異聞 黒の剣士 作:こしあん
感想評価ここ好き等々誠にありがとうございます。あまねく全てをモチベーションに換えさせていただいております。
なお、私の知らない間(?)に感想欄が投稿話順に自動並び替えする仕組みになっているらしく、見逃していて返せていなかった感想があることに最近気づきました。申し訳ありませんでした。
一応今はクリアにしたつもりですが、今後も気付かずに返事が遅くなることがあるかもしれません。どうかご容赦下さい。
また、誤字修正の方もありがとうございます。中には致命的なものもあったりして、冷や汗を掻きつつ大変助かっております。
さて、今回も進みが遅いのですが⋯⋯。
今更気付いたのですが、プログレッシブ1巻の1/3(第一層フロアボス攻略まで)に6話も費やしているので、スケルツォを全てやろうとしたら単純計算で18話もかかるんですよね。通りでなかなかボス戦まで行かないはずだ⋯⋯。
ざっくりカットしたいのはやまやまなのですが、あまりにもぶつ切りにしまくると、某とあるアニメのⅢ期くらいダイジェストになりそうなので加減が難しい⋯⋯。もちろん、そんな十何話もかけるつもりはありませんが。
相変わらず亀更新&低速進行ですが、長い目でお付き合いいただけますと幸いです。
ストックは瀕死ですが、今回は内容薄いですしまた月曜には投稿したいと思います(願望)。折しもSAOサービス開始記念日ですし。
─────セイバー⋯⋯!
「?」
当然だ。セイバーが探索しているのはカルルインの真下に広がる広大な地下墓地の深層。
一方の彼女は、今頃宿屋の大浴場で不貞腐れながら湯船にでも浸かっているのだろうから。
ついさっき喧嘩別れみたいになってしまったのが引っかかっていて、幻聴でも聞こえたのだろう。思わず苦笑いを溢した。
明日になったら必死で謝り倒そう。
そう誓い、再び歩みを進めようとして─────。
「────⋯⋯⋯⋯な、に⋯⋯⁉︎」
氷のナイフが仮想の心臓に突き立てられたような錯覚を覚えた。
視界の左上に表示されたアスナのHPバーが、突然すぅっと左側にスライドしたのだ。
減少は一割程度だったが、絶対的安全圏にいると思い込んでいた彼女がなぜダメージを受けたというのか、セイバーは見当がつかなかった。
サーマルスロットリング状態の脳を必死に高速回転させ状況を推測する。
一番に考えられるのは、圏内でデュエルを吹っ掛けられ戦闘状態に陥っているという線。
⋯⋯しかし、如何なる理由があったとしても突然のデュエル申請を受理するほど彼女は浅慮ではない。
では、セイバーへの当てつけにフィールドにでも出てモンスターと戦っているのか。
⋯⋯いや、彼女はそこまで狭量な人間ではない。
残るは、こっそり宿を出ていくセイバーに気付き、このダンジョンに至るまで後を追ってきたという可能性くらいだ。
レベル17のアスナのHPを一撃で一割も減らすほどのモンスターはこのダンジョンにいないが、トラップに引っかかったというのなら納得できる。その後HPバーが動かないこととも整合性が合うだろう。
昼間の地下墓地ボス攻略で乗り込んで来た際にアルゴからレクチャーされた攻略情報を懸命に思い起こす。
確か、このダンジョンにプレイヤーへ直接的なダメージを与える類のトラップは存在しなかったはず。となると、彼女のダメージは落とし穴による落下が原因だろう。
落とし穴が存在するのは二階の納骨堂だけなので、彼女が今いるのはその直下のエリアということになる───⋯⋯。
きっちり一分ほどかけてその結論に至ったセイバーは、マップを一瞥すると雷光の如き速度で地を蹴った。
高速で流転する視界。薄煙を残しながら仄暗い洞窟を疾駆する。重鎧を脱いで来たのは、最早トレードマークと化した黒甲冑によって余計な絡みが起こるのを忌避してのことだったが、今はそれが幸いした。
行手を阻むエネミーを鎌鼬じみた剣舞で片っ端から爆発四散させ、一直線にアスナの元へと向かう。
息が苦しくなるほどの動悸を抑えようと、自身を落ち着けるための安心材料を並び立てる。
───セイバーの予想が正しければ、憂慮するほどの事態は起こりえまい。アスナのレベルはこのダンジョンの安全マージンを大きく上回っているし、たった数時間前にボス部屋に至るまで踏破済みなのだ。
なんなら、早々に体勢を立て直し、こちらの探索を再開している可能性すらある。
そして何より。アスナの実力は、セイバーが誰よりもよく知っている。
ゲームセンス、反応速度、流麗な剣技、咄嗟の機転、全てにおいて攻略者集団の中でも頭ひとつ抜きん出ている。
加えて、イレギュラー的スペックを誇る《シバルリック・レイピア》があればこの程度のダンジョンで恐れる相手など────。
「⋯⋯⋯あ」
レイピアが、いや、
────⋯⋯あと、このダンジョンにはスナッチャーだけじゃなくて、
ベータの時にうっかり安全エリア外でオブジェクト化しちまって、次から次に湧いてくるルーターに全財産を根こそぎ持ってかれたプレイヤーがいたとかいないトカ⋯⋯────。
語尾に特徴的な鼻音の被さる声が脳裏に蘇る。その時は笑い話で済んだのだが、今この状況では掠れた呻き声しか出てこない。
もし、トラップを踏んで3階まで転落したアスナが落下ダメージ軽減のために武器を一時的に手放したとしたら。
その瞬間、近くにいたモンスターがその音を聞きつけ、彼女のレイピアを
メインアームを失ったアスナが、他のエネミーと戦闘状態に陥ったら───⋯⋯。
全くの妄想、想像しうる中で最悪のシナリオ。確信はない。
だが、ことゲームにおいてこの手の“よくないこと”というのは、往々にしてカタログ上の確率以上に発生しうる。まだHPバーに動きは見えないが、次の瞬間には減少を始めるかもしれない。
流石のアスナと言えど、最前線のダンジョンの深層モンスター相手に無手で挑むのは無謀もいいところだ。
「アスナ⋯⋯どうか無事で⋯⋯!」
角を曲がった瞬間、ちょうど目の前に現れた《
「────この剣使えんならフェンサー転向上等だっつの! 名前は……シルバリック・レイピアかぁ、かっけーじゃねーの!」
「よく見てくださいよー、シバルリックですよぉ」
「どーでもいいんだよ名前なんて! おほっ、もう+5まで強化済みじゃん!」
ダガー使いの錆びた金属が軋むような甲高い声と、片手剣使いの何処か芝居くさい剽軽な声。
二人の会話が頭の中でぐわんぐわんと反響して、岩壁の窪みに隠れていたアスナは両耳を塞いでしゃがみ込みたい衝動でいっぱいだった。
なんでこんなことになってしまったのだろうか、と被害者ぶるつもりはない。
すべて自分の不注意が起こした事態だった。
アルゴに注意を受けたはずのトラップに引っかかって、
──⋯⋯あるいは、相手が
しかし、相手はおそらくDKBとALSの対立を扇動させるPK集団────兼ねてよりアスナとセイバーが手を焼かされてきた黒ポンチョやモルテらの一派だ。
しかも、アスナは偶然にも彼らの恐ろしい計略を盗み聞きしてしまう格好になってしまった。ノコノコ彼らの前に姿を現したところで呆気なく殺されるのがオチだ。
ここでの正解は、じっとここに隠れたまま彼らが去るのを待つこと。自分の身を守るための武器の為に己が命を危険に晒すなんて本末転倒もいいところなのだから。
それでも。
全部解っていても、あの剣だけは⋯⋯⋯あの剣だけは、どうしても────!
アスナにとって、シバルリック・レイピアは単なる強力な武器オブジェクトというカテゴリでは収まらない。
あの剣は、セイバーと出会って間もない頃プレゼントされた《ウインド・フルーレ》を
三層のダークエルフ野営地で鍛治師から手渡された時に掌に感じた、ずっしりとした重みと胸の高鳴りは今でも鮮明に思い出せる。実際、その後も今日に至るまで期待を裏切らない活躍を見せてきてくれた。
銘も気に入っている。
しかし今、その剣は奪われ、あまつさえ人殺しの道具に成り下がろうとしている。
⋯⋯それだけは絶対に嫌だった。とても許容できるはずがなかった。自分だけではなく、セイバーの名誉すら汚す行為に思えてならなかったから。
────一か八か、隠れ場所から姿を現しレイピアを買い取らせてくれるよう頼み込もう。トップランナーの中でも最高峰の武勇を誇るアスナに恐れをなして交渉の席に着く可能性はゼロではない⋯⋯かもしれない。
口封じのために剣を向けられたのなら、応戦する他ない。こちらの得物は第一層からアイテムストレージに放りっぱなしだった店売りの《アイアン・レイピア》で、心許ないことこの上ないが、それでも最後まで戦おう。
それこそが剣士として最低限の誇りであり、矜持だった。
意を決して緊張と恐怖で震える脚に力を込め、窪みから身を乗り出し通路へと踏み出そうとした────その時。
黒マント二人組の奥、ダンジョンの北側に続く通路から一陣の風が吹き抜けた。
否。暗闇の彼方から弾丸のように飛び出してきた黒い塊が、黒マントたちが身構えるより早く彼らの数メートル手前に着地した。
「ぬおっ⁉︎」
ダガー使いが間抜けた声をあげ、片手剣使いは素早く腰を落として剣柄に指を走らせる───が、その動きはすぐに止まった。
ゆらりと身体を起こすのは黒衣の三人目。つむじからつま先までをすっぽりと漆黒のローブで覆った、これまた片手剣使いだ。
シルエットは小柄だ。だが、その総身から発せられる濁流の如きプレッシャーは、そんなことを感じさせないほど威圧的で暴力的なものだった。
直接対峙していないアスナですら背筋に冷たいものが走るほどに苛烈な敵意を真正面から叩きつけられ、片手剣使いが強張った声で誰何を問うた。
「⋯⋯⋯⋯こーれはこれは、穏やかじゃないですねえ。どちらさまですかぁ?」
「ほう、私を忘れたのか。どうやらあのデュエルでは少々お灸が足りなかったと見えるな、
今まで聞いたことのないほど険のある声音。普段より一層低く、恐らくは男声に寄せているのだろうが、それはすっかりと耳に馴染んだ
安堵が胸の奥から湧き出し、その場にへたり込みそうになってしまった。
だが、彼女の口走った名前に慌てて身体に活を入れる。
────モルテ。それでは、あの片手剣使いこそ第三層でセイバーにデュエルPKを仕掛けた狡猾な殺人鬼その人ということだ。自然アスナの目許も険しくなる。
「あぁ⋯⋯なぁるほどぉ。アナタでしたかー。そんな格好してるんで、てっきり自分らのお友達かと勘違いしちゃいましたよー。あははー」
「下らん雑談をしに来たわけではない。⋯⋯貴様が持っているそのレイピアは、私の相棒が装備していたものだ。単刀直入に訊くが、何処で手に入れた?」
途端、右手に白銀のレイピアを握ったままの黒マント一号が大きく身動ぎするが、モルテがすかさず手の甲で口を塞ぐ。ALSに潜入してると思しき仲間の素性は何としてでも隠したいのだろう。
「へえぇ、そうなんですかぁー。コレさっき、ルーターMobからドロップしたんですけどぉ、つまりアレですか? お友達の武器だから返せと?」
「その言葉を信じるとでも? 貴様が彼女にデュエルPKを仕掛けて奪ったかもしれないだろう。
「⋯⋯⋯⋯アハァ」
笑っているのに、明らかに怒気と冷気を帯びた声を漏らしながらフードを払った。露になったのは、鼻辺りまでを覆う縁が解れた
苛立ちを誤魔化すようにチャリチャリとコイフの端を弄りながら、モルテは取ってつけたような酷薄な笑みをたたえて口を開いた。
「おかしなこと言いますねー。迷いの霧の森で殺されそうになったのは自分の方だったと思うんですがぁ? あの日のことがトラウマになってデュエルできない体になっちゃったんですよー。慰謝料とかって請求できます?」
「ほう、それは悪いことをしたな。しかし案ずることはない。そんな恐怖も今日この瞬間までだ。私が貴様を苦しみから解放してやろう」
おちゃらけながらも、モルテの右手は今度こそ長剣のグリップを強く握りしめ抜刀姿勢に入っていた。
対するセイバーの放射する不可視のエネルギーはさらに膨れ上がり、洞窟内の空気は息苦しいほどに張り詰める。モルテの仲間で、恐らくは同じくPKerであるダガー使いですら呻きをあげながら後退りした。
先日の模擬戦の際ですらセイバーは相当な手加減をしていたらしいことに気付き戦慄していると、ほんの一瞬だけ黄金の瞳がこちらを覗いた。
一秒にも満たない僅か間眼力が弱まり、口許が緩やかに弧を描く。
しかし、すぐにかぶりを振り黒マント達に向き直った。
当たり前だが、彼女の視界左上にはアスナのHPバーがしっかりと表示されているはず。加えて、ここに隠れ潜んでいることも見抜いていた。
つまり、先程の『デュエルPKでアスナからレイピアを奪ったんじゃないか』というのはブラフなのだろう。
それでも、セイバーの剣威は明確な殺意を孕んでいる。端から交渉が通じる相手とは微塵も考えておらず、殺してでもシバルリック・レイピアを取り戻さんという気概だ。
いつ斬り合いが生じてもおかしくないほどの緊迫感。
当然先に攻撃を当てたプレイヤーのカーソルが
だが、そのペナルティと引き換えにしてでも対面する相手を葬るべきだと互いが確信しているのだ。
しかし。
ソードアート・オンラインにおけるPKとは殺人行為でしかない。HPが全損した瞬間、ナーヴギアの発する高出力のマイクロ波が黒マントたちの脳を完全に破壊する。
自分の失態が原因でセイバーに殺人などという重荷を背負わせるわけにはいかなかった。
それだけではない。もし、戦闘中に黒マントがセイバーにレイピアを向けたとなれば。そして、悪意を秘めたその切先が彼女のアバターを傷つけてしまったら。
たとえ武器を取り戻せたとして、今までのように思う存分振るうことなどできなくなるという、絶対的な確信があった。
それらを回避するには、レイピアを戦闘以外の手段で取り戻す以外に道はない。そうすればセイバーが彼らを殺す必要性は一先ずなくなるし、モルテ達も2vs2の戦闘は避けたいと考えるはずだ。
だが、この世界においてアイテムの【所有権】というのはある意味現実世界よりも厳密に設定されている。運良く隙をついてレイピアをひったくれたとしても、その所有権は依然モルテに残ったままなのだ。
アスナが正当なる所有者としてゲームシステムに認められるためには、その状態を五分もの間保持し続けなければいけない。戦闘にエスカレーションしないよう続けるのは不可能と言っていい。
───ディスアームやスナッチ、欲を言えばスライ・シュルーマンのように所有権を即時移動できるようなスキルさえ持っていれば。
詮のない思考。だが、通路の奥から聞こえた微かな
ごくりと唾を飲み、緊張でカラカラに乾いた喉を癒やす。
───確実性はないが、これしかない。
少なくとも、今のアスナにこれ以上の方法は思いつかなかった。
セイバーの腕が高速で閃き、鋭い音と共にエルフの名剣を引き抜く。
モルテはダガー使いに一瞥をくれると、素早く抜刀した。
陣形があるのか、敵はぬらりと滑るような動きでモルテの陰に隠れる。左手でそっとマントを払い腰のダガーを露出させた。
────もう迷っている時間はない。うかうかしていたら本当に戦いが始まってしまう。
大きく息を吸い、アスナは静かに行動に出た。
くっ⋯⋯!ヘルムとか仮面で顔が隠れている人物が実は超絶美少女っていう私のフェチがなかなか解放できない⋯⋯! こんなハズではなかったのに!
スケルツォ中には無理やりにでも一幕入れるつもりですので、少々お待ち下さい。
以下、本編の副音声的なやつ。
セイバーが単身宿屋を抜け出した理由
→そのうち回収。別に伏線というほどでもない。
トレードマークと化した黒甲冑
→ある意味本末転倒。この世界では防具や武器といった特徴でプレイヤーを覚えることが多いため。
アスナの実力
→個人の実力としては、前線組の中でもセイバーに次ぐとの呼び声も高い。原作でキリトに称賛されていた通り、戦闘における頭の回転の速さや応用力はセイバーをも上回りかねない。
アイテム完全オブジェクト化
→正式名称は《コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ》。名前の通り、自身に所有権があるアイテムを全て足元に吐き出す機能。メニュー欄の深層に存在している。
アスナはこのボタンのお陰で、第二層で詐欺被害にあったレイピアを取り戻すことができた。
全財産を根こそぎ持ってかれたプレイヤー
→某勇者顔アバターのプレイヤー。その後半泣きでルーターを殲滅して何とか取り戻したらしい。
ウインド・フルーレ
→セイバーからの初プレゼント。原作でもキリトが渡していたはずだが、劇場版アリアでは時空が捻じ曲がっていた。
殺意を剥き出しにするセイバー
→レイピアを取り戻すためというのも嘘ではないが、折角会ったし殺しておこうというのが理由の大半だったりする。
カルマ回復クエスト
→作者は未だにその内容を知らない。既出だったら誰か教えていただけると助かります⋯⋯。