もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち 作:J・チェプナクル
ルカ「ふぅ、かなり進んだなぁ。」
僕たちは森の奥深くまで踏み込んでいた。
かなり歩いた。そろそろ、精霊の森の最奥にたどり着くはず……
たどり着いた先は、森の中でも拓けた場所だった。
この辺りだけ、より一層強い風が吹いている……
ルカ「なんだ?この場所…今までよりも強い風が吹いているな……」
とはいえ、嫌な風じゃない。
どこか悠遊と流れ、生きているかのような風だ……
???「あれれ……?人間がここに何の用……?」
ルカ「え……?」
吹き荒れる風の中、僕たちの前に姿を現したのは__
シルフが現れた!
風を纏った小さい精霊が、ふよふよと浮いている。
この場所からするに、この子がシルフなのだろうか?
ルカ「えっと……君が四精霊の一人、シルフかい?」
シルフ「……………………」
シルフ「……なにー?」
ルカ「はあっ…!?」
あっ…!まわりの風が強すぎてこっちの声がまるで聞こえてない…!?
ルカ「君が四精霊の一人、シルフかい?」
シルフ「えー?」
ルカ「君が!四精霊の一人!シルフかい!?」
シルフ「なにー?」
ルカ「君がっ!!四精霊のっ!!!シルフっ!!!?」
シルフ「そうだよ。あたしがシルフだよ。」
どうやらこの小さな精霊が、四精霊の一柱、風のシルフで間違いないようだ!
シルフ「あたしに何の用?」
ルカ「えっと……用があるのは僕なんだけど……」
シルフ「なにー?」
ルカ「一旦風をどうにかしろっ!」
………風がそよ風程度まで落ち着いた。
ルカ「僕は勇者なんだけど、魔王を倒すために……いや、別にアリスを倒したいわけじゃないんだけどね。あ、アリスから君の事を聞いて……えっと……」
シルフ「何を言ってるのか、ぜんぜん分からないよう……」
ラクト「ああ、最悪だぜ…ルカの日頃の説明力の無さが祟っちまった。」
カムロウ「結論を言え!結論を!」
シルフ「説明が苦手みたいだから、風に直接聞いてみるね。」
ルカ「え……?」
シルフはしばらく黙り込み、風の音に耳を傾けている……
シルフ「うんうん……そうなんだ。」
シルフ「人間と魔物が共存する世界のために、人間に迷惑を掛けている四天王をやっつけたいんだね。」
ルカ「そ、そんな事まで分かるのか……」
シルフ「うん、分かった。君は私の力、悪いことには使わないみたいだね。」
ルカ「ああ。」
シルフ「でも……精霊の力は、弱い人間には貸せないの。」
ルカ「えぇ!?」
シルフ「……っていうより、弱い人間には力を使いこなせないの。」
ルカ「ええぇぇ!?」
僕はがっくしと膝を地につけた。
強靭な肉体を持つ人間じゃないと四精霊の力を借りることができないと言われたも当然。
グランべリアとかと比べれば僕は、非力である。
つまり、弱い人間という部類に入ってるようなモンだ。
カムロウ「弱い…いやルカは言うほど弱いか?」
パヲラ「条件にもよるわよね。肉体的に丈夫か、魔力を問題なく扱えるか…とか。」
一同ざわめく中…僕は呆然自失。
ああ…僕の旅はここで終わってしまうのか__
シルフ「まってまって、まだ続きがあるの。」
その言葉を聞いて、僕は慌てて口から吐き出していた魂を飲み戻した。
シルフ「だから……キミがあたしの力を使いこなせるかどうか、確かめてあげるね。」
ルカ「確かめるって?」
シルフ「決まってるでしょ、戦うの。」
そうか…シルフに力を示せってやつか?
ルカ「それって、僕の仲間たちと一緒に戦っても良いのか?」
「「「「………………」」」」
シルフ「それは……ダメだよね。」
カムロウ「お前…それはダメだろ。」
ルカ「え!?」
チリ「うん…言っちゃダメだね。ダメだよね。」
ジョージ「ルカ殿、これは儀式だ。認められるための儀式なのだ。手心というものが……」
ルカ「でも…勝てば良いんだろ?」
ジョージ「ルカ殿。それは屁理屈というのだ。」
パヲラ「確かに勝利することが条件だけれどねぇ……」
マモル「結果じゃねぇんですよ!過程が大事なんですこれは!そんな型破りな理屈は言っちゃなんねぇんですよぉ!」
ラクト「ルカ、お前さ、あれだからな?俺たち言っちゃあ付き添いだからな?お前が四精霊の力を必要としているだけで、俺たちは別にお前のこと無視して魔王城に直行することも出来るっちゃあ出来るんだぞ。」
ルカ「………………」
物凄い酷評をされた………
ルカ「わ…分かった。僕1人で戦うよ。」
仲間たちから離れ、シルフの前に立つ。
シルフ「あたしに一発でも攻撃を当てることができたら、力を貸してあげるね。」
ルカ「分かった……一発でいいんだな?」
シルフ「えへへっ……たぶん、キミには無理だけどね。」
ルカ「どうかな、やってみないと分からないかもね。」
今の僕は、今までの戦いの経験から来る自信というモノが、それなりにある。
四精霊を前にし、僕は剣を抜いた!
ルカ「よし…行くぞ!」
シルフ「じゃあ、いっくよ~♪」
涼やかな風が、シルフの周囲を取り巻いた!
ルカ「……?」
風がシルフを纏うように吹いている……
攻撃ではなさそうだな。
それなら、先に攻撃させてもらおう!
ルカ「先手必勝ッ!」
ルカの攻撃!
しかし、風の防壁に妨げられて剣が届かない!
ルカ「えっ……!?」
シルフ「あたしの風で、どんな攻撃も届かないんだから。」
踏み込んで斬りかかったのだが、剣先がこれ以上シルフに近づかない!
いや、押し戻されている!?
シルフ「しかも、風が勝手に反撃しちゃうんだよ~♪」
ルカ「え!?」
その瞬間、風の防壁が僕を吹き押し始めた!
ルカ「うわあっ!?」
剣を跳ね除けられ、尻もちをついた。
シルフ「どう?風の力って、すごいでしょ……?」
ルカ「カウンター系か…!だったら…!」
ルカ「雷鳴突きならどうだ!」
相手の反応よりも早く動く作戦だ!
雷鳴のように疾く踏み込み、鋭い突きを繰り出す!
しかし…この攻撃でも、風の防壁に妨げられて剣が届かない!
ルカ「くっ……!技も効かないのか……!」
シルフ「そんなの通じないよ~♪」
ルカ「これならどうだ!!!」
強力な一撃で、風の防壁を無理矢理突破してやる!
僕は大木によじ登って、そこから飛び降りた!
ルカ「天魔頭蓋斬!!!」
シルフの脳天に命中するよう位置を調整して剣を振り下ろした!
……この攻撃でも、僕の攻撃がシルフに当たることはなかった。
不思議な一瞬だった。
一瞬だけ、僕の体が宙に浮いていたのだから。
ルカ「うがあっ!」
再び風に吹き飛ばされ、大木に頭をぶつける。
シルフ「えへへっ、まだ続けるの……?キミの攻撃、私には通じないんだから♪」
ルカ「こうなりゃ…!」
一撃でダメなら連続だ!新しく覚えた剣技…死剣・乱れ星を使う!
ルカ「死剣・乱れ星!!!」
一撃ごとに渾身の力を込め!何度も何度も、隙のない繋ぎで無数の斬撃を浴びせる!
シルフ「まだ諦めないの……?」
しかしこの新技でも、風の防壁を突破することが出来なかった……
ルカ「はぁ…はぁ……!」
ルカ「(まずい……スタミナが切れた…!)」
死剣・乱れ星は今までの技と違い、大きく体力を使う。
アリスに忠告されたことなのに…!
シルフ「えへへっ、無駄なのが分かった?この技、けっこう疲れるんだから……早く諦めちゃえ♪」
ルカ「…………………」
今、なんて言った?
ルカ「……へぇ、けっこう疲れるのか……」
その時、気が付いたことがある。
風の防壁は、僕が攻撃を仕掛ける時にだけ存在しているようだ。
……だったら、攻撃するフリをずっとしてれば、疲れて隙が出来るんじゃないか?
僕はその場で、剣を構えたまま素早い動きで反復横跳びをした!
ルカ「はあっ!やあっ!」
カムロウ「は…反復横跳び…?」
シルフ「何してるの……?ねぇねぇ、ちゃんと戦おうよぉ。」
無論おかしな行動なのは分かっているが、これもちゃんとした作戦だ。
パヲラの入れ知恵だ。予測できない動きで相手を疲弊させるのだ。
いわゆる、牽制だとか、威嚇みたいな。
ルカ「でやあっ!はにゃあっ!」
前転して後ろに回り込んだり、攻撃すると見せかけてフェイントをしたり。
シルフ「ねぇ、早く戦ってよぉ……」
ルカ「やだなぁ。これでも僕はちゃんと戦ってるつもりだぞ!」
正直、これが正攻法なのかは自分でも疑問に思っている。
シルフ「ふにゃぁぁ……そろそろ、疲れてきたよぉ……」
目論見通り、シルフに疲れの色が見え始めた!
やはりあの風の防壁は、そうとう体力を消耗するようだ。
シルフ「もう、限界だよぉ……」
すると、シルフは風の防壁を解除した!
シルフ「きゅぅぅ……」
シルフは疲れ果てているようだ……
ルカ「……それっ。」
好機と言わんばかりに懐に飛び込み、シルフの頭に剣先をコツンと当てた。
ルカ「よーし!攻撃を当てたぞ!」
シルフ「……………」
シルフ「……ふぇぇぇぇん!」
シルフを泣かせてしまった!
ルカ「わわわ……ご、ごめん!」
……シルフに勝利した、ハズ。
さて、どうしたものか。
シルフ「ひどいよぉぉぉ!ズルいよぉ……!ヒキョーだよぉぉ!」
目の前でシルフはビジャビジャに泣きじゃくっている。
力を借りなければいけないという相手なのに、泣かせてしまった……
マモル「えー…結果、疲弊した瞬間に攻撃を当てて勝利となりました。どうですか?解説のパヲラさん、ジョージさん。」
パヲラ「戦闘という観点から見ると、相手を疲弊させるのはとても有効な手段です。生物界でもよくある戦法なんですが……こういう場所ではちょっとぉ……」
ジョージ「ええ、戦いならともかく、試練という正式なルールを持つ場では、私はあまり選択したくない手法ですね。」
カムロウ「いや…うーん……いやぁこれなぁ………」
チリ「泣かせるのは良くないかなぁ……」
ルカ「いやいや……一発でも当てたら僕の勝ちだって。向こうがそう決めたんだぞ。」
カムロウ「だとしてもなぁ……これはちょっとなぁ……う~ん……」
チリ「ね。これは…ね。ちょっと……ね。」
ルカ「ねってなんだよ!なんなんだよ!?」
ラクト「前から思ってたけど、お前ってたまに人でなしだよな。」
ルカ「なんだお前、ぶん殴るぞ。あっ、ぶん殴ろうか?」
ラクト「そういうところだって言ってんだよ!」
シルフ「ぐすっ……ふぇぇぇぇん……」
ルカ「ご、ごめん……ホントにゴメン。」
おかしい。僕は勝負に勝ったハズなのに、どうして謝っているのだ?
シルフ「ぐすっ……あたしね、本当は戦いなんて苦手なの……風を戦いに使ったことなんてなかったの……」
ルカ「えっ!?そうなの!?」
苦戦するほどだったのだが……
風の精霊だからといって、戦闘でも風を使いこなせるとは限らないらしい。
シルフ「約束は守るよ。あたしに攻撃を当てたら、力を貸してあげるって約束したもんね……」
シルフ「キミなら、あたしの力をちゃんと上手く使ってくれる……?」
ルカ「ああ、できる限り努力してみるよ。」
シルフ「それなら__これからずっと一緒だよ___」
不意にシルフがまばゆく光り、そして消えてしまった__
ルカ「き…消えた…!?」
それはもう、僕たちの目の前から姿形が忽然と。
周りを見渡しても、シルフの姿はどこにもない。
その途端、全身に不思議な感覚が広がっていく。
ルカ「うっ!?」
自分の体が、周囲の風に混じってしまったかのような一体感。
ルカ「え……!?なんだ、これ……?」
己の中に、風の息吹がはっきりと感じ取れるのだ。
ルカ「これは…僕の中に、シルフがいるのか……!?」
これが、四精霊に力を借りるということなのか。
ふと、風の声に耳を澄ませば__
ルカ「__すごい!なんだこれ!すごくよく聞こえる!すごくよく見える!」
周囲全体の様子が、まるで目で見ているかのようにはっきりと感知できる。
虫が何匹飛んでいるか、鳥が何羽、どこで何をしているか__
__風の声で、全て分かるのだ。
ルカ「これが新しい力……」
シルフ一人の力を得ただけでも、これだけ凄いのだ。
あと残り三精霊の力を得れば、四天王でさえ怖くない!……かもしれない。
一連の出来事が終わったため、仲間たちが寄って来た。
パヲラ「……どうかしら、ルカちゃん。気分は。」
チリ「なんか気分が悪くなったりとかそんな感じはないの?」
ルカ「全然、最高だよ。」
カムロウ「パッと見、何にも変わってないように見えるけど……」
ルカ「いやぁ…もうすんごいよ。すんごい見えるよ。すんごい聞こえるよ。」
ラクト「そんな強調しなくても……」
ルカ「これからは僕に隠し事なんて出来ないと思った方が良いよ。陰口なんて聞こえるし、盗み食いだって見えるんだから。」
ジョージ「ええええええええぇぇぇぇぇ!?」
マモル「ええええええええぇぇぇぇぇ!?」
ルカ「えっ、やる気だったの?」
これで、四精霊の一柱、風のシルフの力を得たわけだ。
早く戻って、アリスに報告しよう_____
とはいえ、ここから徒歩で帰還するのは時間も掛かるし骨も折れる。
そこで、ラクトが
ルカ「……………」
未完成の魔法陣の中で待機する僕たち。
その周りでラクトが、一心不乱に魔力の文字を描き続けている…………
ルカ「……けっこう時間掛かるものなんだね…………」
ラクト「多数がいるとな!大きく描かねぇといけねぇし!あとちょっとで完成すっから!」
ラクト「そもそもな……移動魔法は高度な技術を求められるわけでな……慣れてねぇヤツは魔力の消費が激しいんだぜ。」
ルカ「そうなると……グランべリアとかたまもは、魔法の技術も高いのかな……」
ラクト「だろうなぁ。向こうじゃあ日常生活に魔法技術を組み込んでんだろうし。」
ラクト「うっし…起動できるぞ。忘れモンないよな?」
カムロウ「あっ。ドングリ……」
ラクト「それはどこでも拾えるだろっ!」
ラクト「
魔法陣が起動し、僕たちの体が光に包まれる……
ルカ「見ていて下さい、イリアス様。この僕が、きっと平和な世界を築いてみせますから……!」
新たな力を得たという喜びに震えながら、僕たちはその場を後にしたのだった。