異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、戦士>
「あーあ。ひどいんだー。吹き飛ばしちゃってー」
「いや危ないし。っていうか殺されるところだっただろ」
お互いに白い目を向けつつ、手はバイクのボディやらフレームやらを触り合っている。口には出さないがソワソワ感を共有している。イギリス製電動バイク・ヴェクター。お値段は四桁万円なり。
「しっかし驚いた。幻霊術って割とメジャーな魔術だったりするのか?」
「……僕の知る限り、他の使い手は聞かないかな。あれなる一命のみさ」
やっぱりそうか。魔術が一般的だったあっちの世界ですら使い手は魔女伯爵だけだったものな。
「アニメ第三話みたいだったね? とんでもない爆撃でさ?」
「確かに。さだめし剣崎はソードアズマ役だな。馬じゃなくてバイクで退避したけれど」
よし、目立った傷無し。影の中へ収納しよう。
「……もしも、その通りだと言ったら?」
む。あっちに魔力のうごめき。レーザーポインターとポータブルクーラーじゃ退治しきれなかったか?
「僕が魔将ソードアズマで、さっきの魔術士があの魔女だったとしたらさ……君はどうする?」
「それなら俺も魔王軍をやる感じか? 被爆撃体験的に考えて」
「真面目に答えてよ。もっと本質の話をしているんだから」
「あれ?」
どういう流れだ。どうして剣崎ににらまれている。
「僕と魔女だけじゃない。さっきまで君へ神聖術もどきをぶつけていた女……爆撃の余波でどっかいっちゃったけど……あの女が聖女だったら? それより前に君がボコボコにした魔鎧の装着者……彼女が女騎士だったら? 外見や年齢は忘れなよ? 魔術士だろ? 概念で捉えてみて。僕らが僕らとして存在する概念……命そのものを視るようにしてさ」
真剣な顔だ。相応に答えないと怒られるやつだな、これは。
さても存在概念か……言わんとすることはわかる。
たとえば、俺と鈴村圭は存在概念が同じなんだろうな。顔の酷似はその証左。コインの裏表のように密接な関係にあるから、意識が入れ替わるなんて奇妙も起こりえた。魔術理論的にも、俺と蝶々が入れ替わるよりよっぽど自然な現象だ。
そもそも、あっちとこっちはよく似ている。
魔術と科学の違いによる文化の差異こそあれ、人間が社会を形成して暮らしている点で同一のものだ。兄弟世界とでもいった在り様だ。畢竟、個々の人間にも類似性があろうというもの。剣崎とソードアズマは確かに声が似ているし、武術の卓越さにも近しいものを感じる。鈴村圭の姉も……考えてみれば似ているんだよな、母さんに。
それで、何だっけ? ああ、魔女伯爵と幼馴染聖女と女傑騎士か。
あいつらに類似する人間がいたとしても不思議じゃない。それはその通り。ただし見分けがつく自信はないし、見分ける意味もないと思う。見つけたとして特に話すこともないし。
「……どうでもいい、かなあ」
剣崎は友人だから、しっかりと本音を伝えておこう。
「っていうかさ、仮に本人が異世界転移してきたとしても関係ないんだよ。人を護ろうとしている剣崎に協力するのは当然だし、人へ危害を加えようとする獣を倒すのも当然だ。そんなの、戦える大人なら誰だって判断がつくだろ?」
使い魔ドローンを操作して……いた。片腕になった老魔術士。こっちの隙を窺っている。
「俺は戦士で、剣崎も戦士。この場でそれより重要なことはない。だからどうでもいい。以上」
言い切り、LED電灯を右手に構えた。左手にはスマートウォッチで魔力盾を用意。
「そうか……そっかあ……アハハ! なるほどね!」
何、その変な笑顔は。国宝の太刀を構えてさ。
「歪まないんだ、君は。それが君なんだ。ずっと不思議に思っていた謎の答えもわかって超スッキリ」
「は? 謎って何?」
「聖剣の呪い。好悪逆転にしろ愛情集約にしろ、どうしてケイ・ベルソンには効果がなかったのかなってさ……」
「え、それはどういう―――」
「君がそういう君だったからか! なるほどねえ!」
太刀が、LEDビームセイバーが、それぞれに十数匹の緑蛇霊を断った。
まだ来るぞ。軽トラック大の頭の蛇が、大群で、緑色の津波のように押し寄せる。遠目には見慣れたやつだ。内には紫色の大鮫や青色の大魚も数多と抱えてもいるはず。どの一体も致命的な威力を持っているから。
サーキュレーター! 扇風機! ポータブルクーラー! ついでにドライヤーも!
全部をエンチャント全開! 突風どころじゃない大風量で……あ、これ気圧がやばい。耳が死ぬ。身体ごと吸い込まれそう。ほら剣崎も乗った乗った。またヴェクターをタンデムしてエンチャント疾走だ。それでも追いすがってくる幻霊は任せた。迎撃よろしく。おお、剣崎も概念斬撃できるのか。
「初めて会った時にも言ったけどさ!」
荒れ狂う風に負けないよう、大声で主張する。
「俺、本当はケイ・ベルソンなんだよ! 身体は鈴村圭だけれど!」
「そうだね! 一昨年くらいには知っていたよ!」
「え、そうなの!?」
「君が知っていて、僕の知らないことなんて! あるわけないでしょ!」
それもそうかと納得できてしまうのも、どうなんだろうなあ。
まあ、いいさ。
戦場で背中を預けられる安心感や充足感に比べたら、他のどんなものだって些細な気のせいでしかないんだから。