異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、異世界憑依者?>
カラスの虐待現場に出くわした。
亜麻色髪のパンツスーツ美人さんが、見間違いでなければサイレンサー付きの銃で撃ち落とした。それを小柄なパンツスーツ美人さんが押さえつけ、躊躇なく頭を潰した。
いや、そんなに唖然とした顔をされても困る。小さいとはいえここは公園で、区民税を支払っている俺には通行する権利がある。バーガーショップで買ったこのスパイシーバーガーセットをベンチでのどかに食べてもいい。基本的人権で幸福追求権だ。
「……公安め、一般人を通すとは……」
「……見られたよね? え、食べ始めたけど……」
ニュースコメンテーターいわく、動物を虐待する人間には猟奇犯罪を起こす素質があるらしい。常識の違いだな。あっちでは畜生殺しはポピュラーな戦闘訓練だった。野鳥を射落とせれば有翼モンスターを迎撃できるし、豚を断てればゴブリン程度は一撃だ。
ただまあ、お綺麗なスーツでやることでもないか。ふむ。こっちのタマネギ揚げも美味いなあ。
「……えらく観察されているな……」
「……つまんなそうだけどね……」
どっちも魔力持ちだが、俺と同じで武術主体で戦うタイプのようだ。亜麻色さんが射撃系で小柄さんは白兵系だろう。肩の肉付きで察せられる。
こっちは鎧が一般的じゃないから判別が難しいが、これまでに見かけた魔力持ちたちのほとんどが銃器を隠し持っているようだった。さもあらん。魔術主体で戦うのは技術以上に才能が必要だ。天才だけが武器甲冑無しを許される。あっちでは魔女伯爵がその筆頭だったな。
いいよなあ、魔術主体。欲しかったなあ、才能。俺も空飛びながら魔術爆撃してみたい。
「……ため息吐いたけど……」
「……む、スマホを出したぞ……」
今夜はアニメ第三話。サブタイトルは「暗く黒い破壊」か。
やはり鈴村圭のバトル回ってことだろうなあ。
ソードアズマ率いる侵攻軍とぶつかるんだろうが、いかな黒ドラゴン製魔導甲冑とて、単騎ではどうにもならないだろう。少なくとも露払いがいる。魔女伯爵に期待だな。兵力不足を覆すには大規模大威力の魔術しかない。
「えー、あのー、少しよろしいでしょうか。ボクたちはこういうものでして」
ん? 東京都環境局特殊環境部特別環境保安課……要するに東京都職員の方々か。
「一応、その、事情を説明をしておこうと……」
「お構いなく」
「えっ、いやいや、聞いてくださいよ! すごく怪しかったと思いますし!」
何だか所作のかわいらしいひとだな。隠しているつもりかもしれないが、チラチラとポテトへ視線を引かれているし。
「ええとですね、さっきのカラスですけど、よくない病気を持ってた疑いが濃厚なんです」
嘘だな。誰かの使い魔ではあったようだが。
「都としては駆除を進めてます。もしかしてご覧になったかもしれないですけど、これも鳥獣用の麻酔銃なんです。見た目がゴツいんでよく勘違いされるんですよー。アハハ……」
それも嘘。投射物を見誤るようでは戦士など務まらない。
この三年間の諸々も鑑みるに、行政側が秘密裏に動かす戦士なのだろう。あっちでもそういった人員はいた。腕利きが多かったな。特に聖堂のやつは……この小柄さん、あいつらと雰囲気が似ている。冷たい目で俺の命を値踏みしている。そうとバレている点で未熟だが。
「わざわざのご説明ありがとうございます」
賢者厄介に近寄らず、だ。納税者として大人しく退散するばかりさ。
「病気のカラスとのことでしたが、私の方で何かすべきことや気をつけることなどはありますか?」
「あ、大丈夫ですよ。気になるようなら手洗いうがいでバッチリです」
「なるほど、そうします。では失礼しますね」
お仕事頑張ってください、とポテトを進呈した。
「え、これ、え?」
「タマネギをひとつ取りましたが、あとは手つかずなので、よろしければ」
だって明らかに食べたそうだし。この亜麻色さん、どうも勇者……というか、聖剣を持つ前のあの少女を思い出すんだよな。食べ物を与えたくなる子どもっぽさというか。
さあ、このまま包囲を抜けられるかしらん……小公園を囲う五人、隠形の技量から実力はお察しだが……すんなり通してくれたか。一応の警戒だったのかな。殺気も感じられないし、彼らもまた東京都職員なのだろう。治安を護っているのだろう。
だから、ずっと後をついてきているこの気配は、治安を乱す側かもしれない。
どこで対処しよう……おっと仕掛けてきた。靴がズブズブと沈む。影へ引きずり込もうとは奥ゆかしいやり口だ。いいだろう。お相手しようとも……待て待て、そっちじゃなくてあっちへ行こう。工事中の道路があるだろう? トンネル工事部分がいい具合に暗くて広い。
「……何者じゃ、貴様」
白雪姫の絵本から這いずり出てきたような老婆が、いかにもな語尾で言うじゃないか。
「その手首のもの……三席のものじゃ。儂の目は誤魔化せんぞ」
おや、あの男の仲間か。少々面倒くさいことになったかな?
「特環、いや公安に雇われたフリーランスか? それとも米帝の手先か? 言え。言えば死に方を選ばせてやるぞ……どの子の胃袋へ収まるかをなあ」
獣魔術。ワニ型、イノシシ型、クマ型のモンスターか。いいね。どれも毛艶がよく獰猛そうだ。
「……手足を千切られても、黙っておれるかな!」
けしかけられた三体をスルーし老婆の背後へ回った。影の中を通ってだ。隙だらけの後頭部へLEDライトを添え即エンチャント。かくも吹き飛ばせば魔力制御中枢の欠片も残るまい。
さても思う。魔術主体の戦闘スタイルは本当に難しい。大威力の魔術を使えるだけでは趣味術士だ。回避か、防御か、隠形か。あるいはそれらを全て同時にか。その防衛能力が武術主体に勝るとも劣らないものでなければ、身を鎧わず前線に立つことなど叶わない。
っていうか、俺も影移動ができることはわかったろうに……迂闊なやつだ。よくしゃべるし。こっちでは戦う前にあれこれしゃべるのがスタンダードなのかな。
まあ、いいさ。俺は俺の戦闘作法で生き残り、いつか死ぬ。
今はスマホ内の魔法陣を起動だ。また使い魔コレクションが増えてしまうなあ。