異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<???/女性、サレム財団総帥(魔女伯爵)、異世界転生者>
何者か、あの黒ずくめは。
疑似魔導甲冑とでもいうべきコンセントレート体をまとった彼女―――恐らくは近衛騎士たる彼女の異世界相似存在―――それを、ああも容易に破るなど。
大出力かつ多彩な魔術……冷徹で的確な戦術……そして、あのおぞましき幻影術。私の知らない情報がつけ加えられていた。彼にまつわる印象操作と思しき部分はともかく、服飾品の細部や魔術用語は誤魔化しがきかない。あれらはいい加減な創作ではなかった。
黒ずくめは、明らかにあちらの人間ね。
しかもあの日の顛末をよく知る人物。あの場に居合わせた誰か。軍の魔術士? 聖堂関係者? それともいずれかの陣営の間諜でも紛れていた?
確かめなければ。正体を理解した上で活用しなければ。
「そこをどきなさい」
霊園の入り口に佇む細身の青年。ソードアズマ。かなり消耗している様子。
「そうもいかない。何事にも順番があるからね」
「……国の指示? それともお前の企みかしら」
「どっちでもよくない? ここは日本で、君の企みは黙認されているにすぎないんだから」
「宮内庁との合意は済んでいるわ」
「『災厄』の誘因と撃滅に関してだけだろ?」
どこまで察知している。国宝刀剣を抜く素振りはないけれど。
「……さっき、無関係な一般人を通したようだけれど?」
今、殺そうかしら。いいえ、あの黒ずくめへの対処が先ね。
「だから順番さ。それに彼女は『はをてず情熱講釈』の配信者だ。関係者だよ」
配信者? それがどう関係してくる?
使い魔の視界には、黒ずくめへ言葉と魔力をぶつけ続ける女性が映っている。素質はあるようだが未熟だ。戦いにもならずあしらわれているだけ。黒ずくめがその気になれば瞬く間に殺される。
黒ずくめの男、しきりにスマートフォンを気にしているけれど……あら?
バイブレーションの音。近くから。ソードアズマの方から。
「いやあ! 実際のところ、君の儀式魔術は大したもんさ!」
……霊園外周を公安に囲まれた。私は誘い出された?
「小説もアニメも実に効果的に作用している。どんどん縁を引き寄せている。歪みをもって引力を生じさせる術理は聖堂の秘匿技術だけど、君はそれを応用発展させたわけだ」
見抜かれている。こいつ、異世界転生を再現しただけのことはある。
「思えば一途なことだよねえ……世界の果てへ隠遁した君は、件の魔鎧を分析し、喰われた命が別人のものであると気づいた。そこで聖堂の生き残りを拷問し、付与術士の命が別世界へ飛ばされたことを知った……死霊術で確認したんだ。随分と凄惨にやったもんだね?」
当然の報いで、必要な行為だった。配慮の必要もなかった。
けれど、なるほど、その線で私の研究場を探し当てたのか。迂闊だったわね。
「君は世界を渡った。転生という手段で彼の命を追った。誤算はこっちの総人口だろ? 僕も最初に聞いた時は笑っちゃったよ。七十八億人とか、たった一人を探し出せる数じゃない。しかもあっちとこっちじゃ時間の流れが違う上に前後すらする」
時間の前後性を知っている? 私が五十年越しの消去法で推定したそれを。
「だから君は引き寄せることにしたわけだ。この星で最も歪みやすい場所に儀式を施し、世界を歪ませられるだけ歪ませて……彼の命を招き寄せることにね」
殺そう。
私以外の誰か……ましてや魔将が、彼を待ち受けるなど許しがたい。
袖の中の魔導杖を手中へ。隠蔽しつつ魔力を高め、閉じた口の中に呪文を詠じて。
「彼と再び会えるなら、君、日本がどうなったっていいんだろ?」
緑蛇霊を召喚。絡みつかせ―――られない。切断された。魔力体を苦もなく断つか。ならば複数はどう? 牛をもひと呑みする大蛇百匹に巻かれてしまえ。
「乱暴だなあ」
赤鷹霊を召喚。爆発。殺せてはいまい。けれど閃光と轟音と粉塵が私を隠す。その隙に幻影術で五十の私をばらまく。透明術と飛行術を併用。空へ。
「咎めたわけじゃないんだけど?」
無傷。けれど私への攻撃もなかった。防御に徹させた。
「「欺瞞ね。周囲を封鎖し、増援の気配もさせておいて」」
幻影それぞれから発声させる。どのひとつにも爆裂術が仕掛けてある。
「「精々抵抗なさいな。そうすることで、お前も歪曲のための贄になるの」」
赤鷹霊、銀燕霊、白烏霊、それぞれに大小数百と召喚し終えた。かつての戦場と同じ破壊を味わうがいい。幻霊爆撃、開始。同時に幻影も全て起爆。
「……そうよ」
爆炎。礫刃。電光。何もかもを破壊してしまえ。
「……私は、会うのよ」
地をえぐり、空を煤けさせると、せいせいする。
「そのために、こんな世界は、犠牲になれ」
私たちの世界には魔王が存在した。私たちの社会は崩壊し、人類は滅んだというのに。
ここには魔王が存在しない。星中に国家があり、人類は栄えている。何という不公平。理不尽な格差。どうして私たちはこうでなかった。
特にこの日本という国は、お綺麗に過ぎる。
ソードアズマはどこに……そこか。僅かの間に随分と逃げたものね。そんなオートバイ、置いてあったかしら。あらあら、遠目にも煤けているわね。お似合いだわ。
赤鷹霊、召喚……増幅……増幅……増幅……さあ、こうも巨大になった幻霊をどうしようかしら? お前が避けたなら、霊園はおろかその後ろのビル群まで廃虚と化すわよ? 受け止めようともそれは同じ。斬れたとしても被害が二方向へ広がるだけね。
こんな国を護るなどとうそぶく無恥なお前は、そこでみじめに死……え?
魔導杖が落ちていく。それをつかむ私の腕も。
右肩に熱さ。左手で確かめられる虚しさ。やられた。斬られたのではなく、これは光線術だ。幻霊術へ魔力を集中させていたとはいえ、私の防壁を軽々と貫くとは。
「く、黒ずくめの……んわっ!?」
突風。肌を刺す冷気。これも黒ずくめの魔術か。不覚。けれどまだ。