異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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24 特別環境保安課6

<原澤/女性、特別環境保安課職員、『無限弾』>

 

 

「何かの冗談?」

 

 そう問い返してから、不思議に思う。いつかの今にも同じようなことがあった気がする。

 

「冗談なものか! 秩父にはすでにして清新な風が吹き抜けているぞ! いやあ、合同討伐チームは連携抜群にして特別勤務手当も太っ腹! これから焼肉屋を貸しきっての慰労パーティーだ! ワッハッハ!」

 

 通話を切る瞬間まで高笑いだなんて、こんな火笠は初めてだから……気のせいだよね。

 

「秩父討伐は大成功か?」

「うん。予定より早く倒せたどころか、『鋼狼』を契約獣できたって大喜び」

「ほう? よくも宮内庁が許したものだ……決戦チームに引き抜くつもりかもな」

「あー……焼肉屋、それでかあ」

 

 栄転ならお祝いしなきゃ、なんて笑ってコーヒーをすする。僕も猪上もここしばらく書類仕事ばかりだから、すっかりコーヒー党になっちゃった。オフィスのエスプレッソマシーンは使い放題だからね。

 

「そういえば聞いたか? ロシアの剣聖、やはりアメリカへ亡命したようだぞ」

「わ、すごい。東西のパワーバランスどうなっちゃうんだろ」

「もとより幻想だろう、そんなものは。体制反対派を用いた霊的人体実験の証拠も携えてのことらしい。魔女機関も剣聖への支援を表明した。近々ロシアへの非難声明も出すのだとか」

「わあ……大事だあ」

「よほどのことがない限り日本へは飛び火しないだろうが……それでも、もう少しシャンとしろ。またぞろ眠そうな顔をして」

 

 正論が耳に痛いや。このところ夢見が悪いというか深いというか、起きていても夢の中にいる気分で。さっきみたく既視感に襲われることもしばしば。

 

 特に今日はぼんやりだ。昨晩は『はをてず』のアニメがあったから。

 

 すごかったなあ……ケイ・ベルソン。

 

 まさかチェーンソーで儀式を突き破るなんて。勇者たちがビックリしてるのに「なるほど、俺だけが機会を得るってこういうことか」なんて言って砦から出撃して……ビームライフルみたいなやつでドッカンドッカン敵を吹き飛ばすんだもん。ファンタジーどこ行っちゃったのって感じ。

 

 ん、着信音。わ、もう駅に着いてる。

 

「ちょっと出てくるね。渉外業務ってことで」

「ああ、あの男か。もうセックスはしてやったのか?」

「そういうんじゃないから……彼、まだ学生だよ?」

「大学生だろう? やり慣れた頃合いじゃないか」

 

 何さ、そのハンドサイン。下品な猪上は放っておいて、外へ。今日も東京はよく晴れてる。

 

 何だかまぶしいくらいの平和。賑やかなカフェでパフェの食べ比べなんてしてるのが、皇室の切り札『一刀斎』なんだから。

 

「観ました?」

「うん、観た観た!」

 

 まあ『はをてず』友達なんだけどね、剣崎くんは。

 

 都庁行事の警備で知り合って、退屈しのぎにと薦められたネット小説……すっかりハマっちゃったもの。アニメ化前に知れたのはラッキーだったな。

 

「すごかったねえ。小説版でも目立たないところであれこれ活躍してたけど、あんなにパワーアップするなんてビックリ。ビームでズバーってやったり、バイク乗ってバババーって駆け回ったりしてさ」

「アメリカ製コイルガンとイギリス製電動バイクですね。高いんです、どっちも。特にバイクの方はとっても」

「そういうのもわかっちゃうんだ。さすがだねえ」

 

 この打ち合わせ、別に急ぎの用件じゃない。でも語り合うチャンスだ。僕もケーキでも食べようかな。

 

「剣崎くんの予想通りなのにも驚いちゃった。ケイ・ベルソン、確かにアニメ版では主人公だね」

「そうなるように頑張ったみたいですから。僕じゃない僕が」

 

 不思議な言い回しを尋ねるよりも早く、表彰状みたいに手渡されたのは、分厚く大きな茶封筒。重っ。A4のコピー用紙が束で入ってる。

 

「正倉院に保管されていたUSBメモリの中身を印刷したものです」

「はあ?」

 

 どこからツッコミを入れたらいいかわかんないくらい、変な事を言われた。

 

「あそこは『あらゆるものをあるがままに保存』できるんです。痛まず腐らず歪みもせず……たとえ世界が書き換えられたとしても収められたその時のままに時空を超えて……『はをてず』の別バージョンなんてものを届けてくれました」

 

 促されるまま取りだした1ページ目に、タイトルのように書かれた一行。

 

「『聖剣は魔鎧を断てず』? 何これ? 『英雄は勇者を立てず』のオマージュ?」

「そんなもんです。今の僕らにしてみれば」

 

 ペラペラと読み進めて、ひと言。

 

「何かこれ、暗い話だね?」

「ですね。『はをてず』から勘違いコメディを抜いて鬱展開をたっぷり注いだ感じですから」

「そんなことして楽しいのかな、二次創作者さん」

「楽しくないから変えたんでしょうね。今でない今頃の僕は」

「え、剣崎くんが書いたの?」

「まさかですよ。まあ、一応目を通してください。奢りますんで」

 

 ふうん? 『はをてず』を紹介された時のことを思い出すね。

 

 のんびりと読んでいく。ケーキを食べ、パフェも食べ、ダイエットのためのサラダを食べ終わった頃に読み終わった。登場キャラもイベントも改変しない系の二次創作だから素早く読めた。

 

「ノットフォーミー、かな。ボクは元の『はをてず』の方が好き。ハッピーエンドの方が素敵だし」

「僕もですよ。だからこれは来ていくべき物語として捨て置き、今を生きる僕らはアニメ版のケイ・ベルソンを応援しましょうってことです」

 

 仲間になりそうなソードアズマもね、なんて笑って剣崎くんは帰った。見送ったボクの手には、どうしてか、重い封筒が握られてる。

 

 だって、何だか涙が出るんだ。感動したわけでもないのにさ。

 

 大切な何かを忘れてしまって……こうしている間にもどんどんそれは遠ざかっていって……でも、近づけばきっとつらくて悲しいものでもあるってわかるから、ボクは頑張らない。過ぎ去るに任せる。

 

 たまには、泣こう。この物語を読んで。

 

 そんな風に、幸せに生きていこうと思う。平穏に。健やかに。夢のように。




完結
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