もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
第1話 はじまりの冒険
もんむす・くえすと!の世界…3つの大陸の内、中央の大陸、セントラ大陸。
サン・イリアとナタリアポートの間の森の奥地に、コロポという小さな集落がありました。
これはとある少年とその仲間たちが、勇者ルカと出会う前のお話。
ぼくはカムロウ、お父さんのハーレーとお母さんのテアラと、
お姉ちゃんのリンドウの4人で、
このコロポ村に住んでるんだ。
今日も空は快晴で、お天道様が輝いていて、いつもと変わらない日常だ。
今日も村のみんなと鬼ごっこして遊んでるんだ。
そのあとはお父さんの鍛錬を遠くから眺めて、お母さんの夕飯の準備を手伝うんだ。
少年A「遅いなぁカムロウ!」
少年B「お前が鬼なんて楽勝だよーだ。」
少年C「こっちこいよー!」
またぼくが鬼になっちゃった。
カムロウ「そう言ってるのも今の内だぞ!」
そういって走っても追いつかない。これもよく見た日常だ…。
ばくは鬼ごっこを遊び終わって、家から少し離れた稽古場で、
お父さんの鍛錬を遠くから眺めていた。
お父さんはすごく強いんだ!見ていてドキドキが止まらないんだ。
でも…なんで遠くから眺めているかというと…。
お父さんは体が大きくて、顔が怖くて、あんまり話したことないから怖いんだ。
優しいのはわかってるんだけど…。
ハーレー「………」
お父さんは持ってる剣に風を集めてそのまま練習用の木に向かってに斬りかかった。
お父さんの得意技だ。激しい打撃音がして、木は少しぐらついた。
ぼくも見よう見真似で、お父さんが使ってないときはあそこで特訓をしてるんだ。
あの技くらいは使えるようになったけど…あの木が揺れるほどじゃないんだ。
どういう原理で風を集めてるかわからないけど。
やっぱりお父さんはすごいや!…怖いけど。
かなり長い時間がたったみたいだ。
お天道様が沈みかけてて、そろそろ夕暮れになる。
そろそろお母さんのところに行かなくちゃ。
カムロウは家に向かって歩き始めようとした。
今日の夕飯はなんだろうと考えいた…しかしその考えは切り裂かれるように遮られた。
「魔物が…魔物が村に来たぞおおお!」
村の大人が大声で叫んだ。
えっ…!?魔物が!?
カムロウはうろたえた。
コロポ村は秘境ともいえるほど奥地にある。だから魔物が来るといっても村の外で現れるくらい。
村の大人たちが追い返すくらいで、このような事態は初めてなのだ。
ど…どうすればいいんだっけ…家に戻ればいいのかな…?
立ち止まって考えていると、
ハーレー「…カムロウ。」
お父さんがぼくを呼んだ。ぼくはびっくりして鳥肌を立てながらもお父さんのほうを見た。
いつの間にこんな近くに…。
カムロウ「な…なに?」
ハーレー「……村の避難所が…どこにあるかわかるな…?」
ぼくはこくんと頷いた。もしもの時のために、近くの崖の下にある洞窟をみんなの避難所代わりにしてるんだ。頻繁に行ってるわけじゃないけど、場所はわかる。
ハーレー「お前は避難所に行け…騒ぎが終わるまでそこにいるんだ。」
お父さんはそういうと、剣を持って早々に走っていった。一瞬、怖い顔になったのが見えた。
すぐには動けなかった。お父さんとはこういう会話もしたことないから、初めてだったから緊張した。
けど今は…避難所に行かなきゃ。
ぼくはお父さんの言いつけ通りに、避難所に向かって走っていった。
村から少し離れ、木々をかき分けた先にある崖の下の洞窟、
避難所には戦う術を持っていない子供や大人に老人と、すでに村のほとんどの人が集まっていた。
安心した。てっきりいなかったらどうしようかと。
ぼくは避難所にたどり着くと、近所のおじさんがぼくを呼んだ。
おじさん「おぉカムロウ!良かった…お前は間に合ったんだな。」
ぼくを見ておじさんは安泰の表情を浮かべた。…しかしすぐに不安な顔になった。
カムロウ「…?」
おじさん「あぁ…いやぁ…な?他にも来てないやつがいてな…お前の姉ちゃんと母ちゃんもまだ来てないんだ。」
…え?お姉ちゃんとお母さんがいない!?
背中から冷たくドロッとした、嫌な感覚がした。心臓もバクバクいってる。
おじさん「まぁ魔物は、お前の父ちゃんが追い払うだろうし…すぐに来るだろう。」
そっか…、まだ来てないだけで、待ってればここに来るはずなんだ。
ぼくはそう自分に言い聞かせた。このバクバクを止めるためにそれだけを考えた。
…考えて考えて、30分ぐらいは経ったぐらい。もう夕暮れだ。
一向にお姉ちゃんとお母さんは来ない。
どうしようどうしようどうしよう…。そういってぐるぐる歩き回っていた。
カムロウはパニックに陥っていた。まともな判断もできないほどに。
おじさん「お…おうカムロウ、まぁ落ち着けよ。」
そう言っておじさんはそういって気分を落ち着かせようとしてくれた。
…居ても立っても居られなかった。体がムズムズする。止まっていられなかった。
カムロウは無我夢中で走り出した。
おじさん「おい!カムロウ!?どこに行くんだ!?戻ってこい!」
静止の声も聞こえたけど、止まらず村のほうに走っていった。
ぼくの家族が…死んでしまっているかもしれない。魔物に襲われているかもしれない。
今一番それが…耐えられなかった。
転びそうになりながらも夕暮れに染まる森を駆け抜けた。
お姉ちゃん…お母さんはどこだろう?
周りを見渡しながら走り続けた。脇腹が痛くなってきた。
痛くなって立ち止まりうつむいてしまった。汗が止まらない。呼吸も整わない。
焦りはさらに加速した。ここまで走ってもいないなんて。
リンドウ「カムロウ!」
聞きなれた声を聴いて顔を上げる。お姉ちゃんだ。よかった。
リンドウ「ごめん…遅れちゃった。」
カムロウ「お…お母さんは…?」
リンドウ「先に行けって言われたの…。すぐに来るって。」
リンドウ「とにかく避難所に行こう!」
そう言われたけどすぐには動けなかった。さっきまで全速力で走ってたから。
けど我慢して、避難所に向かって歩き始めようとした…その時だった。
近くの茂みから物音がした、かき分けるような音だ。ガサガサとこっちに向かってくるようだった。
人の音じゃないと分かった。人じゃない何かだと。
二人は何も言わず、血相を変えて走り出した。
生死の瀬戸際だと本能で分かっていたのだろうか。
カムロウは脇腹が痛いことも忘れて、胃にあるものが口から吐きそうになっても走った。
リンドウ「あっ!」
不意にお姉ちゃんにがつまづいてしまった。
ぼくも一緒に立ち止まる。
その一瞬が仇となってしまった。茂みの物音がカムロウたちに追いついてしまった。
茂みから出てきたのは…異形そのものだった。
女性の体の半分から植物が生えた姿をしていた。女性の顔は虚ろで生気を感じられなかった。
これが…魔物なのだろうか。
カムロウは初めて魔物を見た。こんなにおぞましい姿をしていたのか。
それは姉のリンドウも同じで、すくみあがって体を動かせなさそうだった。
魔物はこっちに、ゆっくりと近づいてくる。
何をする気かはぼくでも予測できた。お姉ちゃんを殺す気なのだと。
カムロウ「や…や…やめろ!!」
リンドウ「カ…カムロウ!?」
カムロウは恐怖で動けない足を、無理矢理動かしてリンドウの前に立った。
自分の行為がどういう意味を表してるかは知っていた。
恐らくこのままこうしていれば、僕は死んでしまうだろう。
でもそれ以前に…目の前で家族が殺されているのを…。
ただ黙って見ていられなかった。
魔物はツタのようなものを、こっちに向かって突き刺してきた。
カムロウ「(お父さん…お母さん…ごめんなさい…)」
避難所で待てと言われたのに、お父さんの言いつけを破ってしまったこと。
そういえばそうだ。昔からお母さんから落ち着きがないとよく言われていたのに。
後悔しながら、声も出せないまま、カムロウは目をぎゅっと閉じた。
テアラ「カムロウ!」
母のテアラが、カムロウを庇うように抱きしめた。すぐにドスッという衝撃が走った。
テアラの背中に、無数のツルが突き刺さっていた。
カムロウ「お…お母さん!?」
リンドウ「お…お母さん!?」
テアラ「動いちゃだめ…動いたらあなたたちが殺されるわ」
カムロウ「で…でも、お母さん!」
そう言っているうちに、ツルはどんどん突き刺さっていく。
突き刺さるたびに、血が噴き出してくる…。
カムロウ「やめてよお母さん!死んじゃうよ!」
泣きながらそう叫んだ。ぼくのせいで、お母さんが死んじゃう。
誰にも死んでほしくないのに。
まだツルは刺さる。刺さる場所がなくなったのか腕にまで刺さり始めた。
テアラは血まみれになっていた。カムロウの服にまで血が滲み始める…。
カムロウ「お母さあああん!!!」
悲痛な叫びがこだまする。
その瞬間、風が吹き荒れた。とてつもない強風に、魔物は姿勢を崩した。
それと同時に、テアラに刺さっていたツルは切り裂かれた。
テアラは寄りかかるようにカムロウに倒れこんだ。
カムロウは母を抱きかかえながら魔物のほうを見た。
そこには父のハーレーが、剣を構え立っていた。
カムロウ「お…お父さん!?」
ハーレー「………」
魔物は再び立ち上がり、今度はハーレーに向かってツルを伸ばし始めた。
しかしそのツルがハーレーに届くことはなかった。
ハーレーが剣を振るうと、魔物に向かって強風が吹き荒れ、ツルを切り刻みながら魔物に直撃した。
魔物は怯み、後ずさりしたが、それでも立っていた。
ハーレーはその隙を見逃すことがないように、
再び剣を振るいはじめ、強風を魔物に向かって放ち続けた。
魔物とかなり距離が空いたところで、ハーレーが口を開いた。
ハーレー「カムロウ、リンドウ…テアラを連れて逃げろ!」
カムロウ「…!」
リンドウ「わ…わかった!」
そういうとまた一層と風は吹き荒れ、ハーレーは魔物に向かって走っていった。
その間にカムロウはリンドウと一緒に瀕死のテアラを抱きかかえ、
後ろから聞こえる衝突音を背に、避難所へ逃げていった。
避難所にたどり着き、瀕死のお母さんは、村のお医者さんに応急手当を受けていた。
ぼくはそれを見ようとはしなかった。隅でうずくまっていた。
ぼくのせいでお母さんが死にそうになったのだ。
泣きそうになるのをこらえながら、後悔という沼にずっと使っていた。
リンドウ「…カムロウ。」
お姉ちゃんが声をかけてきた。
リンドウ「お母さんが呼んでるよ。」
そういってぼくの手を引いた。引きずられるかのように歩き始めた。
きっと怒られるのだろう。こんなことをしてしまったのだから。
お母さんの目の前に連れてこられた。
仰向けの状態で、全身は包帯で巻かれていた。
涙が止まらなかった。ぼくは飛び出さなければ、こんなことにはならなかったのに。
謝らなきゃなのに、言葉が出なかった。
涙を止めようとしても止まらなかった。
するとお母さんが、弱弱しくぼくの手を握った。
テアラ「カムロウ…私はあなたを誇りに思うわ。」
カムロウ「え…?」
予想していた言葉とは正反対の言葉が出てきてぼくは驚いた。
テアラ「あのときリンドウと…お姉ちゃんと出会っていなかったら、お姉ちゃんは死んでいたわ。」
リンドウ「…!」
テアラ「自分を責めないで…あなたは勇気を持って飛び出したのよ。何も考えて飛び出したわけじゃない…」
そういうと、テアラは動かなくなった。
カムロウ「お母さん…!?」
医者「……脈はある…痛みで気を失っただけだな…。」
リンドウ「よ…よかった…。」
カムロウ「………」
ぼくはお母さんの言葉を聞いても嬉しくはなかった。
どちらにせよぼくのせいでお母さんは死にかけたんだ。
その結果は変わらない。おそらくこの先も重くのしかかるだろう。この後悔が。
カムロウ「先生…」
医者「うん?」
カムロウ「お母さん…元気になる?」
この後悔をどうにか消したい。ぼくの責任だ。ぼくがなんとかしなくちゃ。
その思いで先生に聞いてみた。
医者「うーむ…」
お医者さんは難しい顔をした。
医者「半々ってとこだな…、半年の間に傷が回復しなかったら、そこから病気になってしまう可能性もある。」
医者「元々テアラは体が弱いしな…」
その言葉は重く鋭く刺さった。
カムロウ「…どうしたら元気になるの…?」
幼い思考力で絞り出した質問を投げかける。
医者「そうだな…。」
先生も考えに考え、重い口を開いた。
医者「自然治癒力を一時的に上げれるような薬…、それも強力なものでないとだめだ。一週間で治るくらい強力なものでないとな。」
医者「さすがにそんな代物はウチにはないな…。」
どうやら希望はまだあるらしい。
カムロウ「それって…どこにあるの?」
医者「…少なくとも外の世界にはあると思う。」
医者「まぁ俺も全力を尽くすからよ。お前はよく頑張った。」
そう言って先生は頭をなでてくれた。
ぼくはそれどころじゃなかった。
お母さんを治す薬が外の世界にあるという言葉が頭の中に居座った。
日が落ちてあたりが暗くなったころに、大人たちが避難所に帰って来た。
負傷者はいたが、なんとか魔物を村から追い返したそうだ。
村は損傷がひどく、とても今帰れるような状態ではないらしい。
しばらくは避難所で生活することになるそうだ。
お姉ちゃんがそうぼくに説明してくれた。
「明日から復旧作業ってわけか。」
「しかし村に来た魔物は…なんだったんだ?」
「わかんねぇけど…ハーレーがいなきゃ死んでたぜ。」
大人たちの雑談が遠くから聞こえる。
ぼくはお姉ちゃんと一緒に、お母さんの近くにいた。
遠くからお父さんがやってきた。
リンドウ「あっ…お父さん。」
お父さんは毛布を僕たちに手渡しながら、
ハーレー「夜も遅い、お前らは先に寝てろ。」
そう言うと離れて、大人たちの雑談に割り込んでいった。
リンドウ「…ほら、カムロウも寝ましょ。」
カムロウ「う、うん。」
お姉ちゃんと体を寄せあって、ぼくは眠りについた。
…だけど寝れなかった。みんなもう寝てるのに。
正確に言うと、眠ってもすぐに起きてしまう。
どうしても頭から離れなかった…お母さんが元気になる方法というのが。
ぼくは生まれてから外の世界に行ったことは…
家族のみんなと近くのナタリアポートに行ったことがあるくらいで、そこまで経験はない。
寝れないから思考を張り巡らせた。
お父さんに言って探してもらう?
…おそらくだめだろう。
お姉ちゃんと一緒に行く?
…多分引き止められるだろう…。
そうなると…残った答えは1つしかなかった。
「ぼくが外の世界に行って探す」という選択肢しか残っていなかった。
ぼくは葛藤した。そんなことをしてしまえば、今度こそ怒られるだろう。
でもそうしないと…お母さんは死んじゃう。
…お母さんが生きることができるなら…怒られてもいい。
…今ぼくにできることがそれしかないのなら。
…外の世界に行くんだったら、今しかない。
行こう、外の世界に。
お姉ちゃんが起きないようゆっくり起き上がり、
誰も起きないように忍び足で、ぼくは避難所から抜け出した。
避難所から抜け出したぼくは、村の自分の家に戻った。
扉や壁が壊れたりしていた。壊れた扉をゆっくり開けて、自分の部屋に入った。
外の世界に行く準備だ。
いろいろ詰め込んだカバンに…
わがまま言って買ってもらった鉄の剣に、
練習で使っている木の盾、
必要と思ったものは全部持って、家を飛び出した。
誰もいない夜は吸い込まれるかのように静かだった。
月明りが地面を薄暗く照らしている。
ぼくは村の門に向かって走った。
門はひどい有様だった。まるで巨人の足で蹴飛ばされたように、残骸が当たりに散乱していた。
その様子を見ながら歩いていると、
本来はそこにいないはずの人物を見てぼくは驚いた。
カムロウ「お…お父さん…?なんでここに…」
そこには父のハーレーが、門の壁に寄りかかっていた。
腕を組んでぼくを見ている。
ハーレー「…お前こそ、なぜここにいる。」
沈黙が続いた。
あまりの威圧感に逃げだしそうになる。怖い…けど…もう引き返せない!。
ぼくは決めたんだ…逃げ出すわけにはいかない。
手を握り締め、一歩前に出て叫んだ。
カムロウ「お母さんを治す薬を…探しに行くんだ!」
ハーレー「なんだと…?」
お父さんは眉をひそめた。
ハーレー「お前が…か?」
ぼくは震えながら頷いた。
ハーレー「寝言は寝て言え、そんな無謀なこと、お前にできるはずがない。」
カムロウは泣きながら叫んだ。
カムロウ「ぼくのせいでお母さんが死んじゃうのは嫌だ!ぼくが…ぼくがお母さんを治す薬を見つけて、お母さんを助けるんだ!」
お父さんは鬼の形相になった。
ハーレー「それでここから出ていくつもりか!?ふざけるな!お前まで死ぬかもしれない外の世界に!」
ハーレー「お前が死ねば、誰が悲しむと思っている!?馬鹿なことはやめろ!」
カムロウ「馬鹿じゃない!絶対見つけるんだ!」
カムロウ「絶対に…絶対に見つけるんだあああ!!」
泣きながら、全速力で門をくぐり抜け、その先の森に向かって走り出した。
カムロウ「うわあああああん!」
ハーレーはそれを見て、追うことはしなかった。
もうカムロウの姿は見えなかった。
ハーレー「…それがお前なりの、責任の取り方か。」
ハーレー「せいぜい死ぬなよ…!」
そういうとハーレーは避難所に向かい始めた。
無謀な希望を抱き、この村から旅立った息子の身を案じて…。
もう朝日が顔を見せ始めたころ、ぼくは走るのをやめた。
後ろを振り返った。誰も追ってくる気配はない。
後戻りはできそうにない。いいんだ。する必要もない。
絶対に見つけるんだ…お母さんを治す薬を。
カムロウはそう思いながら、森の中を歩き始めた。
彼の冒険はまだ、始まったばかりである。