異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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13 エンチャンター11

<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、使い魔コレクター>

 

 

 天翔けるドラゴンの目に映る世界だ、これは。

 

 遥かな孤を描く星の稜線……冷徹玲瓏な鋼の反り……刃文は黎明に煙る薄霧、薄雲、あるいは神気そのものであるかのよう。鍔元のハバキからは、切っ先をつかんで牙剥くドラゴンの獰猛が覗く。

 

「国宝、小竜景光。勅でもって国立博物館から借り受けたんだ」

 

 国宝。勅。反応すべき言葉が聞こえるも、ちょっとそれどころじゃない。

 

 この太刀はすさまじい。柄に隠れた部分に刻まれているのだろう魔術刻印も強力だが、刀身そのものが重層的な構造になっている。その数は百や二百じゃきかないぞ。魔術を使わずともわかるほどの増幅率……きっと数万という桁違いの層数を緊密精巧に鍛え上げてある。

 

「鈴村、ねえ、鼻息かけるのやめてくれない?」

「え、あ、ごめん……どうして剣崎の家にこれが?」

「仕事用。さっきも説明したけど、僕、割と宮内庁に近しい立場で対魔業をやっているからね。強敵を討つために色々と融通してもらうこともあるんだ。国宝は初めてだけど、重要文化財なら何度か使ったことあるよ」

 

 拭って納刀する手際のなめらかさ。なるほど、確かに武芸者だ。言動といい態度といい平凡な大学生ではないと思っていたが。

 

「じゃあ、昨夜からの騒ぎにも関係しているのか?」

「ちょっぴり。だから避難所が混雑するのもわかっていたってわけ」

「ありがたい話だが、まさかここに出戻りする羽目になるとはなあ……あ、カーテン変わっている」

「ま、ゆっくりしていきなよ。僕はそのうち出かけると思うけど」

「対魔業……モンスター退治か」

「異形討伐ないしは異能犯罪者鎮圧かな……こっちでの言い方だと」

 

 やはりこっちの世界にもそういう仕組みはあるわけだ。さもありなんだ。弱くともモンスターはいるわけだし。

 

「敵、強いのか?」

「魔王陛下に比べたら雑魚さ」

 

 笑ってしまった。あんまりな比較だ。剣崎には想像もつかないだろうが、魔王の強さは何かと比較できるようなものじゃない。あれは災害なんだ。戦うという発想さえ浮かばない。

 

「陛下の御姿をさ、僕、アニメで拝せるかなあ……」

「お、剣崎はそっちのファンか……アニメで観る分には俺も楽しみかも。迫力がすごそうだ……三話のバトルシーンもすごかったし」

「……人類、内輪もめの合間に戦争していたね」

「あー、まあ、うん……やはり聖剣は必要なんだなって思ったよ」

「ふうん? それはまたどうして?」

「呪いだの歪みだのって、まあ色々と理不尽な代物だったわけだけれど……それくらいじゃないと俺たちは……じゃなくて、あっちの人類はまとまれなかったんじゃないかなあ」

 

 勇者隊だけの話じゃない。聖堂や国や大同盟……魔王軍によって滅亡させられそうになってもなお、人類同士の争いはなくならなかった。

 

 唯一の例外が勇者だった。勇者の携えた聖剣だけが、魔王をどうにかできるのだと皆信じた。

 

 もしかしたらその信頼すら呪いだったのかもしれないが……結果的に人類は団結したのだし、歪みがそのまま力となっていたなら合理的と言うほかない。事実、聖剣は信じるに足る威力を示してくれていたよ。

 

「でも、ケイ・ベルソンは遺書で―――」

「ああああやめろやめようそれは! 違うんだよあれはさあ! 嘘じゃないけど真実じゃないっていうかさ!?」

「ええ? すごくよかったじゃない、あれ。思わず涙を誘われるというか」

「そんなことないよ? そうだとしても、それは声優さんすごいなって話であってだね?」

「ええー? 録画してあるから確認してみる?」

「してみない! あ、ソードアズマの話しよう、魔将の! あいつは敵ながら―――」

「鈴村うるさい。強さの演出はまあいいとして、何で声優が女なのさ。男でしょ。もっと渋い声にしてよ」

「え? あれ再現率高いと思ったけれど」

「は? それどういう意味?」

「どうもこうも……そういえば剣崎の声と感じが似ているよな」

「はあ!?」

 

 チリリン、と鈴のように鳴ったのは剣崎のスマホだ。風もなしに冷気が部屋を薙いだ。

 

「仕事だ。帰りは何時になるかわからないから、ご飯は待ってなくていいよ」

「……なあ、俺も戦えるって言ったら、信じるか? しかも結構強いぞ、なんてさ?」

 

 あっちでの俺はよくて二線級の戦士だった。だがこっちでは違う。付与魔法はとんでもないことになっているしモンスターのレベルも低い。数度とはいえ獣との交戦経験から鑑みても、俺は一線級と名乗れるのではなかろうか。

 

 剣崎はいいやつだ。人格に癖があるし面倒な性癖を持ってもいるが、俺を適度に適当に相手してくれる人間……友人なんだ。久しぶりの。

 

「信じてもいいけど、だから何って感じ」

「そんな宝剣を持ち出すような相手なんだろ? だったら―――」

「鈴村の仕事は違うでしょ?」

 

 真っ直ぐな眼差し。誇りをもって戦いへ臨む男の顔をしている。剣崎なのに。

 

「戦えるから戦う必要なんて、ない。それぞれが自分の仕事をやればいいように、この国はできている。それだけの余裕があって……そんな余裕こそ、僕が鈴村に満喫してほしいものなのさ」

 

 いい顔で笑うなあ。あっちの戦士の澄明な悲壮とは違う、自負の強い勇壮……それが、こっちの戦士の顔なんだな? そんな顔をされたら見送るしかないじゃないか。

 

「ご武運を。戦士、剣崎」

「剣士さ。『一刀斎』なんて呼ばれているんだよね……平穏を君に」

 

 あっち式の敬礼を交わした。閉まったドアへも敬礼を続けて。

 

 で、はてなと思う。

 

 何であいつ、あっちの敬礼の仕方を知っているんだ? アニメであったっけ?

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