もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「でも、なんで僕は洗礼を受けられなかったんだろう。」
カムロウ「わかんないね…」
パヲラ、「謎が謎ねい…」
村の人たちに別れの挨拶した後、夕暮れ時の道をとぼとぼ歩きながら、つい愚痴をこぼしてしまう。
もしかして、本当にイリアス様から見放されてしまったのか。今朝の夢は、ただの夢に過ぎなかったのか。だとしたら、この旅もまるで良いことがないではないか。
いきなり、こんな訳の分からない妖魔を抱え込んでしまったみたいに。
アリス「ん…?なんだ…?」
ルカ「いや…」
そもそもこいつ、いったい何なんだろうか。世界を見て回るだの、僕に興味があるだの言っているが、まるで意図が掴めない。
厄介な荷物を抱え込んだ感が半分、一人旅の寂しさが紛れる感が半分といったところか。
ルカ「あぁ、イリアス様。僕を見捨てられたのですか?ずっとこの日を待っていたのに洗礼を授けて下さらないなんて…」
アリス「好都合ではないか、洗礼なんぞ受けなくて。人間というのは、なぜ好んでイリアスの奴隷になりたがるのか分からん。」
ルカ「そうは言ってもだね…洗礼を受けた勇者ってのは、色々とお得なんだよ。宿屋も格安の勇者料金で泊まれるし。」
ラクト「へぇ…そりゃいいな。」
ルカ「一般民家を家捜しする権利も与えられるし。」
ラクト「ちょっと待てぇ!?」
アリス「家捜しの権利?勇者というのは、盗賊なのか?」
ルカ「いや、そうじゃないけど…」
だが、確かにアリスの言う通り、この権利を悪用し、盗賊同然の振る舞いをしている勇者もいると聞く。僕から見れば、そんな奴は勇者の風上にもおけないが。
ルカ「それに、洗礼を受ければ女神イリアスのご加護を得られるんだよ。悪いモンスターから、この身を守ってくれるんだ。」
カムロウ「わぁ!いいなぁ!いいなぁ!」
パヲラ「ほら、ちゃんとあるじゃない、ご加護。」
アリス「洗礼を受けた者は、その精が極めて不味くなるのだ。だから、モンスターに襲われることは少なくなるのだろうな。」
ルカ「え?そうなの?」
パヲラ「あら…そういう理由だったのね。」
アリス「…知らなかったのか?天使の肝臓みたいな味がして、とても食えたものではなくなるのだ。」
ラクト「まず天使の肝臓ってなんだよ。」
色々と突っ込みどころはある。天使の肝臓というのは不味いのか。そもそもアリスは、そんなものを食べたことがあるのか。何にしろ、聞かないほうが良さそうだ。愉快な答えが返ってくるとは思えない。
アリス「そういうわけで、洗礼を受けていない貴様は、非常に美味そうだ。」
じゅるり…と舌なめずりをするアリス。
ルカ「ひぃ!」
ラクト「ひぃ!」
僕は、全身が総毛立つような悪寒にさらされるのだった。この旅が終わるまで、僕は無事でいられるのだろうか。
アリス「ところで、目的地はどこだ?さっそく魔王城を襲撃するのか?」
ラクト「気が早くないか!?」
ルカ「まあ…最終的には、魔王城に行くわけなんだけど。」
ここから魔王城までは相当距離がある以上、辿り着くだけでもかなりの旅路になる。まぁそれはある意味で好都合。今の僕の実力では、魔王に太刀打ちなどできはしないのだから。魔王城に至るまでの長い旅路で、存分にレベルを上げていきたいところだ。
ルカ「えっと…ここがイリアスヴィルの少し北だから…」
この世界には、三つの大陸がある。
まずは、南東のイリアス大陸。ちょうど今、僕たちがいる場所だ。
そして中央にはセントラ大陸、世界の陸地の4分の3以上を占める、非常に広大な大陸だ。大きな城が4つも存在し、それ以外にも町や村は数多い。
そして北には、ヘルゴンド大陸、魔王城のある大地。寒暖の差が激しく、人が住むのには適さない不毛の地である。この大陸にある人間の居住地は、「レミナの虐殺」の舞台となったレミナのみ。今では壊滅してしまっている。
こんな風に、この世界には3つの大陸が存在するのである。
ルカ「とりあえず、イリアス大陸を出ないとね。」
ここから北に少し行くと、イリアス大陸最大の町イリアスベルク。
さらに北に行くと、この大陸唯一の港町イリアスポートである。
そこから、セントラ大陸への船が出ているのだ。
まずイリアスベルクまで行き、そこで一休み。装備品や道具、食料なども買い足さなければいけない。そこからイリアスポートで船に乗り、セントラ大陸へ到着という旅路だ。
ルカ「だから、今の目的地はイリアスベルクだね。この調子で歩けば、明日の今頃には着くよ。」
ラクト「そういえば…セントラ大陸行きの船は出てないんだっけ?」
ルカ「えっ!?」
パヲラ「なんでも嵐が起きて通れないとかで…」
ルカ「じゃあ三人はどうやってイリアス大陸に来たんだ…?セントラ大陸から来たんだろ?」
ラクトはパヲラを指差した。
ラクト「この馬鹿が大砲で吹き飛ばした。」
パヲラ「誰が馬鹿よ!画期的って言いなさいよ!」
カムロウ「すごかったよ!びゅーんって!」
ルカ「えぇ…」
アリス「やれやれ。町の名前も、大陸の名前もイリアスイリアスイリアス…うんざりだな。」
ラクト「まったくだぜ、単純に港町とかでいいだろ。」
ルカ「お前ら…なんて畏れ多いことを…」
アリス「「お前」と呼ぶな、ドアホが。…ところで、そろそろ腹が減ったな。」
ラクト「お前さっき干し肉食ったじゃねぇか!」
ルカ「…日が落ちたら野営するから、それまで我慢してくれよ。」
アリス「ふむ、努力してみよう。貴様の料理の腕は、それなりのようだからな。」
やれやれ、なんだかとんでもない厄介者を抱えてしまった気がするな。
そう思った次の瞬間だった。
ナメクジ娘が現れた!
ルカ「あれは…」
パヲラ「ナメクジねい…あたしヌルヌルは苦手だわ!」
一見したところ、きれいな貴婦人だが、下半身をよく見ると、ナメクジのような軟体となっていた!
ナメクジ娘「…旅人ね。しかも洗礼を受けていない、美味しそうな少年…」
ルカ「…!」
人生二度目の魔物との遭遇。
慣れなければいけない事とはいえ、どうしても緊張してしまう。
ルカ「どうしよう、アリス…あれ?」
ふと振り返れば_少し後ろを歩いていたアリスとラクトの姿が、忽然と消え失せていた。
パヲラ「アリスちゃんは分からないけど、ラクトは逃げたわよ。ダッシュで。」
ナメクジ娘は、ゆっくりとこちらをにじり寄ってくる。
ナメクジ娘「あなたは、この私の餌食にされるの…」
ルカ「ぐっ…」
正直なところ戦いたくはない。モンスターといえども、傷つけたくないのだ。でもやるしかない!
ルカ「だあああ!」
剣を振りかぶり、いやいや、あんまり大振りにならないように注意しつつ、攻撃を仕掛ける。
ナメクジ娘はダメージを受けない!
なんと刃は、ナメクジ娘の肩に当たった瞬間、にゅるりと滑ってしまった。その体の弾力と、表面を濡らすヌメヌメの粘液。それに阻まれ、刃が通らなかったのだ。
ルカ「そんな…僕の攻撃が…」
ナメクジ娘「そんな弱い攻撃では、私は斬れないわ…」
全身がこうだとしたら、剣での攻撃なんて効かないじゃないか…!
カムロウ「ルカ!そこどいて!」
指に魔力を込め、カムロウは魔法を放った。
カムロウ「
小さな火球がナメクジ娘に向かって放たれた…が、
ナメクジ娘「えいっ…」
ナメクジ娘が飛ばした粘液で鎮火された。
カムロウ「火が消された!?」
ナメクジ娘「私を燃やすには小さい火よ…次は私の番。」
ナメクジ娘は無数の、大量の粘液を飛ばしてきた。今の位置で考えると避けることは難しい。
パヲラ「
飛び出したパヲラは高速で回し蹴りをして、飛んできた粘液を蹴散らした。
パヲラ「あーんもう!あたしの自慢のふくらはぎがヌルヌルだわ!」
カムロウ「ありがとうパヲラさん!」
パヲラ「どうってことないわよ!」
その間にルカは再びナメクジ娘に攻撃を仕掛けた。
ルカ「これならどうだ!」
斬れなくても、突きならば_!
ルカは剣を寝かせ、剣先をナメクジ娘の胸に突き刺そうとした。
ぐにゅりとナメクジ娘の表面はへこみ、弾力をもってはじき返してくる。しかもヌルヌルの粘液で刃が滑り、全くダメージが与えられないのだ。
カムロウ「パヲラさん、どうしよう…?」
パヲラ「ごめんなさいね…あたしこういう体が弾力性なやつとヌルヌルは苦手なの。」
パヲラ「個人的な意味もあるけど…相性的にも苦手なの。あたしの魔導拳は拳を使うんだけど…こうもプヨプヨでヌルヌルだと、肉体に拳を打ち込めずらいの。どうにかしてあの粘液がなくなればいいのだけど…」
ルカ「く…くそ…!」
もう少し僕に腕力があれば、弾力も粘液も関係なく断ち切れただろうに。
普通に攻撃を仕掛けても、ダメージは通じないのだ。
ならばここは、敵の弱点を突くしかない!
ナメクジの弱点は…塩だ!
ルカ「よし、これならどうだ!?」
ルカはカバンの中から、調理用の塩を取り出した。
ナメクジ娘「そ、それは!」
カムロウ「ルカ!それは!?」
ルカ「塩!」
パヲラ「えっ塩!?」
食塩の瓶を見るなり、ナメクジ娘は顔色を変える。やはり、塩が弱点なのだ。
ルカ「食らえっ…!」
ルカは、ナメクジ娘に塩を投げつけた!
ナメクジ娘「きゃっ…!」
ルカ「よし…!」
斬撃が効かなくても、塩なら効果があるらしい!
ナメクジ娘「よくもやったわね…!」
ルカ「このぉっ!このおっ!」
ルカは塩を投げつけ続けた。
パヲラ「…これも正攻法ではあるけど……なんていうか…」
カムロウ「えっと…鬼は外?」
パヲラとカムロウはそれを見て困惑した。なんだこの戦いは。
ナメクジ娘「や、やめて…!」
効果は絶大で、ナメクジ娘はすっかりひるんでいる。
ナメクジ娘「お、覚えておきなさい…!」
捨て台詞を残して、そのままずりずりと逃げ去ってしまった!
ナメクジ娘を追い払った!
ルカ「や、やった…!」
またしても僕は、襲い来るモンスターを打ち倒したのだ。
スライム娘の時の、やたらめった斬りよりも見苦しい戦いだった気がするが…それでも、勝利には違いない!
アリス「…なんと低レベルな戦いなのだ。」
ラクト「まぁ塩は弱点だけどな…」
ルカ「あれ…アリス?」
パヲラ「あらラクト…あんたいたの?」
いつの間にか、背後にはアリスとラクトがいた。
カムロウ「どこ行ってたの、アリスさん?」
ルカ「まさか、あのナメクジ娘に恐れをなして逃げたのか?」
パヲラ「特にラクト。」
ラクト「一言多いぞてめぇ!ぶっ飛ばすぞ!」
パヲラ「面白れぇ…かかってきな!」
二人は取っ組み合いをし始めた。
アリス「何故余が逃げなければならん!……立場上、あまり他の魔物とは顔を合わせたくないだけだ。」
ルカ「…ふぅん、そうなのか。」
カムロウ「アリスさんもいろいろと大変なんだね!」
こいつにも、何か色々と事情があるようだ。モンスターである以上、人間と共に行動していてはまずいのかも。
アリス「それより貴様…さっきの戦いで、大きなミスを犯したぞ。」
ルカ「ミス…?」
カムロウ「なんだろ…?」
見苦しい戦いだった事以外、大きな失敗はないはずだが_
アリス「調味料の塩を全部まいてしまって、どうする気だ!今晩の料理は塩抜きか!?」
ラクト「なんの心配してんだよ!」
パヲラ「確かにそれは美食家として重大なミスね…」
ルカ「し、仕方ないだろ…!?さっきは、必死だったんだし…」
アリス「あんなモンスター相手に、塩を全部まいてしまうとは…つくづく、情けない勇者だな。おっと、勇者ですらないニセ勇者だったか…」
ラクト「お前煽るの上手いよな…」
ルカ「ううう…」
返す言葉はない。さすがにちょっと、あの戦いはみっともなかった。
それに、洗礼を受けていないのに勇者を気取っている身。ニセ勇者扱いでも文句は言えないのだ。
ルカ「見てたのなら、助けてくれれば良かったのに…」
パヲラ「特にラクト。」
ラクト「あぁ!?」
アリス「勘違いするな。余は決して貴様の仲間でも味方でもない。単に、貴様を観察しているに過ぎん。ゆえに助けてやる義理も全くないし、貴様が魔物の餌食になったなら…その時は、容赦なく見捨てるぞ。」
カムロウ「えっ…ぼく友達だと思ってた…」
パヲラ「いいのよカムロウちゃん。協力はしなくても友達なのは変わらないわよ。」
ルカ「…分かったよ。僕だって、お前なんかの助けは借りないからな!」
ラクト「そうだぜ!絶対借りないからな!」
アリス「分かればよい。せいぜい頑張るがいい。さて…もうすぐ夜だ、野営の準備もせねばならんな。…ところで、夕食は何なのだ?」
ラクト「お前さっき協力しないって言ったよな?」
仲間でも味方でもないと断言した割に、メシはしっかり食べるらしい。
つくづく、ろくでもない奴が同行したものだ…
パヲラ「ところで…野営のことなんだけど…」
ルカ「?」
ラクト「なんだよ…問題でもあんのか?」
パヲラ「えぇあるわよ。この人数で野営となると、寝る場所の確保が大変よ。変に地べたに寝て満足に体力が回復できないと、旅に支障が出るわ。」
アリス「ふむ、確かに…」
カムロウ「じゃあ、どうしたらいいの?」
パヲラ「もっちろん、決まってるじゃないのよーう!」
パヲラはある道具の一式を取り出した。
パヲラ「キャンプよ!」