異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<???(∽女傑騎士)/女性、革命騎士団団長、『災厄』>
聖大剣の白刃に、二つ世界に轟く愚者が映っているぞ。
恥ずかしげもなく彼への想いを武装し、呆気なく敗北したみじめな姿だ。罪なき彼をおとしめ傷つけたくせに、その罪を直視せず弁解の余地を妄想し、謝罪もせず戦死という逃避すらしてのけた厚顔無恥……臆病な死兵につき合わされた敵も味方もさぞかし迷惑だったろうなあ。
新たな生に至っては、早々に道を踏み外し、暴力による弱者蹂躙に日々を費やした。何が世界最強だ。胸にわだかまる鬱屈を持て余し、八つ当たりしていただけだ。
挙句の果てには、自暴自棄からの拡大自殺に酔い、かくも惨敗する体たらく。
「……女傑と呼ばれたこともあったのになあ」
末期を呼吸する今、凪いだ心に世界はつまびらかな様を見せるから、思う。
私は呪われている。
責任逃れの方便ではなしに実感するのだ。見るもの聞くもの全てが歪んでいる。それゆえ思い考えることも歪むし、その妄執を勢いづかせようとする仄暗い力も感じる。だいたい二つの人生を諸共に自覚できるなど不正もいいところで、これもまた歪みであろうよ。
私は呪われていて……ああ……お前たちもまた、そうなのだな。
多色の幻霊術を振るう老婆―――サレム財団総帥のお前は、察するに女伯爵の在り様のままに今も戦っているが……悲しいまでに呪われている。己の執念の他に何もなくなってしまっている。あるいは以前の私の言葉も彼女を追い詰めてしまったのかもしれないが。
凍傷と裂傷にまみれた体を、黒い甲冑で鎧いはじめたな?
断たれた右腕の代わりに、黒鱗の鉤爪が生えてきたな?
それなる醜悪な魔導甲冑は、聞き知るに彼の末路そのもので……つまるところ彼と同じように苦しみ果てたいという、私たちの想いそのものなのだろうなあ。歪み果てた愛の表れなのだろうなあ。
しかれども、そうら、通じない。報われるはずもない。躍起になるほど呪われていくばかり。
減らず口のソードアズマはいいとして……もう一人の黒い男は何者だ?
底知れぬほどに強く、かかる灰色の戦場においても臆するところが微塵もない。何もかもが呪わしく歪む中で男だけがピンシャンと真っ直ぐだ。
その戦い様……根本は武技武術だな。
そら、今の足運び。剣術使いの踏み込みと体捌きだ。一流ではあるがソードアズマのそれに比べればいかにも見劣りする。魔術もすさまじいのは威力だけだ。女伯爵と比較すれば技巧の程は知れよう。
誰だ、お前は。
私も、女伯爵も、ソードアズマも、ただ強いだけではない。異世界における二度目の生であるがゆえに強力無比であれるのだ。不当不正な強者なのだ。それらを圧倒するお前もまともな人間ではあるまい。
お前よ。いっそ軽々しい戦い方で戦場を支配するお前よ。
顔を見せろ。名を名乗れ。それとも正体不明のままであることで、私の無様さを決定的にするとでもいうのか。
ああ……女伯爵が押し負けて……意地を張れば張るほどに魔導甲冑を鎧うていく。重く、大きくなっていく。知恵者が、呪われた妄執によって私の二の轍を踏んでしまう。呆気なくも接近され、刀と……なんとチェーンソーによって四肢を落とされる。尋常なチェーンソーとも思われない。どういう背景を持つ男なのだ。
それでも、手足を奪われてなお、抗うのか。怜悧で気高い女伯爵が、その身を黒ドラゴンに堕してまでも戦おうとするのか。
羽ばたき、空へ逃れて……火炎をでも吐こうというその口腔へ、銃弾。
一撃で下顎を吹き飛ばすとは、何らかの対魔概念のこめられた弾丸だ。銃声にも神秘の響きがあった。銃もまたM629シグサントスペシャル並みの伝説武器か。
ああ、なんだ、貴様か。見逃してやったのに、ここへ引き寄せられてしまったのか。
またそんな風に泣いて……勇者だろう?
誰よりも罪と向き合い、罰に耐え続け、不本意と理不尽の極みにおいてもなお人類守護のため挺身した貴様を……貴女を……心から尊敬する。その心の在り様を尊敬してやまない。
今も、震える指で引き金を引く。力無き誰かのために戦う。心労いかばかりか。
せめて、せめて、女伯爵への引導は私が引き受けよう。すでにして穢れきった我が身さ。仲間殺しの大罪が加わったところで愚者は愚者でしかないのだから。
「テメエ、ここでも、自分だけ悲劇のヒロイン気取りかよ」
あれは……あの女は、まさか……聖女か?
「テメエだって悪いだろ。テメエなんかを愛させられたあたしからしたら、テメエも加害者なんだよ。被害者面すんじゃねえよ。偉そうに、お綺麗によおっ!」
激情が純なる衝撃となって世をどよもす。やはり聖女だ。おぞましい呪いは彼女をもこの場へ集わせたのか。
「なんで、なんで、そっち側にいんだよ! そこはあたしの場所だったんだよ、本当は!」
どういう言葉と感情だ。雲間から一筋の光が差して、黒い男だけを照らす。
「わかっちゃったんだよ! ねえ! あたしが泣いたりわめいたりした時、いっつも相手したりなぐさめたりしてくれたから……嫌だよお! わかりたくなかったよお、こんなこと!」
男が、不思議そうな様子で、ヘルメットを脱いだ。
「ケイじゃん! テメエの隣にいるの、ケイじゃん!!」
日の光のまばゆさに目を細めて……彼がいる。ケイ・ベルソンがいる。ハッキリとわかる。彼の似姿や何かではなく、あの日々の先を生きる彼が、健康そうな様子でそこにいる。
「返せ! あたしのだ、そこは!! 返せよおおっ!!!」
そうか。そうだな。何もかもが歪みきったこの場この時に、聖女よ、もうそうとしか言えないのだな。血を吐くような叫びを、私だけは理解しようとも。
女伯爵よ、いまや異形と化した瞳の流す血涙の意味もまた、私だけがくみ取ろう。
大丈夫さ、二人とも。
私が、この今わの際を、きっと良いようにしてやるから。