出来るものではないからだ。

 

ひとまず生存者たちの処罰は一切されず代わりに彼らは全員特別移動を名目にヴィクトリーⅠ級“インサナティ”に配属となり第18軍の領域へ移動となった。

 

そこで彼らはバーチ・テラー元情報部大尉率いる反乱勢力と戦い敵艦を撃破する戦果を挙げた。

 

後にバーチ・テラーの反乱と呼ばれる一連の抵抗運動が終結した後“インサナティ”は再び第6軍に引き戻された。

 

そこで今回の事件を受けて編成されたカタナ艦隊追跡部隊というカタナ艦隊を追跡し撃破、または捕縛する為の部隊に配属された。

 

この帝国宇宙軍の中でカタナ艦隊と遭遇した事のある唯一の将兵達だ。

 

最初この配属になった時“インサナティ”の艦長を務めていたスケリット中佐は拒否した。

 

彼は明らかに怯えており戦功を挙げて副長に昇進したシュメル大尉らの目の前でまるで駄々をこねる子供のように暴れて抵抗した。

 

だが結局この運命からは逃れられず、スケリット中佐は渋々追跡部隊に参加することとなった。

 

追跡部隊はあちこちを飛び回りこの銀河系の様々な場所を探した。

 

コア・ワールドからアウター・リムに至るまで、追跡部隊は止まらなかった。

 

されどカタナ艦隊追跡部隊は結局目標のカタナ艦隊を見つける事すら出来ずこれ以上の成果は見込みがないとして部隊は解散された。

 

それから司令部はむしろこの事件を隠蔽するようになった。

 

生存者とこの一連の事件と関わりを持った持った将校達は皆箝口令が言い渡された。

 

そして“ヴァニッシュ”の生存者達は今度は全員バラバラの場所へ配属された。

 

艦長のスケリット中佐はバーチ・テラーの反乱時の戦功を理由に大佐に昇進しインペリアルⅠ級“リパリマンド”の艦長となった。

 

技術士官だったフォス少尉は今度は第2軍に配属となりセンサー士官のフレッダ准尉はフォンドアの造船所守備隊に配属となった。

 

航行士官のタージャ少尉はプレフスベルト・アカデミーのスタッフとなり通信士官のアンゲル少尉は惑星カリダの帝国軍基地通信士官になった。

 

甲板士官のヴィーニモ中尉はシュメル大尉と同じく大尉に昇進し帝国宇宙軍第七艦隊に配属され結局この“インサナティ”に残ったのはシュメル大尉だけだった。

 

これで事件は完全に抹消されカタナ艦隊をめぐる一連の行動は終わるかに思われた。

 

だがあの亡霊がかけた“呪(・)い(・)”はまた別物だった。

 

“ヴァニッシュ”から生き延びた生存者達に徐々に不幸が訪れる。

 

まずインペリアル級の艦長であったスケリット大佐が“死(・)ん(・)だ(・)”。

 

彼は突然ブリッジで何かを見たように瞳孔を開きそして倒れた。

 

部下達が必死に声を掛け医療室に運ばれ治療を受け始めた時にはもう手遅れだった。

 

謎の発疹ウイルスが何故か心臓にのみ感染し心肺機能を破壊したらしく稀に類を見ない奇病として扱われた。

 

医師の1人によればカースナム・スパイスが原因ではないかと言われているがこれ以上のことは遺体からも情報が伝わらなかった。

 

次に被害を被ったのはアンゲル少尉だった。

 

彼女の両親もスケリット大佐と同じく謎の発疹ウイルスに罹り2人とも死亡した。

 

両親の死亡は丁度あの事件から1年経った後のことでありその1日前にスケリット大佐は死亡していた。

 

それだけでは終わらない。

 

フォンドア造船所の守備隊に配属されたフレッダ准尉が今度事故で亡くなった。

 

造船所ステーションを移動中にハイパードライブが故障し強制的にジャンプアウトさせられた一隻のスフィルナ級コルベットが運悪くフレッダ准尉のいた場所に直撃し准尉は即死した。

 

それから3年後大尉に昇進したフォス少尉がレンディリで新型クルーザーの開発に参加中、兵器の暴発事故に巻き込まれ死亡した。

 

航行士官のタージャ少尉も同じ頃プレフスベルト・アカデミーでドレッドノート級の訓練艦に乗艦中、コントロールを失ったスターファイターが彼のいるブリッジに突っ込んできてそのまま巻き込まれ死亡した。

 

奇しくもそのスターファイターを操縦していたパイロットはかつて“ヴァニッシュ”のセンチネル級を操縦していたパイロットの1人だったそうだ。

 

こうして1人ずつ、不慮の事故や謎の病気に巻き込まれて帝国軍から消えていった。

 

軍を退役したアンゲル少尉も数年後自殺し第七艦隊で大佐にまで昇進していたヴィーニモ中尉もその後ロザルの反乱鎮圧時に乗艦のスター・デストロイヤーがパーギルの群れに襲われて行方不明となった。

 

他にも生存者だった宇宙軍トルーパーが行方不明になったり生存者だったストームトルーパーが次に所属された隊で唯一の戦死者になったりと不幸は続いた。

 

1人、また1人と減っていき遂に帝国軍に最後まで残っていたのは順調に出世の道をスケリット大佐の代わりに歩んで中将まで昇進したシュメル大尉1人だけだった。

 

彼は、彼だけはそのような呪いじみた事故に遭うことなくなんとか今日まで生き延びていた。

 

だが今の彼にとってそれが“助(・)か(・)っ(・)た(・)”とは微塵も思っていない。

 

むしろこれこそ自分に課せられた呪いなのではないかと考えていた。

 

かつての仲間が1人、また1人と死んでいくことを遠くで知らされその度にあの時の出来事を思い出させ続けるという呪い。

 

あの光景は一生のトラウマであり決して逃れる事は出来ない。

 

かつての仲間を1人残らず失った後でもだ。

 

あのカタナ艦隊が放っていた共和国の国歌、今はまだ聞こえないがもしかしたら明日にはあのメロディーと共に迎えがやってくるのかも知れない。

 

そう考える度に彼は頭を抱え恐怖に震えた。

 

あの時、“コンストレイント”に助けられた時に恐らくスケリット大佐はあの音楽が聞こえていたしあの姿が見えていた。

 

亡霊達の姿が見えた者が真っ先に死んでいく。

 

もしかすると他の消えていった者達も皆亡霊が見えて連れていたのかも知れない。

 

最近、よくアカデミーの前を通ると候補生達が“カタナ艦隊の呪い”と噂話をしている姿を目にする。

 

どれも“真(・)実(・)”とは異なるものだが稀に本当のことも言われていた。

 

きっと捜索部隊に配属された誰かがふと酒混じりに喋ってしまったのだろう。

 

どんなに隠したいこともやがては隠しきれずに広まってしまうものだ。

 

候補生達の間で囁かれていることは本当ではないにしてもあの艦隊に呪いがある事は確かだ。

 

あの亡霊の艦隊には呪いがある、そして我々は皆呪いにかけられてしまった。

 

それは私も同様だ。

 

私が知る、私が経験したカタナ艦隊の呪い。

 

唯一生き残り、永遠と自分の番を待ち続けること。

 

明日死ぬかもしれない、明後日死ぬかもしれない、今死ぬかもしれない。

 

明日“ア(・)レ(・)”が見えるかもしれない、明後日“ア(・)レ(・)”が見えるかもしれない、今“ア(・)レ(・)”が見えるかもしれない。

 

明日“ソ(・)レ(・)”が聴こえるかもしれない、明後日“ソ(・)レ(・)”が聴こえるかもしれない、今“ソ(・)レ(・)”が聴こえるかもしれない。

 

もう私は忘れる事は出来ない。

 

私はこの先一生この恐怖に怯えて生きていくだろう。

 

たとえこの話を私が小話として語り継いだとしても私の呪いが晴れる事はない。

 

その刀の呪いは私を永遠に縛り付けるのだから。

 

 

 

 

 

 

おわり




というわけで以前第二次銀河内戦の方でヴァリンヘルト大尉が言っていたことをベースに一本書いてみました〜


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