異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、異世界戦士>
「復讐さ。こっちの世界を犠牲にしてでも、あっちの世界へ強烈なやつをお見舞いしようってこと」
こっちとあっち。二つの世界。
わかっていたことだけれど、人に言われるのは耳に新鮮だ。なるほどなあ。色々と思い出される理由のうちの最大は、つまり、ここがあんまりに日本らしくなくて……あまりにもあっちの世界に似ているからか。
「魔術士の狙いはそんなところだと、この国の霊的治安組織は推察していた」
「霊的治安組織……まさか、聖堂的なやつ?」
「うん。名前は秘密だけど、宮内庁内の特別な機関だよ。極めて優秀で、陰険狡猾さにかけては聖堂以上かも」
「え、そんなのバケモノじゃん」
「この国には荒神が多くてね……だから、ほら、もう逃げ場はない」
視線に促され周囲を探ると……うわあ……これは確かにえげつない。
結界だ。断固たるやつだ。一朝一夕で敷設できる代物じゃないぞ。霊園を囲うように敷かれている。魔術的な影響力を完璧に遮断するやつで……しかも徐々に直径を縮小していく。高度もか。半球型なんだ。そうやって瘴気を掻き集めるから、ここはこんなにも異世界的なわけだ。
使い魔ドローンが結界に触れ、分解された。最後の視覚情報は、結界の外側に立つ平安装束の者たち。一人一人が相当の実力者だ。
「執念の魔術士に協力するふりをして……お互いに笑顔の裏で利用し合って……僕らが勝利する。日本を舞台に世界を滅ぼすなんて許すわけがない」
おお、大剣的な指を根元から斬り飛ばした。東京都職員の人はまだ苦戦中だけれど、チラとも見ないんだな。まあ、どこか子どものケンカみたいな感じで、心配するほどでもなさそうだ。剣崎にやられた腕も、まるでなだめるような気配で手を添えていく。
……何でだろうなあ。こんな馬鹿げた風景に、妙な懐かしさを覚えるのは。
「一応確認するけど、僕とも戦うかい?」
「それも必要な戦いなのか?」
「君がこの世界で生きたいのなら、僕を殺し、結界を破り、どこかへ逃げないといけない」
何も言わず諸々の電化製品を影へ落とした。
刀を向けられていたのなら少しは考えたかもしれないが、剣崎、もう刀身をぬぐって手入れを始めているんだもんなあ。
剣崎は素っ気なく「そうか」なんて言う。こっちを見もしない。
「君を触媒にして『呪詛返し』を行う。聖堂の儀式魔術への対抗措置としてね」
「俺が歪みの中心だから?」
チラリと向けてきた視線は、馬鹿の思い掛けない賢さに驚いたというそれだ。
「自覚あったの?」
「ここ最近はな。どこの世界に、別世界の自分と命を入れ替える人間がいるんだ? それで、半生が同情的かつ美談的に小説化されていたりアニメ化されていたり……俺一人のために随分な不自然がまかり通ったもんさ」
ジッと手を見て、スマートウォッチをつけたままと気づいた。外して、思う。俺のエンチャントがとんでもない出力になったのも、電化製品の精密さだけが理由じゃないのかもしれない。とんでもない歪みの渦の核だから……聖剣と勇者の経緯を鑑みるにありそうな話じゃないか。
スマートウォッチを落として、そのまま両手を上げた。降参ポーズさ。
「……君は被害者だ」
「ありがとう。でも、鈴村圭と彼の家族にとっては加害者だから」
三年間、この平和な日本で暮らしてきた。何もかもが素晴らしくて、叶うのならずっとここで生きて死にたいと思っていたけれど……無理だろうなあとは感じていたんだ。
だって俺、鈴村圭の人生を奪っている。
彼の身体と戸籍を得たくせに、彼らしく振る舞うことなんてせず、彼の家族や友人たちを傷つけた。剣崎だけは変わらず友人であってくれたが、それは特殊すぎるケースだろうし、今のこの次第を思えば申し訳ないかぎりだ。
俺はいつだって俺であり、独立していて、俺以外の全てを他人事にしている。
それゆえに鈴村圭の人生を台無しにした。学歴も交友関係も、彼が築き上げてきたものはもう何一つ残っていない。就職や結婚といった未来も、彼の思い描いたものにならない。彼の来し方も行く末も、尊厳すらも、平気な顔をして踏みにじっているのが俺という人間だ。
不当だ。正せるところは正すべきだろう。
「それで? 首級でも差し出せばいいのか?」
「まさか。もう放っておいても歪みは限界を迎えるけど……君自身の力で決着しよう。中途半端になるはずもない、強烈なやつでさ」
「……コイルガンかなあ。でも、下手したら核融合とか起こしちゃうかも」
「魔力由来のものなら被害は結界を越えない。やっちゃって」
「国宝どうすんのさ」
「この通り、神様由来の護符を張っておく。これでダメなら諦めてくれるんじゃないかな」
「ヴェクターは?」
「そうそれ。ホントそれ。何でヴェクターを選んだのさ……電気関係が一番複雑だからだろうけどさあ」
「エンチャントの相性、やっぱりわかっていたんだ?」
「パソコン使った稼ぎ方教えたの、僕でしょ」
笑い合って、コイルガンを取りだした。剣崎は俺の隣に立って、身構えもしない。
それでもう、いいさ。納得できたとも。
全力でエンチャント。三腕のキメラ風ドラゴンへ照準し……東京都職員の人は本当にいいのかと目線で確認するも剣崎に呆れた風に頷かれて……俺は引き金を引いた。