宮廷魔術師ソフィアさん   作:point2000

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異世界コンビニ事変
謎の建造物


「ソフィアさん、お仕事というのは…?」

「はい。その前にちょっとこれを見てもらえますか?」

そう言ってソフィアさんが取り出したのは1枚の絵、いや…「写真」だった。

その写真には僕の知っているどの建物にも当てはまらないものが映っている。

「この四角い建物は…? これってまさか……」

「えぇ、クリスさんが見たがっていた『異世界の建物』ですよ」

「やっぱり! すごいなぁ……」

これが異世界の学校なのか…木では出来ていなさそうだし、なんか不思議な感じだ。でもこっちの方が頑丈なのかもしれないな。

「しかしこれソフィアさん、いったいどこにあるんですか?誰が何のためにこんなところに?」

僕がそう聞くと、ソフィアさんがニヤリとした表情を浮かべる。

「知りたいですか?」「もちろん!」

「ですよねぇ~……実はですね、そう遠くもないんですよ。この建物を調査するのが今回の我々のお仕事、というわけです」

ソフィアさんの言葉に僕は思わず前のめりになる。

「やったー!!それならさっそく行きましょうよ!」

「まあまあ落ち着いてください、クリスさん。蛇の道は蛇と言いますし、ててさんを連れて行けませんか?」ソフィアさんの言葉に僕はハッとする。

確かにててさんはこの手のことに関しては僕たちよりもずっと詳しいのだろうけれど、あまり外に出なさそうだしなあ、箱の人だし……

「それは良いんですけど、ててさんはあんまり外に行きたがらない人だと思いますよ」

「大丈夫ですよ。ててさんならきっとわかってくれるでしょう」とソフィアさんは無責任なことを言う。

「う~ん……それじゃあ聞いてみますね」

「と、いうわけで今日はいったん家に帰ってもよろしいですよ。

『箱の家』でお昼を食べたらててさんを連れて、『校舎』へ向かってください。

わたしも現地で合流しますが、わたしが合流地点にいないからといって先に入っちゃいけませんよ」

「『こうしゃ』?」

「さっきの建物のことです。こちらの世界で言う学校の建物のことですね」

「なるほど、わかりました。それではまた後ほど!」僕はそう言って箱の家に帰った。

 

宮廷から歩いて数分。今僕の住んでいる『箱の家』に着く。

『箱の家』とはこの世界に転生したら四角い箱だった『箱の人』たちが住んでいる家のことだ。

この世界にきた箱の人はみんな転生する直前の記憶を失っているのだとか。

箱の家と言っても今は僕やイザベラさんも住まわせてもらっているわけだけど……

ここに住むようになった当初はいろいろ戸惑ったけれど、今ではすっかり慣れたものだ。

イザベラさんについては、箱の家の住人の中では一番よくわからない。悪い子でない事はわかるんだけど……

それにしても、僕が昼間宮廷で仕事をしている間、イザベラさんはどうしているんだろうか。

ててさんによると買い物に行っているようで、箱の家にはいつもこの世界のものでない食べ物や機械が転がっているのだ。

 

居間へと向かうといつものようにイザベラさんがいた。

ソファの上で丸くなっているのだけれど寝ているわけでは無いのかな……?イザベラさんは僕が入ってきたことに気付いたようで

「ぴあっ……」と驚いていたが僕の顔に気づくと「あれま!クリスさん、おかえりなさいませですわ~……わたくしはちょっとおひるね中で、ねむベラさんでしたわ~」と挨拶をした。

「イザベラさん、ただいま。ててさんはいる?」とねむベラさん(イザベラさんは眠そうな自分自身のことをこう表現する)に尋ねると

「いるいる。イザベラさんがいるんだから俺もいるよ」ててさんが機械(コンピューターという情報を扱う機械なのだという)の間からひょっこりと顔を出す。

「まだお昼ですわ!お昼ごはんは食べますの?」とイザベラさんが聞いてくるので

「さっきソフィアさんから指示があって、これから仕事なんだ。だからすぐ食べられるものにしようと思ってるんだけど……」と僕は答えた。

「すぐ出かけるんだからささっと食べられるものじゃないといけないな……クリス、インスタントとかって食べたことあったっけ?」

「お湯をかけて食べるタイプのものは前に食べました。ラーメン、でしたっけ」

「なら今日はインスタントのカレーでも作るかな」

「つくる?あっためるのではありませんの?」イザベラさんは無邪気そうに微笑んでててさんに質問する。

「……まあ、そうとも言うよなあ、確かに」ててさんはほんのりきまりが悪そうな顔をしながらも食事の準備を始めようとしたが

イザベラさんが「わたくしが作りますわ!」と目を輝かせる。「ちょっと心配だなあ」とててさん。

「大丈夫ですわ!まかせてくださいまし!」

「そこまでいうならまあ、やってみるか、イザベラさん!」

「やりますわー!めっちゃがんばりますわ!」イザベラさんはやる気だ。

「そこまで頑張るものでも無いから変に気張らなくて良いよ、イザベラさん」とててさんが諫める。

「それならほどほどにがんばりますわ!待っていてくださいまし!」そう言うとイザベラさんはキッチンの方へ向かった。

 

イザベラさんがお昼を作っている間にててさんと話をしたけれど

なるほど、異世界の機械(電子レンジという物質を振動させ熱を発生させる機械であるらしい……すごい機械だ)で熱を加えることで食べられるタイプのインスタント食品も存在するらしい。

こっちの世界にも似たようなものはあるけれど、これでは料理とは呼べないというのも確かにそうだろう。

 

「イザベラさんのさっきの発言は純粋な疑問だったのか、それとも一種の嫌みだったのかな?クリスはどっちだと思う?」と突然ててさんに聞かれた。

うーん、難しい問題だけど……そもそもこんなところで文法の授業みたいなことをされても……という気持ちもあるけど……

「なんとも言えないですね。嫌みなのかもわかりませんけど、イザベラさんが悪意を持って言っているようには見えませんでしたし…… 」と僕は答えた。

「イザベラさんはさ、他人を攻撃したり他人に悪意を持ったりできないんだよ。そこがイザベラさんの人間になりきれない部分の一つなんじゃないか、って俺は思ってるんだよな…

ああいった怒りや悪意の感情こそ、その人間の本質の一端が現れる……つまり、その人の剥き出しの人間らしさが現れる場面だと俺は思うんだ」

人間ってそんなもんなんだろうか……僕にはまだわからない。ててさんが急に振ってきた人間らしさの話もいまいちわからない。

しかしまさか今回起こる一連の騒動で、ててさんの言うところの『剥き出しの人間らしさ』を垣間見ることになるなんて、このときには本当に思ってもみなかったな。

 

「そういえばクリス、ソフィアさんとはどんな話をしてきたんだ?」とててさん。

「ああ、実はかくかくしかじかで……それで、」と僕は宮廷であったことをててさんたちに話した。

 

「ふーん、つまりこの『校舎』の正体を調べに行くのか」

「そういうことみたいです。それで、向こうの世界にも詳しいててさんにもついてきてもらいたいってわけです」

「なるほどな。じゃあ一緒についていくしか無さそうだ。もっとも俺は箱だから、誰かに持っていってもらうことになるけどな」

「ありがとうございます。助かります」

立方体…つまり箱の形をしているててさんは一人で外には絶対に出たがらない。

手足も生えるとか生えないだとかよくわからないけれど、一人で外に出るにはとても不便なのは間違いないだろう。

イザベラさんの頭に乗せられて外に出かけたり帰ってきたりするところは僕も見たことがある。

 

そもそもどうして箱の人達は箱の人になったのだろう?きっと不便だと思うのだけれど。前世で起こした罪に対する罰の一環だったりするんだろうか?

そんな考え事をしていると不意に「どうしてクリスさんはあの建物を見たかったんですのん?」とキッチンにいるイザベラさんが僕に聞いてきた。

イザベラさんからそんなことを聞かれるなんて結構珍しいパターンだ。考え事をしていたこともあって僕は「ええと、それは……その……」と答えられずにいた。

そこに「クリスをかわいがってくれていたおじいさんが向こうの人だったんだろ?」と僕の代わりにててさんが答えてくれた。

 

そう、僕はじいちゃんが向こうの世界の人だと聞いていたし、じいちゃんから向こうの世界の話を断片的にはあるけれど聞いたこともある。

だけどこの世界に生まれて育った僕には向こうの世界の実際のところをほとんど想像できないでいる。

触れられる情報があるとすれば、この世界にやってくる異世界の人から聞ける情報やこの世界に流れ着いた異世界の遺物だけだ。

だから、異世界のことを少しでもより知ることのできるであろう『校舎』に興味があったのだ。

「なーるほど、ですわ!」とイザベラさんが納得してくれたようだ。そうしていると、今日のお昼ができたようだ。

「はいはーい!できあがりですわ!」とイザベラさんが3人分の深めのお皿を持ってテーブルに置いた。

そこには白い太い麺の上に茶色いスープや肉や野菜がかかった食べ物が乗っていた。

「ん…?ひょっとして今回、カレーうどん?」とててさんがイザベラさんに聞く。

「そのとおりなのですわ!冷蔵庫に余ってたうどんの上にあっためた『れとると』のカレーをかけましたわ!」

「へぇ〜、これがカレーですか。初めて食べます」

「正確にはカレーうどんだな。下がライスだとカレーライスになる」

「いいにおいがしておりますわ!」

まず、フォークで一口すくって口に運ぶ。……これは……

「美味しい……!」

「おいしいですわー!!」とイザベラさんが叫んだ。

「この麺、モチモチしててすごく噛みやすいし、スープの味もよく絡んでますね!」

「厳密にはスープじゃないんだけど…まあいいや、イザベラさん、いいアドリブだったよ」とててさん。

「わたくし照れてしまいますわ、てれてれですわ〜!」イザベラさんも嬉しそうだ。

「お昼も食べたし、さっそく準備しないとな」

「ててさんはわたくしが持ちますわ~!」「うわっ」とイザベラさんはててさんを掴む。

「え、イザベラさんもついてくるの?」と僕は少し驚いた。

「もちろんですわ!たのしそですわ!わたくし、お手伝いもしたいのですわ~!」

「まあ、本人が行きたがっているならいいんじゃないか?」とててさん。

「れっつごー出発ですわ~!!」

こうして僕らは、ソフィアさんから聞いた場所へと向かうことになった。

 

ソフィアさんはまだいないようであったけれど、現場には大きな3階建ての建物が本当にあった。

「これが例の校舎か…」とイザベラさんの頭に乗せられているててさんがつぶやく。落ちないのかな。

「そーなんですの?」とイザベラさんは頭をほんのりゆらゆら揺らしている。落ちないのかな…

「何でできているんでしょう、この建物…木や石では無さそうです」

「鉄筋コンクリートじゃないか?鉄で骨組みを作って型枠という枠組みにコンクリートを流し込む奴」

「コンクリートか…外からやってきた技術の一つだと話には聞いたことがあるんですけど、実物を見るのは初めてです」

僕がててさんと話している横でイザベラさんは建物の壁をぺちぺち叩いたり撫でたりしていた。

「あれまぁ~、ひんやりしておりますわぁ~」

「触った感じはどうですか、イザベラさん?」と僕は聞いてみたところイザベラさんは

「ふしぎですわ。ひんやりしていて、触るとざらっとしていて、ふしぎですわ!」と壁を叩いたり撫でたりする。

「…ソフィアさんが来ないなら先に入っちゃうか?」とててさんが提案した。

入ってしまおうか…?宮廷でソフィアさんから言われた警告を忘れた僕がそう思った時だった。

「いけませんよ!クリスさん!」と聞き覚えのある声がした。

振り返るとそこにはソフィアさんがいて、僕はつい思わず「ソフィアさん!?」と叫んでしまった。

「はい、宮廷魔術師ソフィアさんです。遅れて申し訳ありませんでしたね」と言って微笑みながら歩いてきた。

「この建物はこの世界のものではない、この世界にとって未知の存在なんですよ!知らないものを勝手に弄ったりしちゃあ駄目でしょう」

「ごめんなさいソフィアさん……以後、気をつけます…」と僕は素直に謝るしかなかった。

「まあまあ、そんなにクリスを怒らないでくれよ…俺が最初に提案したから俺が悪いんだよ」とててさん。

「ま、ててさんが来てくれたのはよかったです。今日はよろしくお願いしますね」

「あ、うん、こちらこそよろしく頼む……」とててさんはちょっと気恥ずかしそうだった。

「わたくしも一緒に行ってよろしですの?わたくしもお手伝いしたいのですわ!」

「いいんですけど、危ないことはしないでくださいね」とソフィアさんは子供に諭すように優しく答えた。

まあ、実際イザベラさんは子供みたいなもんだからおかしいことではないか。

「わかりましたわ!危ないことはいたしませんわ~!」とイザベラさんは嬉しそうに跳ねる。

ててさんを頭に乗せるのは危ないことじゃないのかな……

「……時間ですし校舎の中に入りますか……皆さん準備は大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「俺はいつでもOKだよ」「わたくしもですの!」とててさんとててさんを頭に乗せたイザベラさんも元気よく返事をした。

「それじゃあうっちゃりますか!」とソフィアさんが言い、校舎の中へと入った。うっちゃるって?

 

 

「人でなく建物が異世界から送られてくることなんて今までにあったんですか?」と僕はソフィアさんに質問する。

「そうですね……少なくとも私の知っている限りでは初めてですね」とソフィアさんは答えた。

どうやら今回はソフィアさんにとっても未知の出来事らしい。

「あれまぁ、ふしぎなこともありますのね!世の中ふしぎがたくさんでよいことですわ!」

「イザベラさんは不思議なことがたくさんある方が嬉しいの?」

「もちろんですわ!心がわくわくのわくになりますわ!」と言いながらイザベラさんは辺りを見回している。

 

建物の入り口の扉を開けると、そこには小さいホールのような空間が広がっていた。

「ここは昇降口という履いてきた靴から上履きという室内用の靴に履き替えるための場所だな」とててさんが説明する。

「でもここには靴が一足もありませんわ!なぞですわ~~!?」イザベラさんが首をかしげた。

「う~ん、今は休みの時期で生徒がいなかったから、とかかなあ……」ててさんは歯切れ悪く答える。

「しかし、あっちの世界では外用の靴と室内用の靴があるんですね」と僕が感心していると、

「地域や建物の種類によってだいぶ事情が異なると思いますよ……さて、ここで立ち止まっていても仕方ありませんし、とりあえず進んでみましょうか」

「そうですね、進みましょう」と僕たちは歩き出した。

 

廊下にはところどころ教室のようなものがあって、中に入ってみると黒板があった。

「異世界でもやっぱり学校は学校なんですね~」と僕はつぶやく。

「学校っていうのは基本的には変わらないもんなんじゃないか?ただこっちの世界の場合は魔術なんかも絡んでくるんだろうけど…」とててさん。

「確かにそうかもしれませんね」と僕が同意すると、ソフィアさんが話しかけてきた。

「さて、ここで立ち止まっていても仕方ありませんし、とりあえず進んでみましょうか」

 

廊下エリアは薄暗い。「ちょっぴり怖いですわ~……暗いのはにがてですわ~……」

イザベラさんはほんのりしょんぼりして、僕の上着の袖の端を掴んでいる。

「電気も通って無さそうだ」とててさんが廊下のスイッチをカチカチと押している。

「うーん、そうみたいですね……ちょっと待ってくださいね」とソフィアさんが言うと、

ソフィアさんがポケットの中から小さな機械を取り出して、その機械に付いているボタンを押した。

すると機械の先から光が放たれる。「あらま!明るくなりましたわ!」とイザベラさんは喜んでいる。

「あっ!!それは確か懐中電灯という向こうの世界の機械ですよね!?ソフィアさん、持ってらしたんですね!」

「向こうのものは魔術と違って準備が最低限で済みますからね。わたしは宮廷魔術師ですが、

魔術にこだわる必要も無いと思っています。少なくとも仕組みを最低限理解している機械は使って良いと思っていますよ」そう言ってソフィアさんは微笑む。

「パソコンやスマホは仕組みが複雑だからソフィアさんは使わないのか?」ててさんは懐中電灯の光を見つめながらつぶやく。

「アレは過ぎた道具ですよ…今のこの世界には、ね」とソフィアさんはててさんの方を向かずに答えた。

 

どの部屋も机や椅子がまばらに置いてあり、使われなくなってからずいぶん時間が経ってしまったようにも見える。

校舎に入る前は異世界の人が一緒に飛ばされてるんじゃないかと思っていた僕は少し拍子抜けしてしまった。

「そういえばここの建物の中、誰もいないんですかね?全然人の気配を感じませんが……」

「いや……むしろこの建物はずっと前から使われていなかったんじゃないか?」「え?」

「私もててさんと同意見です」そんなまさか。

「あれまぁ……それはさびしいことですわ~」

「それじゃあ、誰かが意図的にこの場所を無人になるように操作しているということでしょうか!?」

「い、いや…たぶんそういう話では無いと思いますよ?」ソフィアさんが僕をなだめるように説明する。

「この学校はすでに廃校になったもので、それを誰かがこの世界に何らかの理由で送り込んだ…という事だと私は考えています。そうですよね?ててさん」

「うん、俺もそんな感じだと思う…現役の学校にあるような掲示物のようなものが全く無いもんなあ。学校として使われていた形跡はあっても教科書や個人のプリントの類いは無さそうだし…

これは俺の予想なんだけど…この学校そのものがこの世界に『投棄』されたものなんじゃないかって」

「投棄!?一体誰がなんのために!?」と僕は驚いて声を出してしまうが、

「イザベラさんがビックリしてしまうのであまり大きな声を出さないでくださいね、クリスさん」と注意されてしまった。

「ぴあぁ……」イザベラさんもびっくりした顔をしている。

 

「話を戻しますが、この学校を送り込んだ目的があるとすれば……例えばこの建物の解体費用を惜しんだ、というのはどうでしょうか?

一定の害意があるなら産業廃棄物のようなもう少し有害なものを送り込んでくるでしょうし、送るにしても有害な方式で送ることだってできるでしょう。

逆に我々に対するプレゼントとするにはこの建物はあまりにも古すぎて、あまり有益なものでもありませんし」

「この建物をこの世界に送るという事実そのものが何かしらのメッセージという考え方もあるよなあ」とててさんが続ける。

「メッセージ?一体どんな?」

「我々はこんなにでっかい建物を送れるんだぞ、なんならもっとヤバいものも送れるぞ、といった一種の威力偵察の一環とか…」

「まさか侵略目的?そもそも誰がやったんでしょうか?そしてなぜ今頃になって……まさか!」

昔、異世界からこの世界に飛ばされてきた人たちの中に自分たちの国を作ろうと大きな戦争を起こした人たちがいたとじいちゃんから聞いたことがあるけど、

最初から侵略のためにこの世界を狙う人たちも、ひょっとしたらいるのだろうか?

もしそうだとしたらこんなに悠長にしている場合じゃないんじゃないか!?

 

「ててさん、クリスさんを怖がらせないでくださいよ。わかっているのは『犯人』は『異世界から大きな建物を送れる』という事、それだけです。

今回はただの実験で次に本命の何かを送り込むのかもしれませんし……もしこの事実や一連の行為に何らかの意味があるのであれば、

『犯人』は必ずこの後に何らかのアクションを仕掛けてくるはずです。」

「犯人の次の行動を待つ……ということなんですね、ソフィアさん。でも次の行動がとんでもない行動だったら僕たちはどうすれば…」

「攻撃目的なら最初からこの校舎を宮廷の真上に飛ばせば済む話ですからね。わざわざこんなところに配置したと言うことは少なくとも攻撃の類いではないと思いますよ。

何も考えないで送り込んでいるなら我々が気づかないような遠方に送るという選択肢もあるでしょうし、そもそも送り先をここにすることもありませんしね。

現時点では何らかの意志がありそうなので最低限の注意は必要ですが、それ以上はどうでしょうね」

「油断させておいてこの学校をさらに宮廷の真上に飛ばすなんてことをされたらどうしましょう」

僕は心配になってしまっている。相手が何を目的にしているかわからないし、

こんな大きな建物を別の世界に転送できるような魔術を使える犯人(集団かもしれないが)はとんでもない力を持っているに違いないんだ。

「もちろん宮廷や城下町周辺にはしばらく対空間転移結界を貼ることにします。引っ越し業者には申し訳ありませんけどね…

仮に今回の件が攻撃の準備行動であればそれに対して対応する時間を与える時点で相手は負けているんです。

相手がマヌケならマヌケなりに排除すればいいわけですし、事は簡単に済みます。しかしそうでは無い可能性のことも考える必要がある」

「攻撃や示威でなければ目的は何でしょう……」僕はいよいよわからなくなった。

こんなに大きな建物を異世界から送ることができるのならなんだってできるだろうに、侵略でないなら何をやろうというのだろう。

「だから待つんですよ、クリスさん。それにわたしは宮廷魔術師ですが安楽椅子探偵でもあるので、あんまり身体を動かしたくないんです。」と冗談を言ってソフィアさんは笑った。

「そういえばソフィアさん……アメリアさんの引っ越し、今週だったと思うんですが……」

「あ~そういえばそうでしたね……手伝ってあげてくれませんか?」「えぇ~……」

 

それからしばらくの間僕らは学校を調査したけれど、生き物はおろか犯人の手がかりになりそうすら何も見つからなかった。

異世界の学校の構造については結構勉強になったけど、イザベラさんは「お役に立てませんでしたわ~」としょんぼりしている。

あんまりうなだれるものだからでててさんがイザベラさんの頭からずり落ちてしまった。

「あんまりしょんぼりするなよイザベラさん、せめて俺を手に持ってからしょんぼりしてくれ……」「しょんぼり~ですわ~~」

力仕事に駆り出される事が決まった僕もしょんぼりだ。

だけどこのときには、事態が僕たちが思っている以上に進んでしまっている事に誰も気づいていなかったんだ。

ソフィアさんですら!

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