異聞 黒の剣士   作:こしあん

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 今回の話は難産でした。自分で描いてて『あれ、この話恐ろしいほどつまらんくない⋯⋯?』と思うくらい。
 そのうち描き直すかもしれません。

 今更ですが、誤字脱字報告やお気に入り&評価ありがとうございます。ご期待に添える自信は全く有りませんがちびちびと続けていきたいと思います⋯⋯。



第6話 消滅

 

 青髪の騎士、ディアベルは一人のプレイヤーを視界の端に捉え、内心で巨大な衝撃と僅かばかりの安堵を感じていた。

 

 

 《黒騎士》はディアベルがトールバーナに着いた頃にはもう噂になっていた。

 

 曰く、一人で一階層のモンスターポップを丸ごと枯らせたとか、一週間以上不眠不休で戦い続けたとか、その間HPは1ドットも削れなかったとか。それはもう眉唾物な話ばかりであった。

 

 都市伝説のような単なる作り話か、凄腕の元テスターの戦闘ぶりに尾ひれがつきすぎた結果か。ディアベルはそう結論づけた。

 

 だから、実際に迷宮区の奥で黒騎士の戦闘を目の当たりにしたときは巨大な衝撃を受けた。それこそ、あの荒唐無稽の噂話も強ち誇張ではないかもしれないと思ったほどに。

 まさに隔絶した強さ。ディアベルは〝彼〟に対して大きな警戒心を抱いた。

 

 あれほどの実力だ。下地には必ず情報量と経験────即ち、元テスターとしてのアドバンテージがあるはず。しかもただのテスターではあるまい。βテスト参加者の中でも上澄みの上澄みに違いない。

 

 実のところ、周りにはひた隠しにしているがディアベルもβテスト参加者だった。それも、決して自惚れではなく、事実として彼もまたベータでのトッププレイヤーの一角であった。

 

 だが、黒騎士のプレイヤーネーム───情報屋から買った───《セイバー》には覚えがなかった。ディアベルがそうであるように、当時のトッププレイヤーの誰かが名前を変えたのだろう、という推測は容易であった。

 

 では、もう一つのアインクラッドでの〝彼〟は誰だったのか。

 あれほどの実力者はベータでも見覚えがなかったが、黒系統の武具を好んで装備していた盾無し片手剣使いには一人覚えがあった。

 

 勇者然としたアバターのソイツは、当時のディアベルにとって最大のライバルだった。βテスト終了間際に本当の意味で最前線───第10層迷宮区第20階───を走っていたプレイヤーはディアベルを含めて3人いたが、その中でも特に抜きん出ていたのが彼だった。

 

 その男はどちらかというと剣技よりもゲームセンスにこそ目を見張るものがあり、あの黒騎士のバトルスタイルとは似ても似つかないが、このデスゲームが始まってから()()()可能性も否定できない。加えてその男が正式サービスにおいて、少なくともかつての名前でログインしていないのは《黒鉄宮》で確認済だ。

 

 単に実力者というだけであったなら、ディアベルもそこまで大きな警戒心を抱かなかったかもしれない。

 問題は、ベータテスト期間中に奴がフロアボスの《LAボーナス》を取りまくっていたことにある。

 

 LA───とどめの一撃(ラストアタック)。その名の通りモンスターに最後の一撃を加えたプレイヤーに与えられるボーナスで、フロアボスをはじめとする一部のモンスターに設定されたシステムだ。ことにフロアボスのそれは、LAを取ったプレイヤーに確定でドロップし数層上まで通用するような高性能で世界に唯一つ(ユニーク)なアイテムだ。

 ベータでは散々辛酸を嘗めさせられたが、この世界で二の轍を踏む訳にはいかない。ディアベルにはどうしてもLAボーナスによるレアアイテムが必要だった。自身の戦力増強のためだけではなく、このゲームをクリアする指揮官の旗印として。

 

 黒騎士の中身が彼と決まった訳ではない。しかし、可能性としてはあり得る。土壇場でLAを掻っ攫われる疑念を、ディアベルは捨て切ることができなかった。

 

 ゆえに、ディアベルは攻略隊のリーダーとしての立場を利用して幾つかの策を弄し、黒騎士の封じ込めを行った。

 

 例えば、攻略会議におけるキバオウの糾弾。他のプレイヤーたちからは突然の乱入のように見えただろうが、事前にキバオウとは打合せ済だった。あの場でβテスターとの確執を鮮明にしておけば、無理にLAを狙って元テスターであることを露見するようなリスクを回避するだろうという魂胆だった。

 

 黒騎士ともう一人のソロプレイヤーを1組にし、元テスターへの敵意を露わにするキバオウのチームのサポートに回したのも偶然ではない。事前にキバオウに黒騎士が〝LAを乱獲していた悪の元テスター〟である可能性を吹き込んでおけば、勝手に監視してくれるだろうという狙いだ。

 

 

 結果的にディアベルの策略はうまく行った。向こうのパーティーは破竹の勢いでセンチネルを討伐しているが、ボス戦に乗り込んでくる気配は無い。そしてボスのHPバーは残り一段。

 

 イルファングが骨斧と円盾を投げ捨て、腰のタルワールを引き抜く。ベータ時代に幾度となく見た攻撃パターン変更モーションだ。

 攻撃力が上がり射程も伸びるが、その代わり縦斬り系の技ばかり使うようになるため攻撃も避けやすくなる。作戦通りC隊でボスを囲み、タルワールの振り下ろし攻撃を避けつつ斬りまくっていればすぐにボスを撃破できるだろう。

 

 後は、敵HPの残量を注視しながら指揮を取り、頃合いを見てラストアタックを叩き込むだけだ────。

 

 

 

 

 

 そんな思考を、血のような深紅の輝き(ライトエフェクト)が遮った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁあッ!」

 

 多重に重なる絶叫じみた悲鳴に咄嗟に視線を巡らせ、固まる。つい数分前まで想定以上に順調に進んでいた戦況が一変していたのだ。

 

 何が起きたのかすぐには理解できなかった。

 イルファングを取り囲むように張り付いていたC隊が揃いも揃って倒れ伏していたのだ。HPバーは黄色ゾーンにまで達し、何らかのバッドステータスを受けて立ち上がれないようだ。

 

 アルゴの攻略本────即ちベータの情報では、変更後の攻撃モーションはタルワールによる縦斬りばかりのはず。

 しかし、C隊のダメージから察するに超火力の横斬り系のソードスキルを受けたように見える。しかも、ボスの掲げる鈍色の刀身は、攻略ガイドに記載のあったタルワールのイメージ図とは似ても似つかない。

 

 テスト時と本サービスの違い。それも、これまでβテスターたちを苦しめていたであろう微毒(僅かな違い)ではなく、ボスの武器とソードスキルの変更という最悪の猛毒だ。

 

 このままではC隊は全滅すら有りうる。そうなれば、今度こそレイド全体が烏合の衆と化し、夥しい数の犠牲者が出てしまうだろう。

 

 

「アスナ、ここは任せた」

「え、ちょっと⁉︎」

 

 センチネルのハルバートを叩き上げ、猛然と駆ける。この時ばかりは全身を覆うブロンズ鎧の超重量が煩わしかった。だが勿論、今装備を解除しているような時間的余裕はない。

 

 50メートル。

 敵はまだ技後硬直中だ。しかし、前線で満足に動けるプレイヤーは一人としていない。みな足が竦んでいるのだ。

 

 30メートル。

 イルファングが大技の硬直から脱し、武器を構え直す。事ここに至り、セイバーはボスの持つ武器が〝カタナ〟であることに気づいた。

 

 20メートル。

 大振りの野太刀が赤い弧を描きながらディアベルの身体を打ち据えた。和人から聞いたカタナスキルの情報を必死に記憶から掘り起こし、その技が《浮舟》なるものだと結論づける。

 

 10メートル。

 《浮舟》によって斬り上げられたディアベルの身体が宙を舞う。《浮舟》はスキルコンボの開始技だ。この後に待つのは超大技と相場が決まっている。

 

 5メートル。

 野太刀を再び赤いライトエフェクトが包み込む。狼にも似た巨大な口がニヤリと獰猛に笑った。

 

 3メートル。

 不安定な格好で剣を構えるディアベルに、上段から高速の太刀が迫る。───間に合わない。

 

「────ハァァァアッ‼︎」

 

 剣を右肩に担ぐように構え、左足で思い切り床を蹴り上げる。片手剣突進技《ソニックリープ》。システムアシストの動きを妨げないギリギリの範囲で意図的に体を動かし、速度をブーストさせる。

 

 野太刀がディアベルの胴体を両断する、その寸前。アニールブレードの分厚い刀身が、イルファングの脳天に届いた。

 

 

 加速していた視界が元に戻っていく。技を中断させられ、バウンドしながら床に叩きつけられたコボルド王がスタンしているのを確認し、ディアベルに駆け寄った。

 

 ディアベルのHPバーは滑らかに左に削れていき、危険域ゾーンに達していた。しかし、残り数ドット分くらいしか残っていないとはいえ、それでも彼は確かに生きていた。安堵の溜め息をつきながら、セイバーは彼にポーションを手渡した。

 

「大丈夫か? 一度横にはけておけ」

「⋯⋯⋯すまない」

 

 まだスタンから回復しきっていないディアベルを引き摺り、壁にもたれさせる。真っ赤に染まった彼のHPが非常に遅々とした速度でじわじわと右側に寄っていくのを尻目に、戦況を確認する。

 

 ディアベルの生存を確認できたところで、レイドメンバー達の動揺が収まる様子は無かった。指揮官はしばらく動けない上、一撃でHPを半減させられたC隊(主力部隊)は殆ど恐慌状態。他のプレイヤー達も事前情報のない敵の行動パターンに半狂乱になっている。

 

「オレの⋯⋯⋯オレのせいだ」

 

 くしゃりとディアベルの相貌が歪む。眉間に刻まれた深い皺には、途方もない自戒の色が見て取れた。

 

「オレが先走ったせいで前線が瓦解したんだ。オレがLAに目が眩んだばっかりに⋯⋯。オレが⋯⋯⋯⋯!」

「⋯⋯LA?」

 

 聞きなれない略称に小首を傾げる。和人との会話を呼び起こしてみるが、該当するような情報は浮かんでこなかった。

 

 問い返したセイバーに、ディアベルが大きく目を見開く。

 

「まさか、キミは─────」

「うわぁぁぁああッ」

 

 何事かを喋ろうとしたディアベルの声に覆い被さるように、恐怖に彩られた悲鳴が耳をつんざいた。同時に、低い金属音が立て続けに響き渡る。硬直から回復したイルファングが再度暴れ出したのだ。

 

「⋯⋯後は頼む、セイバーさん。ボスを倒してくれ。ここで退いたらオレ達は二度と上の層に上がれない⋯⋯。そんな気がするんだ」

「⋯⋯わかった」

 

 ディアベルのHPの回復にはかなりの時間を要するだろう。死への恐怖で体を震わせる彼が再び大敵に立ち向かうには、さらに。

 

 背を向け、フロアボスを見据える。

 

「わたしも行く。パートナーだから」

 

 隣に並び立ったアスナがキッパリと宣言する。お前は追加で湧いたセンチネルの対処を⋯⋯という台詞を飲み込む。ヘイゼルの瞳に宿る決意の炎を退けるに足る説明が浮かんでこなかった。

 

「⋯⋯⋯⋯解った。頼む」

 

 殆ど同時に走り出す。

 前線は完全にパニックに陥り、いつ死者が出てもおかしくない状況だ。隊列の維持どころか逃げ惑うだけのプレイヤーもいる。

 

 まずは混乱を鎮静化しなければいけない。しかし、その()()を実行に移すには少々時間がかかる。動きながらメニューウィンドウを操作しなくてはいけないからだ。

 

 そんな逡巡を蹴散らしたのは、隣を走るアスナだった。激しくはためくフード付きのケープを邪魔そうに掴み、一気に引き剥がしたのだ。

 

「────────」

 

 広間に一瞬の静寂が訪れる。かく言うセイバーも思わず目を見開いたまま顔を硬直させてしまっていた。

 何せ、隣の赤ずきんの中身は途方もない美少女だったからだ。

 

 ボス部屋に満ちる篝火を反射する栗色のロングヘア。透き通るほどに白い絹のような肌。薄暗闇の中でも爛々と輝くヘイゼルの瞳。小ぶりだがスッと通った鼻筋。小さく可憐な桜色の唇。非の打ち所がない美人だった。

 

 ひょっとして彼女だけアバター姿のままデスゲームを迎えてしまったのではなかろうか。

 自分のことを棚に上げてそんなことを考えてしまった。

 

 兎も角、これはチャンスだ。本人が狙ったことではあるまいが、アスナの美貌に見惚れて誰もが言葉を失っている。つまり、一時的にパニックから脱している。

 

「全員出口まで逃げろ! 後は私達がなんとかする!」

 

 短く、簡潔な指示をシャウトする。カリスマE(システム外ステータス)のお陰もあってか、一目散に全員が出口目がけて駆け出した。

 

 それに逆流するように二人して疾走する。敵もこちらに気づいた様子で、武器を構えて正対した。

 

 コボルド王が野太刀を左の腰だめに構える。居合のようなモーションだ。薄い知識の中に居合系のカタナスキルは幾つかあり、残念ながらあの型から技を絞り込むことはできない。

 

 だが、不安も恐怖もない。()()に従って突進系ソードスキル《レイジスパイク》を放つ。

 

「ハッ──!」

 

 緑と青の軌跡が宙で激突した。強烈な衝撃と共に後方に激しいノックバックを受けるが、イルファングもまた同じように体勢を崩している。

 

「スイッチ!」

「セアアッ!」

 

 その隙にアスナが飛び込み鋭い《リニアー》をぶち込む。非常に僅かながらも、ボスのHPバーが確かに左に振れた。

 そのダメージ量から後何発ソードスキルを叩き込む必要があるのか瞬時に目算しつつ、再度アスナの前に躍り出てイルファングの巨躯に剣戟を走らせる。一拍遅れて技後硬直から復活し、猛り狂いながら放たれた必殺の剣を《バーチカル》で捌く。

 

 ────いける。それも、一対一で戦うより早く確実に。

 

 浮き足立つでもなく、冷静に状況を分析しながらセイバーは神速の剣閃を抜き放った。

 

 

 

 

 

 セイバーが野太刀をソードスキルで弾き、即座にスイッチしたアスナが《リニアー》を撃つ。再度入れ替わったセイバーが通常攻撃を見舞わせながら次のソードスキルまで待つ。

 

 殆どパターン化された攻防は都合20回近く続き、フロアボスの有する莫大な量のHPも遂には黄色ゲージに達した。

 

 

 

 ────戦局が傾いたのは、不運によるものだった。

 

 斬り降ろしから急転回して斬り上げの軌道を描く変幻のソードスキル。初見殺しもいいところな悪辣な斬撃を、しかしセイバーは先読みしていたかのように《スラント》で相殺する。未来予測じみた直感のなせる神業と言えた。

 

 しかし、背後でそれを見ていたアスナは一瞬身体を硬直させた。陽炎のようにはためいた野太刀がセイバーの鎧を切り裂く様を想像してしまったからだ。

 

 コンマ数秒で持ち直し急いでスイッチしたのだが、その刹那の間が致命的だった。

 アスナの純銀の光芒がコボルド王を打ち据えるよりも早く、イルファングは技後硬直から回復していたのだ。先の技(幻月)は他のカタナスキルに比べて隙が短かったのだろう。

 

 

 

 最上段に構えた野太刀が紅蓮の輝きを纏う。ディアベルの時には不発に終わった大技────《緋扇》だ。急いでスイッチしようと地を蹴るセイバーを視界に捉え、コボルド王の口元が嘲りの色を帯びた。

 

「ク────ッ」

 

 血のような赤いエフェクトが視界いっぱいに弾けた。

 

 





ストックが死んだ! この人でなし!


以下、副音声的なやつ。

黒騎士の噂
→もはや都市伝説。勿論尾ひれがついているが、幾つかは真実だったりする。

黒騎士を警戒するディアベル
→某勇者顔の誰かさんのせい。
 人違いで割と非道な手を使っているが、原作のディアベルの計略に比べればまだ可愛い方。セイバーがキリなんとかさんだと断定はしていないため。

セイバーのプレイヤーネーム
→アルゴは誰が元テスターかの情報だけは頑として取り扱わないが、プレイヤーネームくらいの情報なら普通に売買する。

生き残ったディアベル
→このことが今後役に立つときがくる⋯⋯とは限らない。

LAを知らないセイバー
→和人からベータの話はよく聞いていたが、ラストアタックボーナスについては彼が意図的に避けていた。
 確信犯的にレアアイテムを奪取していた自分の行動を話して卑しいやつだと思われたくなかったから。

まさか、キミは────。
→LAボーナスを知らないセイバーの様子に、彼女が元テスターですらないことに気がついた。

顔を顕にするアスナ
→本当はこの役目をセイバーにやらせようかとも思ったが、二番煎じ感が凄いしアスナの見せ場を取りたくなかったので⋯⋯。

カリスマE
→低ランクに見えるが、それでも国家運営ができるレベルの才能。一軍のリーダーとしては天賦の才。それでも彼女が積極的に先頭に立たないのは、その末路(悔恨の丘)を知っているため。

直感
→またしてもサンタオルタ。便利だな。

一層攻略後、今後の展開は⋯⋯

  • アニメ版の構成で飛ばし飛ばし進む
  • プログレッシブをなぞる(エタる可能性大)
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