異聞 黒の剣士   作:こしあん

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 感想、評価、誤字報告本当にありがとうございます。明らかに地雷すぎるタグの数々にも関わらず、沢山の方に見て頂いているようで驚いています。

 相変わらず今回も進行ダメです。サクサク行き過ぎるのもちょっと味気ないですが、しかしゆっくり過ぎるかもしれません。すみません。




第4話 前夜

 

 ディアベル───攻略会議の発起人。青髪のイケメンプレイヤーだ───の掛け声と、それに呼応する参加者40人弱の雄叫びで《会議》は幕を閉じた。

 

 それを最後まで見届けることなく、セイバーは踵を返した。

 

 ────結論から言えば《ボス攻略会議》は看板に偽りありだった。何せ、ディアベルらのパーティーがようやく迷宮区の最上階に達したという段階だ。詳細なボス戦略を議論できるような状況でもなかったのである。今回の会議は、実際的には最前線で戦っているプレイヤーの顔合わせのようなものだった。

 

 とはいえ、全くの無駄では無かっただろう。ディアベルはある程度のカリスマ性とリーダーシップの持ち主で、参加者の大部分は士気を上げたように見えた。

 

 何より──これは意図しないものだろうが──一般プレイヤーとβテスターの間にある深い溝が僅かばかりとはいえ埋まったのは大きな成果だ。

 キバオウと名乗るプレイヤーのβテスターへの強烈な糾弾と、エギルという斧戦士の現実的な反論。

 問題が先送りになっただけなのかもしれないが、それでも燻っていた不満はその交錯を経て一旦の鎮静化を見せた。最悪の場合、プレイヤー間での魔女狩り(疑心暗鬼)による決裂すら予想していたセイバーとしては最良の結果であったと言える。

 

 

「ねえ」

 

 宿が同じ方角なのか、少し後ろをくっついて歩いていた少女の声に回想から引き戻される。立ち止まり、目を遣ると静謐なヘイゼルの輝きと視線がぶつかった。

 

「その、会議の前に話してたことだけど────」

「おー、いたいた! そういや、セーちゃんのねぐらの場所聞き忘れててナー。気づいたら広場から消えてるもんだから、随分と探したゼ」

「セーちゃん?」

 

 聞き捨てならない渾名に思わず顔を顰める。フェンサーの後ろから駆け寄ってきたのは、《鼠》のアルゴだった。

 

「ン? なんだ、取り込み中だったカ?」

 

 フェンサーに視線を向けると、僅かにふるふると首を横に振り一歩引いて建物の壁に寄り掛かった。どうやら話がつくまで待っているつもりのようだ。

 

「⋯⋯後でいいそうだ。それにしても、情報屋なら私の宿くらい把握しているものと思っていたが」

「そりゃ買い被りすぎダ。オレっちもそんな暇じゃないし、依頼でも無い限りそんなことまで調べないヨ。直接訊けるならそっちのが早いに決まってるしナ」

「⋯⋯まあ、それもそうか」

 

 彼女があまりになんでも知っているから少し感覚が麻痺していたのかもしれない。彼女は情報屋であって探偵ではないのだ。

 

「私の借りている宿屋は、町の東にある農家の2階だ」

「ン、わかっタ。⋯⋯にしても、あの部屋を借りてるのはアンタだったのカ。一層にしては珍しく風呂付きでベッドもデカい良物件だから、オレっちも狙ってたんだけどナー」

 

 若干恨めしそうな視線を向けるアルゴに、ヘルムの下でドヤ顔を作る。セイバー自身あの宿はこの町で一番住み心地がいいと自負していた。

 

 ────あれはそう、この街に来てすぐのこと。露天が並ぶ通りで重たい荷物を抱えた老婆に手を貸したことがキッカケだった。それが何かのフラグだったのか、甚く感謝したご老人に今の宿を案内されたのだ。どうやら農業の傍で宿屋も営んでいる一家のお婆さん、という設定らしかった。

 

 その展開すら幸運:A(転生特典)のお陰なのか、紹介された部屋はセイバーの想像を遥かに超えるものだった。

 

 20畳はあろうかという豪奢な居間。明らかに今まで泊まってきた宿屋のベッドとは一線を画した大きくふかふかのベッド。年季が入っていながらも高級感を感じさせる調度品や内装。手足を投げ出しても余りある大きなバスタブ。

 もちろん一目で気に入り、セイバーは速攻でシステム的に可能な上限日数の宿代を支払ったのである。

 

「フッ。まあ、風呂くらいならタダで使わせてやらんことも────」

「⋯⋯⋯⋯なんですって?」

 

 セイバーの台詞は、突如として顔面間近まで迫ってきたフェンサーの低い声によって中断させられた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんて言うか、面白れー女だナ」

「同感だ」

 

 【Bathroom】のドアプレートを見ながら、二人して呆れた声をこぼす。扉の先ではフーデットケープの中身が仮想の風呂を堪能していることだろう。

 

 初対面の相手の部屋に押し入る図々しさとか、プライドとか、貞操観念とか、その他諸々の葛藤があったに違いないが、それを押し退けてでも風呂を優先したらしい。

 部屋の豪華な内装に一通り感嘆の声を漏らすと、彼女はそそくさと浴室に入っていった。それがつい数分前のことだ。

 

「ンデ、うら若い乙女二人を部屋に連れ込んでなんの用ダ?」

「あの女は偶然だ。見ていただろう。そんなにお望みなら()()()()()()のも吝かでは無いが、せめてボス戦の後にしてくれ」

 

 軽口を交わしながら、机の上に羊皮紙の束をオブジェクト化する。アルゴはびっしりと文字が書き込まれたスクロールを手に取り、目を見開いた。

 

「⋯⋯おいおい、マジかヨ。こりゃ、さぞかしさっきの会議は滑稽だったダロ」

「そんなことはない。どうせ明日くらいにはこれと同じデータが上がっていた筈だ。ほんの一日先を越した程度で得意になどならん」

 

 迷宮区第一層の20階のボス部屋に至るまでの詳細なマップデータと出現モンスターのデータ。そして、フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》の容姿や武装、取り巻きのモンスターの情報。

 

 ディアベルたちですらまだ未到達の階の情報が記載されたペーパーに一通り目を通すと、アルゴが顔を上げた。その表情はいつになく真剣だ。

 

「なあ、一つ聞きたいんだガ。ボスのデータはベータん時のカ? それとも実際に見てきたものカ?」

「今日この目で確かめてきたものだ。ボス部屋に入り、モンスターどもをポップさせたのだから間違いない。数が数ゆえ、ある程度戦ったところで撤退したが。

 ⋯⋯お前を呼んだのは、ボスのデータがベータテストの時とどの程度違いがあるか調べて欲しいからだ」

 

 少なくともセイバーが直に見た範囲で事前情報と異なっているものは無かった。

 しかし、彼女が知っている情報───即ち、リアルで和人から聞いていた話は、当然ながら彼が体験した全てではない。コボルド王の行動パターンもある程度は聞いていたが、実際のところ情報に抜け漏れはあるだろう。

 故に、半日ほど前に目にしたボスがテスト時と全く同一かどうか、セイバーは判断に迷った。

 

 そこで、SAO随一の情報屋であり、恐らくは元テスターであろうアルゴの出番という訳である。もしこのボスモンスターがβテストの時と全く同じであったとするなら、ハイリスクな偵察戦を省ける上に攻略もより簡易に済むはずだ。

 

 ⋯⋯という旨を伝え終えると、アルゴは得心がいったように頷いた。

 

「────なるほどナ。てことは、セーちゃんはベータん時は一層のボス戦に参加してなかったってことカ」

「⋯⋯まあ、そんなところだ」

 

 どうやらアルゴはセイバーが元テスターであると勘違いしているらしい。話せば長くなるし、全くの素人というわけでもないからわざわざ否定することではないが。

 

「その依頼、こっちからしても願ったり叶ったりダ」

 

 言いながらゴソゴソと懐から取り出したのは、羊皮紙3枚程度の束。それを黙読すると、今度はセイバーが驚く番だった。

 

 そこに記載されていたのは、セイバーが用意したもの以上に詳細なボスのデータだった。ボスの名前は勿論のこと、推定HP量や武装、使用するソードスキルまでもがびっちり書き込んである。取り巻きモンスター《センチネル》達の行動パターンや出現タイミングまでもが事細かく。

 その殆どがセイバーが見てきたものや和人から聞いていた情報と一致した。

 

「これは⋯⋯」

「オレっちがベータん時に集めてた情報と、別口でテスター達から聞いてた話をまとめたもんダ。裏が取れるまで配布しないつもりだったんだが、セーちゃんのお陰でそれも終わった。明日には本にしてNPCに渡しておくヨ。このマッピングデータと一緒にナ」

「⋯⋯そうか、助かる」

 

 それは、明日くらいに改めてアルゴに頼む予定だったことだ。セイバーの渡したデータとβテストの情報を突合し、違いがあればそれを注記した上で攻略ガイドにまとめてもらうつもりだったのだ。

 アルゴの情報収集力、分析力、そして視野の広さに改めて舌を巻く。戦闘のパラメータに特化したセイバーからすれば、アルゴの異色の才能は畏敬の念を抱かざるを得なかった。

 

「ンジャ、オレっちはこれから作業に移るからお暇するゼ。あ、アーちゃんがいくら可愛くても無理矢理はオネーサン感心しないからナー」

「アーちゃん?⋯⋯あの女のことか。何を世迷言を⋯⋯。あ、待て、貴様このことを情報(ネタ)にするつもりじゃないだろうな」

「⋯⋯おやすみ!」

 

 シュババッと敏捷値を活かした素早さでアルゴは走り去ってしまった。

 ひょっとしたらいつか非常に不本意な噂が流れるかもしれない。もっとも、その時はあのフェンサーも巻き添えを喰らうだろうが。合掌。

 

 小さくため息を吐きつつ、ソファに背を傾ける。全身を包む鎧のせいで羽毛の心地いい柔らかさを堪能できないが、それでもこうしてゆったりとした体勢を取ると否が応にも眠気を自覚した。

 

 あのフェンサーほどでは無いが、セイバーもここ数日は不眠不休だった。朝から深夜まで迷宮区に潜り、宿に帰ってからは諸々の攻略情報をまとめてアルゴに送る日々。豪華な部屋を独り占めしておいて全くもって勿体無いが、最後に睡眠を取ったのは2日も前のことだ。流石に疲れが溜まっていたらしい。

 

 浴室の扉が開くまで、少しだけ仮眠を取ろう。勿論、彼女が出ていったら布団でしっかり寝るつもりだ。何せ、恐らく明日はこの世界で初のフロアボス攻略に乗り出すことになるのだから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁあ〜〜っ」

 

 少女は深い深いため息を吐きながら湯船から上がった。水の感触や水面の反射など、確かに細部は現実世界のお風呂とは異なっていたが、それでも一ヶ月ぶりの入浴体験は筆舌に尽くしがたい心地よさがあった。

 

 正直数分意識が飛びかけていたが、流石に人様の借りた部屋の浴室で寝落ちするわけにはいかない。全身を包み込む柔らかい温かさに名残惜しさを感じながらも備え付けのタオルで身体を拭い、メニューを操作して装備姿に着替える。

 

 上の層に行ったら、何がなんでもお風呂付きの物件を借りよう。そう心に誓い、居間に続く扉を押した。

 

 ───無意識のうちに〝次〟を考えていることに、少女は気づかなかった。

 

 

 扉を開けると、初冬のひんやりとした空気が火照(ほて)った身体を撫でた。それがまた気持ちが良くて、少女は頬にくっついた横髪を掻き上げながらほうと溜息をついた。

 とろんとした目で視線を巡らせると、共に部屋に来ていたはずのアルゴは既にいなかった。セーちゃんなる渾名───本人は不服そうだったが───で呼ばれていた黒色の鎧男は、ソファーに腰掛けたままこちらを見据えている。

 

 そこで少女は、ようやく己の過ちに気づいた。

 

「しま──ッ⁉︎」

 

 お風呂があまりにも気持ち良くて完全に油断していた。少女はいつもの赤いフーデッドケープを羽織り忘れていた。即ち、フードの下に潜む美貌が顕になっているのである。

 

 彼女が顔を隠しているのは、端的に言えば〝男避け〟だ。

 少女の顔立ちは、現実世界でもアイドルにスカウトされるほどに整っている。なのに、この世界ときたら男女比は恐らく9:1近く。当然ながら非常に目を引くし、突然声をかけられることすら少なくなかった。育ち柄あまり男性に対して耐性が強くなかったこともあり、少女はすぐにフード付きの衣装を装備するようになったのだ。

 

 しかし今、ちょっとした不注意で全身を晒してしまっている。少女は体を硬直させ、慎重に向こうの出方を伺った。

 

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 1秒、2秒と時間が過ぎ。10秒経っても男はソファを背に腕を回した格好で微動だにしない。流石に何かおかしい。

 

「⋯⋯⋯⋯すぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」

「⋯⋯? 寝ている、の⋯⋯?」

 

 違和感を感じて観察していると、小さな寝息が耳に届いた。よく見れば、男の肩は規則的に小さく上下している。

 安堵のため息を漏らし、少女は今度こそしっかりとケープを装備する。

 

「それにしても、よくあんな格好で寝れるわね⋯⋯ん?」

 

 完全に自分のことを棚に上げながら呆れていると、少女はベッドの上に小さな布の塊を発見した。

 

「何かしら、これ」

 

 チラリと振り向くと、フルプレ男は未だ静かに舟を漕いでいた。

 他人の部屋というのは重々承知している。それでも、壮絶な実力を持つ彼の素顔が気になってしまった。家主が寝入っているのをいいことに、彼女は大胆にも柔らかそうなベッドに近づく。

 

 そしてベッドの上の、これまた柔らかそうな黒色の布を持ち上げ────固まる。

 

「なッ⋯⋯、な、ななな⋯⋯⁉︎」

 

 手触りのいい黒い布は、シンプルながらも細かい刺繍が施された女性用下着(ショーツ)だったのである。つまり、あの分厚い金属鎧の下にあるのは年頃の少女ということか────。

 

「⋯⋯⋯⋯え」

 

 思考を遮ったのは、ショーツの端っこに施された愛らしい鼠のマーク。

 

 つまり、このセクシーかつキュートなショーツはアルゴのものということで。

 アルゴがベッドの上で下着を外すような()()()があったということで。

 だからあの男は疲れた様子で寝ているということで。

 

 そして、その()()()は少女がお風呂に入っている小一時間の間にすぐ隣の部屋で起こっていたというわけで────。

 

 

「ふわぁ⋯⋯⋯。ぅん? なんだ⋯⋯あがったのか。すまん、少し寝入っていたようだ」

「こ、このッ⋯⋯ヘンタイ‼︎」

「はい?」

 

 困惑した声を背に、少女は全身全霊の猛ダッシュでその場から逃げ出したのだった。

 





 ────なんだったんだ、アイツ。
 セイバーは突然の罵倒と脱兎のごとき逃げ足に暫く惚けていたが、やがて理解を諦めて大きくため息を吐いた。

 何はともあれ、しんと静まり返った部屋に張り詰めていた気を解き、武装も全て解除する。大きく伸びをしてベッドの上にダイブした。

「お風呂は明日でいいでしょう⋯⋯。ん?」

 手に触れる柔らかい布。手にとってみると、それは鼠の刺繍があしらわれた黒色の可愛らしいショーツだった。

 思わず苦笑いを溢す。
 これは暫く前にこの宿(というか農家)のクエストを達成した際に報酬として貰ったものだ。
 一度試しに履いてみたのだが、どうにもあの少女を連想してしまい、ベッドに放り投げたのがそのままになっていたらしい。

 勿論このまま放っておいても耐久値が減ることは無いのだが、明日のボス戦が無事に終わればこの部屋に戻ってくることもない。ストレージに放り込み、今度こそセイバーは布団にくるまった。

 非常に不名誉かつ不本意な勘違いをされていることに気が付かぬまま。


────────────────────────────────

 以下、本編の副音声的なやつ。

ボス攻略会議
→あえなく全カット。まあ原作でキリトくんが地蔵だったように、特に見せ場もないので致し方なし。

セーちゃん
→セイバーの性別に気づいているわけではない。本人はちょっとした悪ふざけのつもり。ぶっちゃけセー坊だと語呂が悪すぎた。

幸運A
→つサンタオルタ。
 まあ、主人公は《セイバーオルタ》ではなく、《アルトリアオルタ》を願ったので⋯⋯ということにしておいて下さい。
 実のところ、こんくらいの幸運ランクじゃないと後々のストーリーに不備が出てきてしまいますからね。ラグーラビットとか。多分キリトのリアルラックはAランク相当。
 他のパラメータやスキルも一部他クラスに置き換わっています。カリスマや騎乗スキルなんかがそうですね。
 この世界には魔力がないので、魔力A++や魔力放出A、宝具などが機能していません。【神】がそこら辺を加味してステータスとかを弄ってくれた、と解釈して頂ければ。

お風呂
→いくら仮想世界と言えど一ヶ月間風呂に入ってないとかゾッとする。

勘違いするアルゴ
→これだけの実力と、(実は中途半端だけど)豊富な攻略知識を備えてたら誰でも元テスターだと考えるでしょう。

殆ど寝ていないセイバー
→騎士王スペック。2日、3日程度の不眠なら戦闘に支障が出るほどではない。

勘違いするアスナ
→彼女の視点からすると気持ちよくお風呂に入っていた真横で一戦交わされていた、ということに。

鼠印のショーツ
→幸運A(笑)。
 多分当該のクエストは、大量にポップするネズミ型モンスターのスローター系。ばっさばっさと斬り倒した。

一層攻略後、今後の展開は⋯⋯

  • アニメ版の構成で飛ばし飛ばし進む
  • プログレッシブをなぞる(エタる可能性大)
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