異世界追放エンチャンター、現代日本でアニメ観たりモンスター討ったり。   作:あるなし

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07 特別環境保安課3/エンチャンター7

<原澤/女性、特別環境保安課職員、『無限弾』>

 

 

「何かの冗談?」

 

 そう問い返してしまったのも仕方ないと思う。電話先の火笠を怒らせてしまったけど。

 

「冗談なものか! 冗談であってほしいがな! どう精査したところで、もうここには木っ端異形の影すらない! ほうら、秩父には忌々しくも清々しい風が吹いているぞ! 週末には皆様お誘いあわせのうえハイキングをどうぞだ!」

「や、自棄にならないでよ……合同討伐チームはどうなるの? まさか解散ってこともないんでしょ?」

「そのまさかさ! 警察庁も自衛隊も宮内庁も、速やかに撤収作業中だとも! まあ私は居残りだがな! パトロールと、借り上げた不動産の掃除があるからなあ!」

「ちょ、掃除機鳴らすのやめてよ。え、今掃除中なの?」

 

 何とかなだめすかせて、通話を終了。ため息をひとつついたところで、風呂上がりの猪上と目が合った。

 

「秩父討伐は空振りか?」

「聞こえてたよね……うん。一晩で討伐対象が消失したんだって」

「秩父の『鋼狼』が自然消滅するわけもない。出し抜いたのはどこの組織だ?」

「国外ってことはないね。宮内庁の物分かりがいいもの」

「老人が威儀体裁にこだわらない……身内の仕業か、あるいはいっそ己の所業か」

「自分でやれるならウチに声を掛けてこないんじゃないかなあ」

「うむ。だが身内というのもな……火笠の『乱神楽』以上の対大物戦力となれば限られるぞ」

「わかりやすいところだと決戦チームだけど、独断専行するわけないもん」

「老人たちに近しい民間ということもある。ホンダのMS研、裏千家の手水番、新宿の一刀斎あたりだ」

「最初から協力しそうだけど……あ、最近はサレム財団も皇居へ出入りしてるらしいよ」

「あの西洋魔女か。確かに余計なことをしそうではあるが」

 

 埒があかない話でも、話題だ。氷を惜しまない炭酸水へレモンを垂らしもする。この部屋を借りてからテーブルにチョコレートを欠かしたことはない。

 

 『怪物』の調査がはかばかしくない。

 

 公安、対応は丁寧だけれど情報が当てにならない。どうもボクたちを歩き回らせたいだけのように思える。「餌」説がどんどん濃く臭う。

 

 あてどなく散歩するには、この土地、不安すぎるよ。

 

 人の多いところには必ず異能者がいる。所属組織も多岐に及ぶ。古神道や密教道教といった宗教系、暴力団や大陸マフィアといった反社系、探偵や狩人といった個人系……革命騎士団以外のテロ組織員も見かけた。一応公安へ伝えておいたけれど。

 

 でも、誰も争おうとはしない。息を潜めて、耳を澄ませて、恐るべきものの気配を探ってる。異形たちにも動揺と緊張があるみたい。原因はきっと同じ。

 

「……『怪物』なら『鋼狼』も簡単に討てるよね」

「次席、三席と一蹴している。またぞろ瞬殺だろうよ」

「だよね。その線で宮内庁の協力を得られないかな」

「無理筋だ。『怪物』が討ったのならばどうして合同討伐チームを撤収させる」

「それは……そうだよねえ」

「一刀斎ではないか? あの男は口とフットワークが軽い」

「嫌うじゃん」

「嫌いはせん。斬り捨てたいだけだ」

 

 チョコレートがカキリと鳴った。停滞と諦観の甘みを炭酸で押し流した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

<鈴村圭(ケイ)/男性、個人事業主、敷金全滅経験有り>

 

 

「ええ!? いや、だから違うんだって! 変なメールなんて開いちゃいないし、変なサイトも覗いちゃいない! たとえ変だとしても有料サイトだ!」

 

 集音マイクの方へ怒鳴った。その僅かな隙にもノートパソコンが跳ね回りやがる。この野郎め。

 

「そう! イメージとしてはそれ! 暴れまわるマクロ型ウイルス! くおっ、こいつ! それを削除したいんじゃなくて……いやもういっそ物理的に削除してしまうか……いやダメだ! 出て来かねない! あ、いや、何でもない! とにかくそいつを大人しくさせたいんだよ!」

 

 やばい、唸り声まで出力しはじめやがった。いよいよ力を回復したってことか。もしかしたらエンチャントの魔力も喰われている? いや、しかし、代わりの魔晶石なり封印箱があるでなし、エンチャントやめたらそれこそ飛び出してくる。部屋がめちゃくちゃになってしまう。

 

 早まったか? でも、次の満月ってアニメ二話の日だしなあ。

 

 あ、クソ、こいつ……画面いっぱいに凶悪な顎を表示しやがって……秩父山中で捕まえたモンスター狼め! てめえ絶対に使い魔にしてやるからな!

 

「え!? ああうん、ウィンドウズマシンもあるはず! ええと、どれがどれだっけか……え、ああ、あれか! 剣崎くれたやつな! メーカー不明のノパソ……うんうん、確かに10のプロってやつだわ……ほほう! サンドボックス! なるほどそういうお手軽な方法が……大丈夫! 現状、それは解決方法となりうる!」

 

 ここをこうして……なるほどこれがサンドボックス……有線接続して、こうやって……おらあ! エンチャンテッドUSB配線で流し込んでやる!

 

 おお、なるほどこうなるのか。

 

 ははは。狼め、ざまあないな。どんなに暴れたところで、せいぜいサンドボックスを表示したウィンドウが右へ左へ移動するだけだ。音声も元OSの方でカットできる。エンチャントも必要ない。

 

「いやあ、なんとかなったわ。ありがとう剣崎! え、いや、まあ、それはいいじゃないか。誰にだって人と共有できない趣味の一つや二つあるものだろう? うんうん……は? 性癖の話じゃないし。性癖が物理的に暴れるってどういう状況だよ……いやいや何でもないって。BSSとNTRの同質的マゾヒズムについてはよくわからなくとも、こだわりをもってどちらも愛好するお前を否定しやしないさ」

 

 荒馬のごとく猛る男をなだめ、通話を終了。剣崎は頼れるが面倒な男だ。

 

 さて、残る使い魔候補たちも同様に封じてしまおう。複数を支配できるかどうかはわからないが、うまくいけば面白いからなあ。うまくいかなくとも問題ないし、な。

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