異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<原澤/女性、特別環境保安課職員>
「聞き違いじゃないよ。『革命騎士団』の次席は死んだ。こう、唐竹割りになってね」
賀東隊長のチョップを猪上が打ち払った。痛いじゃないか、チビ扱いはセクハラだ、とドタバタする様を呆然と見ていた。革命騎士団の次席が死んだ? あの戦車潰しの超危険人物が?
「死体が見つかった場所は練馬区某所……そう、例のミステリースポットさ。公安の警戒探索チームが駆けつけたが今回も討手は発見できなかった。わずかに残った戦痕から雷撃系と熱線系の術式を使ったと推察される……原澤の指摘はご尤もなんだが、残念、目撃者は皆無だとさ。どうも大きな音が轟いたのは一度切りという話で……つまり、割と瞬殺だったんじゃないかなあ。おじさん、思わず笑っちゃうんだけどもさ」
ありえない。昨晩は宮内庁の決戦チームですら取り逃がしたんだ。それを、周囲の被害もなしに瞬殺できる戦力なんてイメージできない。
「いよいよとんでもないよねえ。先の大事件……国際指名手配犯であるところの大魔導師ゲティングスの討伐についても、この『ミステリースポットの怪物』によるものとして処理される運びになった」
「む。では、私の推理が認められたのか」
猪上の推理……大魔導師の邪悪な実験によって生み出された化け物が、生みの親を殺して脱走、潜伏しているという仮説。
確かに、大魔道士の実験施設にも雷撃系の破壊痕があったし、大妖獣の死骸も熱線系で切断されていた。でも炎爆系が使われた形跡だってあったんだ。他にもミステリースポット内では風烈系や水瀑系の行使とおぼしき事件も起きている。一連のステルス性だって隠形系や幻惑系の術式かもしれない。
もしかして『怪物』は複数? それとも大妖獣のように多頭の化け物?
「ただまあ、上は『怪物』に一定の理性を認めている。何しろ市民の犠牲者はゼロだからな。厄介なカラス鳥人どもの被害すら、ミステリースポットにおいては報告されていない。あの辺り、今じゃ東京二十三区で一番治安いいんじゃない? 諸勢力もビビっちゃって抗争しないくせに、対魔戦力だけは巡回しまくっているんだから」
そう言って示されたのは、二枚の武器携帯許可証。許可レベルは3。銃火器だけでなく霊験兵装や契約獣の使用も一部許されるほどのもの。これはつまり。
「ウチからは君らを出す。『粉砕剣』猪上と『無限弾』原澤なら、ま、特環の本気も伝わるだろうさ」
「……『怪物』を発見した場合はどうしますか?」
「交戦は避けろ。避けえざる時はどちらかを逃がせ。公安との連携は密に」
「「了解」」
廊下へ出るなり猪上が鼻を鳴らした。いつもの獰猛な音じゃない。
「死ぬな、今回で」
「……時間稼ぎならボクの方が得意だし、足も、君の方が速いよ」
「異形変身者すら瞬殺されるならどうにもならん。私たちは囮だ……生き餌や撒き餌の類かも知れんが」
「それは……うん、そうなんだろうね。きっと監視観測役は公安だ。発案もね。ボクたち疎まれてるから」
「フン。お前がセックスをしてやらんからだ」
「そんなわけないでしょ……ボクにだって男を選ぶ権利くらいある」
「暗がりにいる。生き方も死に方も選べるものか」
武器庫受付へ許可証を提示した。チラリと顔を見られた意味を思う。ボクは今どんな表情だろう。
主武装にMP5Kを、副武装にUSPを選択。予備はグロック26でいいか。霊験兵装……属性弾を充実させておこう。有効属性がわかるかもしれないし。
「重々しいな。やれる気か?」
「そっちだって。それただの砂鉄じゃないでしょ」
「加工隕鉄入りだ。吸血鬼なら蒸発させられるぞ」
笑えた。だからもういいや。女二人、こんな仕事の割には長生きできたと思うし。
選べる最適で選べない最悪へ挑もう。なるべく笑ったままで。願わくば笑ったままで。
◆◆◆
<鈴村圭(ケイ・ベルソン)/男性、個人事業主>
なんてこった。『聖剣は魔鎧を断てず』。原作はないくせに前日譚小説があるなんて!
小説は日本語習熟度的に難易度が高いんだが……しかし読まざるをえないぞ。
おっと、主人公は勇者じゃないのか。表紙は勇者なのに。誰だ、この健気な少女は。あ、俺と幼馴染が出てきた。挿絵。これが俺かあ……もう少しガッシリしているぞ、俺。あとこんなに鬱陶しく前髪垂らしていない。幼馴染の方はよく特徴を捉えていて上手いな。勝気な性格が伝わってくる。
ふむ。まだ聖女洗礼前の、冒険者やっていた頃か……村じゃ兄妹扱いされるくらい仲が良かったんだがなあ……ああはいはい! この主人公、あの時の少女か! 孤児院を邪教徒から解放した時の!
思えば、あれが転機だったのかもしれないなあ。
あの事件で聖堂の覚えがめでたくなったんだ。幼馴染にとっては降ってわいたような出世街道だが、俺にしてみれば労多く益少なき日々の始まりさ。勇者隊への徴用もその延長線上の出来事だし。
げんなりしてきた……昼間っからビール行っちゃうかなあ……は?
え、何、どういうこと? 読み違え……てはいないよな? はあ?
あの少女が、勇者??
いやいやいや無理だよ、性別が違うでしょうよ……『聖剣の力の源は歪みであり、捻じれであり、時空すら澱ませて万物を引き寄せる暗黒である』だと? 何だその禍々しい口伝は!
『それゆえに使い手の在り様もまた歪み捻じれる。少女たるお主は少年として認識されよう。他者への嫌悪は他者を魅了しよう。温かき好意は冷たき蔑視となろう。胸に抱く絶望の深さは、人々の目に希望の輝きとして映ろう。かくて、聖剣は絶大な威力を発揮するのだ』
おいおい……おいおいおい! 聖堂教主猊下、いやクソジジイ! あんた!
そんなおぞましいものを、あんな子どもに押し付けたっていうのか!?