異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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06 サレム財団1/エンチャンター6

<???/女性、サレム財団総帥>

 

 

『え……勇者様って、女の子だったの……?』

 

 そうよ。あなたも、私も、騎士も、誰も彼もそうとわからなかったけれど。

 

『待って。あたし、どうしてケイを嫌ってたの? ずっと、村でも、村を出てからも、ずっと護ってもらってたのに……あたしの大切な気持ち……なんで、全部、勇者様へ向けてたの?』

 

 歪められていたからよ。あなたの想いを消すのではなくて、向かう先を歪めたの。聖剣が。

 

『……あたしが、ケイを、犠牲にしたの?』

 

 あなただけではないわ。あなたの罪は三分の一。ただ、その三分の一に掛け算する思いの丈が、一緒に過ごしてきた時間が、あまりにも大き過ぎたのね。だからあなたは自分を許せなかった。それどころか憎んでしまった。

 

 魔王軍の喧噪……砦の動揺……いい再現具合ね。ひどく静かな砦内によく響いていたのよ。

 

『どうしたのかなあ、勇者! せっかく一騎打ちに応じてあげたのになあ!』

 

 魔将ソードアズマ。外でそんなことを言っていたの。嬉しそうに。

 

『ほら、出てきなよう! 人類の代表者であり最精鋭であるところの勇者! さあさあ!』

 

 随分としゃべる。私の知らない事実がかくも脚本に描かれる。あるいはソードアズマもまた歪みを越えてこちらへ来ているのかもしれない。しかもこのアニメに何らかの形で関わっている?

 

 製作会社は役員からインターン、バイトまで精査した。配給についてもそう。出資は名義こそ幾つか使っているけれど全て私だし……有志のクラウドファンディングがあったわね。あれかしら。小説のファンの声もまた縁だから受け入れたけれど、寄付した人間の中に紛れているのかもしれない。

 

 調査が必要ね。事と次第によっては、数十年ぶりに魔術を使うことになる。

 

『やめなさい、勇者。その聖剣はもう力を失っているわ』

 

 儀式を妨害したせいよ。歪みを力の根源とする剣と、世界を歪曲させる魔法陣……干渉しあって、剣の側の歪みは絡めとられてしまったのね。

 

 だから、私たちは「勇者様」の引力から解き放たれた。正気に戻ってしまった。

 

『私が時間を稼ぐ。彼と勇者を、更に後方へ避難させてくれ』

 

 近衛騎士の矜持がそう言わせたのかしら。それとも、あなたもまた想いを歪められていたのかしら。冒険者時代の彼と幾度も任務を共にした中で……なんて、いかにもあなたらしいものね。

 

『君もだ、女伯爵。武辺者の代わりは多くいるが知恵者の代わりは少ない……後を頼む。叶うならば再起と反撃を。叶わずとも、意地と矜持を。どうか、私たちの一撃を』

 

 ええ、わかっているわ。あなたのその言葉を胸に私は生き延びた。何もかもを失っても、意地と矜持だけは捨てずに、こうして過去の痛恨と向き合っている。

 

 炎上する砦から落ち延びるところで、一話の終わり……か。

 

「う……をえっ」

 

 想像以上にひどい気分。録画でこれなら、やっぱり放映時の視聴はよしたほうがよさそうね。

 

 世界の歪みは、昨夜より、さらに歪んだ。

 

 もっとよ。まだ足らないわ。ちぎれるほどに歪んで、ようやく舞台が整うの。

 

 私たちの一撃を見舞う舞台が。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、姉にメシを奢る弟>

 

 

 エンチャンテッド・パソコン・ワークスをしながらしみじみと思う。平穏って沼だ。

 

 鈴村圭について悩ましくなったのは確かだが、何しろすでに終わった話ではあるし、日々の家事やらアニメやらを消化していく中で「どうにかしなきゃ」という思いが萎えていく。

 

 それはそれとして、電化製品は素晴らしい。

 

 スマートウォッチで魔術行使というのは盲点だった。剣崎に教わったやり方でダークウェブへアクセスし、抽出したキーワードで検索をかければ……いやあ、出てくる出てくる。こっちの魔術士も自己顕示欲が強い。わかるやつにはわかるように、様々な暗号を用いて秘儀秘術の存在を仄めかしている。

 

 全部を理解する必要はない。枝葉の違いはどうでもいい。基幹部分さえわかればいいし、そこはあっちと大差はない。わかりやすいくらいさ。

 

 どれ、一発試してみるかな。

 

 ノートパソコンを触媒に見立てて、組み込んだ「芳香」術を発動……一応香ったなあ。妙な匂いだが。消耗はごく少量。電力が魔力をある程度肩代わりしているのか。触媒は触媒でデータ量として消費されるだけだから、元データは残るわけだ。なるほど。

 

 うーむ。物凄く便利だが、発動時に魔力を使う以上、高度な魔術については本人の資質次第か。神聖術とか幻霊術とか使ってみたかったんだけどなあ。

 

 エンチャントしたら、どうだろう。

 

 えげつない倍率で出力が上がるから、小さく発動させても何とかならないだろうか……なんて考えて、軽はずみに自宅を崩壊させる愚は犯さない。扇風機と除湿器で懲りているからな。明日明後日にでもどこか人里離れた場所でやろう。それまでに試したい魔術を用意しておけばいい。

 

 ……でも、空振りするのもなんだし、ちょっと実験。「芳香」術にエンチャント!

 

「んんっふ! おへっ! げほ! げほ! げほおっ!!」

 

 目も鼻も、口も喉も、肺も痛い! 換気! 換気扇回して窓開けてドア開けて脱出だあ!

 

「えっほ! げほ! うええっほ!」

 

 なるほどだ。エンチャントは有効。楽しい明日明後日になりそうだ。まずは財布を持ってきて、そしてコンビニへGOだ。消臭剤を買ってくる必要がある。吹きかけるタイプのやつを。場合によっては布団もカーテンも、色々と買い直さなくてはならないかもしれない。

 

 しかし……何だ……妙に懐かしい気分になったな。どうしてか魔女伯爵の顔を思い出した。貴族令嬢という概念を擬人化したような美女だったっけ。

 

 殺しても死ななそうなあいつも、もう死んでしまったんだよな?

 

 小説版の『聖剣は魔鎧を断てず』と、その続編アニメ……あれらの全部が本当にあったことなのだとしたら、俺は半年かけてあいつらの死に様を見届けることになるのか。飲み物を片手に。

 

 ひどい話だ。鈴村圭に関する悪い予想が当たったなら、ひどすぎて死にたくなる。

 

 でもさ、ここは楽なんだ。安寧の沼さ。惰性のまま生きていけてしまうよ。

 

 いつだって俺は無力だ。どうにもならない現実を、遣る瀬無く見続けている……あの猫、誰かの使い魔だな……別にいいか。あ、俺でもコンピューターを利用すれば使い魔持てるかなあ。

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