(白い)悪魔のブートキャンプ、始まり始まり。
学園内のとある一室。元は空室だったそこに仰々しい機械が複数並んでいる。アムロはその部屋にグエルを呼んでいた。
「では、本日から特別授業を始める。…本当はもっと早く始めたかったんだがな。すまない」
「いえ、オレも寮長ですし決闘もあったりするので気にしないでください」
「そう言ってくれるとありがたい。早速だが、訓練の内容はこいつの課題をこなす事だ」
「この機械を、ですか?」
「これは少々大きいがシミュレーターだ。やった事自体はあるだろう?」
このアド・ステラにもMS用のシミュレーターは存在するが、それを利用するのはまだMSに乗った事の無い初心者ばかりで、多くの者はある程度の実力になると模擬戦を行って腕を磨く。
「こいつは特注品でな。このシミュレーターは『積みたくても積めない経験をする』為のものだ。単なる模擬戦や決闘ではあり得ないシチュエーションを体感できる」
「成程。言われてみればシミュレーターに高難易度の課題なんてありませんでしたし、決闘でありうる状況にも限りがありますね」
「早速レベル1から始めてもらう。どんな内容かは先に説明するからどういう相手か、どういう動きをするか。何をさせてはいけないかを考えてながらやってみてくれ」
「分かりました。…うお、知ってるシミュレーターとは訳が違う…!」
「この見た目は伊達じゃない。入る時数段の段差があっただろう?機械が出来る範囲ではあるが、揺れも再現している。さあ、来るぞ」
「よし…!」
シミュレーターの形状はコクピットそのものである為、アムロはそれを外部のモニターから見る形になる。
出現したのはハインドリー二機、片方は近くで、もう片方は少し遠い位置に現れた。
「フィールドは一般的なコロニーで目標は敵機の迅速な無力化だ。気を抜くなよ」
「了解です!」
グエルが乗っているのは専用のディランザで、その手にパルチザンは無い。ハインドリーは射撃をしながらこちらに向かってくるが、グエルはホバーで旋回し射撃を回避した後、急加速を行いスパイクを使ったタックルを叩き込む。
「まずは一機、次は…!」
ビームトーチで頭部と両腕を切り落としもう動かないのを横目で確認しながら次の対処を考える。
近づいてきたもう一機の方はスピアを構えて突撃してくる。動きは単調だ。
冷静にライフルを構えて連射するうちに体勢が崩れ、隙が出来たと判断すると同時に切り込み、武器、盾、腕、と斬り刻み、壁際にまで追い詰めコクピットを串刺しにし、目標の達成を確信する、が。
「な…⁉︎」
「…引っ掛かったか」
動力に当たったのか力を失ったハインドリーは大爆発を起こす。咄嗟に離れた為自身の機体は無傷だが、モニターにはmission failedの文字が浮かんでいる。
「一体何が…」
「その状態でも操作は出来るから周囲を見渡してみろ、グエル。君なら気づく筈だ」
「…穴が」
爆発したハインドリーの後ろには再現された宇宙が見え、コロニー内から空気が漏れ出していた。
「そうだ。アスティカシアにいると忘れがちだがコロニーは戦う為の場所ではないからMSが大爆発すれば損壊の危険がある。更に言うなら壁際に押し込んでいたから直にその被害を受ける形になってしまったな」
「つまり、最初の倒し方で良かったって事か…」
「そうだ。このシミュレーターは実戦のそれに近づけてあるから撃墜する事を考えがちだが、あくまで目標は『無力化』だ」
「成程…まんまと引っ掛かったって訳ですか」
「周囲の被害を考えながら戦わなきゃいけないのがパイロットの辛いところだな。…それに、うちの学園は妙にそこら辺の危機管理が甘いしな」
「ああ…言われてみれば決闘の場所が実習で使われてたりする時がそこそこありますね」
「裏の事情を感じざるを得ないが…君は決闘の回数も他生徒に比べて多いから、最初に意識してほしくてこれをレベル1として課させてもらった」
「分かりました、もう一度お願いします!」
「対処は一機目で出来ていたから、あとはどれだけ周囲の被害を減らし、早く片付けられるかだ。始めるぞ」
変わらない位置に出てきた一機目はライフルを頭部に叩き込み、動きが鈍った隙に手足を切り落とした。続いて二機目は急加速を駆使してタックルを叩き込み頭部を串刺しにし、無力化したのを確認。周囲への被害は無く、完璧に近い結果だった。
「よし…!」
「上出来だ。このまま様々な戦場を体感してもらう。…用意は良いか?」
「はい!」
3倍の速度で動くハインドリーを倒しつつ大気圏突入を行うレベル2。
砂漠の中で複数の僚機を連れたシンプルに強いエース機を撃墜するレベル3。
巧妙な連携を行う三機のディランザを崩して文字通り踏み台にするレベル4。
12機のディランザを3分の間に全撃墜して母艦も落とすレベル4。
これらが終わった頃にはグエルは全身汗ぐっしょりで、コックピットから出た瞬間倒れた。
「大丈夫か、グエル?」
「……は…、い…………」
「動けないなら無理に動かなくて良い。これらは前段階だが、想定していたよりも早く進んでいる。落ち着いてからで…」
「大、丈夫です…」
グエルは何とか体を起こし、アムロが予め用意していたスポーツドリンクを手渡され、それをゆっくりと飲んで呼吸を落ち着ける。
「はぁ…まだまだ序の口…前段階なんですよね?」
「ああ。ここから先は敵味方入り乱れる戦場での戦いになる。どこまで戦場に影響を与えられるかの勝負だな」
「まだまだ先は長いな…そういえば先生、この前の新型のテストでやってたあの技ってなんて言うんです?」
「ビーム・コンフューズの事か?君なら練習次第で出来るようになるだろうが…あれをビームトーチでやるのは難しいな」
「どうしてです?」
「あれはサーベルの発振部にビームを当てて回転させつつ拡散させる技なんだが、ビームトーチはサーベルの柄に比べて重いからあまり上手くいかないんだ」
「…サーベル、メカニック科のやつらに頼んでみるか…ここで練習できますか?」
「練習は出来るが…君には覚えてほしい技術があってな。簡単に言えばビームを切り飛ばすんだが」
「ビームを切り飛ばす、ですか?それって要は弾丸を斬れって事では…というか出来るんですか」
放たれたビームを斬る。それがどれだけの反応速度と判断力が有れば実行出来るのかグエルには分からなかった。…当然の事ではあるが。
「要は自分が放ったビームを意図的に斬って拡散させて攻撃するのがビーム・コンフューズで、相手から撃たれたビームを斬って拡散させて無力化するのがこれだ。片方が出来るようになる頃にはどちらも出来るようになる。後はそうだな…
後ろにも目を付ける意識で動いてみるんだ」
「後ろに目…」
「見えないものを無理して見るのではなく、想定しながら動く頭の片隅で視界の外から何が来たら危険か、それをどう対応すべきかを意識するんだ。それを身体に染み付かせればより洗練された動きが出来る」
「…やってみます。続き、お願いします!」
「その意気だ。出来るようになるまで付き合うさ」
この日の訓練はジェターク寮の門限ギリギリになるまで続き、グエルはアムロの肩を借りつつ何とか帰りシャワーを浴びて自室のベッドでぶっ倒れる事になった。翌日、起きて早々チーフメカニックのカミル・ケーシンクに何とかビームサーベルを一本付けられないかと相談しに行ったのはここだけの話である。
一応私のお目付役として来た訳だけど、最近のアムロは結構楽しそうね。
まあグエルが強くなる分には私に不利益は無いし別に良いけど。
…もうちょっと顔を出しても良いんじゃないかしら?
…ちょっと、ニカ何その顔。
次回。「ミオリネと地球寮」
やっぱ行こうかな…楽しそうだし。
次回予告は
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いる
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いらない