小説の林堂 二次創作 「魔術士オーフェン~はぐれ旅~無謀編」     作:イバ・ヨシアキ

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 お久しぶりです。
 イバ・ヨシアキです。
 今回はオーフェンの二作目を投稿させていただきました。
 やっと発掘できました。
 なにせウィンドウズ98のデータからの発掘なので、文字化けがすごかった。一から書き直した方が早いような気がしましたが、やはり昔書いたありのままの作品で載せた方がいいと思い頑張りました。
 
 この作品は高校生の確か……3年生の頃に書いた記憶があります。

 高校三年生か……受験に忙しい時期だったのに何を書いていたのでしょうか?

 そんな思いを乗せて掲載させていただきます。

 では、最後までお楽しみいただけたなら幸いです。

 本編をどうぞ。


お前は昔何をしていた!

 トトカンタ市。

 キエサルヒマ大陸西部に位置する文化的発展を遂げた大都市と言ってもさほど大げさではない。権威を巡っての血の動乱は起きず、民たちの死山血海を刻まれることなく緩やかにトトカンタ市は規模を拡大し、この街は一つの進化を遂げた国家だと経済学者は言う。

 この大都市は王都の経済学、都市学を修めた名のある高名な学者の面々が抱いた様々な構想の側面を持つも、この都市は貴族が絶対な支配者として君臨はせずに、または異能たる魔術士が影の支配者とはなりえない、キエサルヒマ大陸において珍しい歴史と側面を持っている。

 民主制を主体にした政策にて都市は緩やかに進化をし、民衆によってえらばれた市長によって統治され、議会を設け、貴族、平民の隔たりを深くせずに、この街 トトカンタ市は成長していった。

 現在、トトカンタ市は安定期に入り、緩やかな発展と拡張を続けている。

魔術士同盟との軋轢を生まず、また貴族同盟に反旗を翻さずに、相反するものたちが隣り合わせで暮らすこの大都市。

 故に、大都市の安定期に必ず存在し、発生する市民間の犯罪も年々と増え、都市伝説じみた殺人鬼や魔術士同盟が否定を続けるモグリの金貸し黒魔術士の小規模な魔術による傷害、暴行、爆破事件等など、またその魔術士に関与していると思われるだろう、銀髪の執事などによる不確定事件など、あまたに存在している。

 

 ──そう、銀髪のあいつ。

 

 ──この街に、あいつはいる。

 

 ──果てなき成長を続けるこの街。

 

 トトカンタ市に!

 

 と、暗がりの中、男はこの街の中央に位置する時計塔の上、屋根の上のさらなる頂上──風見鶏の上に器用に両足で立ち、不敵に腕を組みながら、夜風をあびながら摩天楼とも呼べるトトカンタ市の街々を見下ろしていた。

 ここは、すでに奴の領域だ。

 あの狡猾な男の事だ。

 すでに全ての、この街の至る所に、いや、この街全てが奴の領域だろう。いや、街そのものが奴なのだ。

 俺には解る。

「奴は……この街にいる!」

 そう。

 あの銀髪の悪魔はこの街で新しい悪を芽吹かせようとしている。それを止めることができるのは、俺しかいない。

 無辜なる民にあの男を止めることはできはしない。

まして警察や法もあの男には通用しないだろう。

 立ち向かえるのは唯一、俺のみ。

 そう。

 神に選ばれた俺。

 正義の申し子たる俺こそがあいつを止めることができるのだ。

 

「いまいくぞっ! 魔幻統帥司令キースよぉお!」

 

 とぁと、男は何の躊躇もなくに、底のない闇の中、うっすらとガス灯が点々と輝くトトカンタの街へと飛び降りていったが、

 

「ああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁっ!」

 

 雄叫びは途中から悲鳴と変わり、その声が途切れると同時にパシャンと弾ける音が闇に飲まれ消えていくも、何事もなくに夜は過ぎていく。

 

 ──とにもかくにも、事件の始まりと終わりまでの経緯とは思い上がった人間の軌跡でしかないということだった。

 

 朝が過ぎ、時刻が昼に差し掛かった頃。

この大都市の裏路地街にある、安の宿兼食堂を営んでいるバグアップズ・インに寄生していた男──オーフェンは、

「あー、飯がこんなにもありがたいんのなんてな……」

 空腹が満たされた腹をさすりながら、そう一人で何気に呟く。

跳ねのある黒髪に黒の革ジャンに黒のズボンと一色黒に染まった服装に胸元には、剣に絡むドラゴンの紋章がぶら下がっている。

その紋章は大陸魔術士の最高峰牙の塔に在籍したものに与えられるという、魔術士として生業を営む者にとっては得難い証でもあり、普段は力なくただの飾りみたくぶら下がってはいるも、今日はどこか輝きに満ちていた。

昼時の特有の陽射しのせいかもしれないが、思わず眠りこけてしまいそうなほど気温は穏やかで、腹が満たされたせいか、オーフェンもどこかうつらうつらとしていた。

こんなに心休まる日があったのだろうのかと独り言ちながら、ふつう過ぎて忘れてしまいそうな幸福を久しぶりに享受していた。

 そう、幸福はこういうことなんだなと、改めてオーフェンは思う。

 空腹が満たされ、幸福を味わうことがこんなにも大切なことだったなんてと、日ごろから忘れてしまいがちな当たり前のことを、なぜ人はこうも簡単に忘れてしまうのだろうと、幸福を忘れてしまう。

 もう忘れないように日記でもつけようかなと、昼の陽の下で、何気にそんなことを想うと。

「人のご飯を奪っておいてその言いぐさは何よおぉっ!」

 顔面に深々と右足の痕が刻まれ、後頭部に丸椅子をめり込ませていたコンスタン・マギーは、ようやくに意識を取り戻し怒声を上げた。

「ん? どうした、コギー。何を怒っているんだ?」

 あっけらかんとオーフェンは訊ね、

「それを聴くのぉ、あんたがぁあ!」

わなわなと手に弛緩性の毒が塗られているダーツを握り締めながら、臨戦態勢でオーフェンに詰め寄るも、

「ダメだぞ。コギー、暴力は何も生まないぞ」

「あんたが言う? それ?」

 眉ひとつ揺らさない彼の完璧な笑顔に後ずさり、驚愕するもコンスタンスは引かずに、

「起きてくるなり人のご飯を強奪しておきながら、なに諭すようなことを言ちゃってくれているのよぉ! ええ!」

 だん! と、客足の少ない宿の食堂にも関わらず、いつもきれいに清掃されている床に地団駄を踏みながら、聖人のような笑顔のオーフェンに詰め寄るも、

「しかたないだろ……目の前にあったんだから」

「なにっその言い方っ! アンタっ! 自分がいま何をしたかわかっているのぉお!」

「飯をとっただけだが?」

「文字通り盗ってどうするのよっ?」

 コンスタンスの怒鳴り声が響くと同時に。

「たあぁすけてぇええええええええええ!」

「……」

「え? なに? 今の声? マジク君?」

 あたふたとするコンスタンス。

気のせいか、テーブルに置いてあった水がちゃぷんと揺れたような気もした。

そんな張りつめていく空気の中でオーフェンは動じる様子もなく、

「さて、いくか」

 と、そそくさと寝間として使っている二階の部屋へと向かうも、

「ちょ、ちょっと。どこいくのよっ!」

 むずっと、どこ行く彼の肩を掴み、

「なんか、また面倒なことが起きるんじゃないの?」

「俺は知らん。気のせいだ」

 掴んでくる彼女の手を振りほどき、

「いいか、俺は今すごく幸せなんだ。頼むから変なことに巻き込まないでくれ!」

「変なことってっ! その変なことを引きこんでいるのがアンタでしょ?」

「ああ、なぜにおれのせいだ?」

「人のご飯を盗っておきながら、そんなこと言うの」

 コンスタンスはオーフェンの胸ぐらを掴み、

「ぜったいなんか変なことが起きるんだからっ! それに対処するのがアンタの唯一の存在意義でしょうがっ!」

「んな存在意義があってたまるかっ! とりあえず俺は寝るっ! 邪魔をするなっ!」

「逃がさな──」

「──助けてええええぇぇぇええっ!」

 ばんっ!と、店の扉を勢いよく開けて、この宿の一人息子であるマジクが、その美顔を崩すほどの形相で叫び上げ、コンスタンスとオーフェンの間に割って入るようにして、

「オーフェンさんっ! お願いします。助けてくださいっ!」

汗か涙かわからない程に表情をびっしょりと濡らしながら、思わず後ずさりしてしまいそうな形相で助けを求めてくる少年に、

「ど、どうした? いったい?」

「お、落ち着いてよ、マジク君」

 いつもとは様子の違う彼に、オーフェンとコンスタンスがうろたえ、窘めるも、

「落ち着けるわけないでしょぉお! オーフェンさん! 出番ですっ! 速やかに殺ってくださいっ!」 

「や、殺って……おまえなぁ」

「あのマジク君……ここに警察官がいるんだから、相談に乗るわよ」

「あなたが役にたつわけないでしょ! 警察なんて、2、3回の事情聴取してほったらかしにするだけじゃないですか! あの異常者を警察に任せても駄目です。すぐに、速やかに、奴を殺してくださいっ! 夕飯を奢りますからっ! あ、もし捕まっても差し入れはしますから、お願いですっ!」

「ちょ、ちょっとマジク君。とりあえず落ち着いてってば。それにオーフェンだってそんな事」

「……夕飯と……差し入れか……」

「あんた、そんなことで人生棒に降る気?」

「……いや、大丈夫だ。とりあえずマジク、何が起きたんだ?」 

 気を取り直してオーフェンはマジクに尋ねるも、

「いま、変質者に襲われ──」

「ここに居たか少年よおぉ!」

 刹那。

 

──ばかん! 

 

と、扉が爆発した。

否、正確にいえば扉が爆風で吹き飛び、もくもくと煙が食堂に入り込んでくる。床に転がる扉を踏み上げ、

「なぜに逃げるのだ少年よっ! 何か後ろ暗いことでもあるのかなぁ?」

「……」

「……」

 オーフェンとコンスタンスは言葉を失い、視線を虚空に泳がせていた。

目の前の扉を勢いよく開けてあらわれたのは、どう言い表せばいいのか、一言でいえば変態だった。

 否、そう表現することしかできなかった。

 まず全身に黄色いタイツを余すことなく全身にぴっちりと身にまとい、無駄に鍛えぬいた身体つきをしていたせいか、身体の線がくっきりと浮かび、例えればそう、ゴツゴツとした岩のようだったと言えばいいのだろうか、とにもかくにも無駄な身体つきをしている。

 顔つきは、これもまた派手な色をしたヘルメットを被り、虹色を主体にしているのか、ピカピカと目障りな色彩をしており、黒のゴーグルで視線は解らないが、口元が自己主張のように露出しているので、年の瀬としては既に三十路を超えていることがわかる。

 そして最後に、変態として極めているのが、背中から翻らせていた装飾の激しい銀色のマントだった。

 下手をすれば動きにくいであろう装飾がなされ、身の丈よりも余りあるその服装を見て、何も声を出すこともできずに、何も言えないままでいると。

「うわあぁあ! きぃたぁあああああ!」

 マジクは大きく取り乱し、厨房へと逃げ込もうとするも腰を抜かし、床に転がる。その拍子でテーブルに椅子をいくつも倒すも、彼はあわあわと取り乱しながら、

「オ、オーフェンさん! や、殺ってくださいっ!」

 何の躊躇もなくに頼み込んでくるマジクに、

「我は放つ光の白刃」

 やる気のない、どうでもいいような声を上げ、適当な構成を編んだ音声魔術による高熱波を変態タイツに向かって放つ。

「へっ? ぶぁあああああああああぁぁぁぁぁあああああ!」

 最低威力の高熱波でも直撃の爆発音と高熱波の衝撃は凄まじく、変態タイツはそのまま宿屋向かいのゴミ捨て場へと吹き飛び、壁にべしゃりと生々しい音を立て直撃する。

 ちょうど生ゴミの日だったなと、オーフェンはいつもの地人兄弟の対処のおかげで知りたくもない分別日を思い起こしながら、つかつかと入口へ向かい、

「我は癒す斜陽の傷痕」

 巻き戻すように扉が元に戻り、何度か扉を閉め、修復が完了したことを確認しながら、しっかりと施錠した。

 そして、

「これでいいか?」

 と、マジクに聴き、

「はい、ありがとうございました」

 笑顔で応えるマジク。

「……あの、警官ここにいるんだけど……」

「じゃあ、あいつを逮捕するのか? 逮捕するなら一人でしてくれよ。俺はあんなのとかかわり合いたくない。ってか何も見ていないからなっ!」

「見てないことにするって……まあ、私もあんまり変なのとかかわり合いたくないし……」

 しれっと訊ねるオーフェンにコンスタンスは嫌そうに胸中を吐露し、

「だったら良いだろ?」

「まあ、誰も困らないわけだし……別にいいか。あ、でもちゃんと見つからないようにしてくれた?」

「ああ、正面のゴミ捨て場に落ちたのを確認したし、大丈夫だぞ」

「なら良し」

 コンスタンスのその快活とした後に、

「さあて、二度寝でもするかな」

「マジク君、注文取ってくれない?」

「ええ、いいですよ」

 いつもの和やかな声が行き交い、この食堂のいつもの風景になるも、

「ちょっとまてぇい!」

 ばかんっと施錠した扉が跳ね、先程の変態タイツが再び扉を爆破して復活してくる。

ぜいぜいと息をし、至る所が黒焦げていたが、タイツは破けておらず、目元を隠すグラスも破損すら見えていない。

 まあ、少しくらいはダメージがあるのか、足取りはどこか重く、今の扉を蹴り壊すことに体力を使ってしまったのか、どこかおぼつかない様子だったが、変態タイツはばっと身をひるがえし、

「ふふふ……まさかここが悪の巣だったたとはっ! きさま悪かっ! いや悪だな。その目つき。黒ずくめ、金のなさそうな強盗顔まさに──」

「我は呼ぶ破裂の姉妹っ!」

 無遠慮にオーフェンに指さす変態タイツに、ぶおんと大気が振動し、内部まで浸透する衝撃波が直撃し、

「ぼぉおおおおおおおおおおおお!」

 直進方向で楕円を弧に描きながら吹き飛び、頭から再度ゴミ捨て場へと飛び込み、ぴくりぴくりと両足を二度ほど痙攣させ、動かなくなってしまう。

ゴミ箱に逆さに嵌まり両足が墓標のごとくに変態タイツが動かなくなった事を確認し、しんっとなったところでオーフェンは、

「扉は後で直していいか? こう何度も何度も直しているとなんか嫌になるんだが」

なにをしたことも気にせずに彼は蝶番が外れた扉を指さしマジクに尋ねると、

「ええぇぇぇ! ちゃんといま直してくださいよ。また入ってきたらどうするんですか」

「いや、大丈夫だと思うぞ?」

「そんなの保証できないでしょ?」

「そうよ。私だってあんな汚いものを見てご飯なんか食べたくないわよ」

「へいへい、わかりましたよ」

 しぶしぶとオーフェンは適当な返事を返しながら、床に転がっていた扉を持ち上げる。

安宿でもしっかりとした造りになっている扉は重く、力加減を間違えば腰を痛めてしまいかねない程に重かった。

 一応持てない程の重さではなかったので一呼吸で扉を持ち上げ、辛うじてまだ付いていた蝶番を外れた入口のひび割れた淵に合わせ、

「我は癒す斜陽の傷痕」

 魔術の込められたオーフェンの声量に反応した扉の部分がムクムクと再生し、折れたビスも再生し、かちりと蝶番は型にはめられ、扉が元の位置へと戻るのを確認してから、試しにノブを持ち、回し、数回ほど開け閉めし、特に問題もなく治ったと確認し、

「ほれ、治ったぞ」

「ああ、ありがとうございます」

 厨房から油のはじける音と食を誘う匂いと共に、マジクの謝辞を述べた声が響き、

「じゃあ、俺は行くからな。後で礼を忘れるなよ」

「ええ、ちゃんと返しますよ」

「マジク君、まだできないの」

「あ、もう少しでできますよコンスタンスさん」

 せっつかれるのを背中に流し、オーフェンは階段を上がるも、

 

「まてぇええいいぃぃ!」

 

 ばぼんっ!

 

と、また変態タイツが扉を爆破し入り込み、

「ふふふふ……度重なる悪の卑怯な強襲にめげる俺ではない。さあ覚悟──」

「──じゃかあしいわぁ!」

 怒鳴り声と共に爆音が響き、まるで手加減をしていない爆破の奔流が変態タイツを包み込み、扉語と入口を爆砕する。

 

 

 とにもかくにも、これが事件の始まりだった。

 

 

「……で、これ何なんだよ?」

 プスプスと黒焦げになった変態タイツを見下ろしながら、オーフェンはあきれた口調でつぶやく。

 一瞬焼死体のように思えてしまうも、時折思い出すかのように痙攣をし、かすかながらに息をしているのを確認するようにつま先で強めに蹴り上げ、生存していることを把握しながらマジクに尋ねると。

「知りませんよ。帰り道にマスル水路近くのパン屋に寄ったら、いきなり水路から這い上がってきて、目が合うなり追いかけてきたんですから。警察は何やっているんですかコンスタンスさん!」

「え? 私? なぜ、私のせいなの? マジク君怒るわよ」

 意外そうに訊ね返してくるコンスタンスに、

「……警察官がそんなこと言ってもいいんですか?」

 軽蔑なまなざしを向けながら言うも、

「あのねマジク君……警察官だからって、なにも全て起こるべくして起こる犯罪に目を光らせなきゃいけない理由はないのよ。警察官だって人間。生きる権利と安全を得る権利があるんだからっ!」

「……」

「マジク。この税金寄生菌に何を言っても無駄だぞ」

「なによぉ。私別に間違っちゃいないわよ」

 ピラフを食べながら言うコンスタンスは置いといて、

「で、変態には間違いないんだよなぁ」

「ですよね」

 改めてみても変態タイツの姿は変態以外の言葉を用いるのが難しいほど、その姿は、まさに変態そのものだった。

 無駄に光沢のある銀色の全身タイツを余すことなく身に纏い、頭には無駄に白いヘルメットを被り、目元は特注なのか変な形のゴーグルをかけ、変態以外の言葉が思いつかない程に異様な格好をしていた。

 そして問題は、いくつもの腰に携えた携帯式の爆弾だった。

 手製なのだろうか、柄がついた投擲式の爆弾をゴロゴロと腰に携えている。先程の爆発も魔術などではなく、この爆弾なんだろうと思いながらオーフェンは、正直どこかに埋めてしまおうかと考えてしまう。

確かバッグアップが倉庫に要らなくなった鎖の処分に悩んでいたなと考えている中、

「やっぱりキースさんに関係しているんですかね?」

 と、核心的な事をマジクが何気に言い、その声に反応してコンスタンスがスプーンを落としてしまう。カランと鉄のはじける音が響き、乾いた音の余韻が食堂に響くと、

「……やっぱあいつの知り合いか?」

 考えたくもなかった結論を、オーフェンはうんざりとしながら呟き、

「それしかないでしょ?」

 と、どこななれたようにマジクが言い、

「そうよね。それしか思いつかないわ……残念なことに」

 ため息交じりに頭を悩ませるコンスタンス。マジクは落ちたスプーンを拾い、厨房へと戻っていく。

「面倒事になるしなぁ……無かった事にできねえかなぁ」

 鎖のほかに何か、重いものはなかったかなと頭を悩ましていく途中。

「無かった事にはできませんぞぉ黒魔術士殿っ!」

 どこからともなく声が響く。

 聞きなれた礼儀正しいくも混沌を秘めたその声量にオーフェンは、

「……やっぱり出てきやがった」

「え、どこからくるの?」

「また床とか扉を壊すのやめてくださいよ!」

 慌てるコンスタンスとマジク。

「どこから来やがる?」

 オーフェンはあたりを見回す。

 窓。

 天井。

 床。

 どこにも異常は見当たらない。いや、油断してはダメだ。安心しきったときにあいつはいつもとんでもないことをしでかす。

 いったいどこからくると、覚悟を決め警戒していると。

「すでに起きてしまった事を止めることは不可能。動き出した運命もまたしかり。人は覚悟によって未来を手にするのです」

 扉の外れた入口からすっと食堂へと入り込んできた、銀髪の黒のタキシードを着たキースは声高らかに登場する。

「……」

「すでに起きてしまった事を止めることは不可能。動き出した運命もまたしかり。人は覚悟によって未来を手にするのです」

「……いや、二度言わなくてもいいから……」

 帰らぬ返答にセリフを繰り返すキースにオーフェンは言い、

「……なんでキースが普通に登場するのよ」

 何か納得のいかない様子でわななくコンスタンス。

「逆に驚きました」

 マジクが青ざめた表情で呟くと、

「ははは、何を驚かれております御三方。ただ普通に入口から入っただけだというのに、何をそんなに驚くようなことでございますかな?」

「いや、おまえが普通に出てくることがすでに異常なんだが……」

「あなたは本当にキースなの?」

「まさか偽物?」

「分裂したキース?」

「もしかして弟?」

「いや、もうそこでやめとけお前ら」

 錯乱しているマジクとコンスタンスを止め、オーフェンは気を取り直して、

「で、キース……こいつの事を知っているのか?」

 床に倒れたままの黒焦げ変態タイツに指さすと、

「──!」

「?」

 なぜか額から不自然なバケツでも被ったかのような汗を流しながら、それでいて無表情のままキースは、

「存じません」

 しれっと返す。

「……おい」

 胸ぐらを掴み、

「……いいか、兎にも角にもだ、こいつを連れてどこかに行けっ! そして2ヶ月か3ヶ月ほど、どこかに行ってろっ!」

「無理でございます。私、今月は色々と用事が立て込んでおりますので」

「ほう、で、用事ってなんだ?」

「そうですねぇ」

 胸ぐらを掴まれ持ち上げられているにもかかわらず、キースはさっと胸ポケットから革製の高級な手帳を取り出し、パララとページを親指でめくりながら、

「明日は飛び出せ斬首納涼ギロチン祭りに首狩り族代表として参加し、明々後日はもっちり引き裂き同盟トトカンタ支部での打ち合わせと忙しいので無理でございますな」

「んなもんに参加すなっ!」  

 張り倒そうと拳を振り上げると、

「き、きさまはっ!」

 変態タイツが目を覚ますなりキースを見て驚く。そしてそのまま起き上がるなり、

「魔幻統帥司令キースっ! まさかここで出会うとはなっ!」

 飛び上がり、近くのテーブルにすたんと着地し、

「お前がこの街で新たなる悪の芽をいぶかせようとしていることはお見通しだっ! わが正義の鉄槌を受けてみよっ!」

「……まさかこの街にあなたがやってくるとは……」

「ふふふ、例えこの身が朽ち果てようともわが正義の心は折れることはないっ! そう、俺こそ正義の味方──エニグマトマイセスZⅢっ! さあ、魔幻統帥司令キースっ! きさまの野望はここまでだ」

「……」 

盛り上がっている二人を眺めながら、オーフェンは何でこうなってしまったのかと、一人頭を悩ませていた。

 いったい何がいけなかったのか。

 今日飯にあり付き、このまま昼寝でもして過ごそうと思っていたのに。

 いや、今からでも間に合う。

 ここは何も見なかった事にしよう。

 現にコンスタンスもマジクも、先程そそくさと厨房へと逃げていった。

「それにしてもまさかここが貴様の新たな基地だったとはなっ! そして、新たなる部下もいたとはっ!」

 びしっと変態タイツ──エニグマトマイセスZⅢに指を指され、オーフェンはこめかみに何かがひきつるような感覚を覚えた。

 血管なのか、神経なのか、それとも理性なのか、ピシピシと何かが引きちぎれそうな音が脳内に響いている。

「ぬうぅ、わが無二の親友である黒魔術士殿にその様な物言い許しませんぞっ!」

「友人だとっ! なるほど組織を失い、頼るのは同じ悪の人種の繋がり。やはりこの黒ずくめは間違い様のない悪だったのかっ!」

 ぶちり。

 今、何かが切れてしまった。

「……おまえら……」

「やはり俺は正義の申し子。悪を感じる直感が存在しているのだっ! さあ覚悟しろ悪党めっ! さあ、どこからでもかかってこいっ!」

「やかましいぃわぁ!」

 バックアップズ・イン全体を包む爆音がオーフェンの怒声と共に響き、トトカンタの裏通りを激しく揺さぶった。

 

 数分後。

 バックアップズ・インのテーブルや椅子など食堂の全てがひっくり返り、床も黒焦げ、壁も真っ黒になっていた。

 ため息交じりに一人モップで床の煤を縫っていたマジクが、

「オーフェンさん……片づけてくださいよ」

「ああ、後でな……」

 うんざりとした顔でオーフェンが転がっていた椅子を手に取り、起こしてその上に座る。そんなやる気のない返事の後、マジクは真っ黒になったモップバケツの水を変えようとカウンター奥の厨房へと歩いていく。

背もたれに背中を預けずに、椅子本来の座り方ではない、だらけたような背もたれに両腕を乗せ、身体を預けながら、顎を乗せて、 

「で、お前は何なんだ?」

したくもないが、一応に訪ねておこうとするオーフェンの質問に、

「ふふふ、知りたいか。ならば教えてやろう。聞け悪党どもよっ! 俺はこの神奈木時代に正義の申し子として選ばれた正義の味方──エニグマトマイセスZⅢだっ!」

 黒焦げ以上にずたぼろになっていたエニグマトマイセスZⅢは、手を後ろに手錠をかけられているにもかかわらず、快活に答える。

 一応手製の爆弾を携えているので危ないとのことでコンスタンスに手錠をかけてもらってはいるが、本人はまるでその手錠を気にした様子もない。 

無論、隣にはキースの姿などはなく、先程の爆発前にどこかに逃げられてしまったが、この際こいつでも構わなかった。

 とにもかくにも、

「ふーん正義の味方なぁ……」

 何の感慨も沸かずに、適当に相槌オーフェンを後に、

「名前が確かエニグマトマイセス……えーと、ぜっとすりー……だったけ……なんか細菌兵器の名前みたいね」

「なんか聞いてるだけでむず痒くなりそうな名前だな。それにZⅢってことは、ⅡかⅠがいるのか?」

「ますます細菌兵器っぽいわね。化学班でも呼んだ方がいいかしら?」 

「何を言うっ!」 

困りながらメモをしているコンスタンスに一括しながら、エニグマトマイセスZⅢは、

「初代エニグマトマイセスZⅠから継承したこの偉大なる正義の名を細菌だとは、きさまらどこまで荒みきった悪なんだっ!」

「え、やっぱりⅠとⅡがいるの?」

「ってか、なんで初代はそんな名前にしたんだ? 言いにくいだろ、それ」

「……なれたら別にどうとは、ない」

「じゃあ早口で言ってみろよ。絶対噛むぞ」

 言われてムキになるかのように、

「エニグマトマイトスゼットスイー」

 言うもちゃんと言えず、口ごもるエニグマトマイセスZⅢ。

「で、払うもんは払ってもらえるんだろうな? あ?」

 威圧的な視線と目線を向けて、エニグマトマイセスZⅢの頭を掴み尋ねる。

「ふ……悪に屈する俺だと思うなよっ! 俺を殺したところで第二第三のエニグマトマイセスZⅣとⅤが──」

「いるのか?」

「……」

 また口ごもり黙ってしまうも、

「ああ、俺の正義の心の波動を感じるまだ見ぬ友よっ! 俺の名を継承してくれぇえっ!」

 一体どうしようかと、また悩んでしまう。

 これ以上関わっても何も得がないような気もする。いや、あの変態執事関係で何か得をすることがあっただろうか。

 ならここできれいさっぱりと──

「ならばその意志、私が受け継ぎましょう!」

 ばんっと扉を開けて登場する銀髪の執事──キースの再登場に、

「我は放つ光の白刃」

 いい加減な高熱波を叩き込むも、

「何をなさいます黒魔術士殿」

 無傷なキースがもそっと煙の中から出てくるが、

「ほんと……なんで無事なのあんた?」

 コンスタンスがあっけらかんと訪ねるも、

「なあ……お前、この変態の知り合いなのか?」 

 今更気にもしても仕方がないので投げやり気なオーフェンがエニグマトマイセスZⅢ訪ねるが、

「ま、まさか俺の意思を受け継ぐ第四のエニグマトマイセスZⅣがお前だったのかっ!」

「いいから話を聞けぇえ!」

 ごすっと椅子を蹴り上げて、エニグマトマイセスZⅢの顔面に蹴りを叩き込み、

「とにかくわかったっ! お前が知り合い同士だということがよーくわかったっ! だからどこかに行ってくれっ! 俺にかかわるな」

「ならばお話しいたしましょう。それはかつて昔──」

「話をきけぇえ!」

 テーブルに飛び乗ったキースを爆砕するも、

「黒魔術士殿。いきなり何をなさいます」

 爆破したテーブルの瓦礫や埃にまるで汚れていないキース。

「あ、なんでこうも無傷なんだよ。なあコギー、こいつ本当に死ぬのか? 最近こいつが俺たちが歳をとっても、何も変わらずに普通に生きてそうで不安なんだが」

「怖いこと聞かないでよ。一瞬考えちゃったじゃない!」

「ってかなんでこんな執事を雇った」

「知らないわよ。お父様だって、いつの間にか住み着いていたって言って、キースの事を全然、気にしなかったし」

「お前の親父のせいかぁあっ!」

 ばんっとテーブルをたたいてオーフェンは、

「だいたい、こんな変態ばっかりを呼びつけやがって。こいつは何なんだっ?」

 半ばやけくそ気味にエニグマトマイセスZⅢを指さしながら尋ねると、

「……ならば、お答えいたしましょう。彼はかつて私の宿敵だった正義の味方──エニグマトマイセスZⅢにございます」

「そのとおりっ! はっ!」

 手錠を引きちぎり、くるくるっと空中で回転をしながら

「流れる星の想いを乗せて、夢を守りしき心の守護者っ!」

 カウンターに着地し、ばっばっと大きく手足身体を動かせながら、

「正義の申し子。神の啓示者。運命の開拓者。私こそがエニグマトマイセスZⅢだっ!」

 何を象徴しているかわからない大仰なポーズを大層にとりながら自分の名前を叫ぶ相手を無視して、

「で、こいつとの関係は何だ?」

 尋ねると、

「……ふ、そいつはかつて俺と死闘を繰り広げた悪の組織──ベンゾジアゼピン団の首領っ!」

 無駄に手脚をばっばっと動かしながら、

「……なんか無駄な動きが多いな、こいつ」

「無駄よ、言っても聞かないタイプよこれ」

 至極冷静な意見を言いながら見るコンスタンスとオーフェンの意見など無視して、

「魔幻統帥司令キースだっ!」

 と、奇怪なポーズをとりながらキースに指をさすも、

「……なんで総帥なのに司令なの?」

「てか、ベンゾジアゼピン団ってまた言いにくい名前を……」 

 あくまで冷静に突っ込む二人。

 だがエニグマトマイセスZⅢはまるで気にした様子もなく、

「かつて……私はかつてその男と死闘を演じていたのだっ!」

「……なんで聞いていないのに語りだす」

「いるわよね。こうやってすぐに話に入ろうとする人て」

 冷めた目で言うオーフェンとコンスタンス。

 しかしエニグマトマイセスZⅢは続ける。

「そう、あれは今から数十年前だ。俺はなんの力もない、そして何も知らない、ただの平凡な普通の学生だった。あの出会いがなければ、今の俺がなかったのだ!」

「つまり転落したってことよね? いるのよねぇー、恵まれているのにもっとそれ以上を求めて転落する奴って……あれ、オーフェン? どうしたの暗い顔をして」

「……聴くな……」

 仏頂面の陰鬱な顔で言うオーフェンと、どうしたのかしらと首をかしげるコンスタンス。

 しかしエニグマトマイセスZⅢは変わらずにつづける。

「ある日の事だ。俺が大学から帰る途中、何故か偶然にも悪の秘密結社──ベンゾジアゼピン団の悪事『モモヒキ半ズボン作戦』に巻き込まれてしまったのだっ!」

「……そのベンゾジアゼピン団の悪事って、なんかね……」

「ってか、それよりもそのベンゾジアゼピン団って秘密結社とキースにどんな関係があるんだ?」

「──はっはっは、それは私、その秘密結社にて黒タイツを着た戦闘員をしておりましたので!」

 快活にキースが会話に入ってくる。

 そしてそのまま、

「いやはや懐かしいですなぁ。飛び出し式処刑器具黒樽製造業を生業としていた実家より独り立ちをして間もない苦学生時代のアルバイトとはいえ、やりがいのある仕事でございました。毎日黒全身黒タイツを着ては汗水流しながら日々与えられていたノルマ──『イッー』を片手上げで喉が裂けるまで発声し、作戦である怪人の先輩方についていき、街の水道水を苺ミルクに変えて住民一斉虫歯発生作戦など、懐かしいですなぁ。」

「……どんなアルバイトよ、それ?」

 こめかみを抑えて尋ねるコンスタンスを後に、

「で、日当はいくらもらっていたんだ? あと、それ、まだアルバイトを募集しているのか?」

 神妙に尋ねるオーフェン。

「あんた……もしかしてそのバイトをやるきなの?」

「……で、どうなんだ?」

 引き気味にコンスタンスの問いかけなど無視してキースの返答を待つと、

「いえ、もうございません」

「そう、もうあの組織はない。無くなってしまった……そこにいる魔幻統帥司令キースによってなっ!」

 エニグマトマイセスZⅢがびしりと指をさして、

「貴様がのトップになったせいで。お前はベンゾジアゼピン団の資金を使い込んだしまったせいで、ベンゾジアゼピン団は、ベンゾジアゼピン団は潰れてしまったんだぞっ!」

「……」

「……」

 半眼で睨まれるようにオーフェンとコンスタンスに睨まれるも、キースは表情を変えずに、「組織のさらなる運営の為、ブランド牛のオーナー商法に大金をつぎ込んだのですが……いやはや先物取引とは難しいですなぁ」

 ぺしんと自分のおでこを軽く叩くキースに、

「いや、そんな軽いのりで言われてもね」

 困るコンスタンスに、

「……いっぺんちゃんと罪状を調べたらどうだ?」

 オーフェンが訪ねると、

「やだ。怖いし」

 きっぱりと言うコンスタンスを後に、

「ベンゾジアゼピン団がなくなった後、俺の生き甲斐は失われてしまった。かつて怪人、戦闘員として活躍していた奴らは、これを機にまっとうに生きると言い、一生の夢として追いかけていた筈の世界征服を現実的ではないと言い、あんたもまじめに働けよという始末。この俺の辛さが貴様らに解るか?」

「……敵対していた組織の怪人と戦闘員にそんな風に言われるって……」

 コンスタンスが呆れながら、ぼそりと呟き。

「それだけじゃないっ! かつて俺を導いてくれたエニグマトマイセスZⅠとZⅡすらも、俺が挨拶をするだけで、『子供の前で話しかけるなっ!』とか『まだそんな格好しているのか』とか、言われてしまうのも、全ておまえがベンゾジアゼピン団を潰してしまったからだ!」

「いや、普通潰れた方がいいんじゃねえのか?」

「ってか前の先輩は普通の生活しているなら、あなたも生活を元に戻したら?」

 コンスタンスとオーフェンが核心を持っていうが、

「何を言う! 潰れてしまったら、俺が活躍できないではないか? まして今更平和な生活に戻ることなど不可能っ! 正義こそ俺にとっての天職! なぜ解らない!」

「解りたくもないわっ!」

 椅子を投げつけ、エニグマトマイセスZⅢの顔面に直撃させ、

「とりあえず解ったっ! お前は今ずぐ帰れっ! 二度と俺の前に出てくるなっ! いいか?」

「まて、なぜにそう俺を追い出そうとするっ! 何か後ろ暗い事でもあるのか?」

「何を言いますっ!」

 キースが割って入り。

「黒魔術士殿に後ろ暗い事があるのは当然。日の目を見ずに陰鬱極悪街道を邁進する黒魔術士殿に何を言われますか!」

「余計なことを言わんでいいわいっ!」

 力任せにテーブルを投げつけ、キースを黙らせた後。

「いいかっ! お前らが昔何をしていたかは知らんがっ! 俺にかかわるなっ! 俺の居ない俺の知らない他所でやれっ!」

「そう言われましても、すでに始まってしまいましたし、いまさら関係がない事にはできませんぞ」

 にゅっとテーブルに潰されたはずのキースが無傷のまま後ろに立ち、

「関係がないと冷めたことを言ってあきらめてはいけないぞっ! 常に希望は君の傍にあるんだっ!」

 エニグマトマイセスZⅢがが続くように言う。

 げっそりとした顔で本当にどうしようかと悩んでいると。

「コンスタンス三等官はおられますか?」

 扉のない入口から、トトカンタ市警察官が息を切らして入り込んでくる。

「何よ一体?」

 三人の騒動に巻き込まれないように食堂の隅に避難していたコンスタンスが訪ねると、

「事件です。立てこもり事件が発生しました。すぐに現場に来ていただけないでしょうか?」

 敬礼をしながら要件を言い、コンスタンスの返答を待つ市警察官。

「あ、事件なの? じゃあ私はここで」

「まて!」

 肩を掴み、そのまま市警察官と共に出ようとするコンスタンスを押さえて。

「今更、逃がさねえぞっ!」

「に、逃げるって何よ! ただ捜査官として真面目に職務に励み日々の──」

「どうせ途中でどっかに逃げる気だろ?」

「うう」

「いいか、ここでも変態に追い詰められて困っている一般人がいるんだ? 何とかしろよ」

「いやよ。なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ? 自分で解決したらいいでしょ?」

「できるか。こんな変態どもの悩み事なんぞにかかわりたくもないわい」

「あなたが関わりたくない事件をなんで私が関わらなきゃいけないのよ!」

「おまえなぁ!」

 喧々に会話する二人に困ったように、

「あの、捜査官いったい何が?」

「ああ、もうこいつじゃ役に立たないから、あんたでもいい。この変態をどうにかしてく……れ? あれ?」

 指さす方には叩きつけられるように床に刺さったテーブルと、ごろんと横に転がった椅子のみ。先程の変態とキースの姿はなくなっていた。

「あいつらどこにいったんだ?」

 見回すもどこにも姿はなく、しんとしていた。

「帰ったんじゃない?」

 あっけらかんと言うコンスタンス。

「いいや、あいつらが普通に帰るわけが──」

「──とりあえず、三等官。現場に来てください!」

 しびれを切らした市警察官が声を上げていい、

「ああ、もうわかったわよ。オーフェンも来てくれない」

「な、なんで俺が──」

「人のご飯を盗っておいてそんな事言っていいの?」

「ちっ! わーったよ」

「こっちです。早く来てください」

 せかす市警察官の後に、仕方なくにコンスタンスに引っ張られるようにオーフェンは現場へと赴くが、既に次なる不穏の目は息吹いていることをこのとき知らなかった。

 

 

 ──場所は変わり。

 トトカンタ市の裏通りから離れた住宅街に位置する場所にて、その立てこもり事件は起こっていた。

 裏路地街とは違い、清潔感溢れる佇まいの家々が清楚に並び、ゴミが落ちていない整備された路上には人だかりが出来ており、事件の渦中にある一軒家にて犯人が叫んでいた。

「すぐにアマンダを連れてこいっ! 今すぐにだっ! さもないと死んでやるからなっ!」

 犯人は十代半ばの青年で、黒髪に地味な顔立ちをした、立てこもり事件を起こすような人物に見えなかったが、今はただ感情的に叫び、冷静さを欠いた怒声を上げている。

「……なんか荒れてるわね」

「どうしてこうなったんだ?」

 コンスタンスが感想を言い、オーフェンが市警察官に聴くと、

「なんでも付き合っていた彼女と喧嘩したらしく、自暴自棄になって自殺をしようと、あの空き家に来たみたいですが、運悪く見回りに来ていた大家と出くわしてしまい、そのまま大家を人質に立てこもってしまいまして……」

 ばつが悪そうに市警察官が言い、

「ほんとつまらない事件ね……応援を読んで突入させればいいじゃない」

 コンスタンスはめんどくさそうに言い、

「いや、あんまり大事にするなと……部長のお達しで……」

 気まずそうに言う市警察官の声を後に、

「……まあ、それじゃあ仕方ないわね」

「なんか腐敗した会話だなぁ……」

「とりあえずオーフェン、行って解決してきてくれない?」

「なんでだよっ!」

 怒鳴り、

「警察なら説得して事件解決しろよ。それぐらいの甲斐性は……ないな。うん、ごめんな。コンスタン。そんなことも気づいてやれないなんて……」

「何他所の言い分はっ!」

  

「ははははははははははははっ!」

 

 オーフェンとコンスタンスが言いあっている中。

 唐突に笑い声が響いてくる。

 その声の視線の先には、

「悪が栄える所には必ず正義の灯がありっ! 正義の燃ゆる心の焔を消す術は無しっ! 我が名は正義の味方──エニグマトマイセスZⅢっ!」

 と、どこからともなくラッパやギターを打ち鳴らしたような派手の音楽が流れだし、ちょうど少年が立てこもる住宅の向かい側の屋敷の屋根の上に、どこから取り寄せたか解らないド派手な色のマントをなびかせて、エニグマトマイセスZⅢが現れた。

「な、なんであれがここにいるのよっ!」

「もしかしてさっきの話を聞いて先回りしていたのか?」

 驚愕にあっけらかんとしていたオーフェンとコンスタンスに構わすに、

「さあいくぞっ! 正義の怒りを受けてみよっ! はぁあ!」

 屋敷から飛び降り、不自然な軌道を描きながら、少年が立て籠もる一軒家に向かって飛翔する。

「な、なんで空を飛んでいるんだ?」

 オーフェンが疑問に頭を混乱させている中でも、エニグマトマイセスZⅢは空を飛び、一軒家に向かって飛んでいく。

 その背中には、何故かワイヤーが吊ってあり、そのワイヤーの元を辿ってみると、屋敷の死角に銀髪の執事──キースが巧みに扱っていたのを確認し、オーフェンはつかつかと歩み寄り亜がら後頭部に拳を下ろす。

 ワイヤーがぶんっとキースの手から離れ、勢いに任せそのまま一軒家に突っ込んでいく。

「あっ! あああっ!」

 市警察官が悲鳴に近い声を上げて、おののく中。

「ちょ、ちょっとオーフェン。何をしてくれているのよぉっ!」

「やかましいっ! おい、キース。お前どういうつもりだっ! なんであの変態をここに連れてきたっ!」

「そう申されましても……これも致し方ない事なのです。かつての友の落ちぶれた姿を見るのは忍びのうございます。どうか、どうかあの方の為に、最後の花道を飾っていただけないでございましょうか!」

「よそでやれっ! よそでっ!」

「ちょ、ちょっとオーフェンったら、た、たいへんよぉ」

「なんだよ一体?」

 肩を引っ張るコンスタンスに声を上げるも、彼女が指差す一軒家を見て、その声を飲んでしまう。

 一軒家にて、

「ははははっ! 覚悟しろ悪党めぇ!」

「た、たすけてぇえ!」

 ガタン! ガタンと何かが倒れる音が響き、時折窓が割れ、壁が崩れるなど、中で何をやっているかが容易にわかり、時折一軒家近くが爆発し、あたりにいくつものクレーターが出来上がる。

「……」

 オーフェンは掴んでいたキースを投げ捨て、一軒家に向かう。時折近くが爆発し、土砂が降りかかるも気にした様子もなく、ドアを番と蹴り上げて中に入ると、

「た、たすけてぇえ!」

 エニグマトマイセスZⅢに胸ぐらを掴まれていた青年が声を上げて助けを求めてくる。

 オーフェンは何も言わずにエニグマトマイセスZⅢに近づき、後頭部めがけて拳を振り下ろす。

「ぶぉおっ!」

 べしゃんと壁にぶつかり倒れるエニグマトマイセスZⅢ。掴まれていた青年は慌てて逃げ出し、その後に人質の大家らしき年配の太った女性も後に続いた。

 警察に保護されるのを確認していると、

「貴様いきなり何をするっ! なぜに正義の活動を止めようとするっ! やはりお前は悪なのかっ!」

「じゃかあしいわぁ!」 

 ごすっと蹴りを顔面に入れてオーフェンは、

「これ以上面倒なことを持ってくるなっ! お前がキースと昔何をしていたかは知らんが、正義の味方をするなら他所でやれ他所で。俺に面倒事を持ってくるなっ!」

「……なるほど……正義を否定する……貴様は悪だなっ!」

「話を聞けぇえ!」

「ならばいいだろう。俺も手加減しないぞっ!」

 と、エニグマトマイセスZⅢはマントを翻し、内にしまっていた幾つも爆弾を見せる。

「お、おまえ、何をする気だ」

「ふふ、知れた事。正義を行う為には多少の犠牲は付き物。犠牲の上に正義は成り立つものっ! さあ覚悟しろっ!」

 と、手投げ弾を放り投げてくる。

 投げ込まれた二つの爆弾にオーフェンは、

「我は流す天使の息吹っ!」

 突風を発生させ、爆弾を外へと吹き飛ばし、そのままエニグマトマイセスZⅢをも吹き飛ばし壁に叩きつける。

 外に流れ落ちた爆弾が爆破し、悲鳴や怒声が上がるが、

「き、きさまぁあ! 罪もない人を巻き込むとはっ! それでも人間かっ!」

「おまえにいわれとうないわい!」

「ふっふっいいだろ。俺も手加減はしないぞっ! さあ見せてやる。俺の正義の力をっ!」

「爆弾に頼って何が正義だっ!」 

「ぶごぉお!」

 げすっとオーフェンの飛び蹴りがエニグマトマイセスZⅢの顔面に炸裂し、ようやくに昏倒させるも、

 

 カチン!

 

 と、金属の弾けた音が響き、刹那。

 床を盛り上げる爆発に一軒家は飲み込まれ、跡形もなく吹き飛ぶ。バラバラと一軒家の瓦礫らしき破片が宙を舞い、ガラガラと崩れていく一軒家を寂しそうに見てキースは、

「……なにゆえ正義とは、あの勇敢な人間の命を欲するのか……これもまた人の業なのでしょうな……」

「すべてはお前の仕業かぁあ!」

 崩れた瓦礫を持ち上げて、オーフェンはキースに怒鳴り声を上げた。

 

 

 

 とにもかくにも事件は解決し、エニグマトマイセスZⅢ本人は爆破および立てこもりの主犯として引っ張られ、犯人だった青年はうやむやに釈放されるもそのまま病院に運ばれ、一応に事は終わりを見せるも、ボロボロになったオーフェンが重い足取りで買える中で、

 

「で、キースは結局、何がしたかったんだ?」

 その質問に、

「今さら聞く?」

 気の抜けたコンスタンスの問いかけに全てが空しくなる思いで、オーフェンは帰路についた。

 

 お前は昔何をしていた! END

 




 いかがでしょうか?

 フロッピーに入っていたメモ帳のデーターを復元するのは大変でした。下手をすればワープロの頃のデーターも入っているので、どうやって復元しようかと悩んでおります。
 感想をくださったユイス様。
 コギーの言い回し部分ですが、修正には時間がかかりそうなので何卒にご容赦を。

 日暮 明日のやたからす h5na09 ラナ・テスタメント 暢気者 風を追うもの 

 筋肉ダルマ様。

 お気に入り登録とご感想ありがとうございます。

 遅い投稿になりますがこれからも何卒によろしくお願いいたします。

 では、また。
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