異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。 作:あるなし
<鈴村圭(ケイ・ベルソン)/男性、個人事業主、アニメCV:酒田将吾>
「それで? 一体何の用なのよ」
メガネの鈴村愛子へ、メニュー表を束にして差し出した。
「何でも奢らせてもらう。好きなだけ飲み食いした上で、色々と教えてほしい」
「……何か思い出した?」
「とりあえず、その、鈴村圭という人間がここに生きていたことを」
「呆れた。そんな当たり前のことも、あんたは認めていなかったってわけ」
俺……いや、鈴村圭にとっては姉にあたる人物だ。どういう仕事をしているかはわからないが、事務に強く区役所への手続きでは何かと面倒をかけた。そういう煩雑さのためのお助けキャラのようなものと思っていたが。
「それで、その……鈴村圭がどんな人間だったのか、聞かせてくれないか」
「……それを聞いてどうするのよ。感動でもしたら、弟を返してくれるわけ?」
俺が鈴村圭ではない何かであることを、彼女は理解している。そういう症例を見たことがあると言っていた。
「帰す……帰せるのならば、そうすべきだとは思うが……」
「この3年間、色々やったわ。病院でできることは全部やったし、お祓いだって何度もやった。そういうの見ていても申し訳ないとか、後ろめたいとか、今の今まで思わなかったのね」
「……申し訳ない。この通りだ」
頭上でパフェをがっつく音がする。ホットケーキにもアイスが乗っていた。飲み物へ手が伸びた際の吐息は、どういう表情で髪を揺らせたのだろうか。
「純朴で、やさしくて、誠実で、筋の通らないことが嫌いで」
テーブルの光沢にぼんやりと映る男のことが語られている。
「熱血系のオタクだったわね。悪と戦うヒーローとか、地球を護るロボットとか、そういうのが小さい頃から大好きでさ。プラモデルをいっぱい作って、飾って……あんたは全部置いていっちゃったけどね」
ペシと打撃。頭をスプーンで叩かれたらしい。メガネの向こうの目は細められていた。
「似ているよ、あんたと弟。口調以外はそっくり。頑張って損しちゃうタイプ」
「いや、俺は……」
「弟じゃないかもしれないけど、嫌いにはなれない。幸せにはさ、なってほしいかな」
ファミレスのロゴ越しの外には、今日も平和で穏やかな時間が流れている。ガラス、ぼやけているのでしっかり拭いた方がいい。せっかく天気がいいのだし。
「あんた、一人暮らしはうまくいっているの? どうにも常識に欠けるから、何か危ないことでもしてやしないかって父さんも母さんも心配しているんだから」
危険なんて、この世界にはほとんど感じられない。どこもかしこも合理的で、人間の理屈が通るように仕立てられている。人間を滅ぼさんとする勢力も見受けられない。安心できる。くつろげる。
だからだろうか。人間の姿をした獣を、ああも見過ごしてしまっている。
「特に問題はない。そっちこそ、その、気をつけて」
「え、あんた」
「急用ができた。また連絡する」
伝票とって席を立つ。会計を済ませて外へ。脳裏に人通りのない場所を思い浮かべる。畑の中の通用路でいいか。あそこなら屋敷森の陰にもなるし。
無遠慮な殺気を寄越す獣は……よしよし、ついてきているな。
「ふうん? 意外だな。逃げも隠れもしないなんて」
獣が、人語でそんなことを言う。高そうなスーツ姿の優男だ。目立つ得物はないが装飾品が魔力を発している。魔術士か。
「自負や過信からかな? それとも、釈明でもしてくれるのかな?」
「……何の用だ」
「お礼参り。ずっと狙っていた首級を真っ二つにされちゃったからね……鳥の目を通して見ていたよ。ひどい不意討ちもあったものさ」
なるほど。やはり使い魔の類はこの世界にもあるのか。そんな気はしていたんだ。
「正体見たり、とでも言おうかな。あれは術式ではなく、非常に強力な術具か兵器の行使。恐らく使い捨てのね。つまりは採算度外視の、一か八かの賭け事にすぎない。あんなものは勝負ですら……何をした」
お前の魔力をたどることで電柱上の小鳥を使い魔と特定、レーザーポインターで眉間をターゲットした後、エンチャントした威力で貫通させた。いちいち説明しないが。
「契約獣……いや、その素振りもないなら……これは迂闊だったかな? それとも用意周到と褒めるべき? 事前に結界を敷いておいたんだろう? 巧妙かつ大胆なことだ……警察も公安も怖くないらしい」
周囲に他の獣はいない。モンスターの気配もない。もう片付けていいかな。
「しかし、望むところさ! その首級をもってすれば、次席の座はボヴェラッ」
よく回る舌ごと、喉から頭上へかけて切断してやった。レーザーポインターを使う際は角度にとても気を使う。電線を斬ってしまっては大変だ。この世界はどうにも空が狭い。
しかし、何だかなあ。こっちの戦士は戦いの時にペラペラとよくしゃべるなあ。
魔法の触媒はこの時計か……お、スマートウォッチだ……んんん? ほほう? すごいな、こっちの魔術士は呪文や魔法陣をデータで取り扱っているのか。道理で魔導書や巻物を見かけないわけだ。魔力持ちは見かけるのに変だと思っていたんだ。
さて、死体どうしよう。まだ明るいし、とりあえず畑へ埋めておくか。
◆◆◆
<原澤/女性、特別環境保安課職員、『無限弾』>
間違いない。この死体は革命騎士団三席のものだ。
「刀傷ではないぞ。見ろ、断面組織が熱変色している。熱線系の術式だ」
「そうらしいね。空へ伸びる光線を目撃したって証言が幾つか上がってるみたいだし」
「日中、霧もない状態でか……回避不能、必殺の術だな」
そう、放たれたらお終いだ。三席もまた瞬時に討たれたということなんだろう。
「角度から察するに、正面やや下方からの攻撃だ。それだけで全長は特定できないが、少なくとも、『怪物』はこの小路に入りきるサイズの存在らしい」
「穴を掘る四肢もあるね。砂を撒いて隠蔽する工夫もしてる」
「フン。殺しの手際に比べると粗雑な処置だ。そもそも、なぜ喰わん。体温の残る異能者の肉だ。異形には馳走だろうに」
「……『怪物』は異形じゃなくて、人?」
「人だとすれば異常者だな。白昼堂々の猟奇殺人と死体遺棄だ。殺人は今回で三件目になるが、どれも頭部顔面を無惨に破壊している点で異常性が際立つ」
「改造人間かもしれない。異形と合成とか融合とかさせられたタイプの」
「あの大魔導師ならやりかねんな……いずれにせよ、それは異形だろうよ。姿形が人に似るなら、より厄介というだけのことだ」
「そうだね。でも出没場所は絞られた。次席の現場からさして離れてないもの」
思っていたよりも公安の情報が速い。『怪物』に討たれた異形の後始末をしてたのは彼らだ。死骸こそかき消えてしまうものの、何かしら出没の法則性を見つけててもおかしくない。もしかしたら正体にも迫ってるのかもしれない。
共有されない情報にこそ価値がある。公安の意図はどこにある?
「……三席は、確か名うての術式使いだったな?」
「え、うん。多属性を使い分ける天才術式使い」
「術具が足りん。スマホはあるが、三流でなし、のんびりタップして発動するわけもなかろう」
「……人、かな。中途半端な気もするけど」
「人型異形ならば、そういうこともあろうさ」
寒気がした。これは嫌悪感? それとも死の予感?
どっちもありそうだ。警察が囲っていてもなお遠巻きにざわつく野次馬……あの中に『怪物』がいたっておかしくはないんだから。