異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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03 エンチャンター3

<鈴村圭(ケイ・ベルソン)/男性、個人事業主、被ノベライズ経験有り>

 

 

 憤りを持て余したとてどうしようもない時は、愚痴るに限る。

 

 アプリを起動して友人へ通話だ。ほら早く出ろよ。どうせ部屋に引きこもっているんだろう?

 

「ああ、『はをてず』のネット小説版を読んでるの。あれ鬱展開たっぷりだよね」

「知っているのか、剣崎!」

「うるさっ。鈴村が知っていて僕の知らないことなんてあるわけないでしょ。アニメ今夜だね。楽しみ」

「冗談じゃない。いや、悪い冗談そのものだ。剣崎にはわからないんだよ。勇者も、聖女も、魔法も、何も知らないから……あの融通のきかなさ……どうしようもなさが」

「『はをてず』の話だよね? それともまた、なろう小説のアイデアの話? 設定厨はクソって何度言えばわかるのかな……固有名詞なしのログラインでならいいよ。聞くよ」

 

 この3年間、何かと世話を焼いてくれるものだが、まだあちらの世界のことは妄想扱いか。

 

「違う。『聖剣は魔鎧を―――」

「だから『はをてず』。略しなって」

「―――『はをてず』って何なんだ。どういう小説なんだ」

「ああ、そっか、記憶喪失のせいで文章読解ダメになったんだっけ……ラノベも難しいんじゃ退学になって正解だね。入試から文学作品がなくなったとはいえ恥ずかしいもの」

「そういうのはいい。『はをてず』について教えてくれ」

「追放ものの亜種だよ。ハーレム主の勇者もまた被害者なものだから、ヘイトがハーレムメンバーへ集中しちゃった。感想欄見てごらんよ。すごいことになっているから」

 

 感想欄。ここか。うわ、多い多い……非難轟々で殺せ殺せの大合唱。むごたらしい殺し方すら長文で書いてある……こっちにも物騒な拷問があるんだな……特に憎まれているのは幼馴染かあ。『何様のつもりだ』? 一応聖女様だぞ。『調子にのりやがって』? 体調の良し悪しが戦術を左右するくらい強力な神聖術使いだったよ。『メス顔晒すな』? それはそう。でもまあ、多少の見苦しさはお互い様なんじゃないかなあ。最前線で戦い続けていたんだしさ。

 

 っていうか、色々と事情もあったらしい勇者はともかく、俺に対して同情的すぎやしないか?

 

 そりゃ扱いは悪かったし気分も良くはなかった。妹分だったやつに顎で扱われて喜ばしいわけもない。八つ当たりや当てこすりも面倒くさかった。だが、誰であれ従軍すれば大なり小なり理不尽を味わうものだ。

 

 そもそも、俺が一線級の戦力たりえなかったことは厳然たる事実。

 

 戦闘以外の雑務もやって当然だし、食事や寝床が勇者たちと別だったことも不当な扱いとは思わない。勇者・幼馴染聖女・女傑騎士・魔女伯爵の四人は特別扱いされるべきなんだ。その四人以外はサポート役さ。俺は斥候兵や輜重隊員たちと焚火を囲う方が自然だろう。

 

 異世界追放にしても、そうだ。逃げておいてなんだが、俺一人の命で状況を打開できるのなら安いものだと思う。戦いの中で捨て駒にされたのなら俺も甘受したよ。そういう戦争なんだから。

 

 ただなあ……あの儀式は恐ろしすぎた。

 

 今でも思い出すとゾッとする。聖堂が執り行うもののくせに聖なるところなど欠片もなく、瘴気を辺り一面に垂れ流していた。命を穢されてしまいそうな、あのおぞましさときたら。

 

「で、鈴村はどこまで読んだのさ……ああそうネタバレ問題なしなの……敗北エンドだよ。本人的にはやることなすこと裏目に出まくりの勇者は、とある戦いで大怪我を負う」

「対魔将戦か? 首無し青馬を駆るソードアズマ」

「あれ、知っているじゃない。あのキャラやたら偉そうにしゃべるよね……アニメではミュートするつもり……とにかくそれが小説版のラストバトルだよ。勇者隊は砦へ逃げ込めたものの魔王軍が迫りくる大ピンチ。もう手段を選べないってことで、聖堂は禁忌の儀式を行うんだ。大きな代償を支払わなければならない儀式をね」

 

 鳥肌が立つ。3年前のあの日を語られている。禁忌の、というのは初めて聞いたが。儀式神官は「魔将に対抗できる存在を召喚する」としか説明しなかった。

 

「犠牲となったのは、勇者がただ一人信頼し、心の拠り所にしていた付与術士」

 

 信頼。拠り所。やはり違和感しかないが……そう感じることも聖剣のもたらすという歪みなのだとしたら、どうだ? もしかして全ての辻褄が合ってしまうんじゃないか?

 

「哀れ勇者は心折れて、聖剣を手に取ることもなく、敵の大軍に呑み込まれてしまいましたとさ」

「……え、それで終わりなのか?」

「うん、お終い。明確に全滅が言及されるわけじゃないんだけど、まあお察しって感じだよね」

「そうか……やはり、あの儀式は失敗だったのか……」

「どうだろ? 勇者の絶望を叙情的につづるばかりで出来事の詳細が曖昧なんだ。アニメではその辺りも描かれるみたいだよ」

 

 アニメ、か。公式サイトでは「最強最悪の敵を生み出してしまった」とあった。ところでタイトルには「魔鎧を断てず」とあり、キャラ紹介では顔もわからない全身甲冑姿の俺……少なくとも俺と同じ名前のやつがいる。

 

 上手く言葉にはできないが、嫌な予感しかしない。何もかもが奇妙でねじくれていて、心構えの仕方もわからない。

 

「どちらにしたって、小説版『はおてず』、マゾヒスティックな結末だよねえ。加害者たちの愚かさによって被害者二人がどんどん不幸になっていくストーリーラインだもの。加害者もひどいことになるけれどね。カタルシスの方向性としては、殉教を尊ぶ一神教的美学なのかもしれない……あれ? 鈴村? もしもーし?」

 

 うなって、返事の代わりにした。何だかうまく言葉が出てこない。

 

「気持ち悪くなっちゃった? まあ、割と人を選ぶラストだからね……でもそれ時間が経つと怒りに変わるやつだよ。だから感想欄は荒れたんだし、その続きがアニメにもなるってわけさ」

「……そんな、初めから客をしぼるような企画が通るのか?」

「お、間口の重要性をわかっているじゃん。どうも採算度外視の出資者がいるみたいだよ。怒れる億万長者なのかも」

 

 礼を言い、通話を切る。切るなり立ってトイレで吐いた。苦しい。そうか、これが敗残するということか。3年も遅れて、俺はそれに気づいたのか。

 

 眩暈がする。何にどうショックを受けているのかもよくわからない。

 

 よくよく考えたところで、どうせ、何もかも今更な話なんだし……アニメまであと10時間だし……何より、ここ日本だしなあ。かくも幸せな場所でため息なんて吐きたくない。

 

 寝るか。遊ぶか。酒を飲むか。それが問題だ……遊んどくかあ。

 

 子ども向けドローン、起動。ワンクリック離陸。重力センサーを切って遠隔誘導。前、後、右、左。ウォーミングアップよし。2.4ギガヘルツのリモコン電波を何となく感知して……エンチャント……かかった!

 

 おー、速い。鋭く動かせる……けれど……魔力が安定しないなあ。でも楽しいなあ。

 

 上手くすれば有翼タイプの迎撃に使えるか? あ、でも野外で飛ばすには国土交通省へ届け出しないといけないんだよな。面倒だ。でも鬱陶しいからなあ、空のモンスターって。どうするかなあ……。 

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