異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、使い魔コレクター>
天翔けるドラゴンの目に映る世界だ、これは。
遥かな孤を描く星の稜線……冷徹玲瓏な鋼の反り……刃文は黎明に煙る薄霧、薄雲、あるいは神気そのものであるかのよう。鍔元のハバキからは、切っ先をつかんで牙剥くドラゴンの獰猛が覗く。
「国宝、小竜景光。勅でもって国立博物館から借り受けたんだ」
国宝。勅。反応すべき言葉が聞こえるも、ちょっとそれどころじゃない。
この太刀はすさまじい。柄に隠れた部分に刻まれているのだろう魔術刻印も強力だが、刀身そのものが重層的な構造になっている。その数は百や二百じゃきかないぞ。魔術を使わずともわかるほどの増幅率……きっと数万という桁違いの層数を緊密精巧に鍛え上げてある。
「鈴村、ねえ、鼻息かけるのやめてくれない?」
「え、あ、ごめん……どうして剣崎の家にこれが?」
「仕事用。さっきも説明したけど、僕、割と宮内庁に近しい立場で対魔業をやっているからね。強敵を討つために色々と融通してもらうこともあるんだ。国宝は初めてだけど、重要文化財なら何度か使ったことあるよ」
拭って納刀する手際のなめらかさ。なるほど、確かに武芸者だ。言動といい態度といい平凡な大学生ではないと思っていたが。
「じゃあ、昨夜からの騒ぎにも関係しているのか?」
「ちょっぴり。だから避難所が混雑するのもわかっていたってわけ」
「ありがたい話だが、まさかここに出戻りする羽目になるとはなあ……あ、カーテン変わっている」
「ま、ゆっくりしていきなよ。僕はそのうち出かけると思うけど」
「対魔業……モンスター退治か」
「異形討伐ないしは異能犯罪者鎮圧かな……こっちでの言い方だと」
やはりこっちの世界にもそういう仕組みはあるわけだ。さもありなんだ。弱くともモンスターはいるわけだし。
「敵、強いのか?」
「魔王陛下に比べたら雑魚さ」
笑ってしまった。あんまりな比較だ。剣崎には想像もつかないだろうが、魔王の強さは何かと比較できるようなものじゃない。あれは災害なんだ。戦うという発想さえ浮かばない。
「陛下の御姿をさ、僕、アニメで拝せるかなあ……」
「お、剣崎はそっちのファンか……アニメで観る分には俺も楽しみかも。迫力がすごそうだ……三話のバトルシーンもすごかったし」
「……人類、内輪もめの合間に戦争していたね」
「あー、まあ、うん……やはり聖剣は必要なんだなって思ったよ」
「ふうん? それはまたどうして?」
「呪いだの歪みだのって、まあ色々と理不尽な代物だったわけだけれど……それくらいじゃないと俺たちは……じゃなくて、あっちの人類はまとまれなかったんじゃないかなあ」
勇者隊だけの話じゃない。聖堂や国や大同盟……魔王軍によって滅亡させられそうになってもなお、人類同士の争いはなくならなかった。
唯一の例外が勇者だった。勇者の携えた聖剣だけが、魔王をどうにかできるのだと皆信じた。
もしかしたらその信頼すら呪いだったのかもしれないが……結果的に人類は団結したのだし、歪みがそのまま力となっていたなら合理的と言うほかない。事実、聖剣は信じるに足る威力を示してくれていたよ。
「でも、ケイ・ベルソンは遺書で―――」
「ああああやめろやめようそれは! 違うんだよあれはさあ! 嘘じゃないけど真実じゃないっていうかさ!?」
「ええ? すごくよかったじゃない、あれ。思わず涙を誘われるというか」
「そんなことないよ? そうだとしても、それは声優さんすごいなって話であってだね?」
「ええー? 録画してあるから確認してみる?」
「してみない! あ、ソードアズマの話しよう、魔将の! あいつは敵ながら―――」
「鈴村うるさい。強さの演出はまあいいとして、何で声優が女なのさ。男でしょ。もっと渋い声にしてよ」
「え? あれ再現率高いと思ったけれど」
「は? それどういう意味?」
「どうもこうも……そういえば剣崎の声と感じが似ているよな」
「はあ!?」
チリリン、と鈴のように鳴ったのは剣崎のスマホだ。風もなしに冷気が部屋を薙いだ。
「仕事だ。帰りは何時になるかわからないから、ご飯は待ってなくていいよ」
「……なあ、俺も戦えるって言ったら、信じるか? しかも結構強いぞ、なんてさ?」
あっちでの俺はよくて二線級の戦士だった。だがこっちでは違う。付与魔法はとんでもないことになっているしモンスターのレベルも低い。数度とはいえ獣との交戦経験から鑑みても、俺は一線級と名乗れるのではなかろうか。
剣崎はいいやつだ。人格に癖があるし面倒な性癖を持ってもいるが、俺を適度に適当に相手してくれる人間……友人なんだ。久しぶりの。
「信じてもいいけど、だから何って感じ」
「そんな宝剣を持ち出すような相手なんだろ? だったら―――」
「鈴村の仕事は違うでしょ?」
真っ直ぐな眼差し。誇りをもって戦いへ臨む男の顔をしている。剣崎なのに。
「戦えるから戦う必要なんて、ない。それぞれが自分の仕事をやればいいように、この国はできている。それだけの余裕があって……そんな余裕こそ、僕が鈴村に満喫してほしいものなのさ」
いい顔で笑うなあ。あっちの戦士の澄明な悲壮とは違う、自負の強い勇壮……それが、こっちの戦士の顔なんだな? そんな顔をされたら見送るしかないじゃないか。
「ご武運を。戦士、剣崎」
「剣士さ。『一刀斎』なんて呼ばれているんだよね……平穏を君に」
あっち式の敬礼を交わした。閉まったドアへも敬礼を続けて。
で、はてなと思う。
何であいつ、あっちの敬礼の仕方を知っているんだ? アニメであったっけ?