最長文字数(当社比)です、お楽しみいただければ幸いです。
「うわー…すごいね」
「物珍しいのは分かるけどあんまりキョロキョロしてると悪目立ちするわよ」
インキュベーション当日。ミオリネが滅多に出さない全力により着飾ったニカは側から見れば完全にご令嬢だ。…最も、社交場に慣れた人間からすればその振る舞いで看破出来るだろうが。
「この手の社交場で大事なのは何より落ち着いて行動すること。緊張しちゃうのは仕方ないけど焦って動くよりよっぽど良いわ。それにマナーの方はほぼ教えられてないけど、ちゃんと丁寧な態度をとってれば問題になんてならないんだから」
「う、うん!」
「まあ今日は私と一緒に動いてれば問題無いでしょ。それよりアムロ遅いわね…」
「待たせてすまない。正装をするのも久しぶりで少々手間取ってしまった」
「先生!」
「遅いわよ」
勿論この場ではアムロもスーツだ。
「アムロも来たことだし、そろそろ行くわよ」
「ああ。…ニカ、早速だが驚くぞ」
「え?」
パーティ会場に入場する3人。やはり総裁の娘というだけでミオリネは視線を集めるが、慣れているので本人は気にも留めていない。
多くの謎を持つ凄腕パイロットであるアムロもまた視線を集めるが、戦場のプレッシャーを知るアムロからすれば無いのと変わらない。
ニカは2人の背に隠される形となっており、向けられる視線は少ない。が、当のニカ本人は目の前に立つそれに気を取られそれどころでは無かった。
「先生、これって…!」
「ああ、カテドラルで制式採用が決定したジェガン強襲型…もといスタークジェガンだ」
パーティ会場に入って来た者を出迎えるような形で立っているのは制式採用されたスタークジェガンだった。そもそも一般にはまだ発表されていないジェガンな上に、そのバリュエーション機という事もあり、周囲には人だかりが出来ている。
「コレって
「ああ。これはニカが上げた案が元になったものでーーー」
「極めて早期に挙げられた容易な改修案。まだ他の案が思案されている段階であるにも関わらず図面の上では完成されているそれを投げられ拾わぬ者などいない」
「デリング」
アムロの説明に続ける形で話に入ってきたのはスタークジェガンを採用したデリング本人だった。それと同時にこの場で総裁であるデリングを気安そうに呼び捨てにするアムロに対しての恐れの目が向けられる。
「直接顔を合わせるのは久しぶりだな、アムロ、ミオリネ」
「そうだな。少し血色が良くなったんじゃないか?」
「まあそこまで久しぶりな感じしないけどね、ク…お父さん」
「ッ……………」
「ちょっと何よ、私なんか変な事言ったかしら?」
突然片手で顔を隠して天を向くデリングだが…この厄介な親子をよく知るアムロにはこれがどういう感情で行なっている行為なのか分かる。
「普段は憎まれ口ばかりでクソ親父としか呼ばない娘が不意打ち的に『お父さん』と呼んできたものだから感極まってるんだ…暫くそっとしておいてやってくれ」
「やっぱり愛されてるね、ミオリネ」
「なんかそれだと私普段凄い親不孝娘みたいじゃないのよ⁉︎」
(デリングはミオリネが自分と似たもの同士なのを分かってるからこそ心配しているからな…なんなら性格はミオリネの方がトゲがあるし)
おおよそ2分程で復帰したデリングの咳払いで話が戻る。
「正直来るとは思わなかったが…何かあったか」
「別に…ただ、これもベネリット社の令嬢としての義務だと思っただけよ」
「…『何か』は、あったようだな。さて、隣の君は…」
「は、はい!メカニック科1年地球寮所属のニカ・ナナウラです、本日はご招待いただき有難うございますっ!」
ここまでニカは一息で言い切った。流石にグループ総裁相手に緊張しない方がおかしいので仕方がないとも言える。
「そこまで緊張せずとも取って食いはせん。…威圧感を与える容姿なのは自覚しているからな」
地球寮、とニカの口から出た瞬間見下すような安っぽい差別の視線がニカに向けられるが、デリングはそれらを一睨して散らし、極力柔らかい口調で話す。
「それに君の案で作られたスタークジェガンはいい物だ。私としてはジェガン1機でこの結果なら安い投資だったと言える。今後も期待している」
「有難うございます!」
「さて、私はそろそろ行く。緊張するなと言っても無理があるだろうが、楽しめるだけ楽しんでいくと良い」
「なんか、やっぱりあいつも人の上に立つ人間なんだなって思っちゃった」
「デリングの事か?」
「うん」
デリングと別れてから暫くして。展示されているMSを見たいというニカの要望に応えて3人で時に食事に舌鼓を打ちながら色々と見て回っていた。
「少なくともデリングの周りの人間が立場にだけ惹かれる人間ばかりならあの立場にはいないさ」
「うん…そうね。…まだお母さんが生きてた頃、あいつに褒められて嬉しかった事思い出しちゃって」
「…忘れてた…忘れていたかったのか?」
「きっとそう。嫌な事から目を背けたくて大切なものにも封をしちゃってたんだ、私」
「私じゃ分からない事も沢山あるよね…でも抱え込んで大事な事忘れるくらいなら先に私に言ってよ?親友なんだから」
「ありがとう、ニカ」
歩いているうちに展示されているディランザに近づいていると、少し遠くから声が聞こえる。声の主は段々近づいているようだ。
「アムロ先生!」
「グエル…ジェタークの御曹司である君が来ていない筈もないか」
「はい!先生もいると思いましたよ」
グエルの後ろから遅れて歩いてくるのは異母弟のラウダとその父にしてジェターク社のCEO、ヴィム・ジェタークだ。
「まったく…幾ら先生がいたからって僕と父さんを置いていくのはどうかと思うけど、兄さん?」
「すまない…やっと見つけたと思ったら、つい」
「流石にそれはやめた方がいいな、グエル。…初めまして、貴方がジェタークCEOですね」
「如何にも…ヴィム・ジェタークです。愚息が世話になっております」
「アスティカシアで教師を勤めさせていただいています、アムロ・レイです。…少なくとも愚かではありませんよ、彼は。学園で1番優秀です」
「先生を除いて、ですけどね」
そう補足をするグエルだが、それを見るラウダとヴィムは複雑気だ。
「ミオリネ、なんか2人の目が…」
「…ああ、父の方は取り繕ってるけどアムロが噂通り本当にあいつと親しい上にグエルがあれだけ懐いてるから困ってるだけ。弟の方は単に兄をアムロに取られて不機嫌なのよ、側から見てても仲良いからあの2人」
「そんなバッサリ…あっ」
周囲の明かりが徐々に消え、巨大なモニターが投影される。
いよいよインキュベーションの本題とも言えるプレゼンが始まる。
3人はジェターク一家と離れて人のいないテーブルに陣取った。
肝心のプレゼンだが…。
「…私正直言ってMSについてはほぼ素人だけど、何というか」
「…あんまり」
「新鮮味が無いな。昔にやったような事も多いし、小さいチャンスと言える程のロマンも無い。というかあれくらい別に多少腕が立つパイロットなら無用だ」
「「それはアンタ(先生)だけ(です)!」」
そうこうしている内に複数のプレゼンが終わるが…その殆どは目標金額に届かずにお流れになる。
「何れもパイロットを楽にさせる方向のものばかりだな」
「なんかびっくりするぐらい性能を上げるとか新しい物を作る、みたいなものが有りませんでしたね」
「MS市場は伸びが悪くなってるのは知ってたけど…やっぱり挑戦する度胸は無いのね。まあわからなくはないけど」
「その新しい挑戦、そろそろだな」
モニターに映し出されたのはデリングで、パーティが開始してからようやくジェガンの発表だ。
ジェガンそのものは既にベネリット社単体で開発・量産が可能な為融資を募る必要は無いのだが、この後の地球産MSの注目度を上げる為にこの場での発表に決定した。
肝心の内容はといえば…
『会場の入口に立つMSが気になっている者は多いだろう』
『あのMSこそが我がベネリット社の新製品、ジェガンである』
『厳密には、展示されているのはその改修機スタークジェガンだが』
『ジェガンは高い汎用性と拡張性を持つMSであり、更にパーメットを使用していないにも関わらず変わらぬ操作性を維持している』
『尚スタークジェガンの改修案はアスティカシア所属の学生から挙げられたモノを原案としている』
『この点から見てもジェガンの拡張性がどれ程のものか、伝わるだろう』
『このジェガンが停滞しつつあるMS市場の活性化に繋がる事を願う。以上だ』
語られた内容を意訳するならば
『この機体を上回る何かが無ければシェアは全部ジェガンが食うぞ』
だろうか?
ここに来ての競争を煽る発言はそれだけジェガンの出来の良さに自信があるとも取れる。これがどういう結果に転がるか、結果が分かるのはまだまだ先の話であるが。
「…バッチバチにやりあわせる気ね」
「この後の地球企業の機体のハードルがかなり上がったと思うが」
「大丈夫かな…」
時間的にも次のプレゼンが最後になる。ジェガンの後のトリは地球企業…彼等のMSだ。
壇上に上がったのはまだ若い男で、この手のプレゼンの腕を買われたのだろうと察する事が出来る。
『我々地球企業がMS、ガイア・ギア!これは御社らの機体を…ジェガンを上回る能力があると、自信を持って言わせていただきます!』
ガイア・ギアなる機体の画像がモニターに投影される。映し出されたその姿は大きな2枚の翼を持つ鋭角な印象を与えるもので、頭部はといえばツインアイ…ゼフィランサスのそれをシャープにしたような形状をしていた。
『このガイア・ギアは端的に言ってしまうならば比肩無き高性能機です。重武装の本体に加えサーベルに転用可能なメガ・ランチャーを備え、技術的な目玉としてビームシールドと大気圏突入・離脱可能な簡易変形機構を有しています!』
周囲からのざわめきが止まらない。ジェガンが霞む様な高性能を誇るMSを、普段自分達が見下し、差別している地球が出してきたのだ。
『勿論、単純な汎用性ではジェガンに劣るでしょう。ですがこのガイア・ギアはエース向けの超高性能機、量産仕様もございます』
『それがこのガイアス。本体の重武装を外し基本装備をバルカン・サーベル・ライフルの三種に絞り、可変機構と大気圏突破機能を外した代わりに可動と機動そのものはガイア・ギアに劣りません。また、装備そのものは共有して使用する事が可能です』
量産機とされているガイアスはガイア・ギアに比べるとかなりシンプルな姿をしているが、基本性能が据え置きというのは驚きでしかなく、ざわめきは更に大きく広がっていく。
『最後にこの2機体はパーメットを使用しておらず、地球上のみで生産可能となっております。皆様、是非ご融資を!』
最後の言葉と共に融資状況のパーセンテージを示したメーターが表示されるが、達成金額は他のものより3倍高く設定されている。その金額故か、0%のまま数値は動かない。が、
いきなり10%の融資が入る。入れたのは…ベネリット社、デリングだ。
「ベネリット社はガイア・ギアの生産・販売を支持・支援する」
デリングの鶴の一声で数値はどんどん加速していき、あっという間に目標金額の100%達成した。
『皆様の融資、大変感謝致します!地球のMS、ガイア・ギアをご期待してお待ち下さい!』
「終わったな」
「目標達成して良かったー…」
「あれだけの金額を目標にしてあるとは思わなかったわ」
「あのMSは良い物だろうが、流石にヒヤリとしたな」
無事終わったインキュベーションの会場を後にした3人は普段着に着替えたのち帰路に着いていた。
「ふあぁ…」
「お疲れね。変なところも無かったし、着くまで寝ちゃえば?起こしてあげるから」
「うん…あ、そういえば」
「何か忘れ物か?」
「いえ…あの人…シャディクさんに会わなかったなって」
この言葉でアムロの目の色が変わるが、ミオリネは気にせず続きを促す。
「あいつとなんかあったの?」
「…うん。なにかはわからないんだけど、協力してくれないかって言われて。その後青い顔であの時のやり取りは無かった事にって」
「…大体分かったわ。もう寝ちゃいなさい」
ニカから寝息が聞こえるのを確認したと同時にアムロとミオリネは顔を見合わせる。
「私の親友に何させるつもりだったのかしら、あの男は」
「もう釘は刺してあるが…もう少し警戒すべきか」
「…次会ったら蹴りの1発でも入れてやる、絶対」
2人の会話の裏で、背筋が凍る様な感覚を覚えたグラスレーの御曹司がいたそうだが、2人は知る由もない。
…なんか悪寒がするんだが…
…気を取り直して
インキュベーションは結局ベネリット社と地球企業の独壇場で終わった。
このままだとグラスレー社はシェアを根こそぎ奪われるかもな…
ミオリネはすっかり変わってしまって、
本当に俺だけ置いてかれてる気分だ。
さて次回。『シャディク、思案する』
真っ向勝負で敵わない相手にどう立ち回れってんですかね?
次回予告は
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いる
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いらない