「し…勝者、グエル・ジェターク」
決闘委員会のラウンジは静寂に包まれていたが、立会人のシャディクはなんとか言葉を搾り出した。
「…GUND-ARMに、ガンダムに、勝った?」
「…ロウジ」
「……」
「ロウジ?」
「は、はい。ハロ」
ロウジの言葉にすぐ側にいたハロが検索を開始するが、決闘委員会の面々はあのエアリアルというMSがなんなのか薄々察していた。
「…類似のパーメット個体コードが、一つ…オックスアース…」
「いやいや、アレが仮に例の『魔女のMS』だったとしたって…センパイアレ倒しちゃったんですけど?」
「有り得ない…」
「どちらにせよアレを放っておく訳にはいかない」
GUND-ARM。ベネリットグループ最大のタブーであり、研究・製造が禁じられた屈指の厄ネタだ。だが決闘委員会の面々はそんな事よりそれを下したグエルに動揺している。
「…面白い事になってきたな」
シャディクの呟きは誰にも聞こえずに消えていった。
その頃グエルはブレードアンテナを切り飛ばしたままの姿勢で止まっていたディランザの中で一人息を吐いていた。正直グエル自身が考えていたよりも追い詰められたが、やはりシミュレーターでは得られない経験が有る、としみじみ実感していた。
今回の決闘で、スレッタはディランザの装備を一度見て情報として知っていたが、同じようにグエルもエアリアルを見てその装備を経験から推測していた。
まず機体形状。これはシミュレーターの中のガンダムルブリスに酷似していた為、ビット兵器の予想が付いた。そして何より、アムロが乗ったゼフィランサスともよく似ている様に見えたのだ。
となればライフル・サーベル・シールド・ビット・バルカン。大体この辺りだろうと判断した。そしてそれらは全て的中した。
仮にもっと奇妙奇天烈な装備で意味の分からない動きをしてきたら分からなかったが…隠し武器であったトンファーで決着をつける事が出来て一安心である。
ただそれはさておき…
『警告する、学籍番号LP041、スレッタ・マーキュリー。GUND-ARMを使用した嫌疑で身柄とMSを拘束する!』
『ええっ⁉︎ガンダム…?なに、それ…』
まあこうなるだろうと予想していた。フロント管理社は普段の決闘ではこんな事はしない。それ故にGUND-ARMをよく知る総裁の命令なのだと分かる。
「フロントの方々、少し時間を頂きたい!」
『認められません。これは総裁の───』
「ドミニコス隊特務隊長アムロ・レイの言伝でも認められませんか⁉︎」
『…少しだけならば』
ほんのつい先程…トドメを刺したあの瞬間に届いたアムロからのメールにはこう書かれていた。
『予想していたより面倒な事になった。末端の人間が彼女をどう扱うか分からない、どうか落ち着かせて穏便に進めて欲しい。これは総裁の言葉と取って貰って構わないと言質を取った。苦労を掛けてすまない』
流石に総裁の懐刀であるアムロの名前は効果があった様で、僅かながら猶予を得られた。する事は一つ、極力穏便に進めるだけ。
「マーキュリー、まずは機体を跪かせて機能を停止しろ」
『え…でも』
「お前の機体の状況を見ろ、これ以上の傷は付けたくないだろう?」
どうやら物分かりは悪くない様で両腕を失ったエアリアルはなんとか跪くが、左大腿部に穴が空いている為か不協和音を奏でている。
「よし、そのままMSを降りろ。此方も降りる」
そう言ってさっさとディランザから降りる。一瞬ディランザを振り向きその損傷に一瞬苦笑いしつつも向き直ると、怯えた様子の赤髪の少女が降りてきた。
「…俺に出来るのはここまでだな」
「…あの、私…これからどうなるんですか」
「偽り無く答えるなら分からない、としか言えないな。俺個人としてはお前を悪くは思わないが…」
周囲のMS…デミギャリソンも着地したが、自分がすぐ近くにいる為だろう、銃口を上に向けて取り囲んだ。…元々今回の決闘は相手側に条件なしで戦ったものだが、どの道これでは有耶無耶になるだろう。
今後起きるだろう取り調べやらに内心辟易としながらも、激戦の中舞い散った羽根の中グエルは目の前で怯えている少女を案じていた。
翌日の放課後、ミオリネはフロント管理社の窓口へと来ていた。
一応日中の授業は何事も無く終わったのだが、アムロが不在であるというその一点だけで、少なくともMS・メカニック科の生徒はこの事件が一大事であると悟っていた。
今更ながらアムロはその気になれば非常に強い権力を振るえる立場だ。
デリングが政治や経営等の傑物ならアムロは現場側の怪物であり、その為緊急事態時にはデリングとほぼ同等の発言力がある。ここら辺はデリングの意向であるし権力を無闇矢鱈と振るうような人物でないという信頼故だ。
学園内でも噂話程度とはいえ色々と情報が錯綜しているが、色々厄介な話になっているというのは今日欠席したグエルからのメールで分かっている。
正直、ミオリネはここまでスレッタの事を気にしてやるような立場ではない。だが人の機微に鋭いアムロが普通の生徒として受け入れていた事、そして一晩過ごした世間知らずの少女が『魔女』などあり得ないと判断した。だから今、辛い目にあっているなら助けてやりたいと、そう思ったのだ。
だが…
「我が社からこの件についてお答えできる事はございません。お引き取りを」
にべもなくそう言われてしまえばどうしようもない。一瞬途方に暮れたその時、見張りのボディーガードの内の一人から声がかかる。
「何?」
「総裁から伝言です」
差し出された端末を手に取った。父からのメッセージは短くこう書かれていた。
《何故GUND-ARMが呪いなのか教えてやる。来い》
と。
なんとか彼女の通学だけは守ってやらねば…
それにこれではまるで鉄砲玉だ、この件に悪意はあるのか?
デリングは『今の』GUND-ARMに一体何を求めている?
まさか…
次回、『only signal』
狙いはそれか!
次回予告は
-
いる
-
いらない