もんむす・くえすと! 勇者ルカと仲間たち   作:J・チェプナクル

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第32話 繫栄か、悪化か

キメラドリアードを倒した時に生まれたモノ。

 

ルカ「こ……これは、封印されたのか……?」

 

周囲に広がる、なんとも異様な花畑。

見事な花々が咲き誇っている。

風に吹かれて花びらが舞う………

これが……あの怪物を封じた姿なのだろうか。

 

アリス「終わったか……いったい何だったのだ、こいつは?」

戻ってきたアリスは、周囲に散らばった花をまじまじ眺める。

草花をひょいと摘むと……すぐさま口の中に放り込んだ!

ルカ「アリス、見ず知らずの野花には毒があるかもしれないよ。すぐに駄目だよ食べちゃ。吐き出すんだ。ぺって。ぺってしな。」

アリス「いや……鑑定してるだけなのだが……」

 

しばらくモゴモゴしていたアリス。

そして、ゴクンと音を立てて飲み込んだ。

ルカ「(結局、飲み込んじゃったよ……)」

 

アリス「ふむ……どうやら、こいつは寄生型のモンスターだったようだな。」

 

アリス「あの女の部分は、宿主とされた人間のようだな。」

ルカ「人間……!?」

その瞬間……僕は、言いようも表せない焦りに襲われた。

ルカ「じゃあ……僕は、人間をこの手で……!!?__」

 

アリス「__焦るな。」

 

アリス「話はまだ終わっていない。」

動揺している僕を、アリスはただ冷静に、諭そうとしていた。

 

アリス「寄生植物に浸食された、生ける屍といったところか……元は人間の女だろうが、あれは完全に別の存在と化していた。ほとんど全身を植物に浸食され、一体化していたのだからな。」

 

アリス「……だから、貴様が気に病む必要などない。」

そう言いながらアリスは、僕の肩に手を添える。

アリス「むしろ、あの寄生植物の呪縛から解放してやったのだ。」

ルカ「…………………」

まだ気が動転しているが、アリスの説明を徐々に理解し始めた。

ルカ「そう…か…?」

 

ラクト「……つまりぃ……セーフってこと?」

パヲラ「そう!セェェーフゥゥーー…よん。」

カムロウ「セェェーフゥゥーー…だよ、ルカ。」

 

「「「セェェーフゥゥーー」」」

 

3人して妙な構えで僕の顔を覗いている。

……なんだこいつら。

とはいえそのおかしな様子が、僕の平常心をより早く取り戻してくれてるような感じがする。

 

ルカ「そうなのかな……そうか、そうだね。」

 

僕は勇者としてやれるだけの事をやったのだ。

今は……そう思うことにしよう。

 

 

マモル「あー…お取込み中すみません……」

 

ジョージを担ぐマモルとチリが、木々の裏側から顔を覗かせていた。

 

マモル「あれすか。終わった感じすか?」

ルカ「そっちもか。」

 

ルカ「……助かったんだ。ジョージ。」

マモル「あ、そうっす。」

 

「「「えぇ!?」」」

 

シルフの力で感じとれた……風からそう感じた。

ジョージの鼓動が……わずかに聞こえるんだ。

 

ラクト「蘇生魔法、成功したのか!?」

チリ「うん……まぁ、なんとかね……」

 

チリはやつれているように見える……ジョージを回復するために死力を尽くしてくれたのだ。

やつれて当然だ。

 

ルカ「傷はどうなったんだ?」

マモル「なんとか腹の傷は塞いだってところっすねぇ。」

ジョージの顔を覗いてみる。

安眠しているような、楽そうな表情だ。

マモル「ずっと気絶したままだけど……今はそれがいい。」

パヲラ「ええ……安静にするよう努めましょう。」

 

カムロウ「そうだ。俺ぇ担架、作っときますね。」

マモル「あぁ~アッシがやるんで休んどきねぇ、坊ちゃん。」

カムロウ「いえいえ………」

すると身体から空気が抜けていくように、カムロウの体は徐々に徐々にと地に膝を付け、倒れ込んでいく。

カムロウ「木を、切る……くらい……な、らぁ…ぁぁ………」

マモル「ほらぁいわんこっちゃない。」

 

ラクト「お前さ……」

チリ「なに?」

 

ラクト「なんか老けたな。」

チラ「おらぁっ。」

チリはハンマーをぶつけた!

ラクト「いてっ。」

ラクトに10のダメージ!

 

ラクト「なんだよ元気じゃねぇか。よりによって傷あるトコロにぶつけやがって!」

チリ「人の気も知らないで良くそんな口が聞けたねぇ……」

 

 

仲間たちがわいわい会話している中……

僕とアリスはまだ、花畑を見下ろしていた。

 

ルカ「結局……なんだったんだ、こいつ?」

アリス「おそらくは、突然変異した個体だったのだろうな。」

 

人に寄生し、浸食する魔の植物……

あくまで、突然変異の産物だったということか。

 

ルカ「アリスにも知らない魔物っているんだな。」

アリス「こういう突発的な、突然変異の魔物であればそうだな。」

 

アリス「急場しのぎで命名したが、あれでよかったのだろうか……」

そんな裏話が……?

 

ルカ「それにしても…シルフの力、すごかったな。」

風の精霊の力。

サン・イリア城で話を聞いたときはイメージこそ湧かなく、なんかスゴイ力みたいな感じで捉えていたのだが……

実践した感想、本当にすごい力なのだと認識できた。

 

ルカ「あの力がなきゃ、こんな怪物には勝てなかったよ。」

アリス「確かに強大な力ではあるが、それを使いこなすのも力量が必要だ。半端な実力の人間なら、力そのものに振り回されていただろう。」

 

ルカ「……じゃあ、いきなり使いこなした僕はすごいって事か!?」

アリス「馬鹿を言うな、ドアホが。」

いつも通りの返答に、ややがっくしする。

 

アリス「……と言いたいところだが。」

 

アリス「正直、いきなりそこまで使えるとは思えなかった。」

予想外な返事に、僕は目を丸くする。

 

アリス「自分の起こした風に吹き飛ばされたりする、貴様の愉快な姿を楽しもうと思っていたのだがな。」

ルカ「おいおい……」

冗談じゃない。

かなりの死線だったのだが。

しかし先ほどのお言葉。

僕がそれなりに、シルフの力を使いこなしていたという証拠の裏付けとも言えるだろう。

 

アリス「まだ、慢心するには早いぞ。力を使いこなせば使いこなすほど、シルフはより強大な力で応えてくれる。」

 

アリス「最初にしては上出来だが、まだまだ風の力の一部に過ぎん事を忘れるな。」

ルカ「ああ、分かった!」

シルフの力をもっと使いこなすべく、修行しなければ………!

 

そう誓ったとき、木陰がざわざわとざわめいた。

 

ラクト「なんだ?またモンスターか!?」

ルカ「いや、違うかも。」

また魔物の襲撃……ではないようだ。

この風の流れからは、悪意も敵意も感じない。

 

茂みからおずおずと顔を出したのは、一体の妖精だった。

見覚えがあった。

僕に宝物のどんぐりをくれたあの妖精だ。

 

フェアリー「あのこわいの、やっつけてくれたの……?」

 

いや……1体だけではないようだ。

大勢のフェアリーが、木陰や草陰からわさわさ集まってきたのだ。

「あのお花のおばけ、とってもこわいんだよ。みつかったら、食べられちゃうの……」

「でも、もうやっつけちゃったんだね!」

 

みんな、あのモンスターを恐れて隠れていたのだろう。

 

「ありがとう、おにいちゃん!」

「こわそうなおねえちゃんも、ありがとう!」

 

アリス「こ、こわそう……?」

チリ「え~っとぉ……」

ルカ「お前のことだな。間違いなく。お前だな。」

 

アリス「余は……怖そうか……?」

ラクト「まぁ、はい。」

カムロウ「それなりには。」

アリス「……………………」

 

僕達に礼を言った後、フェアリー達は輪になって相談を始める。

「ねぇねぇ、さっそく遊びに行こうよ!近くにねぇ、おっきなお城があるんだって!」

「わーい、いたずらしにいこー!」

 

大勢のフェアリー達が、次々と森を飛び立っていく……

 

ルカ「うわあっ!!?」

 

あまりの数に思わず声が出た。

びゅんびゅんと、ひゅんひゅんと!

蝶たちがブワッと一斉に飛び立つかのように!

 

ラクト「ど…どえらい数……ちょっと鳥肌立った……」

ルカ「今まで窮屈だった分、開放的になったのかな……」

 

チリ「今、おっきなお城って言ってたよね……?」

ルカ「ああ……近くのお城って、サン・イリア城だよな……」

アリス「そうだと思うが……」

 

パヲラ「いたずらしに行こうって…言っていたような気がするけど?」

ルカ「えぇ…大丈夫なのか……?少し、様子を見に行って見るか……」

 

こうして僕達は、サン・イリアに向かったのだった___

 

 

 

 

 

 

 

精霊の森を後にするルカたちと、森から飛び出す妖精たち。

その様子を眺める……

棺桶を背負い、黒装束を纏う何者かそこにいた。

 

???「ありゃ。こりゃおどろいた。」

老いたようなしゃがれた声で、そう呟く。

 

???「話には聞いちょったけんど、予想より手強いみてぇだなぁ。はよう戻って、ワトライバはんに知らせにゃーいけん。」

???「急がば回れやー。」

黒装束の者は影に紛れ、姿を消したのだった………

 

 

 

 

 

 

精霊の森での一件から数日して。

僕たちは何日か掛けて、サン・イリアに帰還した。

今は、城下町の宿屋に滞在している。

 

ジョージ「ふむぅ、モグゥッモグゥッ。」

 

僕が買ってきた昼食にありつくジョージ。

ベッドの上で広げられた、そこそこ量の多い食べ物。

 

部屋の隅では、つまみ食いを狙うアリスを阻止するカムロウとマモル。

アリス「いいだろう!少しくらい!余にも寄こさぬか!!!」

カムロウ「何言ってんスカ!ダメです!あれはジョージさんの分です!!」

マモル「お慈悲を!お嬢!!お慈悲をォ!!」

 

ルカ「ジョージ。体は大丈夫そうか?」

ジョージ「もご、もむもむんんん。」

ルカ「返事は後でも大丈夫だから、落ち着いて焦らず食べな………」

 

両手のパンを頬張り、チーズも食べ、ハムすら丸かじりしている。

既にミートパイも丸ごと1個たいらげてしまっており、カボチャのスープも飲み干した。

目が覚めてからずっとこの調子だ。

今、僕は横でリンゴの皮を剥いているわけだが………

 

ジョージ「ん゛ん゛ーっ!?」

トマトにかぶりついたら、汁が吹き出て目に入ったようだ。

 

とにかく、いつものように健啖家すぎる食いっぷり。

先日、腹が抉れていたとは思えないほどだ。

 

ルカ「不死身だな……まるで。」

パヲラ「あら……不死身のジョージってところかしら。」

ルカ「……なんか、かっこいいかも。」

 

不死身のジョージ。

正直…その言葉が似合うほどだ。

というのもジョージは……ケガしてから立ち上がるまでの復活時間が早いのだ。

彼の長所というか、生まれ持ったフィジカルのようなモノだと考えれる。

 

チリ「はぁ~…無事に元気になって良かった。」

その横で、チリはほっと胸をなで下ろしていた。

サン・イリアに着くまでジョージが目を覚まさなかったことが、気が気でなかったようだ。

 

ジョージ「チリ殿。この恩、忘れはせぬ。」

チリ「今日5度目ですよ。」

ジョージ「こればかりは何度も申しても、足りぬ。」

チリ「それも5度目ですよ。」

 

チリは、ジョージから何度も謝礼を受けているようで……

もはや反応も塩対応だ。

これからはどんどん、もっと薄味になっていくのだろう。

 

ラクト「そういやチリ。お前もあれから、体調はどうだ?」

チリ「え?私?ぜんぜん?」

 

チリはケロッとした表情をしている。

その顔を見るなり、ラクトは眉をひそめて懐疑的な顔をする。

 

ラクト「蘇生魔法なんて代物引っ張り出してきたんだからよ。過剰に魔力を消費しちまうと、食欲無くしたり体温が変になったりするんだよな。」

チリ「あれでしょ、毛穴が開くんでしょ。」

ラクト「なんで知ってんの?」

 

ラクト「んで、ホントに何ともないのか?」

チリ「うん。ぜんぜん?」

ラクト「出発まであと1日くらいは時間あるからな。やせ我慢せんでも良いぞ。」

 

チリ「だからお前さ、ぜんぜん大丈夫って言ってるでしょうよ。話聞いてよ。」

ラクト「あっ…ハイ……スミマセン………ゴメンナサイ………」

 

ハンマーを構えるチリに威圧されて萎縮するラクト。

 

ルカ「とはいえだな、チリ。ラクトの言ってることも一理あるぞ。本当に大丈夫なんだろうな……?」

 

チリは縁の下の力持ちみたいなポジションだ。

仲間たちや僕が、体力全快で魔物と戦えるのは……移動中や休息中、チリが回復魔法で治癒してくれているのもある。

だからこそ、ラクトも彼なりに心配しているはずなのだ。

 

チリ「だからぁ~隠しているわけじゃないってぇ~。」

 

パタパタと手を振って、誤魔化すように微笑むチリ。

 

チリ「ラクトみたいに、魔力の扱いは日頃使ってたこともあったから慣れてるの。あのほら、清掃魔法とか!」

ルカ「あぁ……」

チリ「それもあったから、身体が慣れてるのかな。」

ルカ「ふぅん………」

 

まぁかくいう本人も大丈夫そうだし、良しとしておくか………

 

 

アリス「それで、街や城の様子はどうだったのだ?」

ルカ「それがね……外では子供達に幽霊…それに加えてフェアリーが楽しそうに遊んでいたよ……___」

 

 

一連の騒ぎのせいで、大礼拝堂は相変わらず大盛況。

大礼拝堂では、人と幽霊と妖精が入り混じってお祈りをしていて……フェアリー達も真似してお祈りをしていた様子だったよ。

 

地下図書館は、混乱の最中だった。

本のあちこちに落書きをされたり、お城の形に積まれたり……だって。

神官にはフェアリーの姿が見えないようで、衛兵にはポルターガイストの一種だと思われているみたい。

 

サン・イリア王の体調も回復したようだが、あの騒動の時の記憶は戻ってないみたいだ。

精神的ショックが大きすぎて、記憶を閉ざされたのでは?とのこと……

相変わらず幽霊に憑りつかれているし、いつの間にか妖精のイタズラで頭にツボを被せられている。

なぜか妖精に好かれているみたいだけど、どうやらサン・イリア王にも妖精は見えないようだ。

 

 

ルカ「__そういうわけで、フェアリー達はやりたい放題だったよ。」

 

「「「「「……………」」」」」

 

ラクト「ますます悪化してんじゃあねぇかァッ!!!」

ルカ「本当にそうなんだよな……!」

アリス「困ったものだな、あのいたずら者どもは……」

 

ルカ「…これも、人と魔物の共存……なのか?」

ラクト「どこがだよっ!!!開き直ってんじゃあねぇぞっ!!!」

やりたい放題を共存と捉えるわけにはいかないか……………

 

カムロウ「みんながフェアリーのこと、見えてないのはなんでかなぁー。」

ルカ「うーん…………」

そう言われると不思議な話だ。

仲間たちは、幽霊は見えないくせに妖精は普通に見える。

それに僕もイリアス信者なはずなのに、問題なく妖精を視認できる。

 

ルカ「本当になんでだろうな………」

その疑問に長い間思考していた時……パヲラが僕に耳打ちをしてきた。

 

パヲラ「ルカちゃん、アリスちゃん。ちょっといい?」

ルカ「え?……あ、うん。」

アリス「オヤツをくれるのなら……」

 

 

___アリスを角砂糖で誘導しながら、僕はパヲラと別室に移動した。

 

ルカ「どうしたパヲラ、僕たちに話でもあるのか……?」

パヲラ「ええ……それがね。」

 

椅子に腰かけるも、神妙な面持ちで悩み続けているパヲラは。

パヲラ「変な話だと思うよね。この街の住人のほとんどが、フェアリーの姿が見えないこと。」

ルカ「いやいや……僕は変とは思わないぞ。純粋無垢な子どもにだけなら見える存在って感じだろ。そういうもんじゃないのか?」

パヲラ「私はあえて否定する。」

ルカ「(うわっ。急に口調が変わった……)」

 

パヲラ「アリスちゃんはなにか知ってるかしら。」

アリス「ん?あぁ……それはだな……」

 

アリス「フェアリーの姿は、相性の悪い人間には姿が見えないことが多いのだ。特にイリアスの酔狂な聖職者や信者はな。」

ルカ「だから、イリアス信者の城のみんなやサン・イリア王は、フェアリーの姿がまったく見えないのか……」

……信者のうち何人かは、フェアリーの出現は悪鬼の類とみなしていた。

ルカ「なら、見えもしない存在に恐怖するのは当たり前じゃないか。どこが変なんだ?」

パヲラ「……古い文献で読んだことがあるの。」

 

パヲラ「確か…1000年前の書物に…フェアリーの事が記載、記述されてあった。」

ルカ「えっ!?」

アリス「……幼い頃読んだ500年前の絵本にも、普通に登場人物として描かれていたな。」

ルカ「ええっ!?」

 

ルカ「じゃあつまり……昔は妖精が存在していたことが、当たり前だったってことか!?」

パヲラ「ええ、日常的に認知されていたのでしょうね。長い年月が経てば、伝承の欠落が発生するのも道理でしょうけど……現代の民間伝承からも、完全にフェアリーの存在が消えてしまったことが確かよ。」

 

ルカ「……そういえば。」

カバンから取り出した、「四精霊信仰とその源流」……

ルカ「この本、ホコリ被ってたな………」

サン・イリアの地下図書館でこれを見つけた時、埃を被っていたことから…長い年月、誰も手に取ってないことが分かった。

ルカ「イリアス信仰だと……精霊信仰は異教扱い……」

 

それはつまり……精霊信仰が途絶えたということを意味している。

異教扱いということは……裏を返せば、精霊信仰が盛んだったことの裏付けでもある。

 

パヲラ「ルカちゃん……こんなこと言いたくないのだけれど、あえて疑問に思ってることを腹を割って言うわ。ちょっと、陰謀説じみたことなのだけれど………」

 

パヲラ「__イリアス信仰がその妨げになったと思うの。」

ルカ「………………」

 

ルカ「イリアス信仰が、妖精や精霊の存在を民間伝承から意図的に葬ったってか?」

精霊信仰を途絶えさせたのはイリアス信仰だと?

ルカ「……それは……言い過ぎじゃないか?」

 

パヲラ「イリアス信仰の厚いこのサン・イリアに、異教とされる精霊信仰の書物が保管されていた。仮に遠い昔の時代……遠くて1000年以上、近くて500年前から、フェアリーの存在が当たり前とされていたとすれば……存在が抹消されたのはつい近年のこと。記録があるのに、伝承が自然消滅したってことよ。自然とも捉えれるし、不自然とも捉えれるわ。」

 

パヲラ「ここで浮上する問題の1つは………」

 

パヲラ「__イリアス信仰が、精霊信仰を異教扱いした理由は?」

ルカ「それは……」

 

ルカ「……………………」

何か言おうとしたが、何も思いつかなかった。

異教扱いの理由なんて、僕も知る由もなかったからだ。

 

ルカ「…………………わからない。」

パヲラ「………………………」

それは長いようで短い沈黙だったはずだ。

 

アリス「ふん。理由も何もないだろうな。」

横で聞いていたアリスが、フスンと鼻を鳴らす。

 

アリス「親がそう言っていた。兄弟がそう言っていた。仲間がそう言っていた。みんながそう言っていた。」

アリス「主神がそう仰ったから。信仰の神の教えとはそんなモノだ。ただ与えられたことを、疑問も持たずに行っているだけだ。」

 

アリス「あるとすれば、自分以外を認めない……最もイリアスらしい理由だろう?」

ルカ「………………」

パヲラ「……ルカちゃん。問い詰めてごめんなさい。」

 

パヲラ「自分で言っておいてなのだけれど、あたしも結論がまとまってないの。」

ルカ「そうなのか…………」

 

バリボリと角砂糖をかじるアリスをよそに、僕たちは難しい表情を浮かべる。

 

 

__魔物は、人間の存在無くして種の存続は不可能。

妖精も魔物のうちの1つ。

だとすれば、このサン・イリアでも、大昔は密接な関係で互いに繁栄していたことは納得できる。

……それがどうして、このような現状になっているのか。

 

__イリアス信仰が、外部にとってどのような存在なのか。

 

僕は、遠くて近い未来。

答えというか、結論を決めないといけない気が…そんな気がした。

 

少年「わーい!」

少女「きゃっきゃっ!」

少女の幽霊「あはは……!」

フェアリー「わー!」

そんな僕達をよそに、窓の外では子供たちがはしゃぎながら駆け抜けていく。

 

ルカ「これから、どうなるんだろうね。人間達とフェアリーは仲良くできるのか、それとも……」

アリス「共存していくのか、排除しようとするのか……イリアス信仰が強い町だけに、行く末が心配ではあるな。」

 

このサン・イリア、いったいどうなってしまうのだろう。

幽霊も妖精も住み着き、立派な怪奇スポットと化してしまった。

 

ルカ「結局、町の人次第という事だね……」

これからどうなるのか、僕達には先行きを見守るしか出来ないのだ……

 

 

 

アリス「それで、次はどこに行く。」

ルカ「そうだな……」

 

机の上に地図を広げて、仲間たちと目的地の共有をする。

 

ルカ「まず現状。このナタリアの地で、シルフの力を得る事ができた。だけど、まだ……残り三人の精霊に会わなければいけない。」

 

今のところ契約できたのは、風の精霊シルフのみ。

ルカ「それで…えっと、残りの精霊の居場所は……」

 

炎のサラマンダーはセントラ大陸の北部、ゴルド地方の火山洞窟……

 

水のウンディーネはセントラ大陸の東部、ノア地方のダンジョン……

 

土のノームはセントラ大陸の西、サフィーナ地方に広がる砂漠のどこか……

 

ルカ「……サフィーナ地方が、このナタリア地方から一番近い事になる。だから、次はノームだな。」

カムロウ「砂漠ゥ~!?」

アリス「ふむ、今度は砂漠か……」

 

カムロウ「砂漠ってどんなトコー!?」

ラクト「熱い、広い、何もない。」

カムロウ「え。」

 

パヲラ「見渡す限り砂の丘。熱風が地を這い、昼は灼熱。夜は極寒。日照りが続き雨も少なく、水も貴重で入手も困難。降水すると言えば降るけれど…数日単位ではなく、一度に大量の降水として。鉄砲水の二次災害が発生するわ。」

ジョージ「極限の自然環境ではないか。なんとも手厳しい。」

マモル「ひぃ、おっかねぇ。冗談抜きで1人くらい死ぬんじゃねぇの?」

 

カムロウ「わ、我々はそのような場所に赴くのですか?何故人々はそのような厳しい地に住んでおられるのですか……?い、いきなり難易度高くないぃ……?」

チリ「ショックのあまり言葉遣いが変になってるよ……」

 

セントラ大陸は一般に四つのエリアに分けられ、西のサフィーナは砂漠地帯。

 

ルカ「まずは西のサバサ城を目指す。」

僕が地図に印をつけた場所。

広大な砂漠の中心に、サフィーナ地方最大の砂漠都市であるサバサ城が存在するのだ。

サフィーナ地方に足を運ぶ以上、サバサ城を拠点に動くのが得策だろう。

 

食料もなるべく日持ちするのを持って行かないと……それに水も入念に必要だ。

 

ルカ「……ところで、僕含めて砂漠初めての人って? アリスは除外するとして。」

アリス「えぇ…?」

 

カムロウ「はい。」

チリ「はい。」

ジョージ「うむ。」

マモル「はいはい。」

 

パヲラ「あたしは行ったことあるわねん。」

ラクト「俺もー。」

 

パヲラ「え゛っ?アンタ経験者なの?」

ラクト「言ってなかったっけ?俺ェ、育ちは西なんだよ。」

 

パヲラ「うそ~ん……」

チリ「えぇ…意外………」

ラクト「意外ってなんだよ。お前らの俺に対する認識ってどうなってんの。」

チリ「だって肌が茶色くない。」

ラクト「偏見がすぎるだろそれは。」

 

ルカ「へぇ…2人は行った事あるのか。」

パヲラ「えぇ。行商ルートの馬車に乗ってね。あたしの時はラクダに乗って移動したわねぇ。」

カムロウ「ラクダぁ!?ラクダって何!?」

ラクト「砂漠のウマみたいなヤツだよ。背中のコブがでけぇんだ。」

 

経験のあるラクトとパヲラと一緒に検討を重ねて、ルートの構成をする。

その間でも、アリスはワールドトラベラーを読みふけっていたし、仲間たちは新天地に心を躍らせているようだ。

 

アリス「ふむ……サフィーナ地方でも色々な珍味が楽しめそうだな。余はワクワクしてきたぞ!」

ルカ「……………」

相変わらずの食いしん坊ぶり………

ルカ「この旅は食べ歩きツアーではないと、何度言ったら分かるんだ……」

呆れながらも、僕達は新たなる旅路……西のサフィーナ地方へと進路を決めたのだった。

 

 

 

あれから少しが経ち、ジョージも動くのが平気なくらいまで回復したのを見計らって、僕たちは宿を出た。

その時、面識のある人物を見かけた。

 

ルカ「あれ……フラドリカ?」

 

そう…忘れるものか、あの大きなリュックを。

フラドリカが地図を広げて、そこに佇んでいた。

 

フラドリカ「おお!ルカ殿!!」

 

フラドリカ「出発でありますか?」

ルカ「あぁ。砂漠に、サバサへ向かうんだ。」

フラドリカ「なんと…!サフィーナ地方に赴くのでありますか!」

 

ルカ「君もそろそろ出発なのかい?」

フラドリカ「そうであります!これから、精霊の森へ探索をしに行くところであります!」

ルカ「そうなのか。」

 

危険な目に合わないと良いが………

そう心配した時だった。

僕の視界に、異様な存在が映った__

 

__太い二の腕をした、筋肉モリモリな身体をした妖精が、フラドリカの周囲をフヨフヨと飛んでいる。

着ている服までパツパツの、なんとも屈強な妖精だ………

時折握り拳を作り、ポーズまで決めている。

 

うわぁ………な、なんだ……この……妖精は…………

いや、こいつは妖精なのか…?

本当に妖精なのか?

こんな逞しいのを妖精と言う枠にはめていいのだろうか。

そしてフラドリカ……君はその屈強な妖精のことをその目で見えているのか。

 

フラドリカ「おお…!ルカ殿はミュスクル殿のことが見えるでありますか!」

見えていたらしい。

どうやらフラドリカは、この逞しい妖精のことが見えるようだ。

太陽に照らされ輝く、あの大木のような腕を。

 

フラドリカ「彼女は、フェアリーのミュスクル殿であります。」

ミュスクル「はじめましてー。」

ルカ「は、はじめまして。」

 

見た目に反して、妖精らしい言動をする。

 

フラドリカ「先日知り合ったばかりでありますが、すっかりお友達であります!」

ミュスクル「そうなのー!」

ルカ「その………君も、フラドリカに付いて行くのか?」

ミュスクル「うん!フラドリカに意地悪するようなヤツはね、私がポカポカするのー!」

それは多分、怪我人が出ると思う。

 

 

すると、アリスが僕の肩をツンツンとつついてきた………

 

アリス「おい……早くここを出るぞ。こんなところでのんびりしている暇はないはずだ。」

 

ルカ「あぁごめんフラドリカ、もう行くみたい……」

フラドリカ「ご武運を!ルカ殿!」

フラドリカには申し訳ないが、逃げるように別れを告げた。

しかし彼女はそんなことを気にするような素振りを見せず、僕に向かって敬礼をしてくれた。

僕も手を振りながら、街の外に向かった。

 

 

ラクト「アリスのヤツ……ジョージの療養のためとはいえ、相当無理してくれてたんだな……」

アリスは平静を装っているが、その身体はぷるぷると震えている。

それはそうだ。

さっきフラドリカと会話をしてても、幽霊がその辺を飛び交っていたし、なんならフラドリカにも1体憑いていた。

 

アリスは精霊の森からサン・イリアに帰還して、それっきり宿からなかなか外に出たがっていなかった。

見栄を張って、かなり無理をしていたようだ。

 

ラクト「あとでツマミ、分けてやろっかな……」

ルカ「味を占めるからやめたほうがいいよ。」

チリ「野犬扱い……」

 

ルカ「じゃあ、みんな。行こっか。」

こうして僕達はサン・イリアを後にしたのだった。

 

この町の様々な住人達が、共存していける事を願いながら__

 

 

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