死神の銃声に喝采を。その御手から撲滅を   作:キャラメル太郎

28 / 54






第28話  同じ

 

 

 

 

 

「おはよう巌斎さん。眠れ……てなかったみたいだね」

 

「……おう」

 

「寝不足なら……お粥とかが良いと思うけど、フルーツジュースにする?」

 

「……食欲ねぇから、それで」

 

「はーい」

 

 

 

 目の下に隈を作り、猫背の状態で2階から降りてきた妃伽はリビングにやって来た。キッチンには既に起きていた虎徹が朝食の準備をしていた。何か食べるかと聞かれたが、食欲が無い。特に大好きな筈の肉を食べられる気持ちになれなかった。そこを考慮し、虎徹はミキサーを準備して果物のジュース作りに入った。

 

 テーブルの席についてボーッとする。結局一睡もできず、起きているしかなかった。見られている感覚がし、耳を塞いでいないと助けを求める声がする。布団の中で丸くなり、ひたすら耳を塞いで時間が過ぎるのを待っていた。

 

 狩人を目指して修業をしていたのに、見たのは人殺しの場面だった。尊敬している師匠、黒い死神が何の躊躇いも無く人を殺す光景が頭に記憶されて離れない。嫌な記憶程頭に残りやすい。泣き叫び、悪いことなんてしていないのに許しを請い、逃げようと藻掻く女達。それを追い掛け銃口を向け、引き金を引く狩人。妃伽がなりたい狩人の図に、罅が入っていた。

 

 

 

「はい、できたよ。色々な果物を混ぜたミックスジュース。ゆっくり飲んでね」

 

「……あんがと」

 

「いいえ。じゃ、僕も朝ご飯にしようかなっと」

 

 

 

 皿に盛り付けられた目玉焼きとベーコン。サラダと白米を持ってきて妃伽の前に座り、手を合わせていただきますと言って食べ始めた。優雅で綺麗な所作で朝飯を食べる虎徹をぼんやりと眺めてから、妃伽もミックスジュースが入ったグラスに手を伸ばした。冷やされた果物で作られたので表面がひんやりとしている。

 

 口をつけて飲むと、オレンジやパイナップル等といった、季節もあまり関係無く色々な果物の味が合わさったサッパリとした味が広がった。でも、食欲が湧かず、口をつけては少しずつしか飲めなかった。申し訳なさにチラリと虎徹の方を見ると、ちょうど目があった。

 

 すぐに飲み終えるとは思っていなかったようで、ゆっくりで良いからねと言って微笑まれる。女優にも勝る美貌で微笑まれ、彼の気遣いが沁みると胸が温かくなる。両手でグラスを握り、虎徹と一緒にゆっくりとミックスジュースを飲んでいった。

 

 

 

「……ごちそうさん」

 

「全部飲めたようで良かった。僕はもうお腹いっぱいだからね、残されちゃうと困っちゃうところだったんだ」

 

「はは……天切さんは小食すぎなんだよ」

 

「ふふ。体に似合ってるでしょ?……さて、僕は食材の仕入れ先と別件の話を少ししてくるから出掛けてくるね。巌斎さんはどうする?」

 

「私は……」

 

「んー……じゃあ、巌斎さんにお小遣いあげるね」

 

「……え?」

 

 

 

 懐から財布を取り出して金貨を1枚取り出して妃伽に握らせた。1万Gの価値がある金貨をポンと出されて固まっていたが、バイト代とは別のお小遣いに遅れて受け取れないと拒否をした。しかし虎徹はもう財布を仕舞ってしまい、受け取ろうともしなかった。焦って返すと言っても、ニッコリとした笑みを浮かべるだけで、食べ終えた皿を片しに席を立ってしまった。

 

 

 

「それはお小遣い。日頃頑張ってくれてるからね。今日は気分転換に好きな物でも買ってきなよ。この街に来てから(ろく)に買い物してないでしょ?生活必需品くらいだもん。偶には、ね?巌斎さんも女の子なんだし」

 

「………………。」

 

「ほらほら。着替えて行って来なよ。時間は有限だからね」

 

「……ありがとな、天切さん」

 

「いえいえ」

 

 

 

 さっさと皿洗いを終わらせて、自分の用意に取りかかった虎徹。妃伽はお礼を言った後、貰った金貨を握り締めて2階の自分の部屋に戻り、着替えた。スキニーのダメージジーンズにTシャツという簡単な格好に着替えると、財布を持って虎徹の店を出た。帰りが早い場合の為に、虎徹から合鍵を渡されたのでポケットに入れておく。

 

 時刻は朝の9時。店は開いているところが多いのでウィンドウショッピングもできる。人の間を縫うように移動しながら歩いて、適当に店を眺める。欲しいものは特に無い。必要だと感じているものも特に無い。修業に化粧はしていけないので、ほぼすっぴんである。現在もそうだが、化粧をほぼせずに視線を受けるだけの顔の良さがある。

 

 何となくこっちに行こう。あちらも良いな。そんな気分で適当に歩いていたのだが、妃伽はいつの間にか街の正門が見える大通りに出ていた。やっぱり見慣れた道を歩きがちだよな……と、自分に対して苦笑いした。そこへ、人のざわめきが聞こえてくる。ヒソヒソとしたものは良い印象を抱かせない。陰口にも思えるそれに気になって目を向けると、妃伽は軽く目を瞠目させた。

 

 

 

「見て、黒い死神よ」

 

「こんな朝からまた狩猟か。ほぼ毎日だろ」

 

「背中の黒い狙撃銃で()()()()って噂、聞いた?」

 

「ホントに雰囲気が怖いのなんのって……」

 

「街を守ってくれてるのはいいけど、ねぇ……?」

 

「もっと愛想が良けりゃいいのになぁ」

 

 

 

「……っ。師匠はモンスターを狩って街守ってンのに、何でこんな陰口叩かれてんだよ……おかしいだろ。それに人殺しなんて……」

 

 

 

『助けて、誰か助けてぇっ!!』

 

『殺さないでっ!私、私は人ですっ!人なんですっ!』

 

『死にたくないっ!死にたくないよぉっ!』

 

『いや……いやぁッ!!!!』

 

 

 

「人殺し……」

 

 

 

 彼女達は助けられなかった。助けられだけの時間も体力も残されていなかった。だからあれは仕方ないことだった。他の狩人もそうしていた筈だと言っていた。ならば、あの時の龍已の……黒い死神の行動は無駄に苦しませない、パルバリーの数も増やさないという意味で然るべき選択だったのだ。

 

 しかしそれでも、妃伽は人を殺すということに慣れていない。見たことすら無い。モンスターが人を殺す場面に会えど、人が人を殺すところなど、普通に過ごしていれば目にすることなど無いだろう。妃伽の反応、葛藤は正しい。正常の証だ。だが狩人は正常の心ではやっていけない。

 

 周りの人達の、黒い死神への陰口が聞こえてくる。守ってくれているのに、その言い方はないだろう。師匠を悪く言うな。そんな言葉を口から出したいのに、出てくるのは気の抜けた息を吐き出す音だけだ。妃伽は悔しくて手を強く握り締める。昨日見た光景に囚われて、龍已をいつも通りの龍已に見えなかった。平気で人を殺せるような人。そんな先入観を持ってしまう。

 

 そうこうしている間に、大衆の視線を浴びながら龍已は倉持に用意してもらった黒い大型バイクに乗り込んだ。背中には黒い大口径狙撃銃。行くところにはきっとモンスターが待ち構え、そのモンスターに苦しめられている依頼者が居ることだろう。正しいことをしているのに、何だか歪に見えてしまうのは何でなのだろうか。

 

 

 

「し、師しょ──────」

 

 

 

「遅れるなよ」

 

「何年の付き合いだと思ってんですかぃ。任せてくださいよ!」

 

 

 

 近くに居る倉持と少し話すとバイクのエンジンを掛けて吹かし、エルメストを出て行ってしまった。陰口など聞こえていないに等しく無視を決め込み、自身のやることを行う。狩人としての役目。モンスターの狩猟。

 

 自身は人を殺すところを見ただけで何もやる気が起きず、こうして修業もせず街の中をぶらついているというのに、師匠の黒い死神は狩人としての役目を全うすべく、今日も今日とて狩猟に向かう。人を昨日殺していようが、慣れてしまっているのかいつも通りの彼だ。それが何よりも恐ろしい。

 

 唯一の弟子として、やはり一緒に行くべきなのだろう。今の格好では行けないが、咄嗟に手を伸ばして声を掛けようとしたが、群衆の中に居ては気づきずらい挙げ句、呼び止める声は小さく、言い終える前に彼は言ってしまった。やり場と行き場のない手が虚空で彷徨う。

 

 腕を力無く下ろし、目を伏せる。不出来な弟子だなぁ……と自嘲の笑みを浮かべる。狩人の黒い死神にとって、黒圓龍已にとっても“その程度”と言えてしまえることだろう。経験が無いに等しい妃伽には辛い出来事だったので今の状態は仕方ないのだろうが、ここまで何も出来ないと申し訳なさや罪悪感に襲われる。

 

 

 

「グジグジ悩んでるし、何も出来ねぇ。弱っちィな、私。最強の狩人、黒い死神の弟子のクセに情けねェ……」

 

 

 

「あら、あなた黒い死神の弟子になったって噂の子じゃない?こんなところで何してんの?」

 

「あ?……お前誰だよ」

 

「ガラわる……私は狩人よ。普通の何でもない、一般狩人」

 

「……狩人やってるだけで普通とは言えねぇだろ」

 

「まっ、それもそうね!」

 

 

 

 カラカラと笑うのは茶髪の女狩人だった。軽装の鎧を着込んで背中には弓を背負っている。女性にしては大きな弓だ。下位のモンスターならば頭を狙えば屠れそうな見た目をしている。腰には矢筒がぶら下がっていて、年期が入っているように見える。最近狩人になったというよりも、数年は狩人としてやってきたという印象だ。

 

 何となくの感覚で、それなりに強いと察した妃伽ではあるが、何故話し掛けてきたのかと気になった。ただ言いたいことは分かる。黒い死神が狩猟に向かったというのに、弟子の自分が何でこんなところでウィンドウショッピングをしているのかと聞きたいのだろう。

 

 ここで何をしているのか。その質問に対して言い(あぐ)ねて言葉に詰まっていると、言いづらいことなんだろうなと思い、女狩人は違うところに行こうかと言って歩き出した。今会ったばかりなのに何で一緒に行動すんだよ……と思ったものの、お茶しようと言って振り向いて待つ女狩人の後を追い掛けた。

 

 入ったのは普通の飯屋だった。家族で訪れるようなレストランで、まだ早い時間帯ということもあり人は少なかった。店員に2名だと言ってさっさと好きな席に向かい歩いて座る女狩人に習い、対面するように妃伽も座った。メニュー表を渡されたので適当にお茶を頼み、2人の飲み物が揃ってから話が再開した。

 

 

 

「悪かったわね、いきなり連れてきて。でも興味があったのよ。あの黒い死神の弟子ってどんな感じなのか」

 

「……私はまだ弱ぇよ」

 

「え?……ぷっ。あっはは!そんなの当たり前よ!弟子になってから全然経ってないじゃない!それで強かったら驚きよ!」

 

「そうじゃねぇ。心の話だ」

 

「心?何かあったわけ?」

 

「…………………。」

 

「ほらほら、これでも私先輩狩人よ?話してみなさいよ」

 

「…………昨日、パルバリーの狩猟に行ったんだよ」

 

「あ、あー……あれね」

 

 

 

 全然知らない間柄だが、確かに狩人としては女狩人の方が先輩だ。もしかしたら今抱えているものについて、どうすれば良いのか解決策が出てくるかも知れない。そんな、かも知れないに縋った小さな希望を得るため、妃伽は機能に起きたことを話し始めた。

 

 パーレクスを狩猟したと思えば、パルバリーが現れて黒い死神と共に狩猟完了をした。そこまではいいが、攫われていた女性に卵を産み付けられていて、既に卵と胃の表面が一体化していた。手術をすれば助かる可能性もあったが、そんな体力が残されておらず、その場で殺してしまったと。

 

 他の狩人でも同じ事をすると、龍已は言っていた。しかしそれが出任せである可能性もあった。なので話したくはなかったが、1度話し始めると止まらず、妃伽は最後まで言い切ってしまった。聞いていた女狩人は時折頼んだ珈琲を飲みながら真剣に聞き、話が終わるとゆっくり頷いた。

 

 

 

「黒い死神の言う通りよ。パルバリーに卵を産み付けられてしまった女性は高い確率で助からない。腹を食い破られていることが殆どなの。生きてしっかりと意識もあるのは稀ね。発見と辿り着くまでが早かったからだわ」

 

「……お前も殺すのは賛成なのか?」

 

「まあ、可哀想だとは思うわよ。助けに来てくれたと思ったら、その狩人に殺されるんだもの。けどね、変に期待させてお腹食い破られる方が余程痛いし残酷なのよ。痛みが無いだけで孵化して中を食べられ始めていることもある。おいそれとは助けられないの」

 

「……殺すことに抵抗とかねーのか?罪悪感とかさ」

 

「そんなの()()()()()()()()じゃない。初めてそれを教えられて、その光景を見た時なんて私泡吹いて気絶したもの。それが普通なのよ。最初から何の抵抗も感じないのは、元々人殺しだった奴か、頭のネジが幾つか飛んじゃってる奴よ」

 

「だけどよ、私は黒い死神の弟子で……」

 

「確かに最強の狩人、黒い死神の弟子ともなれば期待とかされるわよ。それだけのビッグネームだもの。でもね、弟子でも人間なの。嫌なものは嫌だし、残酷なものは残酷だって感じるの」

 

「…………………。」

 

 

 

 黒い死神の名前は、狩人にとっても一般人にとっても大きすぎた。その唯一の弟子ともなれば、完璧を期待される。薄々とは感じていたことだ。彼の後を付いて街を歩けば、ヒソヒソと話をされ、狩人達からは探るような視線を受けているのだから。何と言っても強さ。それを求められていたことくらい、頭が悪いと自称する妃伽とて分かる。

 

 求められているのは完璧。しかし妃伽は人間だ。感性も歪んでいる訳でもないので、今回の一件は大分堪えた。それを女狩人は肯定した。そうなって当然だと。自分も初めての時は似たようなことになったと。龍已とマンツーマンで修業をしてきたので、他の狩人との話をする機会が無かった。なのでこうして同じ経験をした者の言葉はとても浸透しやすかった。

 

 

 

「狩人は大変よ。モンスターは強いし、お金は掛かるし、美容にも良くない。生傷が絶えない。一般人みたいにオシャレを楽しめない。時には人を殺める。肉体的にも精神的にも苦痛を伴うような仕事。でも、その道を進むと決めたなら、あなたはその想いを全うしなさい。なんとなーく狩人やってみる……という考えだと、あっという間に死ぬわよ」

 

「……わーってるよ。今回のは少し……ビックリしただけだ。もう大丈夫だ。慣れねーし、良い気分しねーけど、理解はするつもりだ。それもお前のお陰だ。ありがとよ。えーっと……」

 

「あ、名乗るのがまだだったわね。私は椎名(しいな)よ。よろしくね」

 

「おう。椎名さんだな」

 

「敬語は……元から使ってないわね。なら、私のことは普通に椎名で良いわよ。黒い死神の弟子であるあなたと知り合えているだけでも狩人の私としては嬉しいし、何より固いの好きじゃないのよ」

 

「分かった。私は巌斎妃伽だ。好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ妃伽ちゃんね」

 

「おう」

 

 

 

 手を差し出す椎名に応えるように、同じく手を差し出して握手を交わした。妃伽にとって、虎徹と龍已を除いて初めての親しくなった友人だった。2人は会話に花を咲かせ、1時間近くお喋りに興じた。その後は店を出て買い物をしながら狩人のこと、街のこと等を聞いたりと、時間を有効的に使い、羽を伸ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠ッ!ナヨナヨして悪かった!だから──────私のことぶん殴ってくれッ!」

 

「意味が分からん」

 

 

 

 

 

 

 

 






 巌斎妃伽

 パルバリーの件で気分が沈んでいた。虎徹にもそれを察せられていて、気分転換に街に行くように言われ、その時に先輩狩人の椎名に会った。他の狩人でも、やはり悩むときもあることを知り、心が軽くなって調子を取り戻した。

 スキニーのダメージジーンズとTシャツという格好は、彼女の出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいながら引き締まった体に合い、年頃の男の子のみならず、女性からの視線も受けていた。

 自毛の綺麗な長い金髪に整った顔立ちと、鋭い視線が服装と相まって話し掛けるのは憚られるが、遠巻きに見ていたくなる美人。不良っぽい雰囲気が相まっている。




 椎名(しいな)

 今年25歳の先輩狩人。狩人歴は5年。上位のモンスターを狩猟できる上位狩人。普通の実力と言っているが、それなりに上の方の実力を持っている。武器は弓。矢筒は腰に下げている。最初は背中に背負っていたが、本数の確認が目視でできず、弾切れに気づかず危ない目に遭ったことがあるため、腰に下げるようになった。

 妃伽と同じくパルバリーに精神を攻撃された人。先輩として、悩んでいる様子の妃伽の悩みを聞いた。暗い雰囲気だったのですぐ分かった。固い言葉遣いをされるのが好きじゃないので、どの後輩にもタメ口で話してくれと言っている。

 妃伽のことを、美人だなぁ……と思っている。胸は程良い大きさなので、女として大きい胸の妃伽が羨ましい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。