異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<ケイ・ベルソン/男性、付与術士>
「いらないわよ、付与魔法なんて! 気休めにしかならないんだから!」
聖女であらせられる幼馴染の発言で、俺の運命は決まった。勇者隊から追い出されるのなら願ったり叶ったりだが、儀式の代償として異世界へ捨てられるのは断固拒否だった。処刑よりも性質が悪いじゃないか。
必死に逃げるも、ダメ。女傑騎士と魔女伯爵による暴力、捕縛、嘲笑、説教。
「恥を知れ。お前のような惰弱が勇者様のお役にたてるのだぞ。潔くその身命を捧げよ」
「下賤の見苦しさには辟易するわね。勇者様には帰郷したとでも伝えておくわ」
せめてと頼んで遺書を書かせてもらえたが、数行も書くうちにしみじみと諦めがついてしまった。どうしようもなく俺は死ぬし、この遺書も故郷へ届けられやしないのだと。虚しくもバカバカしくなって色々と書きなぐってやった。俺が付与術士じゃなく呪言術士だったら、さぞかし強力な呪詛となったろう。
そして魔法陣の光に包まれて……東京都練馬区光ヶ丘公園にて目が覚めたんだ、俺は。
あの日からもう3年が経った。
最初は混乱の極みだったし、警察にも病院にも迷惑をかけまくったものだが、今はどうにかこうにか人並みの生活を送れていると思う。国民年金も健康保険料も支払えているし。
金を稼ぐ手段は、付与魔法だ。
あっちでは「気休め」呼ばわりだった俺の魔法……基本的には触れている物体にしかかけられず、増幅効果は対象物体の出来栄えと正比例の関係にあるという微妙性能。なまくら刀にかければそこそこ切れるようになるし、名剣にかければ宝剣のごとくになるが、武器を振るうのが俺ではたかが知れている。勇者隊では主に荷馬車や野営道具へかけて行軍に貢献していた。まったく評価されなかったが。
しかし、ここ日本では話が大違い。
だって、付与魔法と科学技術の相性がヤバい。
工業製品、特に電化製品の精巧さときたら伝説武具が幼稚に思えるほどだからだ。電子回路を向こうの儀式神官に見せてやりたいよ。泣くんじゃないかな。その精密緻密な合理性……付与魔法の増幅効果がとんでもないことになる。掃除機ひとつで暴風を起こせるし、除湿器ひとつで泉を生み出せる。もう二度とやらないけれど。
賢い俺は、今もこうして、パソコンに付与魔法をかけているぜ。
抱えた有線マウスたちの先で幾つもの頼もしい作動音……西に動画編集で苦しむ企業があれば超高速エンコードを提供し、東にビッグデータを利用したい企業があれば分析もシミュレーションも代行し、それはそれとして暗号通貨のマイニング作業に勤しむワークスタイル。
名付けて、エンチャンテッド・パソコン・ワークス! アニメ観ながら稼げるのが素敵!
コーヒーも淹れたし、さあて、何を観ようかしらん……今期はロボットものが多くていい……異世界系も増えてきたなあ。何とも言えない気分。どうしたって向こうを思い出させられる。
ほら、このピンク髪のキャラとか幼馴染聖女にそっくりじゃないか。あいつ、母さんに俺のこと聞かれたらどう答えるんだろう。尊い犠牲になったとか? いや、二度と村へ帰らないのか。勇者に夢中だったしなあ。そうそう、この主人公にそっくりな美少年にさ。へえ、この子も勇者なのか。名前も同じとはすごい偶然もあったもんだ……いやいやいや! 偶然なわけないよね!?
え、何だこのアニメ! 『聖剣は魔鎧を断てず』? めっちゃ不穏なタイトル!
うわあ、女傑騎士も魔女伯爵もそのまんまだ。こう見ると大層な美人さん方だなあ。声優も有名どころときた。そんなにいい声だったっけ……怒られたり馬鹿にされたりばっかりだったしなあ。
このロボットみたいな全身甲冑が「魔鎧」ってやつか?
はあ!? これが俺!? どこが? 顔見せろよ顔を!
あらすじ、あらすじは……「魔王軍の猛攻により危機に瀕した人類。対抗すべく用意された聖剣には恐ろしい呪いがかけられていた」ってマジで!? え、だって用意したの聖堂じゃないか。呪詛払いなんて余裕で……ああ、やっぱりただのアニメってことか。聖剣、俺の付与魔法なんてかかる隙もないくらい神聖祝福がかかっていたもんなあ。呪いなんてあるわけないんだ。
あはは。「呪いは仲間の不和をまねき、勇者は最も信頼していた付与術士を失う」はないわ。生贄にして惜しくない扱いだったし。「起死回生の儀式は、最強最悪の敵を生み出してしまった」……あの儀式失敗したのか?
た、ただのアニメの話さ。偶然だ偶然……偶然……放映日は明日深夜か。絶対観る。
めちゃくちゃ喉渇いた。炭酸、いやビールだな。おビール様をお招きして飲み干さないと魔法も安定しない。コンビニへ行こう。そうしよう。
日が暮れるのも早くなった。結構冷える。この震えはそういう震えのはず。3年も経つのだし。
徴用された付与術士ケイ・ベルソンなんて、もう存在しやしない。ここにいるのは、練馬区在住の個人事業主、鈴村圭でしかない。俺は平和な世界で暮らしていくんだ。
ほら、空にはドラゴンの飛影もない。たまに有翼タイプの雑魚モンスターが襲ってくるだけだ。
街灯も明るい。デイモンの潜む暗闇などなく、幽霊タイプや昆虫タイプの貧弱モンスターしかいやしない。LED電灯とスタンガンで鼻唄まじりに蹴散らせる。日本は本当に暮らしやすい場所さ。
……それにしても、今晩は有象無象が多いなあ。鬱陶しい。
いつだかに半端なキメラを倒した日を思い出す。すわ日本にも魔王軍の尖兵がと焦ったが、魔獣術士もどきの爺さんがトチ狂っていただけだった。ま、事故はどこにでもあるのだろう。
だから、目の前に立ち塞がった男も、何かの事故だとは思う。
「クソ、こんなところまで追っ手だと? 国家の犬か、それとも無恥な野良犬か!」
こいつ長剣なんて構えていやがる。こっちじゃ初めて見たぞ、そんな野蛮なもの。
「輝ける革命のために、死ねえ!」
あ、モンスター化しやがった。人間の皮をかぶっていた類か。でも弱々しい。魔王軍の雑兵に弱体化の呪いをかけたくらいの脅威度。ほれスタンガン・ライトニング。今命名。ひるんだところへLEDビームセイバー。真っ二つにしてやったぜ。
帰ろ帰ろ。おビール様とコンビニチキンで安らがないといけないんだよ、俺は。
それにしてもあのアニメだよな……まさか原作のあるやつだったりしないよな? やばい、ゾクゾクしてきた。調べないと眠れたもんじゃないぞ。眠れたところで明日にはアニメ開始だ。ひええ。
願わくば、何もかも気のせいでありますように。
このまま平穏に暮らし、健やかに死んでいけますように。