異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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22 エンチャンター16

<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、異世界戦士>

 

 

「ケ、ケイさん……本当に……本物の……」

 

 大丈夫かな、この人。職務質問より優先すべきことがあると思うんだけれど。

 

「あの、ボク、ボクは」

「東京都職員の方ですよね? カラス駆除の件では、どうも」

「え? あ! ああ! ポテトくれた!!」

「ああはい。でも今はあっちを。立ち上がりましたよ?」

「え!? う、うわあっ」

 

 キメラ風ドラゴン化とは、何ともはや、異常な魔術だ。

 

 一体目の魔導甲冑もどきが二体目から変じたドラゴンを抱えて、融け合って、ついでとばかりに神聖術使いの女も取り込んでしまった。すごいな。どういう概念でああもひとつにまとまれるんだ。殺意程度では到底無理だ。何かしら強靭で重厚な概念をでも共有しないと、人間は融合なんてできない。

 

 だって人間は個々に独立している。同じものを目にしても、誰かと同じように見られない。好みや気分や哲学といったそれぞれの価値観によって現実を取捨選択し、受ける印象を増大せたり減少させたりする。

 

 誰もが、そうやって独自の世界を生きているんだ。

 

 だから、モンスター化するにしてもそれぞれ単体モンスターになるはずなんだが……さっきの有翼タイプモンスター大量発生もその類だったし……何なんだろうなあ、この異様さは。あるいは狂信者の集団自決のような何かなのか?

 

「……畏るべきは女性の情念だね。背伸びもせずあんなにも強大だなんてさ」

 

 悟ったようなことを言う。頷けてしまうんだが。

 

 女は強い。勇者も実は女だったのだから、勇者隊の中核はまさに四人の女だったわけだしな。彼女たちはただ戦闘力が抜群だっただけじゃない。意志力や行動力も飛び抜けていた。俺たち男が死を受け入れてしまうような局面でも諦めるところがなかった。

 

 ……妙に思い出されるなあ。

 

 キメラ風ドラゴンの鳴き声のせいだ。どうにもあの頃に聞いた色々に似ている。戦場に轟いた彼女たちの怒声や喊声、叫び声や泣き声にさ。平和や平穏なんて欠片もなかったよなあ。

 

 あいつらも、日本でなら幸せになれたのかもしれない……なんて。

 

 感傷だ。俺らしくもない。さっさと片付けてしまおう。

 

「剣崎とこっちの人、どっちがこの場の責任者になるわけ?」

「僕。この件に関しては勅命をいただき奉っているからね……やっつけよう。それを彼女も望んでいる」

 

 そうだったのかと見やったが、はて、東京都職員の人はうなづかないぞ? 剣崎? 戸惑うような顔をお前へ向けているが。

 

「それって……近衛の彼女、ですね?」

「うん。仲間を押さえつける統率、けじめをつけようとする節度、周辺被害を案じる健気……まあ最後のやつは今更感あるけど……愚直な彼女でしかありえないさ。討った僕でもわかる」

「……アナタは、魔将ソードアズマ」

「あー、ええっと……殺した相手と再会した時って、どう挨拶すればいいんだろうね?」

「恨んでません」

「だろうね。ほとんど介錯したようなものだったし」

 

 いや、お二人とも、何だか意味深かつ意味不明な会話をしんみりとお楽しみだけれど。

 

 もうキメラ風ドラゴン暴れているからね!

 

 鉤爪を回避。大顎も回避。うお尻尾、は、切断チェーンソーだ! あ、ようやく気づいた参戦してくれた。そうだよそれが戦士だし、公務員ってもんだろう。俺は戦士だが、同時に善意の市民でしかないんだぞ。

 

「剣崎! 最後に取り込まれた人を! 助けなくていいのか!」

「もう助けられないし、ここで助ける意味もない」

「え、そお!?」

「これは後始末でしかないんだ。同時に、必要な戦いでもある」

 

 おお、吐き出された火炎を斬った。やるな剣崎。言っていることはよくわからないが―――

 

「鈴村……いや、ケイ・ベルソン」

 

 ―――その表情。お前が命懸けの何かをやろうとしていることは、わかるさ。

 

「何だよ剣崎……ソードアズマって呼んだ方がいいのか?」

「どっちでもいい。それくらいに僕は両方だ。そういう風に歪んでしまった。だからきっと君が……君だけが機会を得る」

 

 体当たりを避け、振り回される鉤爪と斬り結ぶ。三本腕とは器用なやつだが技が甘いよ。物騒なものを削いでやろう……あれ? 剣崎の方の一本は割と強いぞ? 拮抗している?

 

 おいおい、爪の一つが大剣になっているじゃないか。大柄美女が使っていた伝説武器だ。道理で。

 

「きゃあああっ」

 

 あ、しまった。残る一本で東京都職員が。しかもえげつない握り方。ああでもあの人も普通じゃないな。身体強化系の魔術を使っている。勇者が得意だったやつだ。

 

 ……おいおい、何の真似だ?

 

 俺が相手する一本……鉤爪をなくしたやつが、俺に触れる。そっと。恐々と。

 

 何だ。腕ごとに随分と様子が違うじゃないか。この一本からはもう害意を感じない。慄いたように震えて、随分と遠慮深く撫でてくる。くすぐったいくらいだ。

 

「とある魔術士がいた。僕の知る限り人類最高の魔術士が」

 

 剣崎。大剣と鍔競る形だが、あまり緊張感がないな。さもなきゃこうもしゃべらない。

 

「その魔術士は世界を恨んでいた。自分と自分の大切な人たちを陥れ、弄んだと。憎悪を抱えて研究を続け、至難の業をもやってのけて……今、この戦場を創り出すに至った。歪みを極めた空間をね」

 

 歪み。確かにここは瘴気が濃すぎる。どんな無茶な概念でも実現してしまいそうな、不自然極まりない空間になっている。それこそ、三人の人間が融合してモンスター化できてしまうような。

 

「ただ……高名の木登りというか、弘法も筆の誤りというか……その歪みに本人も囚われてしまったみたいだ。本来の目的を忘れてすっかり逆上しちゃってさ。歪みへ魔を集めて討つ、なんてのは外向きの建前で途中経過。きっとその先があったはずなんだけどね……恨めしい世界へ、歪みの力の全てを叩きつけてやる的なやつが」

 

 ドラゴンの指がビクッてした。何かワナワナしている。

 

「つまり、どういうこと?」

「復讐さ。こっちの世界を犠牲にしてでも、あっちの世界へ強烈なやつをお見舞いしようってこと」

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