異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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17 特別環境保安課5/エンチャンター13

<原澤/女性、特別環境保安課職員、『無限弾』、勇者?>

 

 

 ボクは勇者じゃない。だって勇敢じゃない。

 

「ダメだ、原澤! やめろ! お前は戦える身体じゃない!」

 

 戦う力の有無じゃないんだ。意志の問題だ。ボクのそれは自棄や陶酔でしかなかった。

 

「やめるのはお前だ、猪上。止めるな。原澤を現地へ届けることがウチの任務だ」

「課長! 点滴すら途中だぞ!?」

「戦わせろとは言われていない。こいつを渡せとは言われたがね」

 

 紫色の袱紗に包まれた鈍色の六連装リボルバー。グリップに菊の御紋と赤い房飾り。

 

「試作英霊銃だ。戦艦武蔵の砲塔を素材にしたと聞いている。弾頭もな」

 

 一度押し頂いてから、銃も弾も虚空へしまった。必要なものだ。

 

 命を捨てるだけじゃ足りない。命なんて、そんなに価値のあるものじゃない。投げ出したところで大したことはできない。彼女にも捨て置かれた。それくらいどうでもいいものなんだ。

 

「ついてこい。俺が運転する。猪上も、助手席に座っている分には許可するぞ。降りちゃダメだけどな」

「……三人死んだ! それが四人でも五人でも同じだ!」

「違う。殉職と無駄死にを同列に並べるな」

「無駄……無駄じゃなかったと、課長は言えるのか!?」

「言う。負けたら無駄になる死地になど部下を送るものか」

 

 課長の目は冷たく義務と責任を見てる。猪上の口は熱く怒りと悔しさを語る。どっちも好きだな。そんな冷静と情熱の間にこそ戦意はあるべきだ。

 

「まずは朗報から。北池袋インターチェンジの戦いは残敵掃討戦へ移行した。霜田と野神の来援が決め手だそうで、特環としても鼻が高い」

 

 夜鬼の群れ。あれほどの数を出現させるためにどれくらいの命が失われたんだろう。生き方の善悪貴賤を越えたところで忌々しいや。異形もモンスターも人類の天敵だもの。

 

「で、凶報ね。件の団長へは特命で『一刀斎』が当たっていたんだが―――」

 

 一刀斎。新宿の縄張りにする凄腕の異能剣士。皇室とのつながりが強い。

 

「―――相当に苦戦中。奴さん、建物みたいな巨大剣を振り回してくるから……首都高高架下の国道を走りつつの迎撃なわけだが、鉄筋コンクリートの高架をバッタバッタ切断されてちゃって……もう大災害の風景だってさ。それでも何とか雑司ヶ谷霊園へまでは誘導したみたいだけどねえ」

 

 原子力空母を両断できるのなら、戦いの片手間に高架道路くらい壊して回れるんだろう。彼女ならそれくらいのこと、やる。それと戦える一刀斎は意味がわからないけど。

 

「苦戦の他にもう一つ問題があって……ああ、ほら、百聞は一見にしかずだ」

 

 風に乗って鼻白む不穏さ……え、瘴気? 景色から色と明るさが消えて、車のライトがアスファルトをぼんやりと照らしてる……灰色の霧……目に見えるほどの瘴気ってこと? わ、雷鳴。空がいつの間にか分厚く曇って、時折、分厚さの向こうに光と音。

 

「気象庁の特務いわく『異世界化』の兆候だとさ」

 

 異世界。ストンと納得できるその言葉。

 

「守秘義務情報だけどさ……三年前から世界が霊的に前代未聞レベルで歪んできているんだそうだ。日本のとある土地を中心にしてな」

 

 それはまさか、と問うたのはボク? それとも猪上?

 

「そのまさかさ。練馬だ。ミステリースポットの『怪物』が起因にして主たる原因だと断定されている」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、異世界憑依者>

 

 

「何しに来たのさ、変身ヒーローみたいな恰好しちゃって」

 

 広葉樹の根元でヘロヘロの友人が、人の顔を見るなりそんなことを言う。

 

 インターフェイス付きのフルフェイスヘルメット、強化繊維と複合レザーのレーシングスーツ、プロテクター付きライダージャケット……黒ずくめなのは剣崎の趣味だぞ。全部借りたんだから。

 

「大変そうだから手伝おうかと思って。居候代とレンタル料も兼ねてさ」

「……バイク、何乗ってきたの?」

「ヴェ、ヴェクター」

「うわやっぱりだ! よりにもよって一番高いヤツを……ちゃんと安全なところへ停めてきたろうね?」

「あ、それは大丈夫。影の中だし」

 

 ニョイッと前輪だけ出して見せて、また沈めておく。

 

「それ、潜影術だよね? 君が生きている内はいいけど、死んだら取りだせなくない?」

「死なないし。死んだ後のことなんて知らないし」

「……他にも色々と持ち出してきたね? ちゃんと返してよ?」

「返すのはもちろんだけれど、出所と所持理由を問い質したい物ばかり……これとか何さ」

 

 ロボットが持っていそうなライフルを出した。EMG-02と刻印されている。

 

「ファンタジーよりもSFが好きなんだ、僕」

「わかる。ロマンがあるよな……あ、使い魔がやられそう。どうする? 任しといてもらって大丈夫だけれど、一緒にやる? ヴェクターで退避しとく?」

「隠形しておくよ。巻き込まれるほど間抜けじゃないから、ま、好きにやって」

「了解」

 

 墓石の間を縫って通用路へ。楓の枝ぶりの向こうでドドーンと土煙が舞った。モンスター狼が吹き飛ばされた。微々たるものとはいえエンチャント効果もあるはずだが、お相手も剛力なことだ。

 

 なんか、デカくなったしね。

 

 大柄とはいえ妙齢の美女であったのに、今や全身鎧の巨人だ。五メートルくらいある。大剣を持っていない方の腕が爬虫類系のモンスターのようになっていて禍々しい。色も黒いし、何というか、アニメで観た魔導甲冑に似ているなあ。

 

「強力な契約獣だガ、我にハ及ばん……ソードアズマはどこダ」

 

 アニメの話か小説の話か。どっちにしろ溜息さ。こっちの獣はつくづくよくしゃべる。

 

 もとより助太刀だ。事情などわかりようもない。わかる必要もない。相対したのなら倒せばいい。殺してから諸々を考えればいい。剣崎が。

 

 先制攻撃にロマン武器をお見舞いしてやる。このコイルガンをな。

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