死神の銃声に喝采を。その御手から撲滅を   作:キャラメル太郎

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第38話  黒い狩人のカード

 

 

 

 

 

「──────狩人のランクについて説明させていただきます」

 

 

 

 妃伽。龍已が今居るのは狩人が集まる集会場の2階に設置された狩人協会支部。そこでは狩人として身分を登録するのに手続きを行っていた。現在は狩人になるからには把握していて欲しいものを口頭で説明されている。

 

 浮き足だった様子の妃伽に、龍已は話をしっかり聞けという意味を込めて態とらしく咳払いをした。ハッとして真面目に聞こうとする妃伽ではあるが、やはり胸中の喜びを抑えられないのか、口の端が持ち上がってニヤついている。

 

 龍已がはぁ……と溜め息を吐いても仕方ないのかも知れないが、彼女が緊張と喜びに(さいな)まれているのもまた、仕方ないと言えるだろう。多くの、狩人になろうとする者に見られる光景には慣れているのか、受付の女性は淡々と説明を進めていった。

 

 

 

「狩人のランクとは、そのまま受けられる依頼の難易度に直結します。下位の狩人は下位に設定された狩猟依頼を最高難易度として受けられます。上位の狩人は上位に、最上位は最上位というようになっています。ただし、上位の狩人は最上位ランクの狩人に承認を受けた場合に限り、最上位依頼を共に受けることができます。同伴できるのは1人の狩人につき1人までです。それ以上は認められません」

 

「何で下位は上位を受けられねーんだ?上位は最上位受けられるのに」

 

「下位の狩人は依頼を(こな)し、上位に昇級しても良いと狩人協会に判断されると自動的に上位に上げられる。だが上位の狩人が最上位に上がるためには現最上位狩人の推薦を受ける必要がある。要は実力を見るために同伴を特別に許すということだ。現場へ1人の最上位狩人に付けられるのは1人のみというのは、複数人の場合1人に集中することができず、効率が悪いとされているからだ。故に1人の最上位狩人には1人の上位狩人のみとなっている。……話の腰を折ってすまない。続けてくれ」

 

「いえ、補足の説明をしていただきありがとうございます。黒い死神様がおっしゃりましたように、上位から最上位に上がるには推薦を受けなくてはならないからです。それに加え、過去の実績を踏まえて狩人協会が合否を判定し、最上位に昇級させるか否かを決めます」

 

「……それだけめんどくせーことして選ばねぇと、すぐ死ぬってことか?」

 

「はい。最上位とは特上位を除き最高位ランクであり、最高難易度の依頼を受けることができる者に与えられる、極めて危険と隣り合わせのもの……そう簡単に選出することはできません。ここまででご不明な点はございますか?」

 

「あー、あれだ。上位寄りの下位みたいなモンスターが相手だって分かってた場合って、下位の狩人は依頼を受けられるのか?」

 

 

 

 何気なく気になった事を質問した妃伽に、龍已は良いところに気がつくと感心していた。自身で気づくことも大切なので、思いつくまで態と黙っていたのだ。龍已が内心で感心しているのを余所に、受付の女性の説明は進められていく。

 

 微妙なランクのラインに居るモンスター。今妃伽が例えとして出したように、上位に近い力をつけた下位というのは存在する。モンスターとて生物であり、修羅場を潜り抜ければ当然成長する。そうなると特例としてその個体のみ上位にされることさえある。なので難易度が下位だからといって、全てが全て下位とは言えない。

 

 今回の例えの場合、上位寄りの下位のモンスターが相手であると()()()()()分かっていたならば、下位の狩人では相手にするのが難しいと判断して上位狩人に任される。狩人に死はつきものと言えど、無駄死にをさせるつもりはない。危険だとわかっているならば受注はさせないのだ。

 

 

 

「へー。なるほどな。なら現場で目的のモンスターに会って、その時に初めて上位寄りの下位だったって判った時はどうすりゃいいんだ?」

 

「基本は自主的に依頼を破棄していただき、帰投していただきます。しかしモンスターに狙われてしまい戦闘を余儀なくされたのならば戦闘を(おこな)っていただく他ありません。連絡さえあれば然るべき狩人を向かわせますが、その間に狩猟を成功させたならば報酬は依頼内容通り支払われます。チームの何者かがその戦闘で殉職されたとしても、受けたのはあくまで個人またはチームの判断ということになり、我々狩人協会は責任を負うことはしません」

 

「結構ドライなんだな」

 

「そうしなければキリがありませんので」

 

 

 

 狩人になる者というのは、思いの外存在する。そもそも、妃伽が受けている登録は基本誰でもできるのだ。問題は、依頼を受けていざモンスターと対峙し、戦闘に入った場合生き残れるのかということだ。変に刺激して怒りを買い、逃げた先に居る村が襲われるなんて良く聞く話だ。最悪なのは人間の味を覚え、味を占め、人間だけを襲うようになってしまったモンスターだ。

 

 大した力もなく、覚悟もないのに狩人になり、中途半端にモンスターに殺されたことで他の狩人が窮地に立たされる。そんな悪循環がある。でも狩人の募集に制限はつけられない。万年人手不足だからだ。流石に本当に誰でもなれる訳ではない。肉体が資本なので体力がない老人はなれない。子供過ぎてもなれない。体が出来上がっていないと狩人としてやっていけない。

 

 そして、前科がある者も()けられる。明らかに思想がおかしいものや、精神に異常がある者も受けつけていない。登録と言っているが、これは単なる仮登録だ。受けつけた内容を狩人協会本部に送り、審査を行って狩人にして良いかが判定される。相当おかしくなければ大抵受理される。が、その判定に関わっているのが何を隠そう狩人協会支部で受付をしている者達だ。

 

 彼等はただ受付をしているのではない。受付をしに来た者達の人柄を見ている。登録する内容を狩人協会本部へ送ると同時に、受付をした者の主観を添える。この者は狩人として相応しくないと告げれば、狩人になることは絶望的と考えていい。龍已がそれを説明せず、狩人にすると言っていたのは、推薦者の部分を使っているからだ。

 

 今現在も狩人をしている者が推薦をすると、ほぼ無条件に推薦された者は狩人になる。謂わば、面接をパスして合格通知だけを貰うだけのようなものだ。その代わりに推薦された者が問題行動を起こせば推薦者の沽券に関わることになるが、龍已は妃伽がそんなことをする人柄をしていないことは知っているし、自身の評価など毛ほども気にしていないということもある。

 

 取り敢えず、最強の狩人として君臨する黒い死神の龍已が推薦する者を、狩人協会は否定することはない。ましてやつい先日、新種のモンスターを見つけて狩猟しているのだから、むしろ狩人になってくれる方が助かるだろう。そのために臨時の報酬を出したのだから。

 

 

 

「質問が他に無ければ最後の欄に署名をお願いします」

 

「うしっ……と」

 

「……はい。確認しました。巌斎妃伽様の狩人カードは後日本部より届きますので、日にちを少し開けて再び訪れてください」

 

「これで私も狩人か……ッ!!」

 

「精々励むといい。最初は誰もが下位から始まる」

 

「任せろ!すぐにランク上げて、師匠に追いついてやるよッ!」

 

「……………………。」

 

 

 

 明かされていない特上位への昇級方法。妃伽はそれを知らずに、龍已に追いついてみせると豪語する。遊び半分ではなく、本気で言っていることを真っ直ぐ向けられた目で察する。ただ強いだけではなく、より深い知識等が求められる。経験も知識も、そして力も持たなければならず、何と言っても実績が必要になる。

 

 最上位になるには推薦を受けなければならない。ならばその上にある、本当の最上位ランクはどうすればなれるのか……それは特上位ランクのモンスターの()()()()。文献にも載り、1体で国を滅ぼすとされる特上位モンスターをたった1人で打ち倒した者だけが、特上位になれる。そしてそれは、世界に4人しか存在しない。

 

 全ての狩人は特上位になる方々を知らない。当然狩人協会から認められなければならないのは前提も前提だが、特上位モンスターを単独狩猟する必要があることは考えつかない。でも、何となくだが察しているのだ。普通では為し得られないようなことをした者が、特上位ランクになるのだと。

 

 実際のところ、特上位なんてものは誰も目指していない。世界広しと言えども、たったの4人しか居ない特上位ランク。そしてその者達は各々が凄まじい力を持っている。目の当たりにすれば口が裂けても目指すとは言えない。しかし妃伽は、龍已の傍に居て彼の強さを見ていながら目指すと、追いつくと言い放った。特上位ランク……黒い死神に対してだ。

 

 

 

「目標があるのはいいが、その前にお前は上位に上がることだ」

 

「うっ……分かってるって……」

 

 

 

 言葉にはせず、心の中で龍已は妃伽のこれからに期待する。目指すという者は居ない。誰もが特上位にはなれない。あれは人の枠組みから外れた者達だけがなれる領域と噂し、諦めていく中で妃伽は面と向かって追い抜くとまで言った。ならばそれを実現するいつか先の未来に、少しは期待しても良いだろう。いつまでも、龍已が居るとは限らないのだから。

 

 

 

「依頼は狩人カードが届き、巌斎様の手元に来てから行ってください」

 

「おう。分かった」

 

「質問等が無ければこれで終了となります。お疲れさまでした」

 

「サンキューな!えーっと……」

 

「申し遅れました。今回巌斎様の受付を対応させていただきましたヒニアと申します。何かあればお訪ねください」

 

「ヒニアさんか。よろしくな」

 

 

 

 受付の女性改めヒニアに片手を上げて挨拶をし、支部の部屋を出て行った妃伽と龍已。主に龍已の雰囲気に当てられて同じ部屋に居た狩人登録をしに来た者達は一斉に息を大きく吐き出して肩の力を抜いた。生ける伝説と言われる黒い死神が同じ部屋に居たともなれば恐怖や緊張でおかしくなりそうになる。

 

 部屋を去っていって少ししてから、ヒニアは妃伽が記入した用紙を持って自身のデスクに戻った。記入におかしいところが無いか最終チェックを済ませて、観察官としての主観を記した用紙と合わせてFAXを送る。結果は判りきっている。黒い死神が推薦したのだから、何かの間違いがない限り狩人審査は通る。

 

 女でありながら口調は荒々しい。男に舐められないように態と強気な口調で喋る女狩人も居るが、妃伽のものは元からであると判る。背は女にしては高い170センチ以上。カウンター越しに対峙していても判る肉体的な強さ。まだ深くは知らないので言えることは少ないが、ヒニアからしてみると黒い死神の弟子となっても、まあ頷けるような印象だった。

 

 

 

「こんな時期に狩人登録なんて……知らない人達ならばまだしも、黒い死神が忘れているとは思えない。もしかして、態とこの時期を狙って登録を……?」

 

 

 

 事務を行っていた手を少し止めて、天井を見上げながらヒニアは思った。巌斎妃伽が生き残るかどうか分からないが、気をつけて欲しいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーっ!狩人カード楽しみだな!」

 

「依頼にはまだ行けないが、依頼の受注方法を説明しておく。1階へ下りるぞ」

 

「おっす!」

 

 

 

 支部の部屋を出た龍已は妃伽に依頼の受け方を説明するために1階へと下りていく。彼の後に続いていくと、またしても視線を多く感じた。黒い死神の弟子に興味を持つのは当然。これまで彼が弟子をとった事はおろか、誰かとチームを組んだことすらないのだから。完全ソロ狩人。それが常識となっていた。

 

 来たときとは違い、妃伽はもう居心地の悪さを感じなくなっていた。狩人になったも同然な状況に興奮しているのだ。誇らしげに気持ち胸を張って歩く。1階に下りた2人はテーブル席に複数人で掛けて飯を食べていたり飲んでいたりしている狩人の間を通り抜けて、建物のある場所のところにやって来た。

 

 壁に掲示板が設けられていて、そこには依頼書が貼られていた。上部には下位。上位。最上位と書かれていて、その下にある依頼書がそれぞれの難易度となっているので見やすくなっている。依頼書は報酬の他に、チーム人数の上限も定めている。大抵は無制限となっているが、その場合は4人で行くのがセオリーだ。

 

 龍已は下位の依頼書の中から、モンスターの絵が描かれている1枚を手に取り、その場を後にする。次に向かったのは1階に設けられたカウンターだった。受付をするためのカウンターであり、龍已がやって来ると受付をしている女性の顔が強張ったのが分かった。

 

 

 

「依頼書を取り、ここで受付を行う。お前はまだ持っていないが、狩人カードを渡す。後は受付の者が手続きを済ませる。難易度。何のモンスターか等といった依頼の内容を狩人カードに入れる。依頼中はカードて内容を確認できる。それと同時に誰が何を受けたか記録を取る。何の依頼で死んだか把握するためだ」

 

「勝手に持って行ったら分かんなくなるもんな」

 

「あぁ。ついでだ、俺はこれを受けてくる」

 

「ぁ、ありがとうございます……っ!か、狩人カードを拝見します……っ!」

 

「……ん?師匠それ……」

 

「俺のカードは他とは少し毛色が違う」

 

 

 

 普通の狩人が持っているカードは画面部分が透明な液晶の白を基調としたもので、タッチしたりすると文字が出るような仕組みになっているが、龍已が懐から取り出したカードは全部が真っ黒だった。裏に当たる部分には金色の文字で黒圓龍已と筆記体で書かれており、表部分はフルスクリーンになっていた。触れると起動して文字等が現れる。

 

 明らかに他とは違うカードに、妃伽はそういえば龍已の狩人カードを見るのは初めてだなと気づいた。椎名の狩人カードは出掛けたときに見たが、その後彼のものを見せてもらおうと思う前にプレゼントのことを考えたので頭になかった。

 

 受付嬢は震える手で龍已から黒い狩人カードを受け取ると、渡された依頼書共にカウンターの裏に持っていって何か事務作業を行う。パソコンにも入力を終えると、狩人カードを持って龍已に返還した。

 

 

 

「い、いってらっしゃいませッ!!」

 

「あぁ。……俺のカードはこれまで受けた依頼の総数は見れない。顔写真もない。あるのは依頼を確認することと、狩人協会本部との連絡先、そして本部から流される最新情報くらいだ。普通の狩人カードは自身のもので確認してみろ。受注の方法は以上だ。依頼を終えたら戻ってまた受付を行う。達成報告だ」

 

「あとは倉持みたいなサポーターに連絡とかするんだよな。説明サンキュー」

 

「くれぐれも勝手に依頼を受けるなよ。……今日はここまでにしよう。俺はこの依頼を終わらせてくる。お前は残りの時間を好きに使え」

 

「りょーかい!」

 

 

 

 受付カウンターで、2人は別れた。龍已は説明のついでということで受けた、1番ランクの低い下位の依頼を終わらせるために街の入口へ向かう。妃伽はあからさまにホッとする受付嬢に苦笑いしてから、受付カウンターから離れて依頼書が貼られた掲示板の元まで向かった。

 

 依頼書はモンスターの絵が描かれていて、標的が判りやすくされている。報酬額も記載され、チームの人数によって山分けされるのだろう。下位と上位では危険度が違うため報酬額も違ってくる。中には10倍以上額の違うものがあったりした。

 

 

 妃伽は今度からこうやって依頼を受けるようになるのだと、感慨深そうに掲示板を眺めていると、肩を軽く叩かれた。振り返ると友達になった椎名が和やかに笑いながら立っていた。

 

 

 

 

 

 






 巌斎妃伽

 周りの視線が気にならなくなった。早く狩人カードが届かないかソワソワしている。

 龍已の狩人カードを見るのは初めて。黒い格好に黒いカードかよ……と思ったが、彼らしいと思ったし黒が似合うので良いと思った。こんなカードもあるんだなーという気持ち。




 黒圓龍已

 いつもは適当に下位のモンスターを狩猟しているので、何気に下位の依頼を受けるのは久しぶり。依頼内容はラプノス5体の狩猟。簡単過ぎて街を出て少しした場所から狙撃したら終わった。

 何かの意図があったのか、支部の受付をしたヒニアが訝しげにする時期に妃伽を狩人に登録したらしい。




 黒圓龍已の狩人カード

 全体が黒くなっており、裏には筆記体で金色に文字が彫られている。触れると黒いカードに文字が浮かび上がるようになっていて、他の狩人が持っているカードよりも豪華な造りになっている。特上位狩人のみが持つことを許された特別なカード。

 これまでに受けた依頼等は見ることができない。要らない機能は個人の要望によって省かれる。龍已の場合はこれまでの依頼内容が依頼と言ったので省かれた。




 特上位ランク

 狩人協会が最終的に認定するのは当然として、特上位モンスターを単独狩猟できた者がなれる。この基準を知る者は現在の特上位狩人のみであり、他の狩人は知らない事実だが、何となく普通ではあり得ない条件であることは察している。




 狩人登録

 受付でやっているのは、本当は仮登録。受付をしてくれている人達は単なる事務員ではなく面接官を兼ねている。人柄を見て狩人に相応しい人物かを見ている。

 今回妃伽は龍已からの推薦があるので無条件に狩人になれるため、審査を落とされることはない。

 登録費用の1万Gは、審査に落ちると返却される。

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