異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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11 サレム財団2

<???/女性、サレム財団総帥(魔女伯爵)>

 

 

「そうか、君が億万長者の正体だったんだね。なるほど納得だ」

 

 若い声。新聞記者の家の次男で、早稲田大学理工学部に在籍。全国高校総体剣道大会男子個人優勝経験あり。

 

「CM出している企業がどれもサレム財団の傘下ってことはわかっていたんだ。でも財団トップの個人情報、ましてや異世界転生歴なんてものは調べられないから……いい機会だから言わせてもらうけど、CM、もう少し雰囲気の配慮できない? 凄惨な戦場とエメラルドグリーンの海じゃギャップにクラクラしちゃうよ」

 

 この男は個人で相当の資産を保有している。利用銀行はM銀行九段支店……この国のモンスター関連業者は誰もがそこを利用する。監視にと送った使い魔はことごとく斬り殺された。

 

「それにしても、昨晩の第三話はお互いにひどく懐かしかったよね……目当ての勇者は出てこないし、君ときたら問答無用で幻霊術を爆撃してくるしで、さあどうしようかと思っていたら魔鎧の猛突撃だもの。あれには参ったね。見事な戦術と思ったものだけど……ウフフ……全部偶然だったんだねえ! まったく人類ってやつは!」

「……ソードアズマだね、お前」

「うん。本当に久しぶりだねえ、魔女」

 

 道理で。しかし、よりにもよってこいつか。魔導甲冑をもってしても討てなかった魔将……こちらでの力はどの程度なのかしら。私の魔術で対抗できるかしら。

 

「物騒に黙るじゃん。先に言っておくけど、僕は前世の因縁で殺り合うつもりなんてないよ」

「勝手な理屈ね。お前は人類の敵であり、私の大切な人たちの仇だわ」

「今や僕も人類だし、戦争中の生き死にを『二人称の死』の感情論で片付けてほしくはないかな。あの女騎士は見事に戦い抜いたし、勇者も納得の上で死を選んだ。聖女については……あんなもの、自滅でしかないだろ?」

「お前に……お前が、彼女たちの死を語るな。不本意な別れを、不当な終わりを、不心得に肯んじるな!」

「君もね。殺した感触も知らない魔術士風情が、死を賢しらに評価するな」

 

 こいつを討つことは主目的ではない。しかし、見つけて放置できる相手でもない。

 

 そもそも、こいつはいつ、どうやってこちらの世界へ転生した。私より時期は後のはずだ。こちらでの年齢差がそのまま時期の差だろうか。断定はできない。世界間の捻じれが作用する。手段によっても変化は生じよう。特定は難しいか。

 

「ま、いいや。とりあえず『はをてず』のアニメ化は歓迎するし静観するよ。これも君の儀式魔術だろ? 世界を歪曲させて何を望むのか……わからないでもないしね」

「私の秘術を……儀式魔術を研究したか、お前」

「ご明察。研究施設をそのままにしたのは君の落ち度さ。接収し、じっくりと調べ上げたからこそ、僕はここにこうして存在している」

「私の邪魔をするのなら、今のお前にまつわる全てを灰にする」

「だから静観するって。何なら楽しみにしているくらいさ……一応言っておくと、もしも日本国に害なす場合は僕から殺しに行くこともある。少なくとも君自身にはそんな企図なんてないと聞いているけど」

「……どういうこと?」

「どうもこうも、今の僕は護国鎮護の立場なのさ。毎週土曜、親王殿下へ剣道も教えている」

 

 皇居に出入りできるほどの立場か、こいつ。裏の顔は相当のもののはず。

 

「警告はしたからね? それじゃ、アニメの感想戦でもしたくなったらまた連絡してよ」

 

 ふざけことを言い残された電話を切り――――魔導杖を、部屋の隅にわだかまる影へ向けた。

 

 油断したつもりはなかった。それでも動揺はあったらしい。私の感情が揺らいだ一瞬の隙をついて侵入してくる技量……心当たりは一人しかいない。

 

「存外に質素な部屋だ。壺のひとつ、絵の一枚もないとは」

 

 音もなく現れる黒衣長身の女……薄色の髪を尻下まで垂らして、革命騎士団団長は私を一瞥とてしない。無手無腰にもかかわらずかくも戦慄させられる。皺枯れた肌を死の予感がひっかいていく。

 

「間合いだ。私がその気ならもう終わっているさ」

 

 杖を下げた。今からならやりようがあるものの、侵入と同時に攻め懸けられたなら対抗できなかった。命の借りひとつね。

 

「何の用? 見ての通り忙しいのだけれど」

「少々問題が起きてな。詫びを入れに来た」

「……歪みは進行しているでしょう」

「うむ。ジャパンアニメで儀式魔術を実施しているのか。愉快な術式もあったものだ……それはいいのだが、ウチの首席と四席がくたばった」

 

 簡単に言う。四席の獣魔術使いはともかく、革命騎士団首席といえば『魔操剣』の異名で知られる猛者だというのに。

 

「自分で殺したのでしょう、首席のことは」

「どうにも生き苦しそうだったからな」

 

 この女は強い。自らの戦闘能力以外には何も所持しないがゆえに躊躇いがない。

 

「四席の婆は頭蓋を吹き飛ばされていたよ。それも別にいいが、幹部が上から四人くたばったがために、それ未満の連中の我慢が利かなくなってしまってなあ……明日にも戦争をやることにした」

「約束が違うわ」

「うむ。だから詫びる。すまない。折角だから私も楽しもうと思う」

 

 どうする。返す返すも、この女は強い。未来を捨てているがゆえに道理に縛られない。

 

「電話の先のなにがしに警告をでも発してやるといい。まずは自衛隊駐屯地を落とす。次は東京都庁で、最後に千代田へと攻め上がるつもりだ」

「そう。私を敵に回すということね?」

「それもまた一興だが、しかし、そうとも限らないそうだ」

 

 私の知る限りにおいてこの世界最強の異能者は、愉快そうな顔で言い放った。

 

「東京テレビは、どんな非常時でもジャパンアニメを流すのだろう? 五席がなぜか誇らしげに言っていた……さて、今回はどうなのかな?」

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